エピソード:28 ポルジア王国王室との交渉と、東大陸での本格的なメダルハント

 平和な国とはいえ、そこは東大陸をほぼ占有してるらしい、ポルジア王国の王都リトセア。城壁は10メートルくらいの高さで、どっしりとした趣があった。グリ助に乗って上空から見た時も、少なくとも数十万人規模に見えたし、街路や建物は長い歴史を感じさせる落ち着いた物だった。

 淡い朝焼けの光の中、門番の兵士(門の上で見張りしてる兵士さん達ね)に呼びかけて、とりあえず冒険者ギルドと商業ギルドのそれぞれの代表者達に、私が手土産を置いた場所まで来るよう言付けてもらった。


 いちおう、根回しの成果として、もしかしたら来るかも知れない程度にそれぞれのギルドからの不寝番みたいな人達が待ちかまえてくれてたらしい。それぞれがそれぞれのギルドへと人をやりつつ、彼らはとりあえず私達が荷物レッド・ドラゴンを下ろしてきた場所へと同行する事になった。


「リトセア冒険者ギルドの副ギルドマスター、ラティシアよ。よろしく。話には聞いてたけど、本当に若いわね」

「まぁ、冒険者になってまだ二週間くらいしか経ってませんしね」

「はあ。中央大陸の審査基準はずいぶん緩いなと思ってたけど、ドラゴンを十頭も狩ってきたとか、半端じゃない実績は確かみたいだからね。それにしても早かったわね」

「急ぎましたから」

「ラティシア、一人で話しすぎだ。初めまして、アヤ殿。リトセアの商業ギルドの番頭、冒険者ギルドで言えば副ギルドマスターにあたる、オーグンです。主席、ギルドマスターのパンクエットは、夜半まで粘っていたのですが、夜半過ぎに私が交代しておきました。きっと最初に出会えなかった事を非常に残念がるでしょう」

「ご丁寧な挨拶どうもです。こちらからはっきりといつ行くとまでお約束出来てなかったので。突発的な野暮用もいくつか片づけてきましたので、その分遅くなってしまいました」

「どのようなご用だったのか伺っても?」


 どうしようかな。少し考えた。ラティシアさんは30代半ばくらいのキャリア・ウーマンて感じの人だ。きっとギルドマスターの懐刀的な存在なのだろう。リア充でもありそうな雰囲気がした。

 かたや、オーグンさんは、40代前半くらい。主席という人が高齢なら、この人がきっと次代を担うんだろうなと想像できる、灰色髪で青い瞳の落ち着いた雰囲気の人だった。信用できそうな印象も受けたけど、そんな判断は保留にしておいた。


「けっこう、込み入った話になり、人によってはかなり逆鱗に触れてしまうかも知れないので、それぞれ、というかいったん冒険者ギルドのマスターに相談させてもらってからにさせて下さい。あ、そうだ。お二人とも、警備隊に伝手はあります?」

「あると言えばあるけど」

「どのようなご用件です?」

「さっき言った野暮用の一つで、とある農村に寄ったのですが、とある事情で住民が全滅させられてました。主犯は私が殺害済みです。私の書き置きも残してありますが、この国の警備隊なりに、確認しに行って頂ければと」

