エピソード:27 メダル大量獲得で判明した事や試験運用、闇の大神のメダル保持者との戦いなど

 生徒会メンバー、ついでに人質になってたと思われる生徒二人の反応も消えていた。残っているのは、彼らの持っていたメダルだけ。

 私は桜田先生を見た。先生も私を見た。私はリグルドにうなずいてみせた。合図はもう決めてあった。するべき事も。


「ありがとうね、七瀬さん」

「いえ、お礼を言われる様な事は何も」

「それでも・・」


 それ以上は、必要無かった。

 リグルドさんが、自分の前に乗せていた桜田先生の身体をグリ助2の背から突き落とし、彼女自身何が起きたのか把握できたかどうかわからない内に首を切ってもらった。

 地表に落ちるまでの間に身体は消え、メダルだけになっているだろう。


「あんまり、こういう真似はさせないで欲しいもんだな」

「すみませんね。どうしても、自分の手ではやりたくなかったし、グリ助ごと消すと、空中でリグルドさんを掴み取らないといけなかったもので」

「まぁ、貸しにしとくぜ?」

「卵確保権のポイントを稼いだくらいに捉えておいて下さい」

「・・・そういうことにしておいてやるよ」

「ありがとうございます」


 私は、ゆっくりとグリ助1を降下させていった。生徒会長達のメダルも重要だけど、今後奇襲される可能性を無くしたり、危地を脱したりするのに、旅の神の力はものすごく重宝する筈だ。敵スキル無効化の持ち主もいなくなったしね。

 そう時間をかけず地表に降り立ち、旅の神のメダルを手にした。その周囲の地面についた血の染みには、ほんの少しの間だけ、黙祷を捧げた。彼女も、他の生徒達以上に、本来は死なないで良い筈の一人だった。


 リグルドさんは、地表10メートルくらいをゆったりと飛んで周囲を警戒してくれていた。状況的に言って、漁夫の利を得ようとする誰かがメダルの反応とかをどうにかごまかして接近してきててもおかしくなかったし。

 私は生徒会長達のメダルを計三十枚、そして人質になっていた生徒二人のメダルを二枚、桜田先生のメダルと併せて合計三十三枚ものメダルを手に入れた。これから中央大陸にて包囲網を敷かれる身の上としては、非常に大きい。

 そして、とりあえず絵の神の加護レベルを5にまで上げたところで、スキルレベルの上げ方がシステム内というか意識内に開示された。獲得メダル5枚以上で加護レベル3以上でようやく、スキルレベルを3まで上げられるとのこと。

 スキルレベルの上げ方は各掲示板などでずっと議論されてきたけど、5枚以上獲得してるプレイヤーは秘匿していた情報だったのだろう。開示する必要も無かっただろうし。システム側が書き込みされても自動で消しててもおかしくなかったけど。

 自分がこれまでに獲得したメダルは合計3枚だけど、その内1枚をクロっちにあげてたので残ってたのは2枚。それで加護レベルは3に上げてあったので、とりあえず複製のレベルを3に上げてみた。使うとどうなるか興味はあったけどいったん保留。

 獲得メダル10枚で加護レベルを5にまで上げるとスキルレベル5まで。以下同様に、15枚で、7と7。20枚で10と10。獲得メダル30枚で加護レベルを15にまで上げるとスキルレベル15まで上げられるようだった。かなり渋いと思ったけれど、結果的に勝者はメダル数百枚を得るのだとしたら、序盤はこれくらいかなとも思えた。加護レベルもスキルレベルも上限がまだ分からないしね。

 で、試しにスキルレベル5でグリ助を複製してみたら、複製一回で5体も出てきましたよ!こりゃー強いや。ていうか、獲得枚数と加護レベルの縛りが重くなる訳だわ。それにこれまでは1ランクダウンして複製されてたのが、そこまで弱まってない感じがした。たぶん1ランク分の半分くらい?複製スキル10まで上げられたら、能力ステータスの低減は無くなるのかも知れなかった。


 さらに、です。元からの一枚を除けば手持ちは35枚で、元の加護を7レベル上げて8にするのに7枚使うと、残りは28枚。絵の神の新しい加護スキルは、加護レベル7で出てきたけど、これは要検証だな。めっちゃ強いのはたぶん確かなんだけどね、いきなり実戦で使うのは怖い。


