エピソード:22 ラズロフ火山にて(二日目後半と三日目:炎の精霊アーライとの戦い?とか、赤竜の死体を巡る処理とか
アーライの笑みが深まると共に、この場の温度が上がってきていた。ジグ助に乗ってなければ、とうに根を上げていただろう。メジェ助なんかは相当つらそうだった。
私はジグヴァーノに尋ねてみた。
「あなたの力で、あれに傷を負わせる事が出来る?」
「ほぼ無理だな」
「私達を全滅できるってスキルを使っても?」
「大海に水を投げ込んだところで意味はあるまい?」
「ですよね~」
「で、どうする?興を損ねたら、骨も残らず焼き尽くされるぞ?」
「嘆いてても仕方無さそうなので、自分に出来る事をしてみますかね」
私がアーライの姿をスケッチし始めると、興味を引かれたようだった。
「そうして写し取った姿の者を使役できる力か?」
「およそそんな感じですね」
「むぅ、ならば己自身と戦えるというようなものか?」
「そういう事も出来ますね」
「はっはー、ならば許す!存分に描け!とっとと描け!今までいろんな相手と
まぁ、精霊の姿なんて、あって無いようなものだ。人っぽい姿なのも、こちらに意志疎通を取る為の補助の様なものだろう。
私はアーライの姿を数ページに描き散らしながらオーライに尋ねた。
「ちなみに、今までアーライとやりあってみて、こうやれば勝てる!みたいな戦い方とかありました」
「無い!あったら教えて欲しいくらいだ!」
「なるほど。あなたがマグマから切り離されたとして、どれくらい保ちます?」
「存在するだけならいつまでも。ただし、力をふるうとしたら数分といったところか」
相手が単なる炎なら、何通りかの戦いようがあった。が、たぶんそうはいかないのだろう。
救いは、これが殺し合いではなくて、相手を楽しませれば勝ちといった趣旨な事だった。
「あなたに任せていても、勝ち目が無いなら、私の指示通り動いて下さい。具体的には、私が出したあなたの写し身の真似をして働きを助けて下さい」
「なんぞ良くわからんがわかった」
「ジグヴァーノさんは私とかが熱とかで焼き殺されないように防御を。熱を遮断してくれるだけでかなり助かります」
「やってみせよう。しかし限度はあるぞ」
「わかってます。そしてアーライ様。あなたにとってこれは遊びでしょうけど」
「言うまでもない」
「死なないで下さいね?」
「うはははははははっ!いいぞ!人間の娘よ!そこまで俺に大言壮語する奴はほとんど記憶にないぞ!」
「今までに言った相手が、水の大神の加護を得た人間てくらいは想像がつきますが、まぁお楽しみ下さい。空の旅を」
「うん?空の旅だと」
「すぐにわかります」
私は、オー助でアーライの姿を包んだ。土成分多めで。アーライは子供の姿だったのであっさりと包み込めた。オーライは、
「言っておくが、マグマの海にいくら引き込もうがアーライは何のダメージも負わないからな?」
と言いつつもオー助の真似をしてさらにアーライを包み込んでくれた。
「どうした?これではいつもより魔力濃度が濃いくらいで意味は無いぞ?」
「これからですよ」
文句を言うアーライは放置して、オー助には内側に向かって少し圧縮して固まってもらい、その間にメジェ助の複製を十体ほど作成。サラマンダーとか
彼らを全速力で縦方向に配置していき、アーライを包み込んだマグマの玉の直径くらいの極細の嵐を縦長につなげていった。
「ジグヴァーノさん、ジグ助と一緒にあの筒の上方向だけに、例のスキルを使う事って出来ますか?」
「本来指向性を持たせるスキルでは無いのだがな。やってみせよう」
ジグ助には、ジグヴァーノさんと息を合わせて真似するように伝えた。
今では嵐の筒に飲まれてぐるぐる回ってるマグマの玉の中でアーライは遊園地の遊具にでも乗ってる感じで笑っていたが、それもいつまで続くかな。空の果てかその先まで行っても笑ってそうなので良しとしよう。
「いくぞ!」
ジグヴァーノさんとジグ助が呼吸を合わせて、数キロメートルにわたる垂直な嵐の筒の根本部分で回転するマグマの玉の下から純粋な熱量の固まりを爆発させた。