「不穏な話だけど、本当なんだよね?」


 ラティシアさんは私ではなく、隣にいるリグルドさんに尋ねた。


「本当だ。嘘だと疑うなら誓約してもいいぞ?」

「本当って事ね。村の名前とかわかる?」

「ちょっとお待ちを」


 私は自動マップで自分の軌跡を辿り、村の名前を確認した。


「この王都からは南南東の方向にある、ミオセアって村ですね」

「わかったわ。ちょっと待ってて」


 ラティシアさんは開いた門の所にいる衛兵さん達に事情を伝えに行き、5分も経たずに戻ってきた。

 その間、オーグンさんに当然の質問をされた。


「そちらに寄られたのに、王都リトセアの西大門に来られたのは?」

「中央大陸からポルジアの王都に立ち寄るとなれば、基本的に西大門が一番可能性が高いですからね。どなたかがお二人みたく待って下さっていた可能性もあったので」

「お気遣いありがたく思います」

「まぁ、西の山の方から運んできた物が物だったので、空経由で無く陸で運ぶのなら、やはり大門でないと通れそうになかったのもあります」


 そしてラティシアさんが戻ってきたので、着陸して一時荷物置き場にした地点に到着。ほぼ西大門から一番近い森の際に近い場所だった。徒歩20分くらい。


 留守番に残しておいた複製メジェ助達の姿と、赤竜レッッドドラゴンの死体に、お二人はそれぞれの反応を示した。

「本当に、本当なのね。すごいわ」

「すばらしいです!」

「痛みやすい素材類なんかは、それなりの容器に移して、ルームエ王国王都の商業ギルドから貸してもらった大型のマジックバッグに入れて持ってきてます」


 それは金貨二千枚とか素で買うには高すぎるクラスのアイテムなので、今回は借りておいた。スケッチしておいたのは言うまでもない。


「私どもの元に赤竜の素材がもたらされる事などほとんどありませんからね。王家も喜ばれると思います」

「それは良かったです。はかって頂きたい便宜がありますからね」

「それが、さっき言えなかった事情につながってるって事?」

「そういう事です」


 彼らというか、オーグンさんが携えていたマジックバッグから、暖かい朝食や紅茶だけでなく屋外用の椅子やテーブルなんかまで提供されて、好感度が爆上がりした。ラティシアさんもちゃっかり相伴していたけど、こういう気遣い出来る人、ポイント高いよね!


 赤竜の死体を検分してると、いろんな人達がやってきた。王都の警備隊隊長のラフセフさんて壮年男性とか、冒険者ギルドのギルドマスター、キーシャさんて老女。とても力のある魔法使いって感じだ。あまり敵対したい感じはしなかった。さらに同年代くらい?ちょっと若めな60代後半か70代前半くらいの男性が商業ギルドの主席のパンクエットさん。それぞれの付き添いの兵士だの冒険者ギルド職員だの冒険者だの商業ギルド付きの荷運び役だのが入り乱れて、あっという間にすごい騒ぎになってきた。ラフセフさんとその副官みたいな人達がささっと周辺を立ち入り禁止にしてくれた。関係者しかここにはいない筈なんだけど、無関係な人に紛れ込まれると面倒だしね。


 ラフセフさんには、当然、ミオセア村の事も聞かれて、簡潔に答えられる事だけ答えておいた。詳しい話は、冒険者ギルドのマスターとも相談した上で、必要なら王室との面談の場で説明すると約束して、引き下がってもらった。少なくともお前がやったんじゃないだろうな?とか言われたり疑われた様子が無かったのは嬉しかった。わかってても、言われると嬉しくは無いしね。リグルドさんが金等級冒険者で、ずっと付き添っててくれてるのは、信用面でも本当に大きかった。生き残れたら出来る限り報いてあげようと思った。うん。探索の神様の力使えば、追加でグリフォンの卵を手に入れられるだろうし、支配の神様の力使えば、不可能だったらしい繁殖だって出来るようになるかも知れない。


 王都リトセアの関係者がいろいろ話し合って、そろそろどこにどう運ぶかとか決まりそうになったほぼ一時間後。立ち入り禁止区域の外がまた騒がしくなったと思ったら、やけに装飾が立派な一団がやってきた。我慢できなくなった人がいたらしい。


