エピソード:34 時田幸三の場合 その1
俺の名前は、
苗字はとにかく、下の名前の方は、「こうさん」とも読めるので、小さな頃からよくいじられてきた。
自分は特に何も優れてない。のんびりする事が大好きな、ただの男子高校生、だった。容姿や性格とか平々凡々な自分が唯一誇れる何かが、中学の頃からつきあってる彼女がいて、彼女になぜか好かれている事くらいだった。
「なんだか、こーぞーといると落ち着くから」
そんな彼女も、まぁふつーだ。自分もふつー。どの程度普通かと言うと、彼女がいるというとうらやましがれたりするのに、その写真を誰かに見せると、微妙な表情で、誰を好きになって、誰と付き合うかなんて人それぞれだしな、とうらやましがられる事がほとんど無い事で察してくれ。俺はそんなの気にしてないし、彼女も気にしてない。
さて、そんな身の上話はともかく、デスゲームだ。
自分に加護を与えてくれたのは、時の神、ジュール。七大神の一人だそうだ。
当然思ったさ。これ、もしかして勝てる?って。
神様にも直接聞いたさ。
「え、嘘。強い、んですよね?もしかしなくても」
<強い、という定義によるな。地水火風光闇の神の加護を得た者は、それぞれをほぼ自在に操る事が出来る。ならば時の神の加護を得た者は、時を、となるが、
「どんな制限が?それでも時を操れるなら」
<まず過大な期待を消しておこう。時を人間が操る事など出来ない。世界全体の状態の変化を操る事に等しいのに、人の脳味噌でそんな情報管理だけでも出来る訳が無い>
「だとしたら、どんな事が出来るんです?」
そこでひとまず聞き出した能力と制限についてざっと学んだ後は、抽選会場にて時空魔法をゲットした。
他の魔法と違って本屋には無かったが、中央の広場みたいなスペースにある壁掛け時計の裏側が空洞になってて、そこにあった宝箱から入手できた。その時計がけっこう高い位置にあったから、なんとなく怪しいとは思ってても届かないからあきらめた連中もいたかも。全部で二つしかない残り一つを入手できたのはラッキーだった。
そしてジュールから能力や制限について学びながら、彼女、
「優美と克美とも合流するからね。それまで待って」
二人は、留美の親友であり、恩人でもあった。留美がクラスでハブられ気味で、そのままだといじめ対象になっていたかも知れないのを救ってくれた二人でもある。反論異論が受け付けられるような雰囲気ではなかったので、口はつぐんでおいた。
優美というのは
克美というのは
留美が欲したのは、スキル:
二人で手分けして、いろんな店舗をほとんど全部見て回ったけど見つけられず、俺はふと通路のあちこちにかかってる絵の額縁をひっくり返してみて、封筒が貼り付けられてるのを見つけた。時計の裏側と同じ感じだ。あちこちに似たような絵と額はあったから、思いつけば簡単に見つけられるようになってたとも言える。
留美が封筒の中に入ってた便箋から、お望みの隠遁スキルをゲット。
その頃には克美もやってきて、彼女は自動マップのスキルを欲しがったので、さっき店舗巡りした時に見つけてあった場所(コンビニのマガジンラック)を教えて、あっさりとゲットしてきた。
そこから一時間くらい待ってようやく優美が現れた。かなり憔悴してた彼女が案内板を読んで希望したのは光魔法。最後の一個だったけど幸運にもゲットできた。
回復魔法が使えるなら、それなりに需要があってもおかしくなかったけど、相手を倒す手段が無いとどうしようもないと判断されて残ってたのだと思う。たぶん。グループ組んでメンバーをヒールするとかって言っても、いずれは殺し合いが待ってる訳だしね・・・。
克美もだったけど、優美も、四人で行動する事に何も言わなかった。それが当然の前提になっていた。俺だけが不安を感じているのが分かって、俺だけが内心不安になっていた。いや、みんな内心不安で一杯だからか。逆か。
東西南北のどの大国に行くかという判断で、平和だという東が真っ先に候補に上がったのだけど、克美が、生徒会と教師グループが東を選ぶようだと噂を聞きつけてきて、仲間内でも話し合って東は止めた。生徒会メンバー、特に生徒会長は、悪く言えば現実主義で、誰かを殺す事も、生き残る為に裏切る事も躊躇しなさそうだったし。