スーパーノヴァって感じ?中二的に言うなら。閃光と共に一瞬でマグマの玉は遙か上空の彼方、おそらくその先の先の先、空気の無い辺りまでは飛んでいっただろう。炎の精霊がどれくらい生きてるか知らんが、人生?精霊生初の宇宙空間体験の筈だ。この世界の空の先がやっぱりこの世界の宇宙とやらにつながっているのであれば。オー助との距離からすると、高度数万メートル以上には達しているようだった。
アニメとかならきらーんとお星様になって光るのになとか思ったら、小さな光、とは言っても一等星の十倍くらいの明るさの何かが流星の様な速度で落ちてきた。誰かは言うまでもない。律儀にオー助もオーライも連れて帰ってきてくれた。
「おまっ!すげっ!あれ気に入ったぞ!もっかい、もっかいだ!」
お子様大興奮て感じでツボに入ってくれて何よりだった。
「私はいいですけど、ジグヴァーノさん、まだいけます?」
「・・・あと、2、3回ならな」
「よしっ!オーライ、準備せよ!また行くぞ!」
「い、いや、我はもう十分」
「なにを言う?あんなに高いところから下界を見下ろせるなどそうは出来ない体験だぞ?!いいから連いてこい!」
「イーヤー!」
とは言いつつ、別にもう必要無いと思うんだけど、弾丸部分を形成し、また空の彼方に打ち上げられていった。
メジェ助達もずっとは嵐の管を維持できないし、ジグヴァーノさんもそうは連発できないスキルなので、休み休みながらも、その翌日までかけて、都合十回以上打ち上げられてようやくアーライは満足してくれた。
「うむ、ほめてつかわすぞ人間!俺はお前に個人的に力を貸してやろう!」
「ありがとうございます。アーライ様。それでは、写し身を側に置かせて頂きますので、力を貸して欲しい時は、そのアー助を通じてお知らせします」
「良かろう、許す!」
私がアー助を出し、さらにその複製を出すと、両方を引き連れてどこかに姿を消してしまった。
「仲間に自慢しに行ったらしい」
「精霊界とか?」
「そのようなものだな。我は疲れた。しばらく休む。しばらくはここに近づくな。いいな?」
「はい。でもオー助の複製は置いていきますから、何かあった時はあなたも私を助けて下さいね。約束ですからね?」
「わかった。ちょっと思ってたのとは違うが、アーライの奴の鼻をあかせた感じだからな」
オーライさんはそのままマグマの海と同化して消えてしまったので、私はオー助の複製に、彼と一緒に留まっているよう命じて、私は仲間達の元に戻る事にした。
「さすがにそろそろ心配になってると思うので戻りますね」
「ああ。我も我の寝所に戻ってしばし休む。アーライの処し方、気に入ったぞ」
「それは何よりです。それで、ジグヴァーノさんはどうします?」
「何をだ?」
「いや、写し身、それなりに気に入ってらしたのなら、複製、付けておきましょうか?」
「・・・・・」
「付けておきますね。ジグ助は、私が寝たりすると消えてしまうので」
ジグ助が消えてしまうと聞いて、そして出現した複製がジグ助には劣るものと見て取って少し悲しい表情も浮かべたりしたが、
「何かあればその子に伝えて下さい。言葉でのやり取りは出来ませんけど、意志疎通はたぶん出来る筈なので」
「我はそなたの危機にかけつける事などせんぞ?」
「別にいいですけど、私が死ねばその子も消えるだけです。ではまた、いつかどこかで?」
「・・・せいぜい息災でいろ。ついてこい」
私は複製ジグ助に、ジグヴァーノさんの指示に付き従うよう命じて、ようやく仲間達の元へと帰還出来た。
「嬢ちゃん、無事だったか」
「あや・・、七瀬さん、大丈夫だったの?」
「心配しましたよ、アヤさん」
「ご無事で何より、というか、この大赤竜はアヤ殿が出したものでよろしいのでしょうか?」
「みんな、ただいま。頂上の火口で精霊さん達の相手してたら遅くなっちゃった。疲れたから、とりあえず
「待て。このレッド・ドラゴンの死骸、ここに放置していくつもりじゃないだろうな?」
