エピソード:38 氷竜の洞窟と、帝国中枢への突入
イルクナードの冒険者ギルドには立ち寄っておいた。私の贈り物の申し出に対して帝国は、くれるというならもらってやってもいいが、便宜を図るとかは期待するなという態度らしく、ラングロイド帝国に期待する事はもう止めておいた。その他、西と南の大国情勢もそれぞれの冒険者ギルドに出しておいた調査結果も受け取った。アルカストラの冒険者ギルドのマスター、アンガスさんにも
配下になった前原さんの防寒具や食料を買い付けたり、魔石なんかも補充したら、さっさとキャンプまで走り戻って、幻影の加護スキルをメジェ助達に
空は曇り空で雪も氷も降っておらず、風は強かったけど、ある意味、北氷海としては好天なのだろう。
目的の氷竜の洞窟は、北氷海の北の果て、一辺が数百メートルから数メートルまだ大小様々な流氷がひしめく海に、氷山が海中から突き出していた。
「またわかりやすいですね」
「まぁ、な。グリフォンとか、その上のメジェド・グリフォンなんて足というか翼が無ければ、ここに至るまでもそりゃあ苦労しまくる筈なんだがな」
「苦労したかったですか?今からでも送りますよ?」
「遠慮しとく」
入り口はすぐに見つかった。氷の彫刻で壮麗に装飾された門があったけど、門扉は無かった。門の大きさは高さと幅がそれぞれ10メートルくらい。
見張りとかは特にいなかったので、門前の広場に着陸。
土の大神の加護レベルを50まで上げて、土魔法で大岩をいくつも出現させて、それを基に土を変形させて門と広場を覆うドームを形成。複製メジェ助達がくつろげるくらいの空間を形成した。
「ふむ。まぁこれが光で攻撃してくる奴への対策だとして、氷竜の洞窟はどう攻略していくんだ?噂だと数十層以上に及ぶ立体的に入り組んだ構造してるらしいから、まともに攻略するなら数ヶ月がかりになるらしいぞ。複数の
「普通にやったらそうなんでしょうね。でも、私にとってここは寄り道でしかないので、さくっと済ませます」
「さくっとって、どうやって?」
「まぁ見てて下さい」
溶岩の精霊オーライの写し身であるオー助を実体化。複製スキルレベル10でさらに10体の複製を出して、彼らに炎の精霊アーライの複製アー助達もお供につけて、氷の門の内側へちょっと進んだ辺りの小部屋の床にぽとりと落とします。
するとあら不思議。複製オー助とアー助の相乗効果で互いが冷え固まるような事も無く、次々と床をぶちぬいてどんどん下へ下へと降りていくのでした。
私は定期的に常温の土の塊を土魔法で彼らへと送り届け、それはオー助と複製達への
溶岩と炎と土の絶妙なコラボレーションは、二時間もかからずに氷山の底、つまりは海底の先の地面にまで到着。私はオー助達を通じて海底の先の土に干渉。氷竜の洞窟を縦にぶちぬいたトンネルの内側表面を土で覆っていき、さらにエレベーターの様に使える昇降板も土で形成して、自由に階層を行き来出来るようにした。
私が何をしているのか、脇でじっと見ていたリグルドさんは、眉間に寄った皺をぐりぐり揉んでほぐしながら呟いた。
「お前、なぁ・・・」
「冒険者らしくとかいったお小言なら聞きませんよ。もしそうすべきでないのなら、どっかの何かの神様とかが、そうできないよう設定しておくべきでした。そうできたって事は、そうできるよう設定されてたって事です。ほら、私は何も悪くない!」
「いや、善し悪しの話じゃなくてだな」
「楽が出来るのなら善いに決まってるじゃないですか。さて、東の大国の王室から頼まれてた薬草から見つけますよ」
「まぁいいけどよ。どうやってって、捜し物の神様の加護ってやつか」
「ですよ」
直径3メートルくらいのエレベーターの土板に乗って、各階層に止まり、目的の薬草ウェイエレルの位置がほぼ水平に感じられる層で止まって降りた。
「どれくらいの深さを降りたんだ?」
「全体の2/3以上3/4未満てとこでしょうか。全体が1000メートルくらいの深さがあるかどうかって感じでしたから、各階層を順々に攻略してなくて良かったですね」
