エピソード:10 雇用契約と、グリフォン狩り
冒険者ギルドでいろんな人にいろんな聞き込みをした。プロスさん達には、この世界にはダンジョンなんて素敵存在がある事や、お勧めのダンジョンがどこにあって、どんな内容なのか教えてもらったりした。
後ろ暗い連中との付き合いもありそうなレイグ達には、いわゆる隷属の首輪ぽいアイテムが存在するのか訊いてみたり。それらしいものはあるらしいけど、かなり高価で、もっと制限が緩い物なら、奴隷の逃亡防止用として使われてるアイテムもあるけど、それでも金貨2、30枚はするそうな。
どこにあるどんなお店で入手できるのか、教えてもらった。必要なら付き添いもしてくれるとの事。その時になって必要そうなら頼むと言っておいた。
そんなこんな話をして宿屋に帰ってから、私は二人に今日の報酬として金貨一枚ずつを渡してから、オールジーさんに言った。
「ちょっと試したい事があるから、服を脱いでもらってもいいかな、オールジーさん?」
「えっと・・・?」
「アヤ、何をするつもりなのか、説明してもらってもいいか?」
「何って、ええとね。今日、最初のオークをスケッチする時に、傷はいちいち描かなかったのね。無傷な状態のを描いて、そのままのが実体化された。
その服、何か思い入れとかがあってそのまま使ってるんでしょうけど、ちょっとそのままだとどうかなって状態になってるから」
「まぁ、そういう事なら。グラハム、部屋の外に出てて」
「わかりました」
そして二人きりになり、服とスカートを脱いでもらうと、私はジャケットとインナーシャツ、スカートをそれぞれスケッチした。ほつれや当て布なんかは、これが仕立てられた時の姿だと思われるように想像して修正した姿で。
私は描き上げた内容をオールジーさんにも見てもらって微修正をかけてから実体化させてみた。問題無く、傷やほつれや当て布も無い、新品の上質仕立て服が実体化された。
オールジーさんが声も無く感動して、すぐに身に付けようとするのは止めた。
「ご存じの通り、スケッチから実体化した存在は私が寝たりすると消えてしまいます。だから、普段使いは、1ランク質は落ちるけど、複製した物を使って下さい。もちろん、コレといった機会にはスケッチから実体化しますので」
「でも、いったん袖を通してからでも良い?久しぶりに感じてみたいの」
「どうぞ」
いそいそとシャツを着込みスカートを履きジャケットを羽織ると、髪こそ薄汚れてぼさぼさだけど、いかにも良家のお嬢様といった姿になった。
「すごい!本当に、初めて着た時の感触のままだわ!」
「お喜び頂けて何よりですけど、それより1ランク落ちた物を普段使いするのなら、あまり」
「分かってるわ。だけど今一時だけでも浸らせて」
「どうぞ・・・」
「ごめんなさい」
それから五分以上、スカートを翻したりしながら、思い出か何かに浸ると、オールジーさんはまた服を脱いでくれた。
「お待たせ」
「いえいえ。それでは複製を。2セットくらいはしておきましょうかね」
私は複製した片方のセットをオールジーさんに着てもらったが、やはり先ほどとは物が違うのがはっきりと分かるらしく、笑みは張り付けたような物だった。
私はスケッチした服は消してから、ドアの外に待ってたグラハムさんを招き入れた。
「どうかしら、グラハム?」
「おお!お家のご母堂様が仕立てて下さった時のままですね。素晴らしいです!」
「複製品なので質は落ちてしまってますが、魔物と戦ってまた磨耗したりするでしょうから、我慢して下さい」
「いいえ。あの見窄らしい状態は、いずれどうにかしないといけなかったし」
そう言いながらも、ついさっきまで着ていた服を愛おしそうに畳んで撫でていた。
そんなオールジーさんを優しい眼差しで見守るグラハムさん。私がこの場にいなければ何かが進みそうな雰囲気さえあったかも知れなかったけど、私は私に必要な話をしなければならなかった。二人の行き先にもかなり関わりのある話だった。
私はわざとらしい咳払いをしてから、話し始めた。
「お二人には、これからも私の護衛をしてもらいたいと思いますが、いかがでしょうか?報酬は、お二人に一日で銀貨を五枚ずつです。これを私の戦いが終わるまでお支払いします」
「いつまでかは、はっきりと分かるのですか?」
「おおよそですが、今日も二十人以上減って、530人ちょっとになりましたから、来月のランダム対戦まで500人が生き残れたとして、250人が生き残る計算になります。次が125人。次が62人。31人、15人、7人、3人と続いて、7、8ヶ月で終わるでしょうね」
「それでも、8ヶ月だと、金貨240枚にもなる。その間の宿代や食費までもとなると」
「今日一日で金貨200枚以上稼いだんですよ?グリフォンを倒せればさらに100枚上乗せされますし、お二人への報酬と必要経費くらいは楽勝でいけると思いますけど」