 衛兵さん達は、みんな地面に膝をついた。冒険者ギルドの人と商業ギルドの人達だけは、頭を少しだけ垂れる感じにして立ち続けていた。


「私も同じようにした方がいいんですか?」

 とラティシアさんやキーシャさんに小声で尋ねたら、

「あんたはこれから他の大国の王室にも顔をつなぎに行くんだろ?なら、頭は下げずに堂々としてな」

 とキーシャさんが言ってくれた。

 リグルドさんは、胸に右手を当てていた。それ何ですかと聞こうとした時には、華美な布飾りに覆われた鎧を着た一団に取り囲まれた若い男性が飛び出してきていた。


「おおおおぉぉっ、本当に赤竜レッド・ドラゴンじゃないか!すごい!それに、メジェド・グリフォンが三体も!?すごいすごいすごい!これみんな君が!?」

「若っ、お控え下さい!アヤ様、失礼しました。こちらはポルジア王国第二王子のジュレイン様です」

「ジュレインだ。初めましてアヤ殿。お会いできて光栄です!」

「は、はあ。初めまして、アヤです。お会いできて、こちらこそ光栄です」


 こういう時、ローブの端とかつまんで持ち上げて見せた方が良いのだろーか?とか思ってたら、がしっと両手を掴まれてしまった。誰にとは言うまでも無い。


「グリフォン達も自由自在に使役出来ると聞いた!後で乗せてもらえないか?!」

「構いませんけど」

「わ・か!?」

「爺やも、今日くらいは許してくれよ!こんな事は一生に何度も無いだろうし」

「国としても非常に大きな意味合いを持つかも知れないお方に無礼を振る舞ってはならぬと兄上も仰せでしたでしょうに!」

 

 爺やさん、苦労してそうだった。年齢としては六十代半ばくらいだろうか。しかし彼に私の手をジュレインさんの手から解放してくれると望むのは酷そうだった。かといって力任せに振り払うのも物議を呼びかねなかったので迷っていると、彼の背後から護衛らしき女性騎士が現れて、私の手を解放してくれた。


「ジュレイン様の無礼をお許し下さい、アヤ様」

「はい。興奮してついって無害な感じのならまだ何とか。しつこく何度もってなったら、ちょっと考えますけど」

「若っ!?」

 きっと睨まれたジュレイン王子は、びくっと身体を振るわせて、私から数歩離れてくれた。

「ええ、その程度は最低でも離れて下さいね。それで、ええと、どう運び込みましょうか?空からえいやと運び込むのが一番楽だとは思いますけど」

「いや、王都中をパレードの様に引き回して然るべきだろう!これはそれほどの」

「ジュレイン様。私はこの国の民ではなく、この赤竜も中央大陸のラズロフ大火山で、平穏に暮らしていたものです。晒し者にしたいというのであれば止めませんが、私は晒し者になりに来たのではありませんので、その点はご容赦下さい」

「しかし、あなたの所行は希代の英雄に並び立つ・・・」

「ご容赦、下さいませんか?」


 少しだけ語圧を高めると、慣れているのだろう。さっきの女騎士さんが、ジュレイン王子の耳を捻っておとなしくさせてくれた。うん。この人はいい人だと思っておこう。今のところは味方と認識しておいた。


 ジュレイン王子が赤竜の死体やメジェド・グリフォンを間近で見て興奮してる間に、王城の警備責任者でもある近衛騎士団団長のズイトーリエさんて人が来てて話を決めてくれた。

 私が晒し者になりたくないのであれば、王都内に周知の上、王城に直接空路で運び込む事になった。

 問題は、ジュレイン王子が私とグリフォンに乗りたいとごねたくらいで、リグルドさんの後ろに乗る事を提案したものの、リグルドさんにもズイトーリエさん他にも、何かあった時に責任を誰も取れないという事で、いったんお預けになった、けど、冒険者ギルドの上の人達はさすがに違った。ラティシアさんとキーシャさんは、追加で出したグリ助3に乗って私に同行する事になり、オーグンさんはリグルドさんの背に同乗する事になった。

 ジュレイン王子が血の涙を流しそうな勢いで悔しがっていたけど、爺やと女騎士さんやその他衛兵達に連れられて城に引き返していった。彼らが帰城して一時間後くらいのタイミングを計って運んできて欲しいとの事で、そのくらいはお安いご用だった。時々うとうとしかけてたけど、調べる事や試す事は無限と言って良いほどあった。王都内にいる学校関係者を自動マップで探したりね!


