エピソード:20 ラズロフ大火山にて(初日)
異世界に拉致られて十日目。アルカストラから南西方向に足かけ一日ちょい休み休みグリ助達で飛んで、ラフズロ大火山中腹に到着した。
富士山とは違い、火口が中腹から頂上にかけていくつも存在する。それぞれヤバめの魔物とかの縄張りになってるらしく、一番下の所から確かめていく事にした。上空から近寄るといきなりドラゴンとかに絡まれるらしいので、徒歩で!
予想してた通りだけど、暑い。ずっとサウナに入れられながら、顔の両脇からトライヤーを吹き付けられてる感じ。一応、耐熱や耐火装備も準備してきたけど、気休めって感じだった。
最初の火口に近づくにつれ気温も熱気も上がっていき、点在する溶岩だまりの中にサラマンダー達がたわむれていた。大きさは、えーと、地球産のワニの五倍くらいで、外見はサンショウウオぽい何か。真っ赤なまあるい瞳がチャームポイント。歯も何を食いちぎる為なのか鮫も真っ青な鋭いのが何列にもわたって揃ってた。
「めったな事じゃ、冒険者はここには来ないから好きに狩れ」
とリグルドさんには言ってもらえてたのだけど、理由はすぐに明らかになった。サラマンダー、炎ははかないのだけど、口に含んだ大量の溶岩を吐き出して飛ばしてくるのだ。十メートル以上の距離を、鉄砲魚みたいな勢いで。いやあそこまで早くはないにしろ、角兎の突進よりは早い。つまり普通の人なら見てからよけるのはけっこうぎりぎり。さらに、溶岩の中にたむろしたまま攻撃してくるから、こちらからの攻め手も限られてしまう。
うん。普通なら避けて通っておしまいにするよね。普通なら。メジェ助は出すと目立ち過ぎるかも知れないので、グリ助達に溶岩鉄砲が当たらない距離から風の刃で攻撃させつつスケッチ。とりあえず二体分描けたところで実体化。グリ助に夢中になってた相手の両脇から首筋に噛みつかせてみたら、ごっそり首回りのお肉が食いちぎられて一撃でダウン。
こりゃいいわとサラ助1と2から三体ずつ複製し、溶岩溜まりにいたサラマンダー達に喧嘩を売らせて、上空からも風の刃を打ち込みつつ、サラ助達にとどめをさしていってもらい、死体をマグマ溜まりの外へ運び出してもらった。
十匹狩ったところで、チフ助と祈助とトン助1から4にも出てもらい、魔石を取り出してもらった。経験値はグリフォンとほぼ同じ50。寄り道で得た経験値とかもあって、レベルは19まで上がった。レベルアップボーナスのステータスポイントは保留しておいた。
最初の火口にいたのは、小ボスっていうのかな。ギート・サラマンダー。大きさは通常のサラマンダーの大きさの2倍以上。サンショウウオっぽさに、ワニのワイルドさをミックスしてみましたって言ってもあまり伝わらないかもだけど、異世界の生き物ですよ?角兎だって兎ではあるけど、もふもふかわいいってよりは、しゅびっと精悍な顔つきしてるし。角を木の幹にこすりつけたりして研いでる姿はかわいいけど。
とりあえず数の暴力に任せる感じを装いつつ、火口中央からなるべく岸辺の方に引き寄せようとした。グリフォン達の助勢もあってそれは成功しかけてたんだけど、ギートの野郎は炎を吐いた。それはしっかりとサラ助達にもダメージが通るし、サラマンダーの倍以上の射程があったからグリ助達の羽や尾にも火がついたりして、私は加護の修繕スキルを使って治したりした。
ギートはなかなか全身を現してくれないのでスケッチも進まず、このままでは埒があかないと、私はメジェ助1と2を実体化。風の鎧を纏いながら、ギートの背中を二体で掴んで火口の外へと運び出してもらった。
その後は、火口へと必死で戻ろうとするギートをメジェ助達で牽制しながら、スケッチをまた二体分終えたら、彼らを実体化。さっきと同じく首筋に噛みつかせてみたら、ちゃんと食い込んでダメージも通ってる風なんだけど、じたばた暴れて死にそうになかったので、メジェ助の風の刃でトドメを刺してもらった。
実体化してみたギート・サラマンダーのステータスはこんな感じ。
生命力:20
力強さ:17
器用さ:5
素早さ:8
知性:9
HP:200
MP:90