 私はメダルの持ち主達が持っていたアイテムやお金などめぼしい物は拾い集め、先生が染みになった地点に複製鉄槍を刺してから、グリ助1に搭乗し直して、メジェ助やグリ助やリグルドさん達と、チフ助達を待たせている地点へと帰還した。


「いろいろ、レベルアップしたってか?さっき、一度の複製でグリフォン5体増やしたんだろ?」

「良く分かりましたね。そうですよ」

「あんま言いふらすなよ?お前、世界でも有数の要注意人物になってるって、自覚しとけ」

「マグナスなんて人が好きに世界中うろついてられるなら、私なんてかわいい方でしょうに」

「あいつは人の世に関わろうとはしてこなかったからほっついていられた。お前は逆だろ」

「そうですね。大国の王家とかとお近づきになって、便宜をはかってもらわないといけませんので」

「変な野心を持とうとしないところはほめてやるよ」

「ありがとうございます?」


 ほんと、野心なんて生き残れることが確定してからでないと意味無いしね。

 まだ夜もそんなに遅い時間は無かったので、かつて先生達が逃れてきた農村の方角から、さらに街道辿って、どういうルートなら王都に着くのか、メジェ助達に先行偵察してもらった。

 私はその間休憩しつつ、入手したメダルとその神の加護スキルなどを確認しながら、掲示板の騒ぎもちらりと覗いておいた。生徒会メンバー全員が死亡表示になり、彼らが持っていたメダル30枚+αが私の元に移ったのだろうと誰にでも立てられる推測が立てられ、特に中央大陸掲示板で私への共同戦線を呼びかけていた連中は、今や全大陸の生き残りで先ず私を倒すべきだとぶち上げていた。

 いいよ、やってみなよ。こっちはこっちで、そっちを狩り出してやるから。


 加護レベル上げには使わない神のメダルは、とりあえずは、旅と法と探し物と強欲にしておいた。旅のは、加護レベルを上げていくと、1レベル上げるごとに、転移できるまでの時間が1時間減った。ううむ、悩ましい。

 絵画の神の加護を上げるのに7枚、複製スキルを上げるのに4枚使い、4種類の有効化しておくとすると、残り20枚を加護レベルかスキルレベル上げに使えることになる。

 旅と法と強欲はとりあえず1のままで、探し物も最初は1で、「所持者がいないメダルで一番近い物」と唱えてみて、おおよその方角だけ分かった。これはこれで使い道はあるけど、さらに探し物のレベルを5まで上げてみると、距離まで分かった。ちなみに、「所持者がいないメダルで二番目に近い物」というのでもいけた。マジか。これ強くない!?

 さらに私はどきどきしながら、「一番近い、七大神のメダルは?」と唱えてみると、おそらくポルジオ王国内に反応があった。やっぱりかと思った。確率からいけば、1から2枚はあっておかしくなかった。


「水の神の加護のメダルの持ち主は?」

 さすがに距離が遠いせいか、およそ南西西の方角で、距離はものすごく遠く。おそらく南大陸というか諸島群のどこかにいるのだろう。

 以下同様に。

 火の神の加護のメダルは、方角的には中央大陸か西大陸、距離的には西で間違い無さそう。

 風は、良く分からないけど、北西の方の上空のどこか。もしかして浮遊大陸とかか!?

 光は北、土は東大陸の北方、そして、闇が東大陸の中央部近くに。時のはどうしてだか感じられなかった。探し物の神の加護レベルを10まで上げてみても同じだったけど、他のに関しては、その現在位置の様子が感じ取れるまでになった。例えば、持ち主がいないメダルの周囲が森なのか村なのか湖畔なのかとか、周囲10メートルくらいの様子が伝わってきた。

 私はどきどきしながら、「一番近くにいるスキル:自動マップ持ちのプレイヤーは?」と唱えてみて、たぶん150キロくらい東に反応を得られた。「一番近くにいるスキル:鑑定持ちのプレイヤーは?」と唱え、先ほどのプレイヤーから数十キロは南西にずれた位置にその反応を得た。


