エピソード:13 メジェド・グリフォン狩り
今日は低空で移動する為に、街道沿いは避けて、大回りする感じでウサ助達を待機させてる辺りへと飛んでいき、そのかなり手前、徒歩でも軽く3時間くらいはかかる辺りに着陸した。
そこでいったんチフ助とトン助1-4達を出し、背負子に荷物を載せ替えて移動を開始。彼らを先頭に、グラハムさんとオールジーさんは私の隣、グリ助達には私の後方を歩いてもらい、リグルドさんには最後尾を歩いてもらった。
「露骨なのでは?」
「地表を歩いてもらってるグリ助達の護衛って事で」
荷物を背負っていても、練習代わりのバリスタやクロスボウで武装したチフ助とトン助達の一団は、普通の
その中には、グリフォンが好んで食べそうな大きさの熊までいたので、それはトン助の一体に引きずっていかせる事にした。
経験値や魔石をちびちびと稼ぎながら、やがてウサ助達が昨日シトメたグリフォンの死体を草木などで隠した場所へと到着。少なからず獣の類に食べられた痕もあったりしたけど、チフ助達に穴を掘って埋めておいてもらった。目印の複製鉄槍を地面に刺しておき、似たような事を他の何カ所かでも行い、無事死体や魔石を確保してから、ウサ助達と、それからこれまで活躍の機会の無かった蛇助達を渓谷の方へと向かわせた。安全な侵入ルートと、可能ならメジェド・グリフォンの巣の位置を探る為だ。
それからは後方基地の設営。木々の合間から地面の様子が見れないよう簡易な屋根の様な物を丸太やローブなどで組んで、折った枝葉を被せて偽装。
その下にテントを設営。火は起こさずに夕食を終え、翌日からの作戦を参加者に伝えた。
「明日朝になったら、ウサ助や蛇助達が確認したルートを辿って、渓谷の偵察をします。そこでメジェド・グリフォンの位置を特定したり出来れば、私がそこへ赴き、ほぼ下準備は終わります」
「待て。なぜ赴いただけで下準備が終わる?」
「秘密です。ギルマスから話を聞いて察せてる部分もあるでしょうが、私から語る事はありません」
「自分のユニークスキルを詳らかにしないのは賢明な処置だろう。だが、どう仕掛けて、どう終わらせるくらいの説明はあっても良いんじゃないのか?」
「メジェド・グリフォンの位置を特定してしばし様子を観察したら、空から陽動をしかけます」
「このグリフォン達でか、て、いきなり増えてないか?!いくらか弱まってるのが混じってるようだが」
「だから陽動用です。オーク達を待ち伏せさせてるポイントまで誘導して、そこで相手の防御を抜いてダメージを与えられれば吉。上空からも本命と見せる部隊で強襲をかけると見せかけて、切り札を出します」
「それで間違い無く倒せるのか?」
「一部のオークやグリフォンには犠牲が出るでしょうけどね。私やグラハムさんやオールジーさんやあなたはおそらく無事に終われるでしょう」
「わかった。とにかくその下準備の方が本命なんだな」
「そういう事です。では、明日は早いので、とっとと寝ましょう。不寝番とかは不要だと思いますよ。魔物達に警戒させますから」
眠ると消えてしまうチフ助やトン助達の複製もすでに出して警戒を開始させていた。
「ではお言葉に甘えるとしよう。ソロで活動してる時は、ゆっくり外で寝れるなんてあまり無いしな」
リグルドさんがそのテントに向かって入り口を閉じてから、私はグリ助や必要になる物などを限界まで複製してから、倒れるようにテントの中で眠った。
翌朝。自分が起きたのは陽が昇ってきた時だったけど、他の3人はすでに起きていた。固いパンとフルーツと牛乳という朝食を終えたら、またチフ助とトン助達を出して移動を開始。複製達はベースキャンプでお留守番だ。複製グリ助達は昨晩寝るまでで六頭。朝起きてからも三頭増やしておいた。
渓谷へはなるべく戦闘を避けながら移動。とはいえ、必要ならバリスタやクロスボウの斉射だけで瞬殺だったので、魔石はこまめに収集しておいた。
二時間ほど歩き、渓谷の縁にまで到達。その内部まで侵入しているウサ助や蛇助達のガイドもあって、グリフォン達に見つかったり騒がれる事なく進んで行った。
さらに一時間ほど経って、峡谷の縁の茂みにウサ助1が潜んでいる場所へと到着。私は地面を這いずって茂みの中に入り、ウサ助1の視線の先を辿れば、岩棚の一つに設けられた大きな巣にメジェド・グリフォンがいて羽繕いをしていた。
私は早速スケッチブックを取り出してスケッチし始めたが、いかんせん距離が遠い。たぶん150メートルは先。これ以上先に進めば勘付かれてしまうとウサ助が判断した距離なのだろう。でもこれだとまだスケッチが終わらない。昨晩描いた内容だけだと実体化するには不十分だと手応え的に伝わってきていたのだ。
ここで逃してしまうと、次の機会がまたいつ来るかわからない。巣の側まで寄られた事で、居場所を変えてしまう可能性もあった。経験値的にも資金的にも逃したくなかった私は、必要最小限な経費を支払う事にした。
自分達が歩いてきたのとは別々の方角から、超低空で複製グリ助1と2をこの空域に接近させた。メジェド・グリフォンの反応があった時点で即座に反転。上下左右に逃げ回りつつ、逆からもう片方の囮にも気づかせ、なるべく私の視線の近い空間にスケッチ対象を引き寄せてもらった。
複製二頭がかりで二十秒も稼げなかった感じだけれど、昨日ははっきりと見れなかった細部まで余さず観察できた私はしっかりと1ページ目のスケッチを完成させ、2ページ目も夢中で補正を加筆していた時。