「・・・もったいないって事ですよね?」
「その通りだ。一体で金貨千枚以上は固いぞ?!」
「そしたらしゃーないですね。リグルドさん、徹夜でがんばって下さい」
「な、何をだ?」
「言い出しっぺだし、ギルドや街や国に顔がきくのもあなただけですから。ドラゴン一頭につき、複製メジェ助の三頭で何とかなりそうかな。鎖の何十本かも複製しておくんで、後はよろしくお願いしまー」
アーライを空に打ち上げる嵐のトンネル造る為に出した複製メジェ助達は十二頭もいたので、四組か。赤竜の死体は、魔石を抜いた状態で一体ずつきれいにまとめてくれてたので、チフ助達にも梱包を手伝うように伝え、私は複製メジェ助達には、ここからアルトリアまでは超高空を通って往復するよう指示しておいた。それなら地上から見上げて見つけられても何か飛んでるなくらいしかわからないだろうし。
とするといきなり町中に飛んで行かせるのもまずいか。焼け石に水にしろ、あのオークの廃村でいいや。街からもそんなに遠くないし。あ、赤竜の死体ねこばばしようとする連中もいるかもしれないから、複製赤竜、呼び名どうしようかな。レッ助だと微妙。赤助にしようそうしよう。二体もいればいいか。あーでもメジェ助の速度にはついていけないから、別行動になる?そしたら私の魔物ってわからないと大混乱か。なら、あの燃えない布にアヤって描いて複製して、うん、デザインはどうかと思うけど、識別出来れば今はいいとしよう!
私はその二頭を先行して飛び立たせてから、自分用のテントを出して倒れるように寝込んだのだった。
そして数時間後、時計なんて無い、いやステータス画面にはあったか。メダル獲得してないと次の対戦まで何日何時間ての。ただそんなのいつも確認してないので良くわからん。
「ようやっと起きやがったか」
げっそりした顔のリグルドさんがいて、なぜか怖い顔したアンガスさんまで一緒にいた。
「お小言は後で聞きますがおはようございます?」
「昨日はあれからとりあえず二頭分の死体を運んだ。メジェド・グリフォンの時でも十分大騒ぎだったが、今回はそれ以上だ。街ではなくあのオークの廃村に運ばせたのは良しとしよう」
「良しじゃない!まったくお前等ときたら。ミルケー様も、二頭の
「だから、私のだとわかるようにしておいたのに」
「いいか、ドラゴンの一頭で街一つなんて滅んだりするんだぞ?!それが二頭だ!わきまえろ!」
「じゃあ、死体持ち帰ろうとしない方が良かったです?近場の国とかに売りさばくって手もありましたが」
「・・・そうは言わんが」
「でしょう?だとしたら、いずれ似たような事は起きてたし、時間が経つほどに死体の貴重な素材も劣化したりしますよね?」
「お前の馴染みの店主達にも声をかけておいたが、確かに文句は言っていたな」
「勘弁して欲しいですね。こっちは何度も死んでてもおかしくなかったんですから」
「詳しく話を聞かせろ」
「
「ジグヴァーノだと!?まだ生きてたのか?!」
「そーいう驚きとか後回しでお願いします。ここに来た目的とか話したら、頂上の火口で溶岩の精霊オーライや、火の精霊アーライに引き合わされて、アーライを楽しませなければ即殺されてましたね。スケッチしたオーライやジグヴァーノとか、複製しまくったメジェ助達のおかげで何とかなりましたが、以上が報告です」
「何とかって何だ?」
「嵐の筒を遙か上空にまで作って、ジグヴァーノさん達のスキルの力を借りて空の彼方の果ての先にまで打ち上げて、そんなのを十回くらい繰り返して、ようやく満足してもらえましたね」
「お前は、精霊達の力まで借りるつもりか?」
「一応、貸してもらえる事にはなりましたね。機会とか対象はある程度限定されますが」
アンガスさんは、眉間の皺の深い谷間はもう放置したままで警告してくれた。
「メジェド・グリフォンやジグヴァーノの写し身まで従え、複製で増やし、
「まあもう普通の軍隊くらいならどうにかなるでしょう。突っかかってこないなら、こちらからどうにかするつもりはありませんよ?」
