エピソード:31 光川きらりの場合 その3

 私には、大きく二つの選択肢があった。アイテム類とかで何とかする。これも有りなんだけど、寝ている時や戦闘中の不意を突かれると対応できなかったりする。

 見稽古による体術や剣術はあくまでも有事の補助用で、私の主武器は光の神の加護の力。ただし、昼間でないとその力は激減する、相手が見てたり認識できてないと反撃どころか回避さえ不可能。ずっと引きこもっている事も出来ないなら、リスクを抱えながらでも動くしかなかった。


 私は朝早くに朝食を済ませると、コロシアムまで大通りだけを辿って向かった。カードを見せてVIPルーム(といってもたぶん小金持ち用のもので、大商人とか貴族用のはまた別にありそうだった)に案内してもらい、そこで戦奴の管理人みたいな人との面談を希望し、信頼出来る奴隷商人を紹介してもらう事に成功した。ついでで、金貨5枚を支払って、道案内兼護衛までつけてもらった。


 コロシアムから道案内兼護衛してくれた人が顔つなぎしてくれた事もあり、帝国公認の奴隷商、リュグビーさんが私に応対してくれる事になった。


「つまり身辺警護ボディー・ガードとして奴隷を購入したいと?」

「はい。コロシアムの戦奴のレンタルとか購入も考えたんですが、彼らはコロシアムというか帝国の所有物ですから、難しいかなと考えたので。秘密保護とかも無理そうですし」

「それはそうですね。で、警護役という事であれば最低限の戦闘能力などは求められているでしょうが、他に何か具体的なご要望などはありますか?種別や性別、年齢、経験や特殊能力。性的利用の有無などですね」

「最後のは必要皆無です」

「承知しました。それと後はご予算ですね」

「予算はとりあえず金貨150枚以内で収まると嬉しいです。その倍くらいまではいけますが。

 それと、私を狙っている相手は隠遁ステルススキル持ちで、目の前で見られていても認識から外れて消えていけます。さらに、周囲を霧で満たして視界を塞ぐ事も出来ます」

「厄介ですね」

「はい。アイテム類でどうにかする線もあるかも知れませんが、戦闘などで私の認識が完全にそちらに集中している瞬間を狙われるとほぼ役立たずですからね。昨日すでにそういったタイミングで一度狙われました。偶然から逃れる事が出来ましたが、何度もそういった偶然に恵まれるとも限りませんので。

 だから用心棒といっても、隠遁スキルを暴く為の気配察知スキルとか、もしくは臭いとか聴力、体温とかで敵の接近を検知できる能力を持ってないと役立たずです。逆に、検知さえしてもらえれば後はたぶんこちらで何とか出来ます」

「隠遁スキルに、霧ですか」

「霧の方はアイテムとかで何とかしようと考えてます。ただ、それも使うタイミングが判らないと何個あっても足りませんので」

「・・・お客様は、獣人を忌避されますか?」

「特には」

「蛇に忌避感はお持ちですか?」

「・・・・・いえ、特に」

「では、少々お待ちを」


 およそ15分くらい待ってる間に、お茶と茶菓子のサービスがあった。およそ金貨150枚以上の商いがあるかも知れないなら、それなりの接待はあるよねって感じ。お茶は緑色の紅茶って感じの飲み物だった。あっさりしてて飲みやすかった。値段さえそれなりならどこで買えるのか教えてもらおうと決めた。


 さて。クッキーな見た目で煎餅とショコラの合いの子といった不思議な茶菓子を頂きつつ事およそ15分。五十代半ばのやり手商人て感じのリュグビーさんが連れてきたのは、三人。二人は獣人っていうかハーフっていうかだったけど。


「ご紹介します。コールド・ラミアのアガザンテ。ミグノ・コボルトのジェイミ。元傭兵のユーシス。

 アガザンテは種族特性として、熱源感知を持ちます。霧の中でも敵の接近を見破れるでしょう。

 ジェイミは種族特性として、犬と同等以上の嗅覚と、その大きな耳で人以上の聴覚を持ちます。

 元傭兵のユーシスは、気配感知スキル持ちです。戦闘力は傭兵としてはそこそこ程度ですが、この三人の中では一番マシです。ジェイミに戦闘能力を求めるのはほぼ間違いで番犬として扱うのが正解。アガザンテは人並みに武器を振るう事も可能でしょうが、一般人のそれと同等と心得てあまり期待はしないで下さい」