残る西と南と北。北よりは比較的安全そうじゃない?と判断した生徒達がより多く南と西から出て行ってるように見えたので、逆に北の方が安全なのかな?と判断して、北からにした。
出ていった先ですぐ襲われる可能性があると克美が警告してくれて自分も賛同したので、留美のスキル:隠遁をすぐに使う事にした。手をつないでたり体の一部が触れてれば効果をその間にも及ぼせるらしく、実際、自分達が出た辺りで待ちかまえてた連中の横を素通り出来た。でかい帝都の中心部は避けて、より辺鄙そうな北の方に移動していった。
男が一人、女が三人なので、あまり治安が悪い所には入っていけず、それなりに綺麗そうな宿屋を見つけて、そこで四人部屋を一つ取った。俺は一人の別部屋にしようかと言ったのだけど、一緒の方が守りやすいというのと、今後のデスゲームへの対策、主に資金面での節約が求められるからと言われた。
四人での話し合いの冒頭、優美は宣言した。
「私達はこの戦いの中で、誰も殺さない。いいわね?」
残り三人、というか、留美は俺をちらっと見てから、
「うん。私も、他の誰かを殺してまで生き延びたいと思えないもの。こーぞーもそうだよね?」
「え、ええ?でもさ、誰も殺さないって、つまり殺されろって事だよな?俺はやだよ。誰かの為に、留美が殺されるとか。それを見過ごさなきゃいけないとか」
「私は、私の為に誰かが殺されるのはイヤなの。そうまでして生き残りたくないの・・・」
優美は、留美と俺の様子を見てから、克美に尋ねた。
「克美はどうなの?」
「う・・・、そりゃあ、私も優美には助けてもらった恩は忘れてないけどさ。黙って殺されろって言われて従えとか、正直、きついかな・・・」
優美は、頭ごなしには否定せずに、ただじっと克美を見つめ続けて、克美はその視線に耐えられずに顔をそむけた。
優美は少しだけ考え込んでから、語った。
「私に加護を与えてくれたのは、慈悲の神マギレス。加護スキルの哀れみは、自分のHPかMPを他の誰かに分け与えるもので、とうてい戦い向きじゃない。私も彼女も、勝ち残る事は目標としてないの。みんなにも、誰も殺して欲しくはないけど、強制は出来ないしね・・・」
「私は、優美に賛成。私は誰も殺さない。そして、こーぞーにも殺して欲しくない」
「誰かに襲われても、黙って殺されろっての、ひどくないか?」
「・・・・・それでも、誰も殺して欲しくないの。一人でも殺したら、もう、歯止めなんて無くなっちゃうだろうから」
「だとしてもさ、俺の、留美に死んで欲しくないとか、殺されて欲しくないとかって気持ちはどうなるんだ?俺だって殺されたくはないし。誰も殺さないで生き残れるならそうするだろうけど、たぶん無理だろうし」
「少なくとも、私を理由にしないで」
「そんな・・・」
「こーぞー。私に加護を与えてくれたのは、約束の神アゴルテ。その加護スキル:約束は、対象一人につき一つの約束を守らせる事が出来るんだって。約束する事自体は強制できないみたいなんだけど」
「しないぞ、そんなの。だって何かあった時に留美を見殺せって約束になるじゃないか!」
「だから、私を助ける為って理由を付けたら、他の全員を、優美や克美も最終的には殺す事になるんでしょ?そんなの、私は受け入れられないよ」
「でも」
「最後には、私とこーぞーの二人がもし残れたとしても互いで殺し合うの?何百人も殺した後で?絶対に無理。神様がどんな願いをその後で叶えてくれるとしても、私は勝ち残りたくないの」
「・・・・」
「だから、私は、私に対して約束の加護スキルを使うよ。こーぞーが誰か一人でも殺したら、私は死んで、このデスゲームから脱落する!」
留美の体が淡い白い光で包まれて、何かが発動してしまった事は見て取れた。
「約束の神アゴルテに確認してあるけど、私の見えない所で誰か殺しても、理由の内容に関わらず、私は死ぬ事になるからね」
「・・・自殺は不可能じゃなかったのかよ」
