エピソード:15 従属の仮面や、リグルドさんとの訓練など
疲れたので報告とかは明日以降にさせて下さいと言っても聞き入れられず、ギルマスの部屋へと連行された。なんか流れ的に、もう一つのグリフォンの卵は私が抱え、職員さん達に周囲を囲ってもらいながらギルマスが人垣をかき分けかき分けて、ようやくギルマスの部屋についた頃には、全員が疲弊していた。
「メジェド・グリフォンの巣の位置を特定して、下準備をして、倒しました。卵以外の幼体とかは殺したけど、死体は放置してきました。いちいち運んでられなかったので。報告は以上です」
「雑だな」
「どうせそれ以上の詳しい話を報告する義務を負ってるのは、私じゃなくて、そこの金等級のリグルドさんでしょう?」
「そうとも言えるがな。とりあえずは大役ご苦労だった。今回のメジェド・グリフォン討伐と、お前の能力込みで、少なくとも金等級、あるいはその上までに上げるようギルド全体に問い合わせを回している」
「まぁ、もらえるものはもらっておきますが、変な義務は負いたくないですからね?負わせようとするなら逃げますよ?」
「金や白金に上がったとしても、強制依頼などはほとんど発生しない」
「ほとんどというのは?」
「戦争などにはよらない、魔物の大量発生などによる街の危機とか、そういった類だな」
「頻繁には、起こらないですよね?」
「小さな村の危機といったものに金以上が出向く事はまず無い。銀以下でたいていはかたがつくからだ。グリフォン一頭とかで銀等級の1パーティーで相手取れるかどうかってとこだな」
「金はそれを一人でこなすくらい。その上はその上を相手取れるかどうかって事ですね」
「そんなところだ。だから規格外の連中が多いし、大国は囲い込みにも熱心だ。お前にも話が来ると思うぞ。冒険者登録をして四日目でこれだからな」
「以前にもお話ししたかと思いますが、私はずっとはいないと思いますので。先の事はわかりません」
「一時的にでも力関係を傾けられればと思う向きも少なからずいるだろうよ。そのグリフォンの卵も、とっとと領主様に献上してしまって扱いを放り投げた方が無難だ」
「追加報酬さえもらえるなら、私はそうしてもやぶさかではありませんよ。片方のグリフォンに関わる権利には、リグルドさんが持てる様に調整してもらいますが」
「リグルド、お前、そんなに活躍したのか?」
「いやぁ、メジェド・グリフォン戦にも無理にお願いしてちょっぴりとだけ参加させてもらったが、活躍という意味なら皆無だな」
「ならどうして卵の権利を?」
「この嬢ちゃん、狙われてるんだろ?これからいろんな意味で危なくなるのも間違い無い。で、護衛役みたいなのを引き受ける代わりに、この卵に関わる権利をもらったって感じだ」
「・・・・なるほどな。抱き込まれた訳だ」
「人聞きの悪い」
「餌に釣られただけだ。グリフォンに乗せてもらえばわかる。あれはすばらしいぞ!」
「想像は出来た。お前が釣られた理由がな。まぁ、悪い人選では無いだろう。これから先、アヤの護衛がグラハムとオールジーだけだったら、若干不安だったからな。魔物をある程度好きに出し入れ出来るにせよ、いつでもどこでもという訳にもいかないのだろう?」
「そんな感じですね」
「グリフォンの追加四頭分とメジェド・グリフォン討伐、それから卵が二つの報酬。期待しておけ。それだけ身辺が危うくも成り得る。隣町の領主筋からの接触なども来るだろうしな」
「きなくさい感じなんですよね?」
「先方の当主が、というよりその周辺がだがな」
「そこら辺はまた追々って感じでお願いしますよ。とりあえずは宿で休ませて下さい。あ、メジェド・グリフォンの素材の取り扱いに関しては、毒蟲の糸と調整して下さいね」
「わかってる。騒ぎを聞きつけて、死体を見せろともう乗り込んできていた。
それはさておき、リグルド。お前は今からでも宿を移れ。倍の金額を払ってでも隣の部屋を取ってそこで警戒しろ」
「タダで俺を使おうってか?」
「逆だ。お前がグリフォンの卵を好きに出来るだけの理由を作れと言ってる。権利者はあくまでもアヤ本人だ。アヤに何かあれば、卵は当然、領主かその上に召し上げられるだろうよ」
