エピソード:30 光川きらりの場合 その2
3枚目に入手したメダルは鈍重だった。側に寄って来られたら、いきなり体の重さが二倍くらいになって、当然動きも鈍ったところに、にたにたうひひ~これからお楽しみタイムだぜー!みたいに近寄ってきたので、脳天ぶち抜いてやった。
メダルは2枚残った。鈍重、これがさっき食らった奴だろう。加護レベルで、範囲か相手の鈍重さを増せるらしい。私が遠隔攻撃手段持ってなかったらヤバイ相手だった。
残りの1枚は、清潔。スキルは洗浄。対象の汚れを落とせる。ラッキーじゃん!これ超イイ!
最初の一人を倒してレベルは2に上がったのが、3に上がった。金貨も15枚持ってたので頂いておいた。私は非力過ぎるので最初も力強さに1入れて、今回も1入れた。これでようやくまともに剣を振り回せる感じになった。
洗浄はやっぱり当たりスキルだった。お風呂に入れないって精神的にすごいストレスだったし。洗面器にお湯入れてタオル貸してもらうってサービスが有料であったけど、全然満足出来なかったしね。
でも普段は有効化しておく必要は無いので、合計5枚になったメダルでいろいろ試してたら、知見をレベル4にすると「見稽古」という加護スキルが出てきた。人の動作とかを見て真似て修得出来るようにするらしい!いいじゃんコレ!
<確かに有用だが、鈍重はとっさに何かあった時の為に有効化しておいた方がいいぞ>
――それはそうだけど、そしたらもう一枚メダル稼いでおく?
<いや、まだメダル枚数は抑えておいた方がいい。メダル枚数を増やせば増やすほど、他のプレイヤーから感知され易くなる。そして北大陸でも全体でもトップにいる相手は、おそらく君と相性が良くない>
あー。あいつかとため息をついた。
影が薄い陰キャで逆に印象に残ってた。別クラスにいたけど、クラスぐるみくらいでいじめられてると噂を聞いた事もあった。それで特に何をしようと思い立った事も無かったけど。北大陸掲示板の情報だと、彼を共有資産として囲い込もうとしたクラスメイト達が逆に狩られたんだそうな。自業自得って奴だね。
私は翌日もコロシアムに行き、観戦してる間は見稽古を使って、帰ったら部屋の中で復習した。賭けの方は、意図的に勝率五分五分くらいにして、あいつ儲けてやがるって雰囲気は出さないように注意した。しばらくはとんとんくらいで良かったしね。
倉橋からは翌日に試合があるから賭けろってメッセージが来た。どうやら2ー3日に一度試合が組まれるようになったらしい。空いてる日はどうしてるって聞いてみたら、街や街の外をぶらついてるらしい。そんで誰か襲ってきたら返り討ちにしてるそうな。(街の外なら魔物も含む)
陰宮を狩るつもりがあるのか訊いてみたけど、襲ってくれば返り討ちにするそうな。倉橋にとって陰宮は相性が悪くないらしい。ふむ、そうするとやはり私は倉橋はしばしキープしておいた方が良さそうだった。
翌日の五日目。倉橋は昼食休憩後くらいの、目立つ時間帯にカードが組まれてた。でも、相手は結構なベテランらしく、オッズは5対1くらい。私は、倉橋から預かった50枚と、私自身の手持ちから50枚賭ける事にした。こないだの勝ち金の半分くらいだね。
今日の倉橋の相手は、ザジンという盗賊風の男。徒手にも見えたけど、腰裏に短刀二本差してて、どちらでもいけるようだった。
対する倉橋は、革のつなぎの上下みたいな格好に、肘から手首にかけての部分には金属板の補強が入ってた。あれで剣の攻撃を受け流すのかなとか想像できた。
試合開始前に司会がまた観衆を盛り立てた。
「さあ、今日のイベント試合の一つだ!デビュー戦で雷光のジンガをぼこって倒した新人自由闘士ジョー!第二戦は双刀のザジン!徒手でも武器でもいけるベテラン戦士だ!オッズは五対一!さあ、大番狂わせの再現なるか!?」
こないだよりは倉橋の表情に余裕は無かった。弱気になってるってよりは、より楽しめそうだとか思ってるんだろう。ザジンも倉橋にびびってる様子は無い。素手でしゅっしゅとシャドー?してる拳とか回し蹴りの鋭さは、私なら瞬きする間に殺されてそうだった。
そして試合開始の掛け声と共に双方が前進。相手に手が届く範囲に入る前に倉橋が放ったローキックは、相手の体捌きでかわされ、反撃の裏拳が飛んできた。
倉橋は左手で相手の肘を跳ね上げつつ踏み込み、右拳を相手の横腹に叩き込もうとした。ザジンは体を半回転させる事で拳をかすらせる程度で済ませて右肘を倉橋の後頭部に打ち込んできた。
倉橋は相手に密着する事で肘を回避。くるくると回転する相手の胴体を服ごと
ザジンは体を捻りつつ頭部より先に両手を地面についてダメージを回避。そのまま倉橋の抱擁からも脱していったん距離を取った。
息詰まる展開が一息ついたところで、コロシアムの熱気と歓声が一段階上がった。
「両者譲らず!しかし、ザジンはまだ武器を使っていない!ここからどうなる?」
と司会が仕事した通り、ザジンは何かを倉橋に語りつつ、腰裏の双刀を鞘から抜いた。
悪いが使わせてもらうぜ?