「それはそうかも知れないが、こちらはすでに借金30枚や、装備代や眼鏡代なども負担してもらっているのに」
「その分、これからメダル所持者との戦いで危険な目に合うかも知れないじゃないですか。その分とで相殺って感じで捉えておいて頂ければ」
「ギルドのランクも二日で二つも上げてもらってしまったしね」
「それも余録みたいなものです。あまり気にしないで下さい。
さて、それで、受けて頂けるでしょうか?」
「私は、是非受けさせてとしか言えないわ。あなたはどう、グラハム?」
「私もです。身売りの危機を回避するだけでなく、再び戦える手段を下さった。他にも諸々頂いてばかりですしね」
「はい、じゃあ、そんな感じでよろしくお願いします。場合によっては野宿が続いたり、迷宮に潜り続けたりもするでしょうけど、よろしくお付き合い下さいね」
「こちらこそ」
「見放されないよう、全力を尽くそう」
「それじゃ、明日は、知り合いに食料とか届けてあげないといけないし、その後でグリフォン退治の仕込みもしながら街にも戻らないといけないから、早めに寝ておきましょう」
そんな風に夜は過ぎて、翌朝。夜明けの開門の時刻と共に朝市と露店で食料を買い込み、昨日の出張所には寄らずに一直線にオークの村へ。村民は全滅してるけど。
こちらが近づいていくと、向こうも近づいてきて、決めておいた一件の家の外側で輝人と落ち合った。
「おはよう。良く眠れた?」
「野宿だから、あんな物だろうね」
「そう。食料とか持ってきたから。それと、オーク三体分のお金に色付けて、金貨十枚をあげるわ」
「ありがとう。受け取っておくよ」
「じゃあ、私は忙しいから行くわね」
「次はいつ会えるかな?」
「さあね。食料が切れそうになったら?自分で狩って食料調達してくれてもいいのよ?サバイバルキットってその為の物だし」
「まぁ、がんばってみるよ」
「期待してるわ。じゃあね」
つれない態度と言われればそうかも知れないが、本当に忙しいのだ。チフ助やトン助達を出して、昨日複製達にオーク達の死体を運ばせておいたポイントへと向かわせ、さらに地図上での合流予定地点へと運んでおくように命じておいた。手で運べる数には限りがあるので、背負子や荷引き板みたいのを見繕っておいた。
それから街へと戻り、冒険者ギルドへ。昨日と変わらぬ装備で受付経由でギルマスへと取り次いでもらい、ギルマスが手配してくれてた馬車で街の外へ。西の街道をひたすらに進んでいく。
アンガスさんの視線が今日も鋭い。
「アヤ、お前、今日も素手だな」
「そうですね」
「武器はどこからか出すのか?」
「そうとも言えます」
「秘密か」
「秘密です。良からぬ事を考える人達がたくさんいるでしょうから」
「その可能性は否定しない」
「それより、いろんなお話聞かせて下さいよ」
「どんな話だ?答えられる話は限られるぞ?」
「北の街とこの街の領主の間の確執とか、領主様のお人柄とか、その他もろもろ注意事項とか?」
アンガスさんは、眉間に寄った深い皺を人差し指と中指とでぐりぐり揉みほぐして消すと、短い旅路のついでとして語ってくれた。
「アルカストラを治めているルグイエ家と、北にある隣町ムンバクを治めるノフジュ家は、祖を同じくする。同じ画家を見込んだ貴族の娘二人から端を発すると伝わっている」
「ああもう出だしから因縁深まりそうですね」
「その画家は国中に名の響いた、王家御用達の実力者だったから、浮き名は他にも流していたし、彼の血を引くという子供の数は当時でさえ二十を越えていたそうだ」
「その後始末を代々つけさせられている?」
「どちらの方が由緒正しいかというのはまだかわいい言い争いだろう。どちらの抱えている画家の方が優れているか。どちらの美術館の収蔵品の方が優れているか。答えが簡単には出ないし、どちらも納得が行く筈も無い」
「人気投票させたって、それぞれが身内とか地元贔屓したら終わりですものね」
「ああ。だから、王族とかの誰それが金貨いくらでどちらの抱える画家の絵を買い上げたかとか、俗物的な物差しで計るしか無くなっている」
「それだって、賄賂とかの根回しで」
「どうにでもなってしまう。だが、お互い引くに引けなくなってしまっていてな。どうにか落とし所を付けられないかと、今代のアルカストラの当主、ミルケー様は苦慮されている」
「もう片方の当主はどうなんですか?」
「ムンバクの現当主は、先代に男子が無かった関係で、女当主で、まだそれなりに若く、未婚だ」
「そしたら、ミルケー様が独身なら?」
「そういった話も出ていなくもないが、互いの親類だのがうるさくてな。頭首同士だけならまとまるかも知れない話が、まとまる気配が見えて来ない」
「ギルドマスターとしては、まとまる方に期待してるように見えますけれど」
「隣町と戦争なんて、誰も得しないからだ。それこそ、隣国とかが絡んで来ない限り」