「これは自殺じゃないんだって。こーぞーが誰も殺さずにいられるかどうかが鍵になってるから。自分をその行為の主体に取れば自殺扱いになって効力は発動しないってさ」
「ひどくね?俺の気持ちはまるっきり無視かよ」
「ひどいのは、こんなデスゲームに私達を巻き込んだ神様達だよ」
「私達の世界の神様は、何してたんだろね」
「克美!」
「何よ、優美。あなたがクリスチャンなのは知ってるけど、でも、私達が今ここにいるのが現実じゃない」
「だとしても、私はまだ絶望していません。この世界には神が居た。ならば、私達の世界にも居ておかしくありません。慈悲の神マギレスははっきりと教えては下さいませんでしたが、私達の世界にも神はいるそうですよ」
「なら、なんで」
「神の御心は人の心で推し量る事は出来ません」
「神様とか信仰の話に口出しする気は無いから、話戻すぞ。留美、もし誰も殺させたくなかったのなら、それこそ抽選会場からの出口で待ちかまえてた連中に殺されてれば良かったんじゃないのか?」
「・・・・・こーぞー、ひどい事言うんだね」
「どっちがだよ!?」
「二人とも落ち着いて」
「留美の事だからさ。せめて避けようの無いランダム対戦の時が来るまでは、みんなで穏やかに過ごしたいとか、そんなんじゃないの?」
「だいたいそんな感じ。理不尽さにただ流されるだけじゃなくて、ちゃんと自分の生き方や死に方は自分で決めたかったから」
「それでも、誰かが襲ってきたら?お金だって、ずっとはもたないだろ?隠遁スキルだって、MP消費するんだろ?俺達だって、いつでもずっと留美と付きっきりでいられるわけじゃないだろうし」
「こーぞー、ひどい事ばっかり言うんだね」
「どっちが、って、これはさっきも言ったか」
俺は何度も深呼吸してから続けた。
「ランダム対戦までは生き延びたいってのが留美達の希望だとして、それまで誰も殺さず生き延びるのは、もしかしたら可能かも知れない。
それでも、お金はどうにか稼いでいかないと、さすがに宿代とか食費がもたないだろ」
「そんなの、どこかの宿屋とかレストランみたいなところでバイトさせてもらえばいいんじゃないの?」
「雇ってもらえたとしても、みんな同じ場所ってのは厳しいだろ。つまり、それぞればらばらになった状態で、ためらいなくこちらを狩ろうと殺しにかかってくる相手をどうにかしないといけない」
「見つかる度に逃げ出してたらクビになるだろうね」
「どうにか逃げても、また見張られてたら、結局どうにかしないといけなくなるし」
自殺は禁じられてる。俺は他殺も禁じられた。つまり一ヶ月後の死刑が宣告されたような物だった。一ヶ月を生き延びても、ランダム対戦でデッドエンド。誰かを殺さずにメダルの枚数を増やせる方法があれば、そして克美のスキルと加護スキルの内容によっては、実現の目が無くも無さそうだった。
「誰も殺したくないって留美と優美の気持ちは分かった。だけど一ヶ月何もせずに生き残れる保証はどこにも無い、ていうか無理だろ。
だから、さし当たって一ヶ月はここにいる全員が誰も欠けずに生き延びる為の努力は惜しまない。ここまではいいか?」
「いいよ」と留美。
「いいわ」と優美。
「もちろん」と克美。
「俺の加護を受けた神様の名前と加護スキルについては、明かさないでおく。どうしてかっていうと、その場で何かを解決できるような類のものじゃないし、アテにされてもたぶん期待には添えないからだ」
「つまり、役立たずって事?」
「ほとんど、な。ただ、致命的な場面で、重要な助言をして、命拾いする事くらいは出来るかも、知れない。あくまでも、かもだ。知ってると、どうしてもソレ頼りにされるだろうけど、いつも狙って使えるような何かじゃないって事だけは覚えておいてくれ」
「わかりにくいけど、わかった。こーぞー」
「予知みたいな何かって事?」
「それに近いかもな。とにかく、戦闘向きとは言えない。いきなり俺が強くなって、敵をばったばったと倒すとか絶対に期待しないでくれ。そんな俺達だから、鍵となるのは偵察と哨戒。特に、克美が取った自動マップが生命線になると思う」