 アガザンテは人の上半身に蛇の体を持つラミアで、見た目は四十代半ばくらいの女性。その上半身には何枚かの衣服を着込んでたけど防寒対策なのかな。見た目の身長は150センチくらいであまり大きくなく、全長?も3.5メートルくらい。たぶんラミアとしては小ぶりな種族なのだろう。

 ジェイミも小柄な犬人というか、人と大型犬のミックスみたいな。身長は100センチほどで、体表は長いふさふさした茶色の毛で覆われていて、顔の大きな鼻と耳が特徴だった。けもなー達には人気出そう。表情からすると、たぶん子供か青年かそれくらい?

 ユーシスさんは二十代半ばくらいの女性。覇気は感じられず、投げやりな雰囲気が感じられた。それなりに腕が立ったとしても、ちょっとこの人に命預けるのは不安が残りそうだった。


「それぞれのお値段は?」

「アガザンテは90枚、ジェイミは45枚、ユーシスは150枚です」


 無理をすれば3人とも買えない事は無い、けど、4人部屋となると、部屋も変えないといけない。それに、ある程度の余裕も残しておきたい・・・。でもその余裕は殺されたら意味ないしなぁ。


「ちなみにユーシスさんが奴隷になった経緯は?」

「借金奴隷ですね」

「買ったら借金も一緒についてくるとか?」

「それは奴隷になった時にすでに払われてますが、その時の代金が上乗せされています」


 アガザンテとジェイミは買って欲しそうな顔してるけど、ユーシスさんはどうでもよさげ。

 奴隷としての権利や注意事項(食事や寝る場所の用意とか当然の事)なんかをリュグビーさんから受けた後、自己紹介してもらった。


「アガザンテです。戦闘そのものではなく周囲の警戒でならお役に立てると思います」

「ジェイミだよ。鼻も効くけど耳もいいよ!戦うのは無理だけど、誰かが近づいてくればきっと役に立てる筈さ!」

「・・・ユーシス。私にはあまり期待しないで」


 うーん・・・。隠遁スキルのが気配感知スキルを上回ってれば気付けない可能性があるのも確かなんだけど。

 ちょっと試したい事もあったので、私はほぼ即断した。


「今日は、とりあえずアガザンテさんとジェイミを買っておきます。ユーシスさんはもうちょっと余裕出来たら迎えに来るかもなので、とっておいて頂けるのなら嬉しいかも」

「いつまでもは難しいですが、どの程度をお考えで?」

「んー、五日から十日くらいかな。早まる可能性も無くはないけど、だいたいそれくらいです」

「わかりました。その程度なら」


 ユーシスさんは残念そうな表情をしていた。買われなかった事ではなく、私があきらめなかった事に対して。

 私は、支払いを済ませ、アガザンテとジェイミの所有者を私にする手続きを済ませてもらった。彼らの首に巻かれた隷従の首輪に私の血を垂らし、何らかの魔術か魔法かで、私に対する服従を強制させる、らしい。詳しい事は知りたくないし、知る必要も無い。


 急ぐ必要があった私は挨拶もそこそこに、彼らを連れて行きつけの武器防具屋で、二人に最低限の武器を買った。投げ売りな感じの短剣2本と、アガザンテは弓も少し使えるらしいので短弓と矢も少々。

 宿屋にも寄って部屋を移してもらえた。日に銀貨2枚の出費増で済んだ。断られてたら探さないといけなかったので助かった。


 そして昨日襲われた狩り場へと早足で向かい、私が巻き込まれている状況を二人に説明し、何を期待しているのかもきっちりと伝えた。


「いつ襲われてもおかしくないから覚えておいて。昨日襲われた場所にはたぶん、私を襲った奴の臭いが残っている筈」

「わかった!俺、がんばる!」

「でね、もし臭いが嗅ぎ分けられたら、その臭いを辿って街まで戻っていくつもりなんだけど」

「街で狩り出すおつもりですか?」

「そう出来ればいいんだけどね。先ずは居場所を突き止めてもらう。帝都は大きいから獣人なんてありふれてるし、ジェイミと同じ種族のもそう珍しくないから目立たない筈」

 