「まぁ、な。ここから先も真っ直ぐぶち抜いていく気か?」
「そうですけど、何か文句が?」
「いや、無い」
海底の地中からトンネル壁面を通じて地面を道路の様に敷きながら、ウェイエレルの反応に向かって直進。複製オー助や複製アー助達が壁をぶち溶かしながら、あちこちから寄ってきた氷の魔物、
彼らが吐いてきたりする氷の息やつららなんかはまともに食らえば、それこそ怖々と後ろからついてきてる前原さんなんかは一撃で殺されるだろうけど、それよりヤバめだったのは、
私は氷のモンスター達に光の攻撃魔法を放ったりして感触も掴みながら進み、オー助アー助達にはウェイエレルが生えてるだろう部屋の直前で止まってもらった。採取前に周囲の気温を上げちゃうと害があるかも知れないしね。
自動マップで周囲に敵が潜んでないかも確認してから、ゆっくりと近付いた。完全に戦闘と警戒使用の
氷華。そう表現するのが最も適切に思えた。
シャーベットの様に降り積もった氷砂の小山に生えた一房の氷の華。何かの役に立つかなと念のためにスケッチもしておいてから採取した。
鑑定結果はこんな感じ。
ウェイエレル。別名を
氷に薄紫色で彩色した様なウェイエレルがマジックバックの中に姿を消すと、リグルドさんが声をかけてきた。
「まだ残ってるが、全部は採らないのか?」
「こういうのは採り尽くさないのがマナーと聞いてますよ。私の世界のですけど」
「賢明だな。育成条件が明らかになってない薬草類は特に、絶対に採り尽くしてはいけない。こちらの世界でも同じだよ」
「みんながみんな金の亡者じゃなくて良かったですね。まぁ、最後の一輪しか残ってなかったら、採ってたでしょうけど」
「お前のスケッチで複製を生み出せたとしても?」
「同じ効能を生み出せるかどうかは不明ですからね。さて、次は
「倒せるのか?」
「倒すか、調伏させるか、二つに一つ、かな」
「調伏って、出来るのか?」
「ちょっとした、大事な違いが出てくるので」
氷竜の反応はもう掴んでいた。レベル上げや魔石採取なども兼ねて、氷竜の寝床と思われる場所までの経路に居た魔物達は狩っていった。だいたいがランク5から6で、下に降りていくほど魔物のランクも密度も上がったので、経験値的には大変美味しかったです。私の配下で後ろについてきてただけの前原さんのレベルは1から15まで上がったくらい。私は40くらいだったのが55まで上がりました。まぁ、ステータスポイント的には、レベル不相応になってるんだけどね。良い意味で。
んで、氷竜がいる寝床は、氷海に囲まれた小島みたいな場所になってた。
氷竜は、全長が頭の角の先から尻尾の先までが70メートル以上はあった。全身がつららの様な透き通った氷で覆われていて、水でも何でも触れれば凍らされそうに見えた。
小島の中央で寝ていたらしい氷竜は、目を見開くと尋ねてきた。
「久しい客人だからな。ウェイエレルまでは見過ごしてやった。さらに欲をかくなら、ここで氷漬けになって永遠を生きるか?」
冒険者ギルドの情報によれば、これはヴォックス、それもレディー・ヴォックスと呼ばれる個体で、何十年かに一度挑まれるかどうかという頻度にしろ、千年以上の歴史の中で倒された記録が無いらしい。挑んでも見逃してもらえる事もあるので、そういった記録だけが積み重なってきたそうな。
「まぁ、出来るならあなたには私の配下になって、私の戦いに協力していただきたくて、来ました」
「くくっ、言うではないか。そなた、異世界人か?そうか、また一周期巡ったという事か」
「らしいですね。傍迷惑な話です」
「同情しないでもないが、妾を巻き込むでない。勝手に生きるなり死ぬなりせよ」
「んー、私が思うに、あなたの力があれば、強敵二人との戦いがだいぶ有利になりそうなんですよね」
「・・・すでに複数の大神の加護を得ているのにか?」
「ええ。相手は、光の大神、そして、水の大神」
「何とはなしに狙いは見て取れる。悪くはないだろう。だが、妾が手助けしなくてはならぬ理由が無い。そうだろう?」
「まぁ、確かにそうでしょうね」
