エピソード:29 光川きらりの場合 その1
私は正直、自分で言うのもなんだけど、カワイイと思う。人によっては美人だともはっきり言ってくれる。円城高校の五強が男子のランキングなら、
いわゆる地方アイドルみたいな事もしてるけど、言葉の響きがあんまり好きじゃない。まだネットアイドルとかのがマシな気もする。親はそれなりにカワイイ私を真剣に芸能界に入れようとした時期もあったけど、止めておいてもらった。なんでかって?夢は大きくハリウッドスター!とかぶちあげられて、わーい私がんばるー!とか言えるのは小学校低学年くらいまでだろう。いやその手前で私は無理だろうなと諦めはつけたけど。
そんな中途半端な、自分でもどうしよっかなこれからとか思ってた時に降って湧いたのが、異世界への集団拉致とデスゲームだった。
誰かを殺すとかマジ無理だとか思ってたけど、やれば出来るよ君なら!と猛プッシュしてくれたのが、光の神様だった。いや、フツーなら、こんなデスゲームとか真っ先に止めてしかるべき存在じゃないの?とか、勉強がそんなに得意で無く読書なんてのもほとんどしない私ですら思ったさ。
まー、そこはいろんなむずかしー事情があれこれあるんだって。それに、君、言うほど誰かを手にかける事に忌避感無いでしょ?って言われて、まぁそうかもねと思わないでもなかった。
だってさ。民主主義ーとか、命を大事にーとか、人々はみな平等ーとか言いながら、やってる事は正反対なの、めっちゃありふれてたよね?痴漢なんて日常一つ取っても、なんであんな加害者保護に熱心なのかわけわからんかった。被害を受けた奴が悪いって世の中だよね。だったら、おまえ等死んでも構わんよね?とは思ってた。やらんかったけど。でもさ、こういう風になっちゃったら、仕方無いよね?と思っている自分がいたのも確かだった。
抽選会場で取ったのは、光魔法。光の神様の加護を受けてる私ならそれ一択しか無いって。
んで、誰かとつるんだ方がいい?て訊いたらいらないって言われた。どうせみんな邪魔になるし、狩る対象にしかならないからって。まぁ、それもそっかと納得した。
大神の一人って言われるだけあって、その加護スキルは、光の操作って激ツヨなスキルだった。昼間で太陽が出ている時なら、負ける事は無いって、すごい自信だった。夜でも気をつければ何とかなるって。
抽選会場から北の帝都を選んだのは、たぶんそこが一番目立たずにメダルを稼げると言われたから。
帝都に転移して、ほんの少しすると剣を手にした男子生徒がやってきた。
「うっほーー!俺めっちゃついてる!光川きらりじゃん!お前、助かりたかったら、俺の物になれよ!なっ、悪い取引じゃないだろ?死なないで済むんだからさ!」
同じ二年の隣のクラスにでもいたかなーというくらいの、名前は知らない奴だったけど、私をいやらしい目で見てくる有象無象の一人だった。
「きも」
正直な反応がつい出てしまった。
「お前っ!言われた方が傷付くんだってわかってないのかよ!男だって心があるんだぞ!かわいいからって全部思い通りに行くだなんて思ってるんじゃねーぞ!そうだ、もう日本じゃないんだから、我慢する必要なんて無ぇーんだよな!うへへっ、異世界転移万歳だぜ」
「死ねばいいのに」
これまた正直な反応だった。
「お前、死にたいのかよ?いいぜ、死ぬ前にたっぷりと楽しんでから、死にたいって言っても殺してやらずにずっと俺の性奴隷として囲ってやるぜ!」
――イルキオ、こいつ、
<やり方は覚えておくんだな。太陽の光を集約して標的を撃ち抜くだけ。魔法ではないから、魔法攻撃無効のスキル持ちでも撃ち抜ける。ただし太陽が出ていないと基本的に使えないし、君はどちらかと言えば戦闘向きではないから、序盤は目立ちすぎないよう気を付ける事だ>
――わかったから、お手本見せて。
<君からの合図を決めておこうか、きらり。天を指さし、次に標的を指して、撃ち抜け、と言葉にするなり思ってくれればいい>
私は掴まれかけてた右手を引き、天を指した。
「あぁ、何やってんだお前?」
私は右手を振り下げて、男の顔を指して告げた。
「撃ち抜け」
太陽からの直線ではなかった。名前も覚えてない覚える価値も無い奴の頭の上から光が貫いたと思ったら、そいつは目をぐりんと白目にしてその場に倒れ込み、ぴくぴくと震えながら死体になり消えていった。
「マジッ?やばくない!?」
<言っただろう?昼間の太陽の下で、君が負ける事はほぼあり得ない>
――そうじゃなければ、それなりに気を付けないといけない、だったね。日本でも、夜はもっと危なかったしね。こんな力も無かったし。あーあ、向こうでもこんな力使えたら、おもしろいくらいクズをたくさん殺せたのに。
<勝ち残ればいい。勝ち残って力を持ったまま帰還する事を望み、実現すればいいだけだ>
――マジで?それテンション超爆上げなんだけど!?