 私は目標とする相手、陰宮の特徴をジェイミに伝えながら歩き続け、遭遇した魔物は躊躇せずに光線で撃ち抜いて経験値に変えていき、昨日襲われた場所に到達出来た。

 大きめのゴブリンの死体は残っていた。ところどころかじられてはいたけど、アガザンテに頼んで魔石を取り出してもらいつつ、ジェイミには陰宮が倒れた場所の臭いを存分に嗅いでもらった。


「どう?ゴブリン達でも私でもない相手の臭いを嗅ぎ分けられそう?」

「うん、大丈夫!いけると思う!」

「おっけー!じゃあ、いったん街まで戻ったらジェイミには追跡をお願いするんだけど、いったん見つけたりしても臭いが急に途切れたなら、すぐにその場から逃げてね」

「どうして?臭い、途切れない筈だよ?」

「相手の認識から外れるのが隠遁スキルの効果なら、視覚だろうが嗅覚だろうが捉えられてても外れてしまってもおかしくないから」

「もしそうなら、私の種族特性でも見つけられないというか、見つけていても気付けない可能性が」

「うん、だから私もアイテム類に頼るの止めたの。常時発動範囲効果の隠遁スキル破りなんてのもあるかも知れないけど、それだとたぶん私の魔力MPが保たないし、違う相手のを破って、いらないトラブルに巻き込まれる可能性まであるからね」

「まぁ、それは確かにあり得ますね。では、ジェイミを買った理由は判りますが、私を買ったのは?」

「ラミアの種族特性は知らなかったとしても、蛇のは有名だから憶測はしてもらえるし、万が一気配探知スキル持ちだったらと勘ぐってもらえたら攻撃を控えてもらえるかも知れない」

「しかし隠遁状態で近づいてみて気付かれなければ、すぐにばれてしまうのでは?」

「そこは何とかするよ。出来ないと私が殺されるだけだし。あ、ジェイミ、この皮袋におしっこ貯めておいて」


 私は街の道具屋で買っておいた小さな皮袋を三つと銅貨を十枚くらいジェイミに渡した。


「標的に臭い付ける為?このお金は?」

「そうそう。でね、標的を見つけたら、あなた自身じゃなくて、街で物乞いしてる浮浪孤児みたいのに銅貨何枚か渡して狙わせてみて。相手が警戒してない時なら、そんなに難しく無い筈」

「わかった、やってみる」


 そして帰り道も早足で来た道を駆け抜け街まで到達し、ジェイミを追跡に送り出し、用事が済んだら宿屋まで戻るよう伝えた。もし見つかって追われたら、私の方へ戻ってくるようにも指示しておいた。

 そこまでやって、ようやくまた森へと戻っていき、倒した魔物から魔石を取り出したり、遭遇した魔物を倒したりしてまたレベルを1つ上げてから、暗くなり始める前に街へ戻り、宿屋で待機した。


 ジェイミが戻ってきたのは日が落ちてからだった。ご機嫌な様子から首尾が良かったのは察せたけど、ちゃんと訊いてあげた。


「どうだった、ジェイミ?」

「ほめてほめて!うまくいったよ!」

「うんうん、えらいえらい!えらい子は、こうだ!」


 私はジェイミの両頬に手を当ててわしゃわしゃとかき混ぜるように撫でてあげた。


「顔は見れた?」

「うん、ばっちり!乞食の子供達におしっこひっかけられた時は驚いてその場から消えちゃったけど、しばらくしたら離れた所からまた臭い辿れた。泊まってる宿屋も判ったよ!」

「大手柄だよ、ジェイミ!これでだいぶ動きやすくなった!相手もたぶんずっとは隠遁してないだろうから、臭いがある程度近づいてきてから消える筈」

「がんばる!」

「こちらから襲撃はかけないのですか?」

「相手の奥の手が何か分からないからね。陰宮に近寄られてないのが分かってる状態で、少しずつ力を付けて、差を詰めていく」


 ステータス画面の情報検索から、相手のレベルや所持メダル枚数まではわかるのだ。相手の隠遁スキルが通じやすいのも、当然、相手のレベルより高ければ高いほど、だろう。


 その晩の夕食は豪勢にした。もちろんジェイミへのご褒美だけど、体が小さい事もあって大した量を食べられないので豪勢といっても少額で済んでしまった 

 二人は交代で不寝番をしてくれる事にもなったので、おかげで私は安眠出来た。翌朝、まだ太陽が登り切る前くらいに起き、早い時間に朝食を済ませると、ジェイミには陰宮の宿屋との中間位置くらいをうろついて哨戒してもらい、自分の方に近づいてくるようだったら知らせにきてもらう事にした。自分の側にいてもらってても、気付いた時にはもう攻撃されてる可能性があったから。