このねぐらとなる氷竜の洞窟を半壊させたりめちゃくちゃには出来るだろうけど、年月をかければ修復できるだろうし、ウェイエレルの事もあってそんな真似はしたくないし。
「ならば、なぜ私に挑む?」
「なんだかんだ言って、死にたくないから、でしょうね」
「はは、ははははははっ!死にたくないから、凍れる死の私に挑むと言うか、この人間は!」
「そうです。それじゃ、いきますよ。降参したくなったら言って下さいね。支配してさしあげますから!」
「やってみるがいい!」
彼女が大きく息を吸い込んだ。私は落ち着いて、一言唱えた。
「
肉弾戦の物理的法則まで欲張るのは止めておいた。法則支配も発動しながら、土塊をいくつも前方に展開。傘の様に受け流す形にして、裏からオー助やアー助達に補助してもらい、凍り付かないように保ってもらった。
氷の海は全面が凍てついていた。いや、自分たちの背後の部分は除いて。
「ほう、さすがに氷の吐息だけでは終わらんか。しかし、どこまで魅せてくれるのかな?」
ヴォックスは長大な尾を振るって、盾にした土塊を砕こうとしてきた。竜の体の構造上、絶対に体を半回転以上させる必要がある。つまり、私に背を向ける格好になるのだ。
私は時空魔法レベル10で
目前に迫ってきていた直径3メートル以上はありそうな太い氷の尾を左手で弾いた。首から先だけはこちらを振り向いていたヴォックスの瞳が驚きに見開かれた。重みをかけていた尾が打ち弾かれたので
私は一息に彼女の腹部の下に潜り込み、そのどてっ腹に全力のアッパーを叩き込んだ。と同時に全力で跳躍する事で推進力も得て、ヴォックスの巨体を宙に浮かべた。
「ぐはぁっ!」
「パリィからのボディー攻撃、さらにここで!」
氷竜の腹部に拳をめりこませた状態で、転移!
旅の神の加護スキルで私がヴォックスと共に転移したのは、ラズロフ大火山頂上の火口、溶岩までぎりぎりの際。彼女の背を地に臥せさせる形で出現した。
ヴォックスの視線が素早く周囲を見回した。溶岩からはオーライが溶岩の津波を起こそうとしていた。さらに中空からはジグヴァーノと彼に付けた複製ジグ助が佇み、二頭はいつでもスーパーノヴァを放てる態勢に入っていた。
「降参してもらえませんか?私はあなたを
「やれやれ。私ごとこんな場所にまで転移してくるとはな。ただそれだけでなく、溶岩の精霊も、ジグヴァーノまで味方につけていたか。おい、お前はいつから配下に下っていたのか?」
「いや、俺は配下に下ってないぞ」
「というか、その隣にいるのは何だ?お前も私と同じ独り身だった筈だ」
ジグヴァーノさんは決まり悪そうに私に視線を振った。ヴォックスさんが私に向けた視線がちょっとぎらついてて怖かったけど、説明せざるを得なかった。
「私は絵描きの神の加護を得た者ですので、描いた対象を実体化出来ますし、私が寝たり気を失うと実体化したのは消えてしまうんですが、複製したのは消えないんです」
「なるほど。なるほど。良いだろう。私の負けだ。降参してやろう。だが、一つだけ条件を付けたい」
「なんとなくわかりましたが、そのままならともかく、ご要望に完全に沿えるかどうかは保証できませんけどよろしいですか?」
「構わない。私自身だけではどうにも出来なかった事でも、お前がいるなら、いや相手さえいればたぶんどうにか出来る筈だからな」
その後、火口からちょっと外れた場所で、彼女をスケッチさせてもらった。彼女の姿のままのと、彼女の要望に沿った改変を加えたものだ。どういう改変かは、彼女のプライバシーに関わる為黙秘する。結果から言うと、彼女の為に絵描きの神の加護を100まで上げた状態でスケッチしたお陰か、彼女の願いは叶った。
スケッチが済んだ後は、旅の神の加護をなるたけ上げた状態で彼女の住処へと戻り、彼女と彼女の連れ合いとなった存在の為のプライバシーの為に、彼女と別れて、残されてたリグルドさん達といったん地上にまで戻った。
「ラグロフ大火山までヴォックスごと転移とか、お前ほんと何でも有りになってきたな」
「誉めて下さってるんですよね、ありがとうございます」