「さっきからぶつぶつつぶやいてどうしたんだ?」

「リグルドさん、聞いて下さい!」

「おう、聞いてやるから落ち着け。何があった?」

「探し物の神様のメダルってのがありまして、その加護スキルを有効化したら、いろんな条件で目的の加護やスキル持ち、さらには持ち主がいないメダルの所在とかその周囲の反応まで感じ取れるようになったんです!」

「それが本当なら、狩り放題になるんじゃねぇか?もうほとんど負けようが無くなるだろ?」

「七大神の加護を得てる相手のも見つけました。挑んでみようと思います。なるたけ準備をしてから」

「大丈夫なのか?」

「可能な限り準備をしますよ。まずは持ち主がいないメダルを拾い集めて、スキル:自動マップ持ちも狩ります。少しばかり強引になったとしても」

「荒事起こすなら、王家に接触してからのがいいんじゃないのか?」

「そこで何日取られるかわからないですからね。これまで生徒会、私がさっき狩った連中を恐れておとなしくしてた人達が息を吹き返したように活動し始める可能性があります。

 私が中央大陸からどうやってか一瞬で東大陸で動き始めたって認識が広まって対策が取られるまでの間が勝負です。具体的に言えば、今夜中かな」

「休んだ方がいいんじゃないのか?」

「いえ、もう中央大陸では私の包囲網が作られつつあったんです。私がメダルを30枚以上いきなり増やした事で不安を爆発させ、包囲網を世界全体に広げようという動きも出てます。それが具体化する前に、私は打てるだけの先手を打っておきます」

「だから、特大の賄賂も送ると」

「そういう事です。先ずは、このテストからですね」


 私はメダルのストックの内から一枚適当なのを離れた地面に放り投げて、それがそこに留まってるのを確かめてから、複製グリフォンに拾えるか試させてみた。結果、拾えた!地面に置いたメダルを複製グリスケはくわえて持ってこれたし、スケッチから実体化したグリ助でももちろん同じ事が出来た。試しに目に見えないちょっと遠くにメダルを置いてきても、自分が感じる様に彼らもメダルの位置を感じ取れるらしく、拾ってこれた。

 テンションが爆上がりした!


「これで、勝つる!」

「興奮してるのはわかったから落ち着け」

「はっ、そうでしたね。とりあえず」


 私は久々にゴブ助の1から3も実体化して、自分が探索スキルで持ち主のいないメダルの近い順に三枚までを、複製グリ助達とペアにしてそれぞれを拾いに行かせた。


「さて本隊は複製グリ助4から7で手土産を運んでもらうとして、せっかくジグ助やメジェ助達も出してるから、このまま急襲をかけます」

「夜だからって人里を襲うなよ?」

「ちゃんと人目につかないルート辿って移動しますし、余計な被害が出ないよう注意しますよ」


 私はチフ助達には手土産を掘り出させて輸送の準備を終えたら、消えるまでの間、この場所に臨時の避難場所を構築しておくよう命じた。


 王都を探させていたメジェ助達も別ルートから目的の位置に回り込んで逃げ道を消させる事にした。そんな手配をしつつ、闇のメダルの周辺の気配を探った。その持ち主以外、人の気配は感じなかった。持ち主は起きて何かをしてるのだけど、具体的に何をしているかまでは分からなかった。でも何故かあまり良さそうな雰囲気はしなかった。


 私は焦る気持ちを抑えつつ、闇のメダルの持ち主よりは手前に反応のあった、自動マップスキルの持ち主の在所に寄った。のどかな農村よりちょっと上な街未満な感じの家並みの中にある宿屋みたいな場所に泊まって寝ているようだった。幸い、個室だった。

 私はジグ助みたいな目立つ存在は少し離れた場所に待機させてから村の上空へとグリ助1で侵入。外壁や櫓などもなく、本当に平和な場所なのだろう。


「どうやるつもりなんだ?俺は暗殺者の真似事なんてしないからな」

「普段からそんな事なんてお願いしませんよ。ただ、相手は私が側に行くと、自動警報みたいのが発動して気付かれてしまうかも知れないので、この子達を使ってみます」


 私は、宿屋の上空五十メートルくらい上空から、ポイズン・スライムとパラライズ・スライム、それからドッペル・スライム達を実体化。宿の建物の隙間から内部へと文字通り潜り込んでの暗殺を依頼した。