 幸い、巨大な帝都のほぼ反対側に陰宮は滞在しているようだったから、ある程度こちら側をうろついても遭遇しにくい筈。あの日遭遇したのはたぶんいくつかの偶然が重なったのだろう。


 私はアガザンテにも5から10メートルくらい離れてついてきてもらった。相手が隠遁スキルを発動するなら、たぶんそれくらい近寄ってからかなって期待と、そうでなくても、彼女が私の連れだと発覚するのは遅れれば遅れるほど良かったから。

 私は最寄りに感じるメダル位置へと近づいていった。かなり近寄っても動く気配が無かったのは、眠っていたからだろう。はっきりと相手の位置を近く出来るくらいに接近して初めて、相手は動き始めた。相当慌てていたせいか、制服を着ただけで宿屋の正面入り口から走り出てきた。


――撃って。


 光線が彼女の頭頂から地面までを貫いた。まだ早朝という事もあり、人通りもまばらで誰にも気付かれなかった。少し離れた位置から、手振りとかもなく攻撃したから、私を見られてたとしても、私がやったとはばれなかっただろうけど。私はさりげなく近寄り、地面に残されたメダルと財布を回収し、また何気なく立ち去った。


 得たメダルは、臆病の神リゲルダの物で、その加護スキルは、臆病風。対象の戦意を喪失させて逃げ出させるという、ある意味強いんだけど、これだけしかなくて戦う手段を持ち合わせてないと厳しいかも知れなかった。戦う事を忌避してそうな女子が持ち合わせてくれてて助かった。こんなのを陰宮が持ってたら、戦う事すら許されずに殺されていただろう。


<私の加護スキルを5にしてみるんだ>


 イルキオに言われてみたので従ってみると、スキル上げの法則性が分かった。獲得枚数が5枚以上で、元々の神様の加護レベルを3以上に上げてみて初めて開示される情報だそうな。

 ステータス画面で検索してみて、現在の陰宮のメダル総数は22枚だった。霧の神の加護レベルを10まで上げた状態なら、隠遁スキルのレベルも10まで上げられる事になる。他にも有用なメダルがあるなら、レベルはある程度抑えられるにせよ、一つの目安にはなる。そして、彼のレベルは9だった。

 私の現在のメダル総数は6。レベルは5。メダル枚数で追いつくのは大変そうだし、レベルの方が楽かも知れないにしろそれなりの数をこなす必要はありそうだった。なので私は、コロシアムが始まる時間帯までにもう一つのメダルの反応を追い、雑踏の中を歩いているターゲットを見つけた。

 向こうもこちらを探してきょろきょろしていたけど、私がフードを深く被っていた事もあって特定までは出来なかったようなので、アガザンテの所まで引き返し、ターゲットの特徴を伝えて、追ってきた相手の気を一瞬引くように頼んだ。


 私が少し離れた事で、相手はメダルの反応を追って近づいてきたところをアガザンダは脇を通り過ぎつつたぶん足を引っかけた。いや彼女の場合は蛇の体の尾の部分で払ったとかなんだろうけど、相手は体勢を崩して転んだ。


――撃って。


 と頼んだ直後に彼の頭を光線が貫いていた。今度はそれなりに人がいて、その内の数人は彼が殺された光景を目の当たりにして、死体が消えていってちょっとした騒ぎになり、街の警備兵も呼ばれて死体が消えた辺りを調べてたけど当然何も分からず、財布は没収された上で彼らが引き上げていくと騒いでいた人々も散っていった。

 私はその後にしれっと歩み寄り、靴ひもを結び直す様なふりをしながら地面にかがんでメダルを拾うと、コロシアムへと向かった。


 やっぱり、人目に付く形で殺すのはリスクが高いなと認識させられた。お金が手に入らなかったのも地味に響くし。臆病の加護メダルを持ってた女子の財布の残金は金貨3枚以下だったし。

 新しく入手したメダルは、混沌の神アギラスの物だった。何か強そうだと思った通り、加護スキルは、レベル1で混乱。自分の周囲1メートルの範囲内にいる敵の意識を混乱させるというもので、レベルを上げると範囲と混乱の度合いを上げる事が出来るというもの。かなり使えそうだった。これはパッシブスキルの常時発動で、敵の対象設定にプレイヤーのみとか設定できる使い勝手の良さも持っていた。