気にするな、使え。
たぶんそんな頭悪そうな会話なのは想像ついた。
ザジンの回転力に双刀の切断力とリーチが加わった。カンフー映画とかに出てくるのと迫力が違った。スローかからないから目に留まらないし、殺気で歓声が黙らされていく。倉橋はうれしそうに笑ってたけど、バトルジャンキー以上なんだろうね。膝故障して現役引退させられて悔しくて、思ってもなかった復帰の機会にわくわくして止まらないのだろう。命を賭けて戦える事が。
竜巻の様な刃の乱舞を、倉橋は丁寧にかわし続けた。腕に巻いた鉄板を使って刃先をずらすよりは、相手が剣を握る手や指を狙って細かな攻撃を繰り出してるみたいだった。その接触で出来た間隙に体を滑り込ませて傷を負うのを避けていた。
確かに、こんな闘いが出来る人が、素人高校生とかぼこっても満足できるわけは無いな、てのは想像出来た。
ザジンはさらに回転速度を上げつつフェイントやディレイも織り交ぜてたけど、倉橋は冷静に対応し続けた。攻め
手よりも受けるのが難しいせいか、倉橋は下がりながら避け始め、ザジンは追撃。二人はじりじりと壁際へと近付いていった。
そしていよいよ倉橋の背中が壁について下がれなくなった時、ザジンは左右から倉橋の両足へと双刀を振り下ろし、た所で急に刃先を上へと切り上げた。というか超近距離で手を放して投げつけ、上着の中にでも仕込んでいたのだろう別のナイフ2本を引き出して、倉橋の心臓と喉に突き込んだ。
かわせない。両足が切られてもかわせなくてお終い。そこから急に軌跡が変わった短刀二本の攻撃を受けても大ダメージ。さらに至近距離での急所二カ所への同時攻撃。必殺の連携だし、自分ならここまでに何度殺されてたかわからないくらいだった。(もちろん太陽光線で撃ち抜けなかったか使えない場合だ)
でも、倉橋はあきらめてなかった。放たれた短刀二本の刃を左右の手の指二本ずつの間に挟んで受け止め、さらにその短刀二本の刃でナイフ二本による攻撃を跳ね返した。
「いい勝負だった。じゃあな」
そんな一言を倉橋が言ったような気がした。
倉橋は短刀二本でザジンの手首の内側を切りつけてナイフを取り落とさせてから、ザジンの上半身をX字に切り裂き、勝負を決着させた。
ザジンは出血こそすごかったものの、医療班みたいのがすぐに駆けつけてたから、命は取り留めそうだった。魔法もあるしね。
「勝者、ジョーっ!こいつの実力は間違いない!」
うぉぉぉぉーっ!て大歓声がコロシアムを覆って、興奮した観客の足踏みが建物を揺るがした。見稽古でずっと観戦してたけど、これはさすがに真似できるようになるまでかなりの修行が必要そうだった。
私は、いったん休憩に倉橋が引っ込んでまた出てくるだろうくらいのタイミングを狙って賭け札を現金化。またがっぽりと稼がせてもらった。
50枚の5倍は250枚だ。さすがに普段持ち歩くには重すぎる大金をどうしようかと思ったら、窓口の人達の間の少しお偉いさん?マネージャーみたいな人に個室に呼ばれ、コロシアム内と、提携してる飲食店や宿屋や商店などで使えるキャッシュカードみたいのに現金を貯めておけるがどうするかと訊いてきた。
盗難防止の為に、カードには血を垂らして、声も記録する事で、他人には使えなくなるんだって。今後は、このカードを使って賭けも出来るし配当も受け取れるし、カードを使える人だけが入れる所で観戦もさせてもらえるそうだ。VIP席みたいな物だろう。カードからの全額引き出しもいつでも出来るみたいだけど、紛失した場合は基本的に自己責任。ただまぁそれだと大量に預金した状態でコロシアム側の誰かに奪われたりするって懸念は発生するよねって事で、金貨百枚払えば再発行はしてもらえるそうな。預金保護措置があるのはいいね!