「お前を誰が握るかで、かなり国々の力関係も変わる。いずれいなくなると知っても、一度傾いた天秤はなかなか戻せなかったりもする」
「私は物じゃないので、誰にも握らせませんよ」
「お前が関わろうとしなくても、お前を巡って争いが起きるくらいだろう事は、お前にもわかるだろう?」
「なら、そうしたいとは思いませんけど、人の支配権の外のどこかで、勝手にそこに住み着きますよ。それで解決では?」
「そう単純な問題でも無かろう?」
「いえ、言いましたよね?数百人の間で殺し合ってると。最後の一人になるまで。私の能力的に、町中だと無関係な人達を巻き込んでしまうよりは、誰もいないとこの方が好き勝手に戦えて有利です。私は戦いが終わるまで自重する事はありません」
「リグルド・・・」
「嬢ちゃんの言ってる事は本当だ。こないだ、ミケール様とアルテラ様の絵画イベントあったろ?あの日に嬢ちゃんの同類だって連中の二人が襲ってきて、返り討ちにしたが、死体は消えて無くなったよ」
「現時点で何人が残ってるんだ?」
「400人以上。最初の十日間ちょいでだいぶ減りましたね。ちなみに、その内の一割近くの中央大陸にいる連中が徒党を組んで私を倒そうという動きも出てきてます」
「正気なのか、そいつら?普通に考えたら勝ち目なんて無いだろ」
「そう思えたらいいんですけどね。火の精霊さんは言ってました。精霊はその上位にいる七大神や、その加護を受けてる人間には手出し出来ないと。ただし上下関係に無い場合は、その限りではないみたいですけど。で、精霊の力だけでも、メジェド・グリフォンやジグヴァーノよりも上なんですよ。七大神の加護を受けた誰かが、その反抗勢力?の中に紛れ込んでたりするとかなり厄介です」
「誰がどの神の加護を受けてるのかわからないのか?」
「わからないようにされてます。少なくとも現時点までは。ただ、一部例外はいて、水のだけはほぼ判明してますけどね」
「そいつはどこにいる?」
「南の大国の方ですから、こっちからちょっかい出しに行かない限り、向こうもこっちを放っておいてくれるでしょうね」
「嬢ちゃん。王家にかくまってもらうのはどうなんだ?
「現金とかだと難しいでしょうから、
「勝手に動かれるよりはマシだな。冒険者ギルドだけでは、いきなり十体もの赤竜の死体を賄い切れないし」
「ちなみに、サラマンダーとか
「・・・普段なら放置はあり得ないが、仕方あるまい。とにかく、ここにある残り八体の
「商業ギルドとか錬金術師ギルド?とかの助けも借りればいいんじゃないんですか?さばくのも大変でしょうし」
「リグルドから全部で十体来ると言われて手配済みだ。あのオークの廃村周辺はすでに厳戒態勢にしてある」
「じゃあ、とっとと運んでしまいましょうか。あ、
「安心しろ。現状までの話だけでも十年分の頭痛の種にはなってる。自分から増やそうとは思わん」
アンガスさんの了承?ももらえたので、運んでしまう事にはしたのだけど、今いる複製メジェ助の数だと二往復になる。メジェ助や複製メジェ助を追加で出す分の魔石代くらいはギルドで持ってもらえる事になり、グリ助達も出してみんなで帰還。途中の休憩場所は気を使ったりもしたけど、まぁ無事に到着しました。廃村だった筈の元オークの村は、なんか突貫工事ですごい賑わいになっていた。いや、原因作ったの誰とか言われると自分しかいないのだけど。
着陸するとすぐにいろんな人に取り囲まれそうになったのを、アンガスさんやリグルドさんや冒険者ギルド職員さん達が押しとどめてくれた。ジョルジュさんやポルスさん達までいた。臨時バイトかな。
そんな事を考えていたら、目が血走った青竜の牙の
「お前っ!節度というものを知れ!アンガスから素材関係の仕切りをガルテラと任されてからどれだけ大変な目にあったか」
「そうよ!もっと良い状態で持ち帰って来なさいな!諸方面から大クレームよ!」
「無茶言わないで下さい。ラズロフ大火山からこれだけの量をこの日数で持ち帰って来たんですよ?文句があるなら火口の中にでも捨ててきますがそれがお望みですか?」