 うん、たまたま策が当たったとはいえ、自分で近寄らないでおいて良かった。相手も、近寄りさえすれば勝ち目があると思ったから追ってきてくれたのだろう。

 加護レベル3で出てきた混濁というスキルは、発動されている相手スキルを妨害できるという優れ物だった。消費MP5で、5分間持続。混乱をレベル3で常時発動させておいて、相手がかかったら混濁を発動。これで勝ち目が出てきた、かな。


 その日の残りはコロシアムで稼いだ。金貨55枚。暗くなる前に宿屋に帰還。夕食の時間帯にジェイミも戻ってきて、部屋で食事。明日もほぼ同じ作戦で行くと伝えて就寝。この日は陰宮のメダルは増えてなかった。

 北大陸もだいぶ人数が少なくなってきてた。陰宮と倉橋が最初から目立ち過ぎてたせいで、帝都から逃げ出した人の大半は健在らしい。彼らをどう狩り出していくかも考えておかないといけないか。


 翌日も早朝からメダル探索。今度のは治安のあまりよろしくない区域へと踏み込んでいった。魔物のいる森にだって入り込んでるのだ。びびってる余裕なんて無かった。アガザンデには供だと分かるよう側を歩いてもらったけど。

 今日の相手は途中まで動いてなかったけど、たぶん後200メートルくらいってところで動き出した。私は早足で移動して距離を詰めていくと、相手も移動速度を早めたので、私も駆け足に移行した。スラム外の入り組んだ路地裏の追跡は、私の素早さの方が相手よりも上だったせいか距離は100、70、50メートルと詰まっていき、ついに逃げる相手の背中が見えた。


――撃って!


 相手の頭頂に光線が着弾し、つらぬかなかった。


「なんで?!」


 思わず叫びながらも何度か撃ってみてもやはり結果は変わらず。距離だけはだんだんと縮まっていた。


――向こうの加護スキルで何かされてるって事?


<おそらく。魔法攻撃無効では防げないからな>


――じゃあ、混乱を最大距離で発動させつつ、混濁でシトメてみよ!


<実戦で試してみる事は重要だな>

 

 私は全速力で駆け寄り、残り10メートルを切ると、逃げきれないとあきらめたのか、追ってた相手、振り返った顔を見て分かったけど、空手部にいた3年の男子の誰かだった。

 互いの距離が5メートルを切るくらいで私は停止。相手が腰脇に拳を溜めながら踏み込んできた所に混濁を発動。

 私の3メートル以内に踏み込んできた時には頭をふらつかせていたから、たぶん混乱が発動して効果を発揮していたんだと思う。続いて混濁が相手が常時発動していたのだろう何かのスキルを阻害した手応えを感じた。


 それでも放たれてきた正拳突きを体捌きでかわし、

「撃って!」

 という言葉と共に空から落ちてきた光の筋が相手の頭頂から地面までを貫いた。相手は地面に倒れ、動かなくなり、やがて死体になって消えていった。


「ふう、手こずったな」

「大丈夫ですか、ご主人様?」

「なんかむずかゆいから、きらり様でいいよ。考え事しながら歩くから、周囲の警戒をお願い」

「わかりました」


 今度のメダルは、収束の神イグゾスの物。その加護スキルは収束。相手の攻撃を自分の身に届く寸前で収束させて届かせないという反則チートなものだった。


――当たりだね。


<過信は禁物だが、私の加護スキルでさえ通じさせなかったのだから、ある程度信用できるものだろう>


 これでメダルは8枚目。この日の残りはずっとコロシアムで稼いだ。今日は金貨70枚近く。知見の神の加護スキルをほぼ全開にして、手堅く儲けた。

 夕方前には道具屋や薬屋や調味料店などをはしごしてから奴隷商に行き、ユーシスさんをお迎えした。私の奴隷になってもらった後で事情を説明。夕食時にジェイミも改めて紹介して、翌日の作戦を詰めていった。


 翌朝は日が登り切らない内から移動を開始。ジェイミとユーシスさんの後方100メートルくらいでついて行き、陰宮が泊まっている宿屋を遠目に視認した頃には日が登っていた。