「そういう事にしといてやるよ。で、これで準備は整ったのか?」
「ほぼ、ですね。リグルドさんと前原さんは、このマジックバッグに氷海の水を入れていって下さい」
それは、ルームェ王国王都の商業ギルドから借りてる金貨2000枚相当の、入れようと思えばドラゴンくらいの体積の何かまで入れられてしまうマジックバッグを絵描きの加護スキル100でスケッチしたのを実体化してから、複製レベル50で複製した物だった。鑑定で詳細を見ると、ほとんど性能的な差は無かった。
「氷海の水って、また悪巧みしようってか」
「人聞きが悪いですね。返り討ちに合わないよう準備を入念に行ってるだけですよ」
「でも十秒から最大三十秒くらい先まで予見されるのなら、対策されるか、回避されてしまうんじゃないのか?」
文句を言いながらも、リグルドさんも前原さんも水汲みにとりかかった。二人だけに任せるといつまでかかるかわからなかったから、ゴブ助達にも手伝わせたけど。
「今確認すると、まだ66個だから、最大でもスキルレベルは33にまでにしかなりません。光魔法も特に夜間なら外せないでしょうから、そちらもたぶん10くらいまでには上げて、他に防御系とか警戒系のスキルも10くらいずつ上げると、それでもういっぱいいっぱいなんですよ」
「本人はどうにかなったとしても、帝城だろう?奇襲は最大限に警戒してるんじゃないか?下手に突つくと帝国全体を敵に回すぞ?」
「そこは何とでもなりますよ。私は最終的な勝者になるつもりですし、最終的な勝者に帝国は敵対しませんよ。絶対に」
「お前なら何とか出来ちまうかも知れないが、穏便に済ませられるような穏便に済ませろよ。余計な恨みを買うのは避けた方が良い」
「出来るだけ、そうしますよ。ほら、手を止めないで下さい」
作業の合間には、私は探し物の神の加護スキルで光川きらりとその周囲の様子を伺い、前原さんの聞き耳の加護スキルも使ってもらって、状況把握に努めた。
「今夜は舞踏会があって、今日のはパージメ卿と一緒だったみたいですね。今は、彼女の個室のベランダで、二人でお茶してるようです」
「話してる内容は?」
「パージメ卿が光川さんの容姿とか性格とかその他諸々をとにかくほめちぎって、光川さんがそんなでもないと謙遜しようとしながらも出来てないというか、要するにのろけ話の真っ最中って感じです」
「・・・うん、私の方で確認しても、そんな感じだね。好機、かな。寝てる状態だと城内だろうし、良しっ!思い立ったが吉日!もう夜だけど!時間が経過すればするほど、向こうもこっちの手の内をどうやってか探り当ててくるかもだしね。そしたらヴォックスさんを呼び出してっと」
彼女とその相手は、プライベートな時間をひとまず満喫して一区切りつけてたので、氷海を通じて、30分も待たずにやってきてくれた。
「仕掛けるのか?」
「はい。向こうも待ちかまえてるかも知れませんが、打ち砕きます」
「策を聞かせろ」
私は念話で彼女に作戦を伝え、攻撃隊を編成し、攻撃対象とその側にいる相手が最も盛り上がっているだろうタイミングで転移。転移先は、前原さんが持ってた自動マップのデータでほぼ帝城の真上、5000メートルくらいの上空。旅の神と支配の加護スキルの組み合わせで可能になった。もちろん隠遁スキルも発動してる状態。
帝城の、攻撃対象の直上くらいに移動して、最低限の旅の神の加護スキルのリキャストタイムもクリアするまで待っても、対象はまだ移動してなかった。さらに盛り上がってる様子が感じ取れたので、前原さんに聞いてみたら、たぶん、キスしてるみたいです、との事。うん、たぶん、そうだね。ベランダに通じる部屋の中には護衛だろう他の何人かもいるみたいだったけど、気にし過ぎたらたぶん仕掛けられなくなる。いざという時の為に、時の神の加護は当然有効化してあるしね。
だんだんと高度を下げて行き、1000メートルくらいの高さから仕掛ける事にした。複製しまくったゴブ助とグリ助達が、数十のマジックバッグから氷海の水を雨の様に降らせた。