私はイルキオにも一応相談した上で、サービスを利用する事に決めた。倉橋にもメッセージで説明しておいた。
今回の払い戻し金は、金貨250x2の500枚+元々の賭け金50枚x2の計600枚。私はその内50枚だけ現金で戻してもらい、後で倉橋と合流した時にその半分だけ渡した。
「カードを作成する時に血とか声とかを登録する必要があったから、私のしか作らなかったから。入り用になったら言って。ふつうに下ろせるらしいし」
「わかった。とりあえずはこの25枚で当面は大丈夫だ。今回の勝利でだいぶ評価も上がったらしいから、次は三日後か四日後になるようだ。次もまた頼む」
「全額、センセに賭ける、でいいんだよね?」
「俺の分はな。お前の分は好きにしろ」
そのまま倉橋はどっかに行きそうだったので、一つ気になってた事を訊いてみた。
「あのさ、さっきの闘いすごかったけど、加護スキルは何か使ってたの?」
「俺に加護を与えてくれてる格闘の神のだけだ。格闘に必要な能力の全般が向上する」
「ふーん。他の神様とかのは使わないの?何枚かは便利なのはあるんじゃない?」
「あると言えばあるが、使わないでも勝てる相手に使う必要は無かろう。じゃあな」
「じゃあね。さっきの闘い、本当にすごかったよ。
倉橋はちょっと面食らったような、照れたような表情を浮かべて、ありがとうとつぶやいてから、そそくさとその場から去って行った。
私はその日の昼下がりまではコロシアムで過ごしてから、午後は街の外に出てみる事にした。魔物をちょっとでも狩ってレベルを上げておこうと思ったのと、見稽古で見た事を練習するには、さすがに宿の狭い部屋では無理があったからだ
メダル持ちが寄ってきたら狩ればいいしね。
カードが使える武器防具屋をコロシアムで教えてもらって、その店で軽い革の鎧を買った。お値段は金貨50枚。制服の十倍って事はそれなりのお値打ち品らしく、ナイフの刺突とかなら防げるらしい。気休めくらいにはなるだろう。
背負い袋も買い、初心者用の狩り場も教えてもらった。
そこまでの徒歩三十分はわくわくしながら歩いた。剣を素振りしながら歩くのは不審者過ぎるので、ちょっとジョギング気味に小走りで教えてもらった狩り場へ到着。人目につかない方へと歩きながら、コロシアムで見た中で使えそうな動きを再現(トレース)して、体に覚えさせていった。
基本の、剣の振り上げから振り下ろし。さらに体全体を使った振り回しというか横薙ぎ攻撃。体捌きで相手の攻撃をかわしながらの突き込み。そして牽制を兼ねた相手の足への切り下げ。この4つを順不同に繰り返しながら森の奥へと進んでいくと、イルキオから警告を受けた。
気が付いたら、前方にいるゴブリン2匹が、左右から私を攻撃しようとしてきていた。
<危なくなったら、撃ち抜くからな>
――手出しするのは、危なくなったらでお願いね!
私は右手の方から近寄ってきてる方へとダッシュ。振りかぶって頭へと切り落とすと見せかけて、足へと切り下げた。相手がびびって飛び退いたから足へはかすり傷くらいだったけど、これでいい。
私は地面に打ち下ろされた剣を半回転させて後背へと振り回した。ビンゴ!と言いたくなる手応えがあって、私を挟み撃ちにしようとしたゴブリンの体の半ばにまで剣が食い込んでいた。
仲間を倒されたゴブリンは逃げるか戦うかを迷ったけど、剣が食い込んだままなのを見て戦う事を決断。私も剣はすぐ抜けそうになかったから、剣から手を放して、今度は裏拳を放ってみた。
ゴブリンは余裕を持ってしゃがんで回避。私はさらに体を半回転させて肘をゴブリンの頭に打ち下ろした。
今度はクリーンヒットした。やった!