スキル
溶岩吐き(消費MP1):周囲の溶岩を飲み込んでから勢いよく吐き出す。周囲に溶岩が無いと使えない。
炎の息(消費MP4):自分の体長の2倍くらいの距離に炎の息を吐きかける。吐いている間は呼吸できないのでずっとは続けられない。
噛みつき(消費MP3):対象に鋭い刃で噛みついてダメージを与える
普通のサラマンダーのステータスはこんな感じ。
生命力:16
力強さ:12
器用さ:3
素早さ:4
知性:4
HP:160
MP:40
サラマンダーには炎の息のスキルは無かった。じゃあ溶岩が無ければ無力かっていうと、側に寄るだけでもすごい高熱を放ってるので、普通はためらう以上のレベルで近寄れない。肌もぬめぬめすべすべしてるぽい軟体質で、輝人が使ってた短剣だと切れも突き刺せもしなかった。
メジェ助の風の刃で切り裂かれたギートの体の断面から見えたお肉が美味しそうに見えたので、適当な大きさの岩をグリ助の風の刃で上下に切ってグリル台にして、リグルドさんに切り分けてもらったお肉を置き、ギー助にグリル台を炎の息で熱してもらって焼いた。結果、大・正・解!
「これ、元の世界の牛肉とかよりおいしいんじゃ?」
「かもね。小ボスみたいな存在だったから特別なのかも知れないけれど」
「実家の生活でも、味わった事が無いくらい美味ですね」
「冒険者生活してれば味わえるかも知れない食材の一つだろうな。1キロくらいの塊が金貨数枚、いや十枚くらいはいくかもな」
「は~。毒蟲の糸の店主さんから、ここに来るなら素材も採ってこいってそれ用に魔法の鞄も貸してもらいましたけど、これ持って帰ったら怒られるでしょうか?」
「頼まれた分のを持ち帰ればとやかく言われないが、肉の一部は奪われるだろうな」
「じゃあ、ミルケーさんやアルテラさん、それから青竜の牙の若旦那さんとかにも持ち帰ってあげましょう!」
「まぁ、魔法の鞄の中なら時間経過もだいぶ遅くなるっていうから、ある程度確保しておくのはありだろうな。だから、俺にも」
「みんなでお裾分けですよ!身内に対してだけですけどね」
ギートのいろんな部位のお肉を数キロずつ切り離してもらったら移動だ。牙とか目玉とか素材になりそうな物の一部も採取しておいたけど。
次の火口へ向かって行くと、そちらにいたのは、マグマ・ゴーレム。こちらは溶岩とか炎を飛ばしてくる訳ではないけど、サラマンダー以上に近寄るのが大変で、スケッチが終わった後は、メジェ助に風の刃で縦横十字に切ってもらって体内の魔石を分断して倒した。手足を切り飛ばしても普通にまたくっついてしまうのはなかなかに厄介だった。味方にすればいろいろ便利というか心強い存在だけど。
マグマ・ゴーレムはいちいち相手にしてられない(実体化したのと戦わせてみても、文字通りの泥試合にしかならなかった)ので、一気に火口へショートカット。そこにいたのは、ジガド・マグマ・ゴーレム。うんまぁ、さっきと同じく通常のより2.5倍くらい大きくて、炎を吐いてくる代わりに、マグマを丸めたのを投げつけてきた。なんていうか、大昔の野球マンガならあったと思われる燃える玉そのまんま。バット振って当たったとしても大惨事にしかならなそうなのが違い。
これもマグマの中ならではのスキルぽかったので、スケッチをしつつ、メジェ助達に嵐を起こしてもらい、ジガド・マグマ・ゴーレムを火口上空まで吹き上げてもらった。しばし空中でぐるぐる回してお手玉してもらいつつ、スケッチを2ページ終えた後は、嵐を両側からぶつけて体をばらばらにして、魔石を取り出し、空中でグリ助にキャッチしてもらってエンド。
足はあまり速くなさそうなので、まだ実体化はしないでおいたけど、マグマが無いところでも肉弾戦相手なら無双しそうだなと想像できた。魔石の位置ずらしとか任意で出来るのならさらに難敵化するだろう。いや、スケッチから実体化したのとか複製したのには、その弱点が無いのだった。
だんだん面倒になってきたのもあって、次の火口のはでっかい溶岩鰻ぽかったのでスキップ。あれはやるとしても晩ご飯のタイミングにした。悲しいかな、ご飯は無いのだけれど!