「それもそうか。じゃあ早速移動しよう!」
私達の部屋にベッドは一つ空いてたけど、そこに泊まらせるのもどうかと思ったので、そこに卵二つを置いて追加の毛布などでくるんで、万が一にも転がり落ちないようにベッドメイクもした。
リグルドさんは、無事、隣の二人部屋を抑えた。
1階の食堂で夕食を共にした時には、いろんな人が話しかけてきて、私がフリーならとナンパとか求婚の数もすごすぎて、最初の料理を胃に流し込んだ後は、部屋で食べさせてもらうよう給仕の人にお願いする始末になった。
「宿は、もっと高級なところに移った方がいいかもな。とはいえ、領主様から館にお招き頂いて、そこで賓客扱いを受ける可能性もあるから、方向性としてはとりあえず待ちでいいだろ」
「じゃあそれはそうするとして、大事な話を済ませておきましょうか」
「アヤ、お前が誰に狙われてて、どんな戦いを強いられてるか、そういう話か?」
「はい、そうです。先ずは、私とその他の人達が異世界から集団拉致されてきたってところからなんですがね」
「異世界ねぇ・・・」
一通りの事情は説明したけど、スケッチブックを見せての実演はまだしないでおいた。なんと言っても昨日会ったばかりで、領主とかその上のつながりとかも見えてなかったから。
「あのマグナスとか、一緒に居たハタノって老人との話もあったから本当の事なんだろうけどよ。主神を選ぶ戦いとか、またやっかいな物に巻き込まれたな」
「全くです。良い迷惑ですよ」
「で、護衛する身としては、お前さんに何が出来て何が出来ないのか、もっと詳しく知っておきたいところなんだが」
「あなたが、この街の領主やその上とどんなつながりがあるのかわからない内は、話すのは怖いですね」
「ふむ、警戒できるだけの用心深さがあるのは良いな。バカな奴は護衛するにも苦労が耐えない。俺はこの国の雇われではない。何か有事の際には優先的に王家の依頼を受けるよう頼まれてるくらいだ。それは各街の領主達も知っている事だ」
「今回の付き添いは?」
「ほぼ偶然だ。王家の依頼じゃない。でも、メジェド・グリフォンを倒したとか、グリフォンの卵を二つも手に入れたとか、確実に王家の耳に入る」
「でしょうね。街の皆さんのはしゃぎ具合を見て、何となく感じました」
「お前、魔物とか出す時、一秒くらいの間があるだろ?」
「さすがですね。その一秒の間があれば、私を殺せる人達もいるでしょうね。だから、あなたが信頼できる相手と判断できたなら、短剣の扱いを学ばせてもらおうかと思ってました」
「最初の一撃か二撃くらいを防げれば、後はたぶん何とかなるだろうな。魔物とか出すのに魔力を使ってるんだろう?魔石はギルドに売ってないって話だから、そこからも魔力を取り出せているはずだ」
「そうですよ。魔石は、特に魔力含有量が多い物ほど、私の生命線になります」
「それはそうだろうが、大きい魔石はそれなりに重い。肌身離さずっていっても量とかに限度はあるだろ?」
「マジックバッグみたいなの、売ってませんかね?」
「容量とかにもよるが、けっこうするぞ?」
「重量半減とか、普通の背負い袋の中身が2ー3個分入るくらいのでいくらくらいしますか?」
「重量三割減くらいの背負い袋でも金貨百枚くらいはする。背負い袋複数個分入るくらいのなら、金貨二、三百枚くらいか。馬車一個分くらいのが入るのだと、五百枚以上はするな」
「グリフォンの卵一個と交換て感じで領主様とかがプレゼントしてくれませんかね?」
「んー、まぁ、それなら釣り合うかもな」
「じゃあギルマスとかに相談してみます」
「それはいいが、金塊を背負って歩いてると宣伝してるような物だからな。持ち主と出所がはっきりしてる分、特に狙われやすくなる」
「一年未満くらいもてばいいので。リグルドさん、信用できそうですしね。護身術というか、短剣の扱いとか、教えてもらえません?」
「明日からの空き時間で良ければな。場所は選ぶ必要があるだろうが」
「明日はちょっと出かけないといけない場所があるので、そこででも」
「わかった」
「それと、卵は置いていけもしないので、ギルマス経由で領主様に預けておきません?いつ卵が
「俺はむしろ付きっきりで餌の世話とかもしたいんだが」