「誰かが近寄ってきたらすぐにわかるから?」
「それもあるけど、克美。自動マップスキルはMP消費する形のものか?」
「ううん。基本的にはMPを消費しない常時発動みたい。範囲は、自分を中心に半径100メートルくらいの広さがカバーされてて、今まで歩いた場所は自動的に保存されていくみたいね」
「任意のターゲット。例えば、抽選会場から移動してきたとこで待ち伏せしてた連中の足取りを追えたりはするか?」
「・・・・・足跡が辿れるっていうか、リアルタイムで人の動きとかまで表示されるのはさっき言った半径100メートルくらいなんだけど、一度捉えた相手の足取りは、その範囲外に居てもMP消費して追えるみたい。それに・・・」
「それに、何だ?」
「私の神様、噂の神シュモアの加護スキル:聞き耳はね、普段だと範囲10メートルの任意の話し声を聞き取る事が出来るっていうものなんだけど、さっきの自動マップで足取り追えてる相手の話し声も拾えるみたい」
「その分、MP消費は激しくなるだろうけど、これで当面やる事は決まったな。今日から何日かかけて帝都のマップを埋めながら、プレイヤーを捕捉していくんだ。留美の隠遁スキルも使って察知されないようにしながら」
「でも、ずっと使い続けるのは無理だよ?」
「気配察知スキル持ちに見つかったり、何かの神様の加護スキルで攻撃されたりしたら逃げればいい。いざとなったら俺の加護スキルも使う」
「それに、私の加護スキルでMP譲渡も出来る筈だしね」
「制服も売ろう。少しは生活費の足しになるだろうしな」
そうして、みんなで固まり、いざとなったら手をつなぎながら、帝都中を五日かけて歩き回り、帝都にいるプレイヤーのおそらく全員を捕捉し終わった。メダル獲得数トップの陰宮や、倉橋、それからじわじわとメダルや所持金を増やしてる光川といった連中も捉えられたのは大きかった。
その後も泊まってる宿屋で継続的に二人は住み込みというような形でバイトをしながら、数日かけて帝都のマップを埋めつつ、メダルを増やしていない相手にメッセージを打って少数ながらも賛同者というか協力者も増やしていった。
9日目。光川が陰宮を倒すという大変動が起きた。帝都を去るべきでは?という話題も四人の間で出たけど、距離を無視した攻撃手段を光の神の加護を受けた光川が持っているのは明白だったので悩ましかった。遠見や飛行や収束の神の加護メダルも入手されて、安全を確保するなら殺してでも止めるしかなかったけれど、その選択肢は許されていなかった。
11日目。それは偶然からだった。これまでは何とか襲撃を受ける事もなく過ごせてきていた四人だったけれど、これからもやり過ごせる保証はどこにも無かった。帝都を離れるくらいしか無いにしろ決断出来ず回避策も見いだせないまま、俺はその早朝、一人で先に部屋を抜け出して散歩に出ていた。
メダルの反応にはなるべく近寄らないでおこうとぶらぶら歩いていて、ふと空を見上げた瞬間、光が降ってきて、俺は撃ち抜かれて死んだ。筈だった。
やり直し。それが時の神の加護スキル。ただし一度やり直した時を再度やり直す事は出来ない。巻き戻せるのは加護レベル1なら一日前まで。復活直後はMPがゼロになる為、連続使用も出来ない。
実はこれまでも何度か使ってはいた。一度目は、初日に宿屋でこれからの方策を話し合って加護を受けた神様とそのスキルを伝えていたが、過度な期待を克美からかけられてグループが分裂の危機を迎えてしまったので、その話し合い時点からやり直して伝えない事にした。その選択肢は正解だったようだ。
それから、自分達の存在をかぎつけて、何度やり過ごそうとしたり警告してもあきらめなかった奴は、協力者の力を借りてぼこって撃退したり、不意を突かれた相手をやり直した後に狩ってもらったりした事もあった。
そうして何とか11日目にまでたどり着いていたのだけど、ついに自分が殺されてた筈の事態に陥った。
<君を殺したのは光の神の加護を受けた光川きらりだ>
――光に撃ち抜かれてたんなら、そうだろうね。でも、近くにはいなかった筈だよね?