「バカ言わないで!」
「アヤ殿/様!」
人垣がざざっと分かれて、ミルケー様とアルテラ様まで来てた。うんまぁそりゃ来るか。これだけの騒ぎだもんね。
「どうも。アンガスさんからも詳しく話を通してもらいますが、王家にこの死体のうち二つを献上しようと思うので、お二方からよしなに話を通しておいて下さいませんか?」
「よしなにとはまた大ざっぱな」
「こちらは貴族関係の事なんて何もわからないので。それで、ここには商業ギルドとかの代表とかも来てませんか?」
「ここに。ナハザームと申します。連日の様に大商いをもたらしている存在がいると知り、王都からまかり越しました。以後お見知り置きを」
「どうも、アヤです。二体は王家に献上しようと思うので、ミルケーさんやアルテラさん、冒険者ギルドとも連携して、なるべく早く運べるよう段取りをつけて下さい。輸送は私の方で行えますから。錬金術師ギルド他との素材をさばくのは、ルグドフさんやガルテラさん達も含めて各方面と調整して下さいね」
ナハザームさんの背後には、有能そうな秘書(若めの男性)ぽい人がいて、手元の何かにメモを書き付けていて、それをさらに背後にいる数人に渡すと、彼らはどこかへ駆けていった。
それからは村の中でもまともな建物に隣接された天幕に通されて、そこで赤竜の死体の扱いを巡るあれこれの話し合いを聞かされてんだけど、いや結果だけ聞かせてくれえばいいよという訳にはいかなかったらしい。それらしい事をほのめかしただけでアンガスさんにはにらまれ、リグルドさんにもあきらめろと肩を叩かれた。
そんな会議の間に、ステータス画面眺めてると、私がレベルだけでなく、所持金でもトップに立っていた。金貨千枚でスタートした誰かが二位で先日からあまり増えてないのは、たぶん使ってもいるからなのだろう。それでも千五百枚くらいなのだけど、私のは???になっていた。たぶん
レベルもまたダントツのまま。二位から三位の面子は変わっていなかったけど、それぞれのレベルは1しか上がっていなかった。
私を集団でどうにかしようという連中は早くも仲間割れしてる感じだった。一部は怖じ気付いたけど、残りは怖じ気付いてる内にさらに差が開いたら手が付けられないって煽ってた。もう大半の人にとっては手遅れだと思うけどね。
ただ、七大神の加護を受けて目立ってるのがまだ一人しか判明してないのが怖かった。羊の皮を被って集団の中に潜んでがぶっと噛まれるとか、洒落にならないかも知れない。特に「時」とか。加護スキルが時間停止とかだったら、どれだけ手勢を増やして警戒を厚くしても意味を為さない。どうしたもんだかと思ってると、天幕の会議テーブルの上に一人の女性がいきなり現れた。
リグルドさんが反応して私を引き離し、その相手に切りかかろうとしたのを、私は「待って!」と急いで止めた。リグルドさんの剣のきっ先はすでにその女性の首筋に触れていた。危なかった。いや、うん。結果的に言うと、殺してもらっておいた方が後々の面倒が減ったかも知れないのは事実だとしても。
顔見知りのその女性はテーブルの上にへたりこむとがたがた震えだしてしまったので、
「会議は中断します、というか私抜きでも進められる事は進めちゃっておいて下さい。私に悪いように進める人がいるとは思ってませんから」
とでも言っておけば良いだろう。そうしよう。
私は天幕に隣接した家の一つにその女性を連れ込んだ。もちろんリグルドさんはついてきた。グラハムさん達は戸口の外で見張りだ。
「お久しぶりというほどではありませんが、ご無事?そうで何よりです、桜田先生」
そう、この人は私のクラスの担任の女教師。ほぼ新任な感じの。
「あ、あはは、あまり無事でも無かったんだけど」
「それはみんなそうでしょうね」
「そうだったね。ええと、七瀬さん、あなたに助けてもらいたくて来たの!」
やっぱりそう来たか、と思いつつ、私はどう対処しようか考え始めていた。
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