こちらの視線か気配を感じたのか、メジェド・グリフォンが風の刃を周囲に乱打した。その内いくつかは、私や背後のチフ助達がいた辺りの地形を抉った。
それでも手応えを得られなかったせいか苛立った様子でメジェド・グリフォンは雄叫びを上げてから巣に戻り、不貞寝してしまった。
私はまたずりずりと這いずって背後へと戻り、トン助の一頭が腕に傷を負っていたので修繕を施し、チフ助達をこの場に残したまま、いったんベースキャンプに戻ると三人に伝えた。
「下準備が終わったという事か?」
「そうですね。さっき無駄にMP消費してくれましたし、それが回復するまでの間に仕掛けようかと」
「グリフォンに乗って仕掛けるのか?」
「私と、グラハムさんとオールジーさんはその予定ですが」
「俺も混ぜろ」
「とは言っても、リグルドさんはギルドからの見届け役ですよね?それ契約違反になりませんか?」
「現場判断だとか言って押し通す。金等級にはそれくらいの権限はあるし、結果が伴っていれば文句は言われない」
「でも、報酬とか」
「俺が少しでも役に立てば、最高でも金貨百枚でもいい。そこまででもないとか全く役に立たなかったと判断されたなら、好きに減額しろ。文句は言わない」
「詳細は戻りながら詰めましょうか。時間が惜しいです」
私はスケッチしておいたメダリオンを実体化したり複製したり、渓谷から離れてからはグリ助1から3も実体化。複製したロープや鎖でメダリオンをグリ助達の首にかけてほぼ準備は完了。テントに戻ってから、記憶を頼りに、メジェド・グリフォンのスケッチを1ページ分加えて、都合3体実体化可能とした。
その間、リグルドさんはロープで急ごしらえの轡と手綱を作り、自分が搭乗予定のグリフォンにどうにかして操縦可能なようにコミュニケーションを取ろうとしていた。私は仲立ちして、リグルドさんがどういう動作をしたらどう動いて欲しいのかを伝えてあげた。この個体がいったん消えた後、まだ覚えてるかどうかは保証できなかったけれど。
全ての準備が整うと、私は複製グリ助の残り7頭を先発させた。2、3、2頭ずつのグループに別れ、微妙に違うルートからメジェド・グリフォンの巣に超低空で接近させた。私達は逆になるべく高空に登り、標的の巣から見て太陽の方角に占位する事にした。
そして、複製グリ助達が再侵入するタイミングでチフ助達にも射撃位置につかせて、こちらは段々と高度を落としていった。
開戦の狼煙は、珍しくチフ助からの意志の打診があって、複製グリ助達に気付いてメジェド・グリフォンが頭をもたげた瞬間。トン助達に続けてチフ助が風除けの
トン助達のボルトはとっさに纏われた風の鎧に弾かれつつもその効果を部分的にでも相殺し、その間隙に本命のバリスタの矢が首元に突き立った。
メジェド・グリフォンは激怒してボルトの飛んで来た方へと風の刃を乱打したけど、オーク達は複製メダリオンを裏に仕込んだ大盾を構えて固まり、この初撃をしのいだ。
メジェド・グリフォンは空に飛び出したけれど、動きがぎこちなかった。そんな標的をからかうように、複製グリ助達が見せかけの攻撃を放ち、風の鎧を纏わせてMPを消費させ、攻撃はばらばらの高さや位置によけて一撃では全滅しないよう心がけた。
それでも、一頭、また一頭と数を減らされていたけど、私のグリ助1を先頭に、メジェド・グリフォンに向けて急降下。気付かれるぎりぎりの範囲で風の刃を放ちつつ急上昇をかけた。
メジェド・グリフォンは、私達が本命と見て、周囲に嵐を巻き起こした。周囲にいた複製グリ助達は巻き込まれて全滅してしまったけれど、こちらは寸前で引き上げて上昇をかけていた事もあり、何とか逃れたが、相手は嵐をまといながらこちらを追ってきた。
「どうするんだ?あちらの方がずっと速いのだろう?」
リグルドさんが叫ぶように呼びかけてきたけど、
「大丈夫、もう終わりますよ」
と答えてあげた。
「なんでだ?!」
と振り返りながら応えたリグルドさんの視線の先、メジェド・グリフォンの背後には、メジェ助1と2が現れて、全力の風の刃を立て続けに放ち、片方が嵐の渦を一瞬にしろかき消して、もう片方の風の刃が体に届き、深い切り傷を負わせた。
メジェド・グリフォンは、突然現れた自分の同類に戸惑いながらも、嵐を中断。風の鎧を纏いながら風の刃を放つ戦法に切り替えた。メジェ助達は片方が防御を、片方が攻撃を担当し、敵の1/2の消耗で戦いを進めた。
「最大MPが同じなら、先に傷を負い、消耗させられていた方が圧倒的に不利です。このまま消耗戦を強いるだけでも勝てますが、相手もそれがわかるならいちかばちかでどちらか片方に肉弾戦を挑んで無理矢理にでも勝ち筋を見い出そうとする筈」
実際、風の鎧が緩み、手傷を頻繁に負うようになったメジェド・グリフォンは、防御担当ではなく、攻撃担当のメジェ助の方へと回り込んで接近戦を挑もうとした。挑まれた方は無理をせずに後退し、防御を担当していた方が背後から風の刃を連打。翼をぼろぼろにしていき、進退窮まったメジェド・グリフォンの眉間にチフ助が放ったバリスタのボルトが突き刺さり、完全に動きの止まった標的の前後からメジェ助達が風の刃を首もとに放って首と胴体とを別れさせ、勝敗は決着した。
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