<これまでに入手した加護の力を組み合わせたのだろう。帝都で潜伏し続けるのはほとんど不可能に近くなった。倒さないのであれば、せめて逃げるべきだ>
――そうなんだけどね。でも、さっきの攻撃、遠くから目に付いた相手を撃ってたんなら、もしかしてチャンスかも。
<考えがあるのだな>
――うん。少し賭けになるけどね。このままだといずれ狩られるだけだし。
俺は起きだした直後、体感で一時間くらい前に戻されていた。俺は同室の三人を急いで起こし、協力を依頼した。
起き抜けで寝ぼけてた優美とかも、俺がついさっき殺されたと言えば一発で眠気が吹き飛んだらしい。身支度を急かして俺がさっき殺された辺りまでゆっくりと移動。俺が撃たれた十分前くらいに留美には隠遁を、そして克美には自動マップスキルの監視範囲を2倍に広げてもらった。その分、消費MPも増えるけど、必要経費だ。
その範囲内に収まるプレイヤーの位置を確かめてもらい、数分待つ内に、その内の一人が撃たれて死亡。メダルだけになった。
「いけるっ!今なら拾いに行けるよ!」
「焦るな。聞き耳で、光川がまだ攻撃を継続してないか確かめてからだ」
「・・・・・だいじょぶっ!急いで街に戻ってこようとしてるみたい!」
「よし、行くぞ!」
ハイエナみたいな真似だったが、四の五の言ってる場合じゃなかった。これで誰も殺さずに、俺達の誰かは一ヶ月延命出来るかも知れないのだから。
俺は時空魔法の
「それ、何のメダルだったの?」
「予見。通常なら、加護レベルと等しいx秒先の未来を見る事が出来る。すまないけど、いったんこれは俺に預からせてて欲しい」
「私はそれでいいよ。メダル増やす気はないし」と留美。
「私もです」と優美。
「私は・・・・・・」
「後で話し合おう、克美」
「わかった。今は預けておくよ」
「たぶん、こいつ以外に何人かやられてる筈だ。克美の自動マップでわからないか?」
「えーと、そうだね。もう帝都にいる人は全部拾い終わってて、この辺りだと、うん、三人減ってる」
「わかった。光川にやられたんだろう。拾いに戻ってくる前に逃げるぞ」
そして実際、克美の聞き耳で戻ってくる最中というのを聞きつけ、急いで逃げた。
予見は、自分は時の神の加護を得ているお陰か、MP消費量を増やせば、消費したMP分のx時間先までのダイジェスト映像を見る事が出来た。はっきり言ってすごいチートではある。
俺は途中から囮役となって、どうやってだか自分を追ってきていた光川を、時折時空魔法の
逃げた先で留見と合流し、宿屋へと隠遁スキルを使いつつ帰還。バイトは俺と留見でこなし、克美と優美にはMPを回復しつつなるべく頻繁に光川の状況を探ってもらった。
「光川は、普通なら絶対見えない離れた場所からも狙撃してくるだけでなく、こちらの足取りもある程度追えるようになったみたいだ。少なくとも最初のランダム対戦まで生き残りたいのなら、帝都からは逃げ出した方がいい」
「でも、逃げるって、どこへ?」
「なるべく、光川にとって不利になる場所がいい。冬が早く訪れる北の雪原とかのが生き残れる可能性は高まるだろうな」
「どうやってそこで生き延びるの?」
「さあな。人の住んでる集落とかはあるだろうから、ここみたく住み込みで働かせて下さいと転がりこむとか?」
「でも、暮らし向きはそういう所のが厳しいんじゃない?」
「とりあえずあと3週間足らずを生き延びてから心配すればいいんじゃないかな。たぶんだけど、このままだと全員光川に狩られて終わるよ。そのずっと前に」
克美は逃げ出す事に賛成。留見も自身は俺にどちらかと言えば賛成なんだけど、逃走に消極的な優美を残してはいけないとか言い出した。
「で、どうして優美は逃げるのに反対なんだ?戦うのにも反対なら、逃げてもいいじゃないか」
「だって、誰かを殺して自分が生き残れればいいなんて考えが正しい筈が無いもの。私は、どっち道誰かに殺されて終わるのなら、この世界の神様、それが特に光の神様だっていうなら、対話してみたいの」
「あのさ。主神を決める戦いだから、間違ってる間違ってないって、俺達の基準で決めつけられる訳無いの、分かってるよな?」
「彼らにとって間違って無いとしても、それが私達にとっても間違って無い訳は無いでしょう?」