<とりあえずこの場は、拾える物は拾って移動するんだ。それに着る物は換えておいた方がいい。今着ている服装は目立ち過ぎる>
――あー、それはそうだね。これもいいお金になる?
<ちゃんとした店に売り込めばね>
そいつはすでに他の誰か一人を狩ってたみたいで、お金はまだ手つかずの金貨二十枚を持っていた。ラッキー!剣を選ぶって賭けではあったろうけど、スキルだの魔法だのよりは手っ取り早い強化方法だしね。
私はメダル二枚と、剣も頂いてからその場を離れた。幸い、お巡りさん的な人に通報される事も追い回される事も無かった。たまたまだろうけど、特に誰かに目撃もされていなかったらしい。これからは気を付けないと。
私は街の繁華街みたいな方へと流れていって、いくつかの洋服屋を巡り、厚手のローブを買い、制服は売った。金貨五枚になった。うーん、定価くらい?金銭的な余裕はあったので、特に粘る事はせず、その代わりに、女一人で泊まってても安全な宿屋さんを女性店員に教えてもらった。うん。こーいうのは同性しか頼れないしね!
一日二食付きの個室で、銀貨六枚。人口がめちゃ多いこの帝都では、かなり良心的なお値段なんだろうけど、金策は何か見つけないといけなそうだった。他の
最初に得たメダル二枚は、振動と知見の神様。
振動の加護スキル:振動は、自分を中心とした半径3メートルの範囲を揺らせるらしい。レベルを上げればその範囲を広げて振動をより強く出来るんだって。もちろん、自分自身はその振動の影響は受けない。
――これ、有効化しておいた方がいい?
<さして強くもないが、特に素早くも無い君が誰かから逃げる必要がある時の手助けくらいにはなってくれるだろう>
――わかった。もう片方のは?
<知見。鑑定スキルに近い使い方を出来る。見た物の性質や価値などをおおよそ正しく知る事が出来る>
――んー、じゃあ、この加護スキルを使って、商売めいた事は出来る?
<やろうと思えば出来るだろうが、出来たとしても小銭稼ぎくらいだ>
――お金が目減りする速度を落とせればとりあえずはいいよ。
私は、他のメダルの反応にはなるべく近寄らないようにしながら、いろんな物を知見の加護スキル:比見で見ながら、強さとか金額といった物が見て取れないか試してみた。
そこで気が付いたのだけど、二つの物を見比べた時に、どちらの方が高いのか安いのかというか、より価値があるのか無いのかが、何となくだけど分かった。他にも誰かを見た時に、自分より強いか弱いかとか、二人を見た時にどちらの方が強そうか弱そうかとかも何となくだけど分かった。
これを何かに活かせないかなーと思いながら街をぶらついていると、何やら大きな建造物が見えてきて、そこから大きな歓声が上がっていた。
「何かの競技場?」
<コロシアムだな。戦奴達が戦い、その勝敗に観客が金を賭けているのだろう。行ってみるのか?>
――周りにたくさん人がいるなら、そこで仕掛けてくるバカもたぶんいないだろうし。小銭稼ぎをしながら、誰か近寄ってきたら適度に狩るとかでどう?
<節度は守るのだぞ?>
――わかってる。一文無しになったら大変だもんね!