「誰が餌の調達をするんです?」
「そんなのは適当な依頼をギルドにしておけば、どうにでもなる」
「だとしても、あなたは私の護衛です。断るなら、卵に関わる権利も無くなります」
「わかってるよ、まったく」
卵は、ダチョウの卵よりふた周りくらい大きいと言えば伝わるだろうか。ピンクがかった紫色と、青みがかった紫色の卵で、青みがかった方のをリグルドさんは選んでいた。
彼が自分のと愛でる卵をひとしきり撫でたり抱いたりさすったりした後は自分の部屋にお引き取り頂いて、私達も休む事にした。グラハムさんは、ドアの前に毛布とかを敷いてそこに横になって眠る事にした。
部屋の灯りを落としてから、私はステータス画面や掲示板やメッセージなどを確認した。メジェド・グリフォンを倒した事で、私のレベルはまた1上がっていた。1個前のレベルが上がった時のステータスポイントと併せてまだ保留にしておいた。
私のレベルはまだトップのまま。所持金額でもトップ3に食い込んでいたので、私の掲示板スレッドはお祭り状態だった。とても「本人です」とか入っていけそうにない雰囲気。いきたくもないし。
気になって探してみたけど、校長のスレッドは一応あったものの、安否を気遣うような書き込みが一部教師からあっただけだった。メッセージに応答して下さいとか、今どこにいるんですかとか、そんな感じだ。あえてそこら辺教えるつもりも無かったけど、やはりご当人気づいてないか使うつもりが無いのだろう。
翌日。やはり部屋で朝食を採って、ギルドから応援の人を呼んでもらってから卵を預けさせてもらい、また諸々色々買い込んでから、輝人達がいる場所へと向かった。
元オーク達の村から少し離れた小川の側に二人はいた。とりあえずの挨拶は軽く流した後、私は完全装備でクロっちに向き合い、輝人に彼女を背後から拘束してもらってる状態で、彼女の目隠しを解いた。
当然だけど、彼女は乾坤一擲という感じで魅了スキルを使ってきた。こないだよりもだいぶ強力でもあったのだろう。状態異常を防ぐローブを、複製二枚を含めて三枚も重ね着した甲斐があった。おかげで暑苦しくてかなわない。
私はおもむろに服従の仮面を取り出して彼女の顔面に被せた。すると仮面の後ろから骨の
絶叫がいつまでも止まないので、猿ぐつわというか適当な布を口の中に押し込んでから、命令文を流し込んだ。
「黒田茜。あなたは、私、七瀬綾華や伊藤輝人に逆らえない。ついでに秦野校長にも。あなたは私にも伊藤輝人にも秦野校長にも敵対出来ない。あなたはあなたの得ている加護も、所有しているスキルも、私や伊藤輝人や秦野校長に使えない。ただし、秦野校長に対してだけは、彼があなたを先に攻撃してきた場合のみ、あなたは彼に反撃出来る事とします。
さらに、あなたはその加護を得た神から与えられた力も、魅了スキルも、私か伊藤輝人の許可無く使ってはならない。使った場合は、最悪、あなたを殺します。あなたからの異議は認めません」
とりあえずこんなところかなと一区切りしたのだけど、いつまどもうーうーウルサいので、
「黙れ、わめくな」
とも付け加えておいた。わめこうとした後に、壮絶に苦悶して地面を転がり始めたので、まぁ、仮面による責め苦が与えられてるのだろう。
さすがに人としてどうなのかとか思わないでもなかったけど、ね。
「じっと、おとなしくしてろ。逆らうな」
ここまで付け加えて、嫌々ながらも体育座り姿勢になって、頭をぐるんぐるん振り出した。止めたら膝に頭を打ち付け始めそうだったので、とりあえずそのままにして、ちょっと離れたところで輝人と話そうと思ったけど、最後に付け加えておいた。
「自傷も自殺も禁止。あと、あなたに加護を与えた神様信じる事も禁止しておきます。メッセージや掲示板で誰かに今の自分の状態を知らせる事も助けを求める事も禁止。私と伊藤輝人、あとここにいるグラハムさんとオールジーさんとリグルドさんの言う事には従う。いいね?」
仮面で表情は読めなかったけど、本当は全力で反抗したかったんだろうけど、最後には、
「はい」
と返事したので、私はその場を離れた。輝人には手振りでついてくるように伝え、グラハムさんとオールジーさんにはその場に残ってもらった。リグルドさんは私の護衛なのでついてきてもらった。