次の火口高さは七合目から八合目辺りに達していた。つまり富士山1.5個分くらいの高さ。酸素薄くない?とか高山病とかの類は、準備しておいた便利魔法グッズで回避して無問題でした。
問題は環境面というよりは、魔物。七、八合目辺りからは飛竜やドラゴンの縄張りに近づいてる事にあった。
飛竜はほぼグリフォンと同等な存在だけど、ここにいるのは、
なにせ群れてくるから、こちらも複製で対抗。複製グリ助や複製メジェ助達でばちばち戦ってぼろぼろと撃墜してると、兄貴こいつですぜやっちゃってください、て感じで連れて来られた観のある小ボス以上中ボス未満くらいの相手がやってきた。
でっかくした炎飛竜としか言いようが無い。いや、鼻先に小さな角がついてるのが違い?そんな残念感が漂ってたけど、炎の槍みたいのを飛ばしてきた。速度はそこそこだけど、弾丸並に速い訳じゃないから、グリフォン達なら余裕でかわせた。地上でうろちょろ歩いてたらちょっとかわすのは大変そう。
メジェ助達には、遠巻きに相手しながら雑魚炎飛竜達を刈り尽くしてもらう事を優先してもらい、こいつもまた2ページスケッチし終えてから実体化。名前は、ヌベラ・ワイバーンていうらしい。ステータスは、メジェ助とグリ助の中間くらい。名前まで残念だったとは予想外だった。
オラオラどうした逃げ回ってるだけかよ!?とかイキってた相手が、どんどん手下を減らされていなくなってびびり始めて逃げ出そうとする直前くらいに、その背後にヌベ助二体を実体化。ヌベラ・ワイバーンの両翼を足で拘束して、身動きの自由を奪った状態で地面へと急降下。地面に激突させた直後にメジェ助達の風の刃で首を切り離してゲームセット。
うむ、やはり次の関門は、メジェ助達でも叶わないような相手が出てきてからだな。
それはともかく、炎飛竜だけで二十体以上撃墜してたから、魔石を取り出すのも大変だった。
MP的にも精神的にも疲れてたので、魔石採りが終わったら、炎飛竜の数体とヌベラの死体を持って、山の中腹の方へと後退。
また適当な岩でグリル台をこさえたら、炎飛竜とヌベラの焼き肉を食してみました。脂身が少ないヘルシーなお味。鶏豚牛で言うなら鶏が近いのだろうけど、固めであまり美味しくなかった。ちなみにヌベラは雑魚炎飛竜のお肉より美味しくなかった。死んだ後まで残念な奴だった。食べられる方はヒドい言いがかりだと憤ってるかもだけど。
食直しとして、溶岩溜まりの一つにいたサラマンダーを狩って食べてみたけど、こっちのがまだぜんぜん美味しかった。ギートと比べれば一二枚落ちたけど、炎飛竜とかに比べればこっちのが比較にならないくらい上だった。
ちなみに炎飛竜の皮とかは耐火耐熱装備としてそれなりのお値段になると聞いたので、チフ助トン助達に夜なべして剥いでもらった。それで全身を覆えるクロークみたいのを全員分とか以上、グリ助達の分まで、メジェ助達のはヌベラから採って裁断?してみた。何せ翼があるし、機動力を損なっては本末転倒だから、頭から首、胴体の一部をカバーする貫頭衣もどきだったけど、炎のドラゴンとやり合うようになるのだから、必要な装備だった。
サラマンダーとギートを狩って19まで上がっていたレベルは、マグマ・ゴーレムとジガドを狩って20に。炎飛竜20体とヌベラを狩った事で26まで一気に上がった。割り振れるステータスポイントは10も貯まった。ここでの10は非常に大きい。