 距離およそ200メートル。相手のメダルの反応は動いてなかったけど、ジェイミとユーシスさんが宿屋の正面入り口で配置につき、私が路地の建物の陰からこっそりと入り口を見張れる位置へと移動し、一時的に視力を上げる薬を使った辺りで動きがあった。メダルの反応が消えて、私は私の近くに控えてたアザガンテからジェイミに合図を送ってもらった。


 3分と待たずに宿屋の正面入口の扉が内側から勢いよく開けられたかと思うと、ユーシスさんが入口を出てすぐの石畳の道路に撒いてた油に足を取られて転んだ姿が唐突に現れた。それが陰宮だと視認した私は迷い無く光撃、しなかった。


「ばうっ!」

 ジェイミが彼の背後から吠えて振り返らせ、香辛料の袋を顔に投げつけた。すぐに再度隠遁しようとしてたかも知れないところを咳込ませて妨害。

 そのわずかな間に、私は太陽の光を収束。光の神の加護と収束の神の加護とをかけ合わせて太陽光を収束させ、油まみれになった陰宮の服に着火させた。


 火踊り。透明化なんてスキルがもしあったとして服まで透明にするだろうけど、彼自身を保護するスキルは基本的に彼自身の肉体まで。彼が持っている二十枚以上のメダルにはどんな物が含まれてるか知る術は無いから、うかつに近づけなかった。レベルや保持メダル枚数の差は、不意を突く事で崩し、精神の平静さを取り戻させない事で反撃も封じた。


 大声でわめきながら石畳の道路を転がり回る陰宮を私は光で貫き、とどめを刺した。私は焦らずに近寄っていき、ステータス画面の検索機能から陰宮が死亡状態になり、死体が消えた事も確認。地面に残っていた財布などはジェイミ達に拾っておいてもらった。

 宿屋の人も外に出てきたけど、何も無い事でなんだったんだと戻っていった。まだ薄暗い路地で油が撒かれてたとか判別できないし、火は二人に消してもらってあったから。

 私は22枚のメダルを拾い上げ、道路を洗浄して痕跡を消してから、自分の宿屋へと戻った。早朝に出ていた出店でいろんな食べ物を買いあさり、部屋で三人を労った。


「みんな、ありがとう!これでだいぶ楽になれるよ!」

「おめでとう、ご主人様!」

「おめでとー!」

「・・・おめでとうございます」


 ユーシスさんは、嫌々言ってるのがはっきり伝わってきた。本来なら、彼女自身にとどめを刺してもらうプランもあったけど、間接的にしろ人殺しの手伝いをさせられたのが不満なようだった。


「ユーシスさん、傭兵だったんだよね?」

「さんはいらないですよ、ご主人様」

「どうして傭兵になったの?」

「生きる為です」

「それにしては戦う事を忌避してない?」

「・・・いろいろあったんです」

「戦場で?」

「はい。どうせ次の質問は、どうして奴隷になったのか、ですよね?」

「そうだね。教えて」

「助けたい人を助ける為に、です」

「恋人とか、もしくは家族?」

「家族です。結局助けられませんでしたけど」

「そう。私の戦いはまだ続いていくから、私の事は助けてね」

「努力はします」

「隠遁スキル持ちとか、私と相性が悪い相手はまだいるだろうから、気配察知スキル持ってるユーシスさんの事は頼らせてもらうからね」

「努力はします」


 いろんな肉の串焼きやパイみたいな包み焼き、お菓子や飲み物を取りそろえ、ジャンクパーティーな感じでみんなには好きな物を摘んでもらった。

 私も時折摘みながら、光の神の加護をレベル10、混沌の神の加護も10にして混乱は常時発生させながら、新たに獲得した神の加護メダルの内容を確認していった。

 先ず霧の神ファゴの加護、霧。レベルを上げる毎に、より広範囲により濃い霧を発生させられる。うん、私が使うとしたら、どうにもしようが無くなって逃げる時くらい、かな。

 残り21枚のメダルの中で他に目を引いた使えそうなのは、6、7枚。


 不運:自分か相手に不運を押しつける事が出来る。自分に溜まり続けた不運も相手に押しつける事が出来る。ただし押しつけるには相手に触れないといけない。


 剛力:自分の力強さをレベルx10%分上昇させる。レベル10なら100%で2倍になる。微妙ぽいけど、レベル100なら10倍になると考えれば強い。光が通じない相手に遭遇したら利用を考えよう。物理攻撃しか通じない相手とかね。