「やっぱり、殺しておいてあげた方が良かったんじゃないの?」
「そう思わないでも無かったんだけどね。今日も目隠し外した途端にあれだったから、と言い訳しとくよ」
「まあ、気持ちは分かるけど。それで、例外に秦野校長を含めたのはどうして?会ったの?」
「それが、私がこれから話そうとしてる事」
私は、昨日と一昨日にあった事を輝人に伝えた。輝人もやはり衝撃を受けたようだった。
「だから、他のどこへ行くにしても西はたぶん無いし、行ったとしても絶対に秦野校長のいるとこを大回りに避けておいた方がいいと思う」
「わかった。絶対に忘れないよ。アドバイスありがとう。にしても、前回の参加者の勝者がまだ生き残ってるなんてね」
「うん。秦野校長の側にいたマグナスは、激ヤバだった。ドラゴンにも喧嘩売れるってくらいのメジェド・グリフォン達がびびってたから。私も絶対に敵対したくないって思った」
「相当な使い手なんだろうね。前回の優勝者がその後も500年も修行してたら、とんでもない存在にもなるだろうさ。こっち来て五日目のあや、七瀬さんでさえとんでもなくなってるんだから」
「かもね。レベルは少なくとも数百って感じだろうな」
「とてもかないそうもないね。で、さ、黒田さんについてなんだけど、このままだと来月分として消費する前に、誰かに殺される事にならない?」
「そうだね。一枚のメダルも得られないままで、レベル1のまま、戦闘を一度も経験しないままだったら、他の誰かとランダム対戦で当たった時に殺されちゃうかもね」
「何か策はあるの?」
「んー、あると言えばあるよ。掲示板とかランキング見てる?」
「もちろん。七瀬さん、レベルでトップだし、掲示板でも盛んに議論されてる話題の一人だから」
「悪目立ちしてるなら、これ以上の差をつけられる前に、集団で何とかボコっておこうって動きが出てきてもおかしくない。それを迎え撃とうかなと思ってる。いざとなったら、私から探しに行って倒したり、ここに拉致してきて黒田さんに倒させても良い訳だし」
「なんかもう、やりたい放題だね」
「命かかってるからね。自重はしないって決めてるんだ」
「そうだったね。で、そこの人は新しく護衛に雇ったの?グラハムさんよりもずっと強そうだけど」
「うん。金等級の冒険者のリグルドさん。護身術というかちょっとした戦いに慣れておかないと危なそうだから」
「そっか。そういう目的なら、ぼくの方が役に立てたかも知れないのに」
「輝人ともいずれは戦う機会が来るかも知れないでしょ?そんな事情と無関係な人の方が、訓練相手には向いているよ」
「かもね。伊藤輝人です。もし七瀬さんがデスゲームとは無関係な有象無象に殺されたりしたら、ぼくがあなたを殺しに行きますから」
「リグルドだ。まぁ、嬢ちゃんは目立ち過ぎてこれから大変そうだが、何とか守ってやる。自身のユニークスキルが使えないとかって特殊な状況にならん限り自分で何とかするだろうが、気づかない内に襲撃されて死んでたってのが一番ヤバい。殺されてなくても、気絶させられるとかな。で、一つ付け加えておくなら、お前程度に俺は殺されんぞ。多少はやるようだが、思い上がるな」
「はいはい、そこ煽り合いストップ。私が訓練できる時間も限られてるんだからね。二人は私が疲れて動けなくなったらじゃれてていいから。ただし、本気の殺し合いはダメだからね!」
「へーへー。雇い主さんの言う事は聞きますよ」
「ぼくも、七瀬さんの言いつけは守るよ」
そんな訳で、どんな訓練から始めるかと思ったんだけど、
「どの程度感じて、反応できるか、テストだ」
正面の1.5メートルくらい先にいて剣も抜いてなかったリグルドさんが、次の瞬間には私の背後に居て鞘を私の首筋に当てていた。
「感じられたかも知れないが遅すぎだ。死んでたぞ」
「まいったなー。もうちょっとは反応できるかと思ったのに」
「金貨数百枚から千枚が動くレベルになると、無法者でも一流どころが出てきてもおかしくない。そうなると、一瞬でも反応して、少しでも致命傷を避けられる可能性を生み出せるかどうかで、生死が分かれる。お前も言ってた、最初の一秒を稼げるかどうかだな」
