エピソード:14 西の山裾に居た者

 メジェド・グリフォンを倒した後、落下地点までチフ助達をメジェ助達に運ばせて、複製トン助達も出し、ベースキャンプまでの輸送を頼んでおいた。もちろん、魔石は先に回収しておいたけど、オーク・チーフが子供の拳大の大きさ、グリフォンの成体のが大人の拳を二つ合わせたくらいの大きさだとすると、メジェド・グリフォンのはバレーボール大くらいの大きさはあった。これは大切に取っておこうと決めた。

 それからメジェ助達に渓谷内のグリフォンの巣をしらみ潰しにして、幼体だろうとしとめておいた。卵は処理を迷ったけど、リグルドさんが絶対に持ち帰れと勧めてくれたので、持ち帰ることにした。無事だったのは二つだけだったけど。


 後はほとんど戦果物を引っ張って戻るだけだったけど、私は心残りというか懸念を潰しておくことにした。


「リグルドさん、チフ助達と一緒にベースキャンプに戻って留守番しててもらえますか?」

「構わないが、まだ何かするつもりなのか?」

「はい。自分がこの世界に来て、どうしても戦わなきゃいけない相手がたくさんいましてね。その反応が西の山脈の方に感じ取れるので、確認しておこうかと」

「・・・何なら手伝うぞ?こちらの願いを聞いてもらえるなら特に」

「そのお願いの内容に想像はつきますけどね。絶対に私と秘密を守ると誓えますか?」

「誓う」

「即答ですね。良いでしょう。卵の扱いはギルマスにも相談が必要ですが、相応の価値を支払っていただけるならお譲りする事を検討します」

「約束じゃなくて検討かよ」

「街の領主とか国王とかに召し上げられてもおかしく無いんじゃないんですか?」

「そりゃそうだが、そんな事言ったらお前自身がそうだろうに」

「ある程度協力し合える関係が構築出来るのなら、私も前向きに検討しますが。グラハムさん、オールジーさんから見て、リグルドさんは信頼出来ますか?」

「ぶっちゃけるな、お前」

「時間がもったいないだけです。で、噂話程度でもどうでしょう?」

「まだ冒険者になって日が浅い我々だが、少なくとも悪い噂は聞いた事が無いし、今日会ったばかりだが、信頼出来そうには見える」

「・・・私も同じ感じよ」

「オールジーさん、その間は何だったんですか?」

「いや、リグルドさんが領主の命令で横入りしてきた可能性もあるなって考えただけ」

「そうなんですか?」

「完全には否定しないとだけ言っておこう」

「私達の敵ではない?」

「領主や国王に反旗を翻すつもりとか無いなら、敵じゃないよ」

「私に敵対するつもりのない人達は、私の敵では無いですよ。とりあえずのところは」

「お前の自由を制限しようとする奴はその限りではないって事だな?」

「そんなところです」

「分かった。ひとまずベースキャンプに戻って一休みしたら、その反応とやらに向かってみるのか?」

「はい。出来れば今夜寝るまでには確認は済ませておきたいですね」

「グリフォン三体に、メジェド・グリフォンがニ体。それに金等級の冒険者が二人だぞ?下手なドラゴンでも逃げ出すくらいだ」

「金等級はまだ一人ですよ」

「その上だってあり得る」

「まだ可能性の話ですが、とりあえず油断はしないでおきます。ユニークスキルとかは、本当に相性次第なので」

「まぁ、それはそうだな」


 ベースキャンプまでの移動は、メジェド・グリフォンの死体をメジェ助達に運ばせる事でスムーズに進んだ。私は、チフ助達にいったん埋めておいたグリフォンの死体も掘り返して集めておくように伝え、私達が戻るまでここを死守するように命じた。祈助とその複製も足しておいたから、滅多な事では全滅はしないだろう。


 昼食を済ませ、メダルの気配をうっすらと感じる方へと進んでいった。前方に一体、後方に一体のメジェ助を配置し、中央に三体のグリ助と搭乗者達。空の旅は直線距離なだけあって速く、二時間も経たない内に上空からメダル所持者の姿を見つける事が出来た。

 山脈の低めの山の水場の側にサバイバルキットのテントが張ってあって、そこでたき火をしながらのんきにこちらを見上げていた。

 遠目でもだいたい誰か予測はついたのだけど、だんだんと降下していくと、定年間近くらいの老人。おじいちゃん先生というか、秦野校長だった。


「またやりにくい相手だ・・・」

 こちらが魔物の群を率いていても、まるで動じていない。余裕があるとかではなく、敵意が全く無いのだ。潰そうとすればぷちっと潰せてしまうのかも知れなくても、少しためらいを感じた。