「でも、そんな議論する前に殺されて終わりだって、どうして分からないんだよ?」
「話してみなければ分からないじゃない!?」
「・・・せめて、メッセージで留めておけば?相手が話す気があるなら返事も来るだろうし」
「何度か送ってみたけど、無視されてるわ・・・」
「じゃあ、無理だよ。相手に話す気なんて無い。神様と話したいなら、自分に加護を与えてくれてる神様と話せばいいじゃないか」
「・・・」
「優美は、光の神様と話がしたいんだよね」
優美は、留美の言葉におずおずとだけど、うなずいた。俺は声を出さないように気をつけながらだけど、ため息をついた。
「優美。この世界の光の神様は、お前が信じてた、いや今でも信じてるかも知れない神様じゃない」
「そんなのは、分かってる」
「いいや、分かってないね。お前が本当にお前の神様を信じてるのなら、お前の信じてる神様の元に死後たどり着けるんじゃないのか?だとしたら、それまで待てるんじゃないのかよ?」
「・・・信じ、たいよ。でも、ここ、もう、元の世界じゃないし・・・」
ここで、じゃあ一人で確認に行けよとか言えば、留美が私はついていくとか言い出しそうなのは簡単に予想がついた。克美もそんな雰囲気は察して、優美を慰めるようにその背中をさすってあげてる留美の姿と俺とを交互に見つめてきた。
「どーしても優美が譲れないっていうなら、一日待てるか?」
「どうして、一日?」
「加護レベルが2なら、俺は二日先まで戻れる。もし光川が相手の足跡を辿れるようになってるなら、今日横取りした俺達の居場所はもう目を付けられてる可能性がある。そうでなくても、ずっと宿屋にこもりっぱなしという訳にもいかないんだから、いずれ遠距離狙撃で一人ずつやられていく可能性もある。それに光川には奴隷の手下が三人もいるんだよな、克美?」
「うん。闘技場の賭博でもお金儲けてるみたいだから、まだ増えてく可能性もある・・・」
「つまり、メダル反応だけに頼ってたら奇襲されてやっぱり終わる可能性が高い。だから明日の晩くらいまで様子を見てみて、襲われる様なら、やり直して、逃げ出すしかない」
優美はまだ納得がいってないというか、あきらめ切れない表情をしていた。けど、俺だって無意味に殺されたくなんてない。
「明日の昼間は、北に移動する伝手を探そう。駅馬車じゃないけど、交通手段くらいあるだろうから、探す。まだそんなに寒くないから防寒具はいらないかもだけど、保存食とか水みたいのは買い込んでおかないといけないだろうし。そういうの、自動マップで探せるか?」
「・・・いけるよ、フィルター機能あるから」
その夜、明かりを落とした後も、優美と留美は遅くまで小声で何かを話し合い続けていた。
翌日。昼前頃、十枚のメダル持ちの倉橋が、光川に狩られた。その中には一枚か二枚くらいは、さらに光川を強化するメダルが含まれてておかしくないし、光川の所持金が大幅に増えていた事も確認できた。手下の奴隷もまた増えるのだろう。
俺は半日ずつごとくらいに半日先くらいまでを予見で見ていたが、夜半までに俺達四人は、光川の手勢に狩られていた。夜は動かないだろうという油断もあったし、奴隷が来ると分かっていても、自動マップでどの相手がそうなのか克美にも絞りきれないらしかったのと、隠遁スキルをずっと使い続けられない事などもあって、力尽きていた。
「・・・という訳だから、もう、やり直しは確定した。もし優美が死ぬ前にどうしても光川を通じて光の神と話をしに、死にに行きたいというなら行ってこいよ」
「こーぞー」
「自分の生き死によりも、成立するかどうかも分からない対話を優先したいっていうんだから、仕方ないだろ。無理矢理力尽くで止められないし」
「どうにか、出来ないの?」
「たぶん、な」
「たぶんていうのは?」
俺は留美だけを部屋の外に引っ張り出して、扉を閉めて小声で伝えた。克美には聞こえてしまうだろうけど、仕方ない。
「たぶん、優美は止まらないよ。彼女が向かう時、どうせ留美もついていくって言うんだろ?」
「・・・こーぞーはついてきてくれないの?」
「心中してくれって頼んでるのか?」
「・・・違う、よ。どうにか」