 待ち時間の間に、キーシャさんやラティシアさんと上空で密談したりもした。王家と話し合う前に、この国の状況とか聞いておかないといけなかったし。

 この国の王家の困り事を相談され、可能なら対応するよう求められるだろうとは前もって言われた。どうせ世界中を飛び回らないといけないので、前向きに検討しますと答えておいた。

 東大陸に飛ぶ前から打診しておいた事については、たぶん協力してもらえると言ってくれた。王室の反応次第だとも言われたけど。


 警備隊からの使いの人が来て、城側で受け入れ準備が整ったと知らせてくれた。

 私は運ばせてきた時と同様にメジェ助達に赤竜の死体を乗せた荷台を上空に持ち上げさせ、自分他はグリ助達に分乗して王城へ。

 王都上空100メートルくらいの高さをゆっくりと飛んでも、5分もかからずに到着。王城の中庭らしき場所で人々が手招きしてるようだったのでそちらへ降下。死体を降ろさせたらメジェ助達は上空で待機。

 私は偉そうな人達の一団の前にグリ助達を着陸させて地表へ降りた。さて、誰に先に挨拶すればいいのかなと思ってたら、ジュレインさんを背後に引き連れた、ちょっと顔立ちとかは似てるけど年嵩で苦労が顔に刻まれたお人が先頭に近寄ってきた。


「アヤ殿、お初にお目にかかる。私は王太子のパルカス。この度の献上品、ありがたく受け取らせてもらう」

「初めまして、パルカス様。アヤと申します。受け取って頂けると聞き、嬉しく思います」

「赤竜など物語の本の挿し絵でしか見た事が無かった。グリフォンも、メジェド・グリフォンも、生きた姿を間近で見た事は無かったが、完全に制御下に置いているのだな」

「はい。疑ってらっしゃるなら、メジェ助達に宙返りでもさせてみせましょうか?」

「メジェ助?」

「愛称みたいなものです」


 私は、メジェ助達に宙返りさせてみた。たださせるのも芸が無いので、二頭で∞を描くような感じで。煙吐かせる道具でも持たせれば空に何かは描けそうだった。


「見事なものだ。赤竜の死体やグリフォン達も充分に興味深いのだが、アヤ殿。早速で済まないが、内密の相談に乗ってもらえないだろうか?」

「はい、大丈夫ですよ。この場は、ラティシアさん、オーグンさん、お願い出来ますか?」

「任せて」

「お任せを」


 基本的にもうお渡しした物にはなるけど、これからの話し合い次第では険悪な状況になってもおかしくは無いしね。


 王太子に連れられて入ったのは、小規模な会議室めいた部屋。部屋の中央には円卓。用意されている椅子は、片側に二つ。そして逆側に三つ。二つの方に王太子とジュレイン王子。逆側の真ん中に私。両隣に冒険者ギルドのマスター、キーシャさんと、商業ギルドの主席のパンクエットさんが着席。王室側の護衛として、近衛騎士団長ズイトーリエさんとジュレイン王子お付きの女性騎士、私の護衛としてリグルドさん。こちらが望んだ少人数での会議だった。


「先にこちらからの要請、いやお願いを聞いてもらいたい」

「どうぞ」


 パルカスさんから平和の大国ポルジアの王室の近況が説明された。大陸ほぼ全土を掌握して平和を維持してるのは事実なんだけれど、5年前からパルカスさんとジュレインさんの父親ラフジュヤ王が難病にかかってしまった。

 いろんな治療や薬を試したものの治らず、3年前からは王太子のパルカスさんが代理で国政を仕切るようになったが、病状はその間も緩やかに悪化し続けて、もはやあまり猶予は無いのではないかという状態らしい。