 サバイバルキットを選んだという事は、他のスキルは持っていない。どの神様の加護を得たかによっても脅威度は変わるだろうけど・・・。


 私が悩んでいると、秦野校長の側に、一人の中年男が姿を現した。近くに狩りにでも行ってたらしく、鹿みたいな獲物を背中に担いでいた。

 その男性がこちらを見た瞬間、グリ助達の怯えが私に伝わってきた。メジェ助達でさえ、あの相手には脅威を感じ緊張しているのが伝わってきた。

「リグルドさん」

「あの相手は、何だ?お前の相手があいつなら、逃げ出す事を推奨するぞ」

「私の相手はあの老人の方なんですけどね。どうにも手出し出来そうな感じがしません」


 ふっ、と目を離していなかった筈なのに、中年男性の姿が消え、目の前に現れていた。

「お前も、神々の争いに巻き込まれた口か?」


 こいつは、ヤバイ。敵対しちゃダメだと、全本能が告げていた。グリ助達も、出来ればすぐにでも逃げたがっていたのを、私が必死にこの場に留めていた。


「そうですけど、あなたは?」

「そうだな。俺も巻き込まれた口だと言えなくはない」

「失礼ですけど、円城高校の関係者では無い様に見えますが」

「ああ、ハタノが言っていた、子供達の学び舎の事か。あいつがそんな場所の長をしていたなど信じられなくもあったが本当だったのだな。悪い事をした」

「じゃあ、事情は全部ご存知な上で、校長を守ろうとしているのですか?」

「そんなところだ」

「そうですか。では、私は最後の一人になるまで、校長を後回しにします。校長にはよろしくお伝え下さい」


 そうして逃げだそうとした私の肩を、その中年男性は掴んで止めた。グリ助の頭にも手を置いて、力を込めてるようにも見えなかったけど、グリ助も動けないでいた。


「下を見ろ。ハタノが手招きしている。何かお前に話しておきたい事があるらしいぞ。来い」

「拒否は」

「お勧めしない」

「ですよねー。グラハムさん、オールジーさん、リグルドさん、お呼ばれしてるみたいなので、降りますよ。拒否権は無いそうです。あと、危険もたぶん有りません」


 三人も、この空に何気なく飛んできて留まってる相手が非常な存在だというのは空気から伝わってるようなので、不毛な議論をする事なくグリ助1ー3を地上に向かわせ私達を降ろした後は、メジェ助達と一緒に上空で待機するよう命じておいた。


「こんにちは。校長、いや元校長か。秦野です。君も、生徒の一人かね?」

「こんにちは、校長先生。そうですね。2-2の七瀬綾華です。ご存知無いでしょうけど」

「そうだなぁ。生徒一人一人の名前を覚えようと若い頃は必死になったものだが、還暦を迎えるずっと前からもうあきらめてしまった。それで、君は私を倒しに来たのかね?」

「相手によっては、そうするつもりでしたけど、校長は、この戦いを勝ち上がるおつもりはあるんですか?」

「無い。そう言える、つもりだったが、私に加護をくれたのが最後まで残っていた神でな」

「どの神様って、秘密ですよね~」

「いや、教えても構わないと言われているよ。私は一番最後に残ったプレイヤーでねぇ。現在の主神が加護を与えてくれた」

「え?現在の主神て」

「アルゴニクスだ」

 鹿を解体しながら、中年男さんが教えてくれた。いや知ってるけどもさ!

「それは、ハンディキャップか何かの為ですか?」

「さぁな。ちなみに与えられたメダル加護の内容は、確率操作だ」

「チートの中のチートじゃないですかそれ」

「何も心配しなくても全てうまくいくから、ここでゆっくりしていればいいと言われたよ。だからそうしている」

「で、校長がそうだとして、この方は?」

「マグナス。前回、五百年前の主神を決める戦いで巻き込まれ、最後まで勝ち残った、いや勝ち残ってしまった者だ」

 衝撃のカミングアウトだった。

「そ、それは、私達と同じ世界から?」

「いや、ハタノとも話したが、違う世界からだ」

「なるほど。前回の勝者は現在の主神だからアルゴニクスだとして、あなたはどんな願いを?」

「俺を、こんな馬鹿げた戦いに介入できる存在にしろ、だ。自分を神にしろとは頼んでいないが、神に楯突く事が出来る様にはなっているらしい」

「ちょっと待って下さい。どうしてそんなお人が、現在の主神の加護を得てる人を守ってるんです?狙う方の存在じゃないんですか?」

「現在の主神をもし殺せたとしても、この戦いは止まらない。そういう仕組みが組まれた上で動いているからだ。かといって、その仕組みが現在の主神と無関係な訳も無い。だから、その主神と、この下界で一番近しい存在の側に私は留まっている」

「止められはしないけど、監視だけするような役割として?」

「君はもう少し口を慎んだ方が良いのではないかな?」

「こういう性格なもんであきらめて下さい。でも、マグナスさんは今回のランダム対戦に紛れ込めはしないんですよね?だとしたら、このまま校長が一枚もメダルを集められないままでいたら、ランダム対戦に強制召還された時、秦野校長は殺されちゃいませんか?」

「主神だぞ?どうにか出来るに決まってる」

「そりゃあ、あらゆる確率を操作されちゃうなら、どうにでもされちゃうかも知れませんけど・・・」

「心配しないでも、私は教え子達を手にかけるつもりは無い」

「どんなフラグも立てたくないので、ノーコメントと言っておきますね」


 生徒に手は出さなくても、教師陣とか、用務員とか、タイミングによっては学校に出入りしてる業者さんとかだって巻き込まれてる可能性はあった。けどそんな事までいちいち私が指摘する必要も無かった。確率の神が堂々と確率操作するって宣言してるんだから。


「さて、そろそろ私は帰りますね。いろいろ用事とかもあるので」

「そうか。気が向いたらまた遊びに来なさい」

「そうですね。気が向いたら是非」


 そんな機会はたぶんもう来ないだろうけど!