「出来ない。隠遁スキルを使えばどうにか近付けはするかも知れないけど、三十枚を越えた手持ちのメダルの中には、隠遁スキルを無効化したり妨害できるような加護スキルを持つ物が含まれてておかしくない。ていうか、あるって前提で行かないとダメだろ。そんでもって、もし間近まで接近出来たとして、姿を現した途端に、ずどん、でお仕舞いだよ。どうせ取ってるのは光魔法だろ。光の神の加護で大幅強化されてるだろうし、夜でも戦えると見るべきだし」
「止めないの?」
「ずっと止めてるじゃん・・・」
その後、今度は留美が部屋に戻り、俺と克美は宿屋の食堂の片端で待っていると、やがて二人が降りてきて克美に声をかけた。
「克美は」
「行かない。私も死にたくないもの」
「分かった。じゃあ、留美。送り届けてくれたら、それで十分だから」
「・・・・・・私も、付き合うよ」
「ありがと。うれしい」
「こーぞー?」
「俺も行かない。二人がどう終わったかを、俺は二人に伝えないといけないんでね」
それ以上は語る言葉も無く、二人は去っていった。片道で三、四十分は徒歩でかかる距離があったので、隠遁は途中から使うのだろう。
二人が宿屋を去ってから二十分くらい経ってから、克美には光川と優美と留美の話し声に聞き耳を立て始めてもらった。俺はステータス画面で優美や留美が唐突に死亡表示に変わったりしないかを注視し続けた。
二人は、光川の泊まってる宿屋まではたどり着けたようだった。ただ、隠遁スキルを解除してすぐに光川の護衛の奴隷かその関係者に捕らわれて宿屋の裏手の庭に連れて行かれて、話をさせてという優美の嘆願は届かず、留美と二人でおそらく目隠しをされたまま、二人は無為に殺された。会話どころか一言も交わされないまま。そりゃ、言葉とか視線とかその他未知の手段でいきなりスキルを封じられたりすれば立場が一気に逆転しててもおかしくなかった訳で、当然の結果としか言えなかった。
「二人とも、殺されたわね」
「まあ、予想通りだな」
「恋人が殺されたのに、冷たすぎない?」
「まだ終わった訳じゃないからな。それより、こっちに追っ手は放たれてないのか?」
「・・・・光川はそういう指示を手下に出してるみたいね」
「つまり、相手が殺されてても、その足取りを辿る加護スキルを持ち合わせてるんだな、やっぱり。克美は、光川の話し声から、その手下の名前を拾い出して、自動マップで見つけられないかぎりぎりまで粘ってくれ」
「その情報を、あなたがやり直した時に私達に伝えられるから?」
「そういう事だ。無駄にはならないよ」
「ねぇ、留美や優美を置いて、二人で逃げるって選択肢は無かったの?」
「今回がそのパターンて言えばパターンだけど、もう遅すぎるんだろうな」
昼間に予見してた通り、俺達は大して粘れもせず、狩られて終わり、俺は予見のメダルを拾う少し前にまで戻った。そこがやり直しで遡れるぎりぎりのタイミングだったから。
俺は対象の相手がすでに殺されてる事を確認し、克美にも前回と同じ場所で殺されてる事も確認した後、これまで何度か協力してもらった片桐先輩にメッセージでメダルの位置を伝え、もし気が向いたなら拾う様に伝えた。いちおう目を付けられるかもと警告はしたけど、彼もメダルが増えるのならとすぐそこに駆けつけると約束してくれた。
俺はついてきてくれた三人に宿に戻る道すがら、ここから先の展開を説明した。俺が巻き戻しと予見の内容も含めれば都合三回も殺されて、優美が光川と対話を図ろうとして付き合った留美共々殺されてしまった事なども伝えて、何時間かかけて、ようやく、優美と留美を帝都から脱出するよう説得出来た。
それから前回調べておいた北部の辺境都市へ向かう馬車に四人で乗り込み、帝都から脱出した。帝都が完全に見えなくなってから、東大陸掲示板に(もちろん匿名で)警告を残したりもした。早く逃げないと手遅れになるぞ、と。
その翌日の昼間、やはり倉橋は狩られ、夜には予見のメダルを譲った形になった片桐先輩も狩られた。
さらに翌日からも犠牲者は増え続けたけど、もう今更だ。各大陸で、勝者ははっきりとしつつあった。自分は最大でも一日しか遡れないのだから、勝機などある訳も無かった。
だが、それでも、まだ留美は生きて俺の隣にいた。とりあえずは、それだけでも最後の瞬間にまでは守ろうと、俺はそれだけを自分の心に誓った。
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