「でも、私に何か頼みたいって事は、解決方法はあるんだけど、実現を阻む理由があるんですよね。東の大国の王の命がかかってる事を邪魔できるくらいだから、他の大国、西は無いですね。南も商業国家って言うくらいだから違うでしょう。消去法で、北ですか?」

「すごいな、君は、いやアヤ殿は」

「君でも何でもいいですよ。私は紛れもない平民なので」

「あんたはもう暫定で白金等級プラチナ・ランクの冒険者だよ。貴族ではないが、各国の王家とは言え無碍には扱えない存在にはなってる」

「そうだったんですか。まぁそれはそれとして、北の大国が輸出規制してる薬草か何かを手に入れてこいとか、そういうご依頼ですか?」

「ほぼ、そうなる。だが、もしそれが発覚すれば、北の大国のアヤ殿に対する態度が硬化する事は避けられないだろう」

「なるほど。そうしたら、次は、私の側の事情と条件の開示ですね」

「聞かせて頂こう」


 で、私は大ざっぱに説明した。元世界のあれこれを詳しく説明しても理解出来ないだろうし。

 約600人が異世界から拉致されて、この世界の主神を決めるという戦いに巻き込まれた事。それぞれが個別の神様の加護を得て、最後の一人になるまで殺し合いを続ける事。私はその最後の一人になるべく全力を尽くし、その為に各大国からの協力を得るつもりでいる事などを説明した。


「アヤから説明の裏を取る事をアヤ自身から受けていてね。王都の警備隊長のラフセフにも協力を得て、基本的に裏は取れた」

「もしや、2週間ほど前に起きた、消える死体の殺人事件か?」

「それだよ。妙な格好をした連中が王都のあちこちに出現。一番大きなのだと40人以上の集団までいたそうだ。たいていはここのアヤくらいの年頃の男女で、ほとんどが黒髪黒目。何らかの理由で突然現れて、一部は冒険者として登録したのもいたけど、その大半はすでに死んだり行方不明になっている。

 王都内のあちこちで騒ぎを巻き起こしたりしてたから目立つ連中もいたが、初日を除けばそこまで大きな騒ぎは無かった、ように見えただけで実は違った」

「どういう事だ?私はそこまでの報告を受けてないぞ」

「こっちもアヤからの依頼を受けて裏が取れたばかりだったからね。リルマダ商会の会長がこの集団の首謀者の一人に魅了でたらしこまれて襲わされたところを仲間に防がれ、その慰謝料代わりに屋敷を安値で貸し出させられたのさ。そこで働いてたメイド達も魅了されていた。解除したら、というか魅了した本人が死んだ、いや殺されたせいか魅了は解けてたから、だいたいの事情も話してくれたよ。首謀者の5人が仲間を殺して、いや消していたと。仲間がどんどん減っていって屋敷は返却される事になり、今度は馬車と御者を用立てさせられて、首謀者の5人はどこかへ旅立っていったそうだ」

「彼らが、アヤ殿の敵の一部だったという事か?」

「はい、高校という学び舎の中で、生徒達の自治組織を司る役職に就いていた者達で、かなり危険な能力を兼ね備えていました。

 私は私の教師から助けを請われ、いずれ全員殺さねばならないと助けは断りましたが、彼女の父がその首謀者達に殺されていたのでその仇を取るという依頼を受け、彼女の命となるメダルを代償に、その仇を討ち果たしたのが昨夜の事です」

「なるほど。だとすると、アヤ殿の依頼とは、この国にいるそなたの同胞達を狩る許可か?」

「はい。不穏なお願いなのは承知の上ですが、可能な限り関係の無い人々は巻き込もうとはしません。絶対にそうしないというお約束もまた出来ないのは、お許し頂くしかありませんが」

「国王とは、その国の民を守る為の存在だ。この国の民ではなく、ミオセア村の様に巻き込まれる存在が今後も出てくる可能性があるなら、私は、いやこの国はアヤ殿に協力しよう。ただ、我が国の民が巻き込まれてはいないという見届け人は誰かつけたいと思うが、よろしいか?」