攻撃でも魔法でもスキルでもない、単なる水と言えば水だ。ただ、冷たいだけの。全身に浴びれば、心臓麻痺にはならなくても、びっくりして数秒以上は動きが止まる。十秒程度先の未来がもし見れるのだとしても、その大半は埋まってしまい、次の行動を考える時間を奪える、筈だ。
雲が薄くかかってる夜だから、突然ぱらぱらと雨が降ってきてもなにもおかしくはない。コメディー番組で餌食となる芸人が頭上からバケツやタライに入ってた水を被せられるように、冷水を浴びてくれるかと思ったけど、そこまで甘くは無かったようだ。
十数秒とは言わずとも、あと五、六秒くらいで水がかかりそうなタイミングでこちらを見つめ、光の攻撃魔法フォトン・レイを最速で放ってきた。
私は闇の大神の加護の盾で受け止めつつ、騎乗してたヴォックスごと彼女の間近へと転移。スキルレベル的な読みで、彼女から10メートルちょっと離れた地点、ベランダと室内に対してほぼ平行な位置を占位。
彼女の頭上から氷海の水が降り注ぐタイミングで、ヴォックスが全てを凍らせる
私は闇の神の加護の力で結界を殴りつけて亀裂を入れつつ、絵画世界を発動。
私とヴォックス、光川きらりとその護衛騎士、たぶんパージメ卿とやらが絵画世界へと取り込まれた。
パージメ卿は戦闘の途中ででも倒すなり無力化すればいいやと思ったけど、その姿を見て、何度か見直してみて、驚愕した。ヴォックスが二人を牽制してくれてなければ、危なかったかも知れない。
光川きらりの周囲10メートルから20メートルくらいは何らかの妨害スキルがあって、鑑定してみて分かった。混沌の神の加護スキル。私の法の神の加護スキルと対極にある存在。
彼女のメダル構成とその加護スキルの内容を読み取りながらも、パージメ卿をちらちらと見つめて、というか目がある意味で放せなくて、妥協策としてヴォックスに頼んだ。
「二人とも凍らせちゃって!」
光川きらりの所持メダル枚数は80枚にまで増えてた。たぶんだけど、いやおそらく確実に、こちらに読み違えさせて油断させる為に、あのベランダにメダルを置いた状態で、私を誘い出したのだろう。まぁ、あの時の盛り上がり様は演技ではなかったと思うけど。
彼女のメダル構成は、光の神の加護が30枚。光魔法で20、混沌で20、予見が5、収束が1、他3つ4つがくるくる入れ替えられてた。いや、こうしてみるとやっぱり鑑定スキルは弱くない。それだけで勝てる訳じゃないにしろ、有ると無いとじゃ全く違う。
ヴォックスは私のスキルで出した存在じゃないし、ランクもレベルも光川きらりよりも段違いで上だから、彼女の混沌のスキルとかを完全に弾き返して二人を追いつめていた。というか、彼女が時折張る結界で何とか命拾いしてる感じ。パージメ卿も弱くはないのだろうけど、さすがにヴォックス相手に太刀打ち出来る程では無さそうだった。
二人は何かを打ち合わせると、光川が結界を強めに張り直してヴォックスがブレスを吐くタイミングで、パージメ卿が私に向けて突進してきた。たぶん身体強化は最低でも使われてる速さ。20メートル以上の距離を、2、3歩で一秒かからず詰めてきたのだから、実力は確かなのだろう。
でも、私からすれば遅すぎた。土の大神の加護スキルで、地面操作して転ばせつつ心臓に強打。殺さないようにする力加減が大変だった。
私が彼を迎撃するタイミングに合わせて光川きらりから放たれたフォトン・レイは闇魔法で防いだ。私はこんなこともあろうかと複製しておいた服従の仮面をパージメ卿に被せて最低限私に刃向かえないよう制約をかけた上で地面に首から下まで埋めておいた。
あの顔は私にとって凶器過ぎる。
この世界はあのゲームの世界ではないのに、他人の空似だとしても、架空の存在とほぼ同一だなんて。こうなったらもしかしてもう一人もいるのかも知れない。そういえば、この国の皇太子の護衛騎士だとか前原さんが言ってたな。うーむ、期待大だとして、先に片づけるべきを片づけておこうか!
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