そこは、アメリカの映画とかで時々出てくる闘技場そのままだった。ただ、とてもでかい。五万人くらいは軽く入りそうな観客席から見下ろされる位置に、野球のグラウンドなら入りそうな大きさの戦うスペースが用意されていた。
私は適当に歩きながら、どこで賭ける対象を選んで賭け金を払い、当たった時にどうやって支払いを受け取るのかなどを見て回った。
ふむふむ、この掲示板みたいなので、出場者の名前と戦績が表示されて、両者の
私はコロシアムの適当な空き席に座って、ただ眺め続けた。たいていの戦闘は、魔法無しだったけど、どう見ても人間技とは思えない動きとかは、スキルとかいうのを使ってるのだろう。そういえば抽選場にも身体強化とかってのあったな。
だいたい30分に一組くらいが戦っていた。戦闘は短ければ一瞬で終わる事もあったけど、どちらも命がかかってるせいか慎重に戦う戦士も多く、十五分近く戦うのも少なくなかった。私は、掲示板で見た名前と戦績とオッズと、知見で見た時の強弱の差や、実際の勝負の結果に知見で見た強い方が勝ち残ったかなどをなるべく覚えるようにして、夕方近くまで見てから宿に帰った。
強くなるまでは警戒を緩めるなとイルキオはくどいほど繰り返した。
夜間に身を守る方法も教えてもらった。加護レベル3にすると使えるスキル、ライト。光を放つだけなんだけど、えーと、カメラのフラッシュあるじゃん?あれの何倍かの強さなの。そんなのを目の前でまともに食らったら、本当の意味での目潰しになるよね。
何かのアニメで、閃光の目潰しを食らって目が~目が~って状態になったら、剣でとどめを刺せばいい、って、寝るまでのしばらくの間は素振りをさせられた。
まぁ死にたくないし、適度な運動は体の緩みを防いでくれるしね!
ステータス画面で初日の動きを追うと、知り合いが何人も死んでた。これからもっと死んでいくんだろうなとしか思えなかった。メッセージも十通以上来てたけど、見るだけ見て返事は返さなかった。
男子からのはたいてい、どこにいるの?自分はどこそこにいるんだけど、合流できれば守ってあげるよ系だった。女子からのは、不安だから一緒に戦おうよ!系で、やっぱり無視するしかなかった。どうせ全員殺すしか無いんだしね。
北大陸掲示板は、まぁ他のもだいたいそうだったけど、助けを求める声が半分くらい、どうしてこんな事にって呪詛がもう半分くらいで、これからどうすればいいって前向きな情報公開してるようなのはほとんどいなかった。そりゃ、これから殺し合っていく仲だしね。
翌日からも闘技場に通いながら、ぽつぽつと賭け始めてみた。勝率は、だいたい半分よりははっきりと上くらい。収支はとんとん以上になったから上出来だった。
三日目からは、六、七割くらいの勝率になった。所持金も、宿代や食費なんかを消費しても増え始めていた。
ただ、三日目の途中、予想外の選手が出てきた。強いメダルの反応があるけど、こっちに近寄ってくるでもないから静観してたんだけど、体育教師の倉橋だった。初日に7人を殺したとかで話題になってた。向こうもこっちのメダルの反応を感じてかきょろきょろしてたけど、ローブのフードを深く被って目を合わせないようにしてたら、探すのを止めたらしい。
奴隷戦士ではなく、自由闘士ってのに、倉橋はなったらしい。デスゲームの最中に何やってんだか。まぁ元々格闘家だったらしいから、その血が疼いたんだろうけど。
コロシアムのアナウンサーが告げた。
「さあ、こいつは今日初顔見せの新人だ!徒手の自由闘士、ジョー!対するは、十一人をすでに殺してる魔法使いの雷光のジンガ!賭け率は10対1だ。しばらく待つから賭けたい奴は賭けるんだな」
私は、倉橋が落ち着いた様子なのを見て、たぶん勝ち目があるんだろうと踏んで、金貨十枚を賭けてみる事にした。若干オッズが落ちても、それなりに貰えるだろうし、十枚なら全財産の1/3未満だしね。減ってきたらまた誰かを一人か二人狩れば穴埋めも出来るだろうと踏んだ。
さて、15分くらいのそんな賭け時間が挟まれた後、オッズはあまり変わらなかった。というか10倍だったのが11倍とかになったくらい?倉橋は待ちくたびれてる感じだった。
「さーて、観客の皆は賭け札の準備は終わったか?ジョーが雷光のジンガの12人目になるか、それともジンガがジョーの一人目になるか。戦闘開始だ!」
雷光のジンガというくらいだから、雷魔法でも使うんだろうかと思ってたら、何の前置きも無しに、突きだした両手から雷光が迸った。