 たぶんだけど、起きてさえいたら、もうとっくに私が来ている事にメダル反応だけで気付いてた筈だ。探索の神の加護スキルで状況を確認し続けてても、何の変化も無いというのは、寝ているという事でたぶん間違い無い。

 いや、スライム達が部屋に侵入した途端に起きたらしい。しかし、少しばかり遅かった。ベッドの上できょろきょろと周囲の様子を確かめようとした相手の頭上から、ポイ助とパラ助が覆い被さった。これでもうほとんど詰み状態だけど、ドアの内側の所でドペ子を待機させて万が一にも逃がさないようにしつつ、パラ助で麻痺させつつポイ助で毒状態にもして、でも手っ取り早く呼吸器を塞いで窒息死させた。

 私はその場に残ったお金とメダルなどをスライム達に窓の外から宿屋の屋上に運ばせ、グリ助で回収。彼らは無事に役目を果たしてくれた。

 殺す直前に、私は強欲のメダルの加護レベルを10に引き上げていた。強欲の加護スキル、欲しがりは、レベル10で、殺した相手のステータスのどれか1ポイントかスキルがあればスキルを。レベル20なら、殺した相手のステータスのどれか2ポイントか、スキルがあればスキルも奪えるんだろうけど、今はそこまで上げられないので我慢。

 相手はレベル3だったのでステータスはランク2くらいしかなかったけど、ステータスポイントは今は我慢。目的の自動マップスキルを奪えたので良しとする。

 さっそくメダル一枚を割り当てて有効化。すると現在位置から100メートルくらいの範囲が地図状に脳内表示された。スキルレベルを10まで上げてみると、1上げる度に100メートルくらいずつ広がって、10だと範囲1キロくらいがカバーされた。グリ助に乗って移動すると、移動した部分だけ、真っ暗だった部分に新たな範囲が表示されてきた。しかも、敵プレイヤー、今出てるのはさっき殺した相手の足跡だろうけど、そんな情報も出てきた。これは便利だ。

 私はまだ加護レベルのメダル割り振りを調整してから、鑑定スキル持ちの方へ移動。こちらは隣町という感じで外壁も、見張りの兵士達もいたので、街のずっと上空でメジェ助2と合流し、さっきのスライムの三体セットに混ざり丸まってボール状になった物を、メジェ助の極小の嵐というか風でくるんでもらい、法の神の加護スキル、法の支配を試しに使ってみた。


「このスライム達の落下速度は遅くなる」


 重力のかかり方が緩くなったのか、玉状になったスライム達は目的の宿屋の屋上にふわりと降下。そこから10分もかからずに目的の室内へと到着し、さっきと同様の手順で標的を倒し、私は鑑定スキルをゲットした。

 メダルはどうしようか迷った。正直後回しにしても良かったのだけど、自動マップで完全に人がいない区域があったので、そちらに人間形態にしたドペ子をポイ助とパラ助とメダルとかを抱かせるように運ばせて移動。

 幻の神のメダルなんて物もあって、その加護スキルが幻影を纏うって物だったので、グリ助に闇を纏わせる感じで人気ひとけの無い一角へ急降下。幸い誰にも気付かれる事なくスライム達を回収し、上空へ待避。


 待っててくれたリグルドさんや、さらに町外れの森上空でジグ助達にも合流して、いよいよ闇の神のメダルの持ち主の元へ。

 移動中に鑑定スキルにメダルを回して使い勝手を確かめてみた。

 スキルレベル1だと、名前と種族名とランクが分かるくらいだった。2でステータスまで、3でスキル内容まで分かる感じ。

 まぁ、そのくらいのサービスしないと、使えないスキルになってしまってたのは想像出来た。リグルドさんのステータスとかを確認するのは興味を引かれたけど、今は我慢しておいた。