「その通りだね。もう一度お願い」
「武器を構えろ。勘でもいいから動いて反応してみせろ。その積み重ねが一瞬を購うかも知れないからな」
私は短刀を実体化し、両手で持って構えた。
「いくぞ」
今度は左へステップを踏み、右へさらにステップを踏んだところで攻撃してきたのを、短刀で弾けた。
「やった!」
と思わず浮かれた時には、鞘で後頭部を叩かれていた。ぶっ叩かれたというほどではないけど、確実に痛かった。
「格下をなぶる時に格上がよくやる手だ。わざと相手が反応できる速度でしかけて油断させておいてから、本来の速度に一瞬で引き上げてしとめる。経験しておいて良かったな」
「ううぅ、本当にそうだとしか思えないのが悔しい」
「いつまでもうずくまってるな。時間が無いんだろ?」
「そうだね。次、お願いします!」
今度はゆっくり上からふりかぶられたのに合わせて短刀を上に上げたら、一瞬で加速してすれ違いざまに横腹を鞘で叩かれた。吐くかと思ったけど堪えた。
悔しくて、保留してた2ポイントを使って、素早さに2入れて10まで引き上げた。これまでよりは反応速度も体の切れも上がったと思う。それでも剣の動きに集中し過ぎて足をかけられて転ばされ、首の側に鞘を突き立てられた。
そんな感じで、およそ一時間。私が疲れ果てて立てなくなるまで、五十回以上は殺されたんじゃなかろうか。
「まるで見込みが無い訳じゃない。嬢ちゃんの場合は、最初の数撃だけしのげば後はなんとかなるだろうからな」
「ええ、なんとか、します・・・、でもいまは、休ませて」
あちこちを鞘で叩かれもして、地面に伏せて休んでると、ずっと我慢してきたのだろう輝人が進み出てきた。
「木刀、出せる?」
「武器屋に無かったから無理。長剣で我慢して」
「仕方ないか。今度自力で作っておくよ」
私は、スケッチから何の変哲も無い、両刃の西洋直剣、いわゆるロングソードを実体化して、輝人に渡した。
輝人は、竹刀を構えるようにロングソードを両手で構えたけど、構造も重さもまるで違うのだから、かなりやりづらい筈だけど、それなりに様になっていた。
「寸止めでいいな?」
「はい」
そこから、二人の姿が消えた。素早さのステータスを上げた事で、私にも何となく目で追う事は出来たけど、あれに体の動きごとついていくというのは無理そうだった。
ステータスはたぶんリグルドさんの方がずっと上でも輝人は十分立ち合っていると言えるほどにくらいついていた。
私なら食らっていた振り下ろしと振り上げと見せかけた軌道変化からの横薙とか、三連突きの三発目に微妙にディレイがかかって、受け側の反応によって突き先が変わったりとか、どうやって実現してるのか分からない四方向からの同時切りつけとか、私なら一秒も保たずに殺されてたろう攻撃を、輝人は半分以上は反応して1/4くらいは弾き返し、1/8くらいには反撃まで繰り出していた。
剣の才的には十分以上匹敵するものを持っているのだけれど、ステータスが圧倒的に足りていない。そんな二人の立ち合いは、十以上の有効打を浴びたと判断した輝人が剣を引いて区切りをつけた。
「すごいですね。こちらがいつも使っていた刀では無いにしろ、
「いい線いってると思うぜ。なんせ、お前と俺じゃレベルが30以上は軽く違うのに、本気でやったとしても5秒は倒すのにかかってただろうよ」
「鍛えて、レベルも上げて、また挑ませて下さい」
「おうよ。歓迎するぜ。お前みたいのと時々剣を合わせないと鈍る一方なんでな。そろそろ体力回復したろう、嬢ちゃん。再開するぞ」
「う~~~、自分から頼んだ事とはいえ、やるしかないとは言え、痛いものは痛い!」
「痛いで済んで幸せだと思っておけ。痛いと感じられる内は生きてるからな」
その日、私は訓練の中とはいえ、都合百回以上は死んだだろう。
昼下がりまでぼこぼこにされて宿に戻ると、客人が来ていた。北の隣町の領主、アルテラその人がいて、私なんかに頭を下げて頼み込んできた。
「力を貸して下さい。この街との戦争を避ける為に」
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