正面から走ってきてた倉橋は避けるそぶりすら見せずに直撃!コロシアムは、やった!とか、ちったあ避けるふりくらいしろよとか、ああぁ~俺の大穴が生活費が借金返済が~っ!?とか、歓声や悪態や悲嘆の声で入り交じった。
私自身、あれは無理だととか思ったけど、雷の直撃受けても倉橋の走る速度が全く落ちなかったのを見て、確信した。抽選会場にあった、魔法攻撃無効スキルだなあれは、と。
ジンガも当然気付いていて、二発、三発と雷撃を連打した。けれども雷は倉橋の体を包み込むものの何の影響も及ぼせないまま消え去っていき、四発目を放とうとしたところで、倉橋の右拳がジンガの顔にめりこんで、発動はキャンセルされた。
地面に打ち倒されたジンガの上に倉橋は馬乗りになって拳を連打。ジンガが気絶したところで審判が倉橋の勝利を宣言。私は大儲けさせてくれた倉橋に拍手を送っておいた。
払い戻し所で金貨百十枚を受け取り、ほくほくとコロシアムを後にすると、まぁねぇ。そりゃー、か弱そうな女が一人なら、いつ狙われてもおかしくないかと思ってけど、やっぱり来たか。
どっからどう見てもゴロつきでチンピラですって顔つきの野郎どもが三人。
「おうおう、景気良さそうだな、お前」
「俺たちすかんぴんよ。恵んでくれねぇか?」
「おい、こいつ女じゃねぇか?それもけっこうな上玉じゃ」
まだまだ昼間だったし太陽も出てたから、自分で処理も出来たろうし、コロシアムの出口からそう離れてなかったから警備の人のとこに駆け込む事も出来たろう。でも、今後も五割以上で勝ち続ければ、こういった輩は無限に湧き続けるし付きまとわれ続ける。
さて、今後も見据えた上で、一番お得な対処方法を考えてみて、自分に近づいてくる気配の方に歩いていく事にした。
「おうおう、どこに行くつもりなんだ?」
「逃がしゃしねーよ!」
とか言われつつ、少しずつ早足で、自分に近づいてきてる誰かへ。あともうちょっとってところで回り込まれ囲まれたけど、ゲームセット。こいつらがね。
「やふー、くらはしセンセ。いや、ジョーって呼んだ方がいい?」
「どっちだっていい。こいつらは何だ?お前の手下か?」
「違うよ。私から金を巻き上げようとしてきたチンピラ一号から三号ってとこ」
「そうか。お前ら、消えろ」
「ああん、誰だお前・・・って」
「こいつ、さっきの!」
「やばい、やばいぜおいっ!」
「消えろと言っている」
「わ、わかりやしたぁぁぁっ」
「ひいぃぃ」
まぁ、ちんぴらを追い散らしてくれたのはいいとして。
「それで、狩りに来たんですか?」
「いや。もう七人ほど狩ってみて、飽きた。あれは俺が求めてる闘いじゃなかった」
「それでわざわざコロシアムに出場登録を?」
「そんなところだ。それで、お前の方はどうなんだ?」
「今のところ、センセに手は出さないんじゃないかな」
「ふん。俺を狩ろうとしてないなら、頼みたい事がある」
「エッチな事とかなら余所を当たって下さいね」
「違う。俺の金を俺に賭けて欲しい」
「禁止されてるんです?」
「ああ。コロシアムとしてはそれで苦い思いを何度かさせられたらしい。選手同士の八百長とかでな。だが、外部の誰かを介せば問題は無くなるらしい」
「それで、センセのお金を私が賭けて受け取ったとして、持ち逃げされる心配しないんですか?」
「そうされれば追うだろうな。それに、お前も毎回大金受け取ってれば、今回みたいに狙われやすくもなるんじゃないのか?」
「まぁ、今日の勝ち分で当面の生活費の不安は無くなりましたけど。センセだって何人も殺して奪ってるから」
「好きな時に戦うだけの生活に、不純物を混ぜたくないだけだ」
「それなら魔物とかでも狩りに行けばいいのに」
「人間相手で満足出来なくなればそうするさ。まぁ、先ずはこれだ」
倉橋は皮袋を渡してきた。金貨が五十枚くらい?入ってた。
「これで俺に賭け続けろ。試合が終わって配当受け取った頃に、俺が行って一部を受け取る。残りはまた賭けろ。試合のスケジュールもまたその時に伝える」
「
「一割くれてやる。後は俺の勝ちに賭けてれば充分だろう」
「本当に勝ち続けられるのであれば、ですよ。今回のでもう種は割れたでしょうに」
「ああ、だからこそ、これからが本当のお楽しみだ」
戦闘狂。そう直感した。メダルが欲しければ誰かから奪うだろうし、なんならランダム対戦でさえ楽しみにしてそうだ。魔物と戦う事だって忌避していない。
こうして、私と倉橋の共闘ではなく共賭関係が始まったのだった。
その日は帰りがけに寄ってきた男子生徒が一人いたのでお駄賃に狩っておいた。
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