レベル16からボーナスポイントを割り振ってないステータスはこんな感じ。
レベル26(+10)
生命力:5
力強さ:3
器用さ:7
素早さ:10
知性:10
HP:50
MP:100
明日からは、おそらく
器用さは初期ステータスが7と高かったからずっと放置してきたけど、速さと丁寧さを混在させるのなら、引き上げておいた方が良いだろうと判断。10まで上げる事にした。
残り7の配分は、思い切って素早さに5、知性に2加える事にした。中途半端に生命力に振っても、ドラゴン・ブレスの直撃を受ければたぶん生き残れないしね。
ステ振りした結果はこうなった。
レベル26
生命力:5
力強さ:3
器用さ:10(+3)
素早さ:15(+5)
知性:12(+2)
HP:50
MP:120
ランク5が見えてきた。明日は雑魚ドラゴンがいたら、それをなるべく多く倒して、ランク5に到達すれば、またいろいろかなり楽になる筈。
寝る前には、メジェ助を2体、チフ助とトン助達と祈助達の複製を2体ずつ作ってから、対炎竜用決戦兵器とも言える特性バリスタと氷属性の氷結の呪いがかかったボルトを可能な限り複製した。
寝付く直前、リグルドさん達は交代で不寝番すると言った。止めなかった。
「昼間は何もしてなかったに等しいからな」と言ってた通り、クロスボウはいくつか調達して複製したボルトでかすり傷でも負わせて経験値を割り振れないか試したりもしたけど、リグルドさんは辞退してたし、グラハムさんは扱えず、オールジーさんは時々がんばってたけど、サラマンダーにしろマグマ・ゴーレムや他の魔物も、へなちょこボルトでダメージを与えられるような相手では無かった。
輝人は頑張ってたけど、首を左右に振ってたから、ろくに稼げてなかったのは分かった。
「レベル、いくつにまで上がった?」
とリグルドさんに質問されたから、素直に答えた。
「今日一日で16から26まで上がりました」
「そうか。予想してたとは言えすごいな」
「そうなんですか?」
「ああ。第一な、サラマンダーにしろ、ソロで狩れる冒険者自体がまず存在しない。パーティーの規模はぴんきりだが、ここにわざわざ来るようなのだと4ー5人くらいか。つまりそれだけで、経験値の量は目減りする。さらに、倒すまでにHPやMPやアイテムの類だって普通は消耗する。お前みたいにあんな連戦は普通の連中は出来ない。魔物をテイムして戦わせてる場合は、そのマスターと魔物で分配する形になる。だが、話を聞いてる感じだと、その分配も起きていない。なぜなら、お前が実体化してる魔物達が、その都度消える存在だからだろうな」
「でしょうね。私には都合が良いですけど」
「MP的にはずっと残り続けた方が都合が良いだろ」
「それも場合によりけりです」
「まぁ、本番は明日以降だな。ゆっくり寝ておけ」
「ありがとうございます。お言葉には甘えさせてもらえます」
こうして私はラズロフ大火山での初日を終えた。
この夜、中央大陸掲示板も全体掲示板でも、私のレベルアップは話題の中心になっていたらしいのだけど、私は読まずに済ませていた。私の包囲網が少なくとも数十人以上のプレイヤーの間で組まれ始めてるかもという警告は、翌朝輝人から受けたのだった。
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