 そろそろ夜も遅くなってきていたので、決めておきたい。

 私は標的のいる村の周囲1キロにまで近づいて、妙な事に気付いた。自動マップに出てきて然るべき、住人の姿が一人も無いのだ。ちょっと迷ったけど、村の上空500メートルくらいで、私はアー助を実体化した。

「アー助。アーライさんに声かけてもらえる?」

 具体的にどこにいるか分からないアーライ様の側にいる複製アー助にも声はかけてもらった。話せないけど、こちらが接触したがってるという意図は伝わるだろう。

 待つ間にもメダル枚数を調整して、戦闘向きなビルド構成にしていく。ちなみに、標的の名前は、木暮久こぐれ ひさし。ステータス画面の一覧情報から見た感じ、レベルは3で、メダル所持枚数も3。つまり、スキルが加護と同系統の闇魔法だとしても、スキルレベルは1の筈だった。対精霊戦というか、七大神の加護を受けた相手だと、鍵になるのは、法の支配だろう。


 アー助を起点にしたのか、いきなり虚空からアーライ様が複製アー助と一緒に現れた。

「おお、ついさっきぶりだな、人の子よ。で、見つけたのか?」

「はい。たぶん、闇の大神の加護を受けた相手です」

「なるほどのお。それでどうしたい?この場所ごと焼き尽くすか?」

「それは出来れば避けたいんですが、一つ妙な事があってお伺いしたいのですが」

「言ってみろ」

「住民が、その標的一人を除いて、誰もいないのです」

「なら、食らったのだろうな」

「食らった?それは、魂を、とか?」

「闇のはな、命の扱いが、他の精霊達よりもずっと軽い。人などいくらでも増える故、玩具にしてその数を減らすのも自分達の役割と考える奴も少なくない」

「でも、そんな事してたら人なんてあっという間に滅んでるんじゃ?」

「だから普段は大神が制限をかけておるものなんだが。主神の座をかけた戦いともなれば、タガが緩むらしいな。かかっ、おもしろいではないか!」


 アーライ様は何も無い筈の空間で腕を払った。どうして、と思う間も無く、闇が凝縮した手の様な何かが焼き払われたのが見て取れた。


「油断するな。お前は今、大海に飲まれて水の神を相手にしているようなものだ。好き好んで闇の神の加護を得た者と闇夜の中で対峙しようとはな。写し身達よ、この者らを守っておれ。俺がかたを」

「お待ちを、アーライ様」

「なんだ、人の子よ」

「ななせ、あやかです。名前くらい覚えて下さい。それはともかく、例えば火の大神の加護を受けた者と戦う時はあなたの手助けは得られないのでしょう?」

「うむ。だからこそ」

「だからこそ、ちょっと私自身にやれそうか、試させて下さい。ダメそうならお願いしますから」

「・・・ふむ。俺がやれないのは面白くないが、大神の加護を受けた者に、受けてない者がどう挑むのか、見せてもらおうではないか!」

「じゃあ、行きますね」


 とりあえず私は、アー助の複製をもう2体増やし、私とリグルドさんとグリ助達の周囲に配置してから唱えた。


「アー助達はなるべく周囲を明るく照らして。そして、私の周囲では、闇はその力を失う!」


 とりあえず、法の神の加護レベルは10にしてみた。3つまでは同時に制御出来るけど、今は一つで十分だと判断した。

 あちこちから闇が手や槍を形取って襲って来ようとしたけど、見るからに動きが鈍く、弱く脆くなっていた。アー助達が吹きかける炎の息で簡単に燃え尽きていった。


 私はそのまま眼下に見える敵、鑑定で名前も確認できている。木暮久。レベルは3。ステータスの合計値もランク2止まりだ。だけど、闇をいくら具現化して消失させられても、MPは減ってないように見えた。なるほど。今後の参考になる。


 私は試しに、遠間からメジェ助達に風の刃を撃たせてみたけど、自分の周囲を闇で覆ってダメージを受けなかった。うーん、攻防一体の便利装置で、あれでもMP減らず、か。村民とかを殺した魂パワーでも使ってるのかな。でも無限て事はあるまい。


 ゆっくり降下し続けつつ、間断無く攻撃を続け、ピンポイントでジグ助にも炎の息を吐かせてみたりした。ダメージは通らなかったものの、さすがにMPが少し減った。良い兆しだ。