「では、私を、兄上!」

「チェンジで。いえ、他の方をお願いします。出来れば女性の方がいいですね。自分で自分の身を守れるかたが良いです。規格外とか、ことわりの外からいきなり仕掛けられる事もあるでしょうから、見届け人といっても殺されたりする可能性がある事はご承知置き下さい」

「そうだな。では、今はジュレインにつけているクイエレが適任だな。頼まれてくれるか?」

「次期国王陛下の命とあれば、謹んでお受けします」

「ズイトーリエもそれでいいな?」

「殿下のご判断であれば。我が身も守れる事でしょう。守れなくてもそれだけの実力が無かっただけという事です。気に病まれませんように、アヤ殿」

「お気遣いありがとうございます。基本的に、同胞との戦闘は私自身か私の魔物が行うので、お手を借りる事は無いかと思いますが、よろしくお願いします」

「こちらこそ。ジュレイン王子は、私が後からお話聞かせてあげますから、我慢してて下さい。いいですね?」

「一度くらいついていっても」

「いいですね?」

「はい・・・」

「私もついていこうじゃないか」

「キーシャさんがついてきたら、ギルドの業務が滞るんじゃないんですか?」

「細かい業務なんかはとっくの昔からラティシアに任せてるんだ。私がしばらくほっつき歩いてても充分に回るさ」

「はあ。じゃあ、さっそく今日からでもいいですか?」

「いいと言えばいいが、その前に、こちらの頼みごとに関しては?」

「どの道、北の大陸には用事があって行こうと思ってたんです。その薬草がどこにあるどんな物なのかは分かってるんですか?」

「ああ。極北の極寒の地に咲くというウェイエレルの花。あらゆる難病を癒すとされているが、氷竜の住まうという氷海の洞窟奥深くでしか採れないらしい」

「いいですね!この国の用事を片付けたらすぐにでも行きたいです!」

「おい、嬢ちゃん、言っておくが、そこは冒険者の間でも最難関とされるような迷宮ダンジョンの一つだぞ?金等級以上だけで固めたパーティーでも、氷竜に挑戦はおろか、目的のウェイエレルの花までたどり着けて採取できたという例はほとんど存在しない」

「それに別名氷の花と呼ばれるだけあって、氷原くらいの温度でないと解けて消えてしまうから、温度を保ったまま持ち帰り、迅速に調合まで済ませて患者に飲ませなければならない。いわゆる、値段がつかない薬の一つだね」

「まあ、そこは何とでもなりますね。マジック・バッグも借りてあるし、それにリグルドさん、私が苦戦すると思います?私はラズロフ大火山でどんな存在を呼び出せるようになりましたっけ?」

「・・・確かに何とかしちまいそうな気がしてきたな」

「探し物に関しては、たぶん、問題無いと思います。北の大国がそこの入り口を警戒してたとしても何とかしましょう。どうせそこらに間者がいて、私がこの国で何をしたかはある程度伝わってしまうでしょうし」

「おお、けてくれるのか!ありがとう、アヤ殿!」

「こちらでの用事が済んでからになりますし、移動距離もあるのですぐにという訳にはいきませんが、5年ほども戦ってきた病気なら、数週間以上、たぶん3ヶ月未満くらいなら何とかなりそうです?」

「なるたけ急いで欲しいが、そうだな。一月以内とかなら、おそらくは」

「わかりました。そうしたら、警備隊にも協力させて下さい。ラフセフさんでしたっけ?宿屋とかにこもられてて、周りの人を巻き込まない為には、町の衛兵さん達に避難協力してもらうのが一番でしょうからね」

「それは手配しよう。だが、アヤ殿が標的としている者達の居場所は分かるのか?王都はそれなりに広く、この王都だけでもおよそ五十万の住民がいるのだぞ?」

「先ずは王都全体と周辺の上空をいったんグリフォンで飛んでから優先順位をつけて、虱潰しにしていきます。東大陸全体であと百人も残ってないですから、王都内だけなら2、3日。東大陸全体でも1週間か、2週間はたぶんかからないで済むでしょう。さあ、急ぎますよ!」