 逡巡:相手に次の行動を迷わせる事が出来る。レベル数分、相手に次の行動を躊躇させられるのなら、使えなくもなさそう。ずっと私のターン!みたいな。


 遠見:遠く離れた場所を見る事が出来る。具体的には100キロ以上離れてないとダメで使いどころが難しい。レベルを1上げる毎にさらに100キロ先まで見える距離が伸びていく。レベル100で1万キロ?自分なら使いこなせるかも。


 傲慢:相手のレベルが自分より低い場合、レベル差分の%自分のステータスを増大させ、相手のステータスを減少させる。相手のレベルが自分より高い場合、逆の効果がもたらされる。

 これ、危なかった。まだレベル差が5未満だったから誤差みたいな物だったけど、レベル差が数十ついてたらそれだけで勝負がつきかねない。やはり接近戦とかを挑もうとしないで正解だった。この加護を有効化してたかどうかは知らないけど。ただ、相手の方が明らかにレベルが高い場合は役立たずになるメダルだった。


 飛行:MP1を消費して1分感飛行可能。レベル数分の速さ、1につき秒速1メートルで飛べる。魔力MPが続く限り上にも飛んでいけるぽい。夢は大きいけど、これ、相当MP無いときつくない?10メートルの高さでも、相手が地面にいると考えればいろいろ出来る事は増えるし、逃げやすくもなるだろうけど。これを陰宮に使われなくて本当に良かった。いざとなれば飛べるのは、大きい。レベル10でも秒速10メートル、10秒で100メートル、100秒で1キロ、1000秒で10キロか。遅くは無いのだろう。。


 乾燥:洗濯物とかを乾かすのに大活躍しそう!人体に使うと大変な事になりそうだね!軽くホラー!あ、でも髪洗って乾かす時に使えたら便利そうだな。試してみる価値はあり。



 レギュラーとして活躍しそうなのは、傲慢とか遠見くらい?他のも組み合わせれば使い道が増えそうなのもあったので、いろいろ試していくべきだった。

 陰宮のお財布には金貨150枚ほどが入ってたので現金収入としても大きかった。明日からはレベル上げをして傲慢をより活かせるようにしようかなと考えながら、全体掲示板や北大陸掲示板とかをチェック。獲得メダル枚数トップが、陰宮から私に替わった事で、大きな騒ぎが起きてた。ま、残らず狩っていくだけなんだけどね。

 寝る前頃になって、倉橋からメッセージが着た。二日後に次の試合が決まった。今度は最終のメインの試合になったから、また自分の持ち分の金の全額を賭けて欲しいって言われて、分かったとだけ返した。陰宮を狩った事に関しては何も言われなかったし言わなかった。もう、いつ狩るかってだけの問題だし。


 光魔法にも変化があった。レベル1でヒール、レベル3で毒とか麻痺とかを治せるキュア、レベル7でミディアム・ヒール、レベル10でフォトン・レイ。

 フォトン・レイは太陽光線と似たような感じの攻撃魔法だけど、違いは夜でも使える事で、光の加護を持つ私は消費MP量に応じてその威力や射程なんかも調節できるのが便利そうだった。ただ、射程は伸ばせても100メートルくらいで、威力も木や石壁なら貫けても鉄板とかは無理そうだった。ものすごーく時間をかけてじりじりと焼き切るとかは出来るかもだけど、そんな事をしようとしてる間に攻撃されるか逃げられてるだろうし。


 二日後の倉橋の試合までにメダルと経験値とお金のどれを稼ぐか。お金は後回しで良かった。メダルか経験値かで言えば、倉橋の3倍以上のメダルを獲得した今、無理してこれ以上増やす必要は無い。ただし、自分のメダル反応を隠したり、もしくは相手に気付かれずに近寄れる手段が無いと厳しそう。遠見の加護スキルはかなり離れないと使えないけど、今はそれだけ離れてまた戻ってくるまでの時間がもったいない。それに、どこかの宿屋の部屋にいる相手を始末出来たとしても、どういう理由付けてそこに入るかとかも悩ましかった。


 そんな訳で、私は明日の夕方までは経験値を稼ぎ、手持ちの魔石も増やしておく事にした。冒険者として登録しておくと、魔物を倒す事で報酬を得られるとも掲示板に書かれてたけど、お金には今余り困ってなかったし、明後日になればまた臨時収入が手に入る当てもあったから。

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