 敵との距離が100メートル、50メートルと接近するにつれ、敵からの攻撃頻度は高まったけれど、向こうも防御しながらなせいかアー助やその複製達で十分防御出来ていた。


「俺が飛び込もうか?」

 リグルドさんが提案してきてくれたけど、お断りしておいた。

「必要無いです。たぶん接近したら闇に飲み込まれておしまいですよ」

「でも、お前でもあれに近付き過ぎればやばいんじゃないのか?」

「いえ、実験、しておかないといけないので」


 そして相手との距離が30メートルを切ろうかといった所で、相手の身体の周囲を包んでいた闇が巨大な槍の様に伸びて私をグリ助ごと貫こうとしてきた。


「その動きは読めていた!」


 アー助を念のために前面に出して受け止めてもらった。少しだけ押し込まれはしたものの、炎の固まりみたいので闇の槍の先端を受け止めて焼き尽くして消滅させていた。そもそも、私の近くに寄れば寄るほど闇はその力を失うという法則の支配の力も働いているのだ。このまま地表ごと焼き尽くしても良かったのだけど、テストはしておかないといけなかった。


 ふ、と闇の槍が消え、闇に包まれていた木暮久が地面に倒れていた。村の外から徒歩で近寄らせていた茸助が、眠りのガスを放出して、敵を眠らせたのだ。


「うまくいきました」

「倒したのか?」

「ええ、終わりにします」


 語りとかいらない。村人を全滅させた事の反省とかもいらない。その人数以上を私はこれから殺そうとしているのだし。

 私は茸助をスケッチに戻し、メジェ助達に敵の身体を寸断させ、ジグ助に焼き尽くしてもらった。そしてステータス画面上でも死亡表示になってしばらく様子見してても復活してくる気配とかが無いのを確認してから地表に降り、闇の神のメダルを手にした。


「さて、これで一枚。残り六枚か」

「つまらん。が、手並みとしては悪くなかった」

「お褒め頂きありがとうございました。アーライ様」

「しかし、この程度で炎の大神の加護を受けた者と戦おうとはしない方がいいぞ?」

「ええ。その時はもっともっと準備していきます」

「用は済んだのなら俺は帰る。戻るぞ、一郎!」


 異世界言語スキルが仕事した結果なんだろうけど、アーライ様は複製アー助1を、他のと取り違える事なく識別してどこかへと一緒に去ってしまった。


「終わったか?」

「ええ。急いでおいて良かったです」

「だな。こんな被害が他にも起きてないといいんだが」

「まあ、食い止めたとしておきましょう。夜はあと半分も残ってないくらいですが、王都のそばには移動しておきましょうか」

「騒ぎになるだろうな」

「それは避けられませんが、良い方に騒ぎを利用する事は、たぶん、出来る筈です」


 私は、この村の一番大きそうな建物の入り口の脇に、複製したスケッチブックの紙に書き置きを書いて、複製した短剣で貼り付けておいた。


「この村を全滅させた犯罪者は、金等級冒険者アヤが討ち果たした。何か異議を申し立てる者がいるなら、王都か冒険者ギルドまで、か。

 こんなの、わざわざ面倒の数増やすだけじゃないのか?」

「いいえ。この国の王家には、私がこれから行う狩りを見逃してもらわないといけないので。これも口実の一つにさせてもらいます。あなたにも証言はしてもらいますが」

「それくらいはやってやるが、抜け目ないのな、お前」

「世界中に散らばってる相手が団結しようとしてますからね。打てる手は打っていきます」

「へーへー、付き合ってやるよ、しばらくはな」

「私が私の戦いを終えるまでの間は、ですよ?」

「わかってるよ。なら行こうぜ。この国の王家に面会するなら、徹夜明けは避けた方がいいだろ」

「それもそうですね」


 私達は、王都の方角へと飛んで向かい、王都から少し離れた地点に着地。仮眠した後、夜を徹して手土産を運んできた複製グリ助達と合流してから彼らは待機させ、リグルドさんを伴って、まだ夜の明け切らぬポルジア王国の王都の城門へと向かったのだった。

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