 私は校長達から少し離れた場所でグリ助達を呼び寄せた。彼らは恐がりつつも降りてきたくれたので、急いで飛び乗って飛び立ったと思ったら、マグナスさんが何気なく付いてきてた!


「な、何かご用ですか?」

「いや何。この場で見逃す代償として、街で買った食い物や酒なんかを時折差し入れてくれるとうれしいと思っただけだ」

「・・・時々グリフォンにでも届けさせますよ」

「週に一度だ」

「勘弁して下さい。私もいつまでここら辺にいるか分からないんですから。それに、私が脅迫されてるって訴えたら、校長にも止められるんじゃないんですか?」

「むぅ、それは困るな」

「じゃあ、出来る範囲でって事で。それでは」

「ああ、生き残れよ」

「嫌みですか?」

「いや。率直な応援だ」


 マグナスさんが地表へと戻っていくと、グリ助達は何も指示しないでも最大速度で飛び、メジェ助達は緊張を若干緩めながらも二頭で後背を警戒しながら続いてくれた。

 私は飛んで戻る間に、ベースキャンプにいるチフ助達に、ベースキャンプの屋根を外して、グリフォン達の死体を乗せられるくらいの荷台を二組作るよう指示しておいた。


 夕方前には余裕を持ってベースキャンプに到着。片方のメジェ助にメジェドグリフォンの死体を、もう片方のメジェ助にグリフォン4頭の死体とかを運ばせた。間違っても途中で落としたりしないよう複製したロープや鎖などで補強したかいもあって、陽が沈んだ頃にはアルカストラにまで到着出来た。

 西門はまた大騒ぎになってたけど、見張り役が残っていたらしく、すぐに門が開いて衛兵さん達が出てきた。その中に一人、明らかに身分が違う男性が紛れてて、ギルマスが付き添っていた。

 私がグリ助達を降ろして着陸すると、ギルマスに紹介される形で私に話しかけてきた。

「アヤ。この方が、このアルカストラを治める領主でありルグイエ家の現当主のミルケー様だ」

「アヤ殿。オークの村の一掃に続き、グリフォンの群とメジェド・グリフォンの討伐、見事であった。このグリフォンとメジェド・グリフォン達も、そなたの配下に置かれているのだろう?」

「お初にお目にかかります。ご質問には、はい、そうですとお答え致します」

「うむうむ。すばらしいではないか。なあ、アンガスよ?」

「そうですが、忘れないで頂きたいですな。冒険者は自由な存在であるとう事を」

「忘れてはおらん。ただ、どこに雇われるも雇われないも、冒険者自身の自由ではないのか?」

「それはそうですが」

「あの、お話に横入りしてすみませんが、私には事情があって、いつまでもは居れません。おそらく、最長でも7、8ヶ月後にはここから居なくなります」

「故郷に帰るとかか?」

「違うかも知れませんが、遠くへ行くという意味では変わらないかも知れませんね」

「まぁ、先の話はさて置き、今宵はゆっくりと休むがいい。数日後に盛大な宴を催すので、是非とも参加して欲しい」

「はあ。はい。喜んで参加させて頂きます」

「うむうむ。楽しみにしておるぞ!」

 アンガスさんは去り際のミルケーさんに何か確認を取ってから、私に頼んできた。

「先日夜遅くに動員されたギルド職員達から苦情を言われてな。その、グリフォンの死体とかを、ギルドの訓練場にまでこのまま運び込んでもらってもいいか?」

「はい、構いませんよ」


 私達は再びグリ助達に搭乗し、メジェ助達を先導して外壁を越え、ギルドの裏庭的な訓練場に荷物を降ろすと、メジェ助達は消し、私達も降りるとグリ助達も消した。

 まぁ、ギルドに居た冒険者や街の人達が大勢詰めかけてきて、大騒ぎになって、遅れてやってきたギルマスや職員さん達がほとんど総出で混乱に対処したのだけど、リグルドさんが大切そうに抱えているグリフォンの卵を見つけて、それはそれは大きな癇癪を爆発させたのだけど、私は悪くない。たった二つしか無いのだし、行き先がどこに落ち着くにせよ、その片方にはリグルドさんが関わる事になる。金等級の冒険者なのだから、どこでだって雇いたがる存在の筈だ。それがグリフォン付きともなれば、ねぇ?


 私は卵やそれに関わる権利をせいぜい高く売りつけつつ、私自身を守ってもらうよう算段を立てていた。待つだけでなく、積極的に狩りに行く意味合いでも。

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