 そこからの大半は、電撃急襲戦だった。

 私がどうやってか東大陸に来ている事は、全体掲示板や東大陸掲示板などですでに知れ渡っていて、王都にまで来ている事も周知されてて、逃げるか隠れるか立ち向かうかで大混乱が起きていた。あれだけ生徒会が暴れていても、王都にはまだ二十人以上が散らばり隠れていた。その内数人は、私が来たのと逆方向の城門から出て逃げようとしていた。


 私は取り急ぎ王都全体を飛び回ってからいったん戻り、ラフセフさんに王都地図のどこに人を手配しておいて欲しいか伝達。宿屋の名前まで分かれば容易だった。自動マップ様々です。探し物の神様の加護スキルも相変わらず大活躍。

 王都内での囲い込み漁の仕込みを終えたら、いったん王都上空から、王都外へ。メジェ助達を連れて、上空から彼らを襲った。走って逃げてるようなのなら、問答無用でメジェ助の風の刃で真っ二つに。

 ちゃんとクイエレさんやキーシャさんにも死体が残らなかった事などを確認してもらい、メダルなどを回収していった。相手が乗り合い馬車とかに乗っていた場合は、その上空から馬車の天井にスラ助達を垂らし、馬さんはごめんなさいだけど怪我させない為に麻痺させてもらった。それから茸助の力で馬車内の人々には眠ってもらい、対象者だけ外に引き出して殺害。

 御者さんとかにはクイエレさんやキーシャさんから国家機密事項とかで説明してもらい、消えた乗客の事は詮索も探索もしないよう言い聞かせた。乗客達にもそのように説明するようにと。

 一時間もかからずに、王都から逃げだそうとしてた六人を狩り、その後は一つずつ、彼らの周囲から無関係な人々を遠ざけてもらい、スラ助シリーズや茸助シリーズをメインに倒していった。鑑定で厄介そうな加護やスキル持ってる相手の場合は、法の支配や、闇の結界などを使って封殺していった。メダルもステータスポイントもうまうまですが、掲示板はどこも大盛況だった。(違う)


 初日の深夜までで、メダルを追加で27枚ゲット。経験値もそれなりに入って、レベルも1上がって31に。ステータスもまんべんなく上がったし、スキルもそれなりに増えた。火、水、土、隠遁。


 お城に一室を用意してもらい、リグルドさんをほぼ同室で、得たメダルの加護の内容や掲示板の騒ぎなどを眺めつつ、翌日の計画を立てていった。

 翌日は、朝早くから出発。探し物の神様の加護スキルと自動マップの合わせ技をフル活用して、グリ助やメジェ助で王都近郊の農村や都市などを巡回していった。教頭達に逃がされたのだろう生徒達も慈悲はかけずに補足次第、メダルに変えていった。考えたら動けなくなる。私はなるたけ機械的に処理していくよう心がけた。


 私が東大陸に来た時点ですでに百人を大きく割り込んでいたプレイヤーは、もっとも要注意だった生徒会メンバー達が私に狩られ、王都周辺から始まった探索の加護スキルと自動マップスキルの合わせ技から逃れる術は無かった。132名でスタートした東大陸のプレイヤーは、おそらく沿岸部に散らばっている数名と、他大陸へ逃げたのだろう数名を除き全滅。

 私はメダル総数を125枚まで増やし、残りは土の大神の加護を受けている者を倒せば東大陸は制したと言って良い状態になった。ちなみにこの二十日目終了時点までで、全体の残プレイヤー数は220人にまで減っていた。

 私は東大陸で79人を狩り、レベルは37まで上昇。魔法は時空以外は全部コンプ。スキルも、身体強化、MP自動回復、反射、夜目、気配察知、水中呼吸などをゲットした。


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