脳天に痛撃をもらってうずくまったゴブリンの頸椎に、私は蹴りを放ってみた。文字通り見よう見真似な一撃だったけど、ゴブリンには十分な追い打ちになったらしい。
地べたにのびたゴブリンに追撃の蹴りを放って動かなくなってから、頭部を光で撃ち抜いてトドメを刺しておいた。
<そうだ。死んだふりをして逆襲の機会を狙う者達もいる。戦うなら、相手が死ぬまで気を緩めるな>
――そだね。まともにとっくみあいになれば、あのゴブリンにだって負けてた可能性はあったし。
私はさっき剣を食い込ませたままのゴブリンから剣を抜くついでに、魔石の取り方を教えてもらった。グロくてやりたくは無かったけど、MPを補充できる物として、なるべく確保するようイルキオに言われたから仕方無く。洗浄スキルが無かったら買って済ませようとしただろう。ていうか、帰りに買っておこう!
私はまた見稽古の
レベルが上がって4になった。ステータスポイントは力強さか器用さか素早さに振ろうと思ったけど、知性に振っておけとイルキオに言われた。
<光が通じない相手や環境で戦う時の為に、鈍重や振動も実戦で試しておけ。その為にはMP量が絶対的な生命線になるから>
それもそうだと納得し、知性に振って、私のステータスはこんな感じになった。
名前:光川きらり
レベル:4
生命力:4
力強さ:5
器用さ:4
素早さ:3
知性:5(+1)
HP:40/40
MP:50/48
MPが減ってるのは、一回MP1の洗浄を2回使ったから。
私は見稽古の内容を
その途中、3匹のゴブリン、うち一匹は他のと違って成人男性くらいの体格してたけど、と出会い、戦う事にした。
――いざとなれば、撃てるよね?
<ああ、このくらいならば>
――おっけー!いくよ!
私はゴブリン達の方へ駆け寄り、向こうもこちらに気付いた時にスキル:振動を発動!周囲3メートルの地面が揺らいでゴブリン達は立っていられなくなって、
「うわっ!?」
という声が背後から聞こえた。
私はもう動き出してたので、予め決めてた通り鈍重を大ゴブに使い、倒れたそいつの首にざっくりと切りつけてから振り返ると、地面に倒れてた誰か、いや、知ってる顔を見つけて、ぞっとした。メダル獲得枚数トップの陰宮だった。目が合った途端、見えている筈なのに、すーっとその姿が意識の中から薄れていった。
――撃って!
意識するのとほぼ同時に光線が上空から放たれたけど、視界が霧で埋まる方が先で、命中した様な声とかの反応も無かった。
<逃げろ!振動のレベルを上げて切らすな!>
私は素直に従った。振動のレベルを4にまで上げて、ただひたすらに直線的に走り続けて、何度もつまずいたり木にぶつかったりしたけど、背後から攻撃される事は無く、5分後くらいには霧の中から抜け出した。
――メダルの反応が無いってどういう事!?
<隠遁のスキルだろうな。霧の神の加護と併せて、君にはほぼ天敵だと言える>
心臓は痛いほどにドコドコと鼓動していた。私は何度か深呼吸してから太陽の方角を確かめ、急ぎ足で街の方角へと戻っていった。その途中で遭遇したゴブは光で撃ち抜いて魔石は放置。二匹目でレベルが5に上がり、素早さにステータスを割り振って、少しは足が早くなった。
振動は森を抜けるまではなるべく維持して、その後は思い出したように時々発動したけど、追ってきてないようだった。街に帰り着き、宿屋の扉を閉めて閂をかけてようやく安心できた。
<振動が無かったら、やられてたな>
――だね。偶然にしろ、めちゃ助かった。ていうか、隠遁て姿を隠すだけじゃなくて、メダルの反応まで消せるとか、すごい有利じゃん。向こうはこっちを感じ取れるんなら、一方的にやられちゃうよね
<対策が必要だろうな。手っ取り早いのは、倉橋という男に助力を求める事だが>
――ダメ。ここで頼ったら後で殺しにくくなるし、メダルの枚数でも追いつけなくなりそうだから
<じゃあ、他のを狩っていくしかないな。その間も狙われて狩られる可能性はあるが>
ここが、運命の別れ道だと感じた。ずっと宿屋に籠もってられないし、他の誰かにも頼れない。でも、出来る事は残っている。諦めるにはまだまだ早い。私はその夜も部屋の中で素振りや筋トレなどをこなしてから早めに寝た。
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