「オークの群の討伐も、軍隊が動かせないから冒険者に任されてたとか聞きましたけど、隣国が動きそうな気配があるんですか?」
「ムンバクの現頭首アルテラに、隣国ウィゼフ王国の高位貴族の次男が名乗りを上げていてな。話をややこしくしている」
「その家の領土が、ムンバクの領土と接しているなら、この国の王様とかが許さないんじゃないんですか?」
「まあな。だから話がいつまでも落ち着かなくて、アルテラの婿取りも難航したまま、アルカストラとの火種もずっとくすぶったままだ」
「無知を承知でお伺いしますが、この国とその隣国って、どっちのが強いんですか?」
「ウィゼフ王国と、このルームエ王国なら、ほぼ互角だろう。ただ、ウィゼフはこの中央大陸の北端にあり、国境はほぼルームェとしか接していない。立地上は、あちらの方が身動きが取りやすい」
「なるほど。面倒そうですね」
「ああ。だから、気を付けろと言っている」
「気を付けはしますが、自重はできません。私も命とかがかかってるので」
そんな気の滅入るような、しかし重要な話をしていると、いつしか時間も過ぎて、グリフォンの目撃ポイントまで到達していたようだった。西へ伸びる街道の先は丘陵地帯へと連なり、そのずっと先には高い山脈の壁が聳えていた。
「もうすでに目撃されてる地帯には入っているが、寄せ餌の準備は出来ているのか?」
「手下?達に運ばせてますので、もうしばらくかかりそうですが、一番近くに見えるあの高い丘の上にしましょう。馬車は少し離れた森の際にでも隠しておいて下さい」
「そうしよう。手伝いは必要か?」
「いいえ」
「ふ、そうか。お手並み拝見させてもらう」
私は曖昧な笑顔を浮かべてスルーして、目的の丘の側まで送ってもらってからそちらへと移動。一時間も待たない内に、チフ助達やトン助達がやってきた。
十体ものオークの死体を引きずってきた彼らを見て、もちろんアンガスさんは驚いていた。
「話には聞いていたが、本当に、完全な制御下に置いているのだな」
「そうじゃなければ、危なくて使えませんて」
「それはそうだが」
「そしたら下準備を始めます。邪魔が入ってもおもしろくないので」
「下準備?」
「離れて見てればわかりますよ」
私はトン助達を複製で十体出して、森の際の木をへし折り、丘の中腹に並べて突き立てさせ始めた。街道からの視線を塞ぐ為に。およそ直径150メートルほどの丘の半周近くに二、三列ほどの木々を適当に並べて、頂上にも少しばかりの臨時の林を築かせた。
そして山方面への斜面にオークの死体を積み重ね、頂上の林の中で私は待つ事にした。アンガスさんは私のすぐ側で観戦したがっていたけど、丘の麓の森の際で我慢してもらうよう根気強く説得した。言うこと聞かないなら、このまま放置して帰りますよ?、と脅して。
さて、本当に来るかどうかなんてわからないので、ステータス画面から掲示板の新規書き込みなどを確認して時間を有意義に使った。
本当に有意義な情報は秘匿する方が自分の有利に働く筈なんだけど、集団で行動してる人達の間では周知の情報として、互いを利する為に、選択した上でだろうけど、公開されてるものも少なからずあった。
その代表的な物が、他の誰かとメダル交換しようとしても、自分が最初に得たメダルは交換不可だという情報だった。つまり、十人くらいの集団で、互いのメダルを交換しあってランダム対戦を回避しようという戦略は出だしから崩壊していた。
では、他の誰かから奪った一枚を順繰りに仲間内で回していけばどうか?これもある人が自分の神に尋ねたら、ランダム対戦の抽選時にメダルの総数が先月から増えていない者は、抽選対象になるという答えが得られていた。
メダルを奪われた者は死ぬ。十人なら十人が、毎月人数分の新規メダルを得ない限り、得られなかった者は対戦で少なくとも半数は減る事になる。
大人数での共闘の意義に、互いのメダル交換で対戦や他者の殺害をかわそうとしていた人達は、かわいそうに、その逃げ道をすでに塞がれてしまっていた。まぁ、開始二日目にはその情報が出回って良かったとしか言え無くない?期限ぎりぎりになって仲間割れが起きるよりは、心の準備とか出来るだろうしさ。
その情報が出回ってから、少なくない人数が、まぁ数十人規模が自殺を試みて、失敗して、自殺をあきらめていた。最初のオリエンテーションで味わった苦痛をもっとずっと酷くもっとずっと永く味わわされたそうな。じゃあその人達がおとなしく自分の命と共にメダルを他の誰かに差し出したかというと、皆無だった。あの苦痛をまた味わうくらいなら、戦った方がマシという結論に至り、今日はまだお昼になってないのに、十五人以上が死んでいた。
そして私は、見つけてしまった。ランキングという項目が追加されていた。フィルターというか並び替えで、メダル枚数が多い順に並び替えるとかは出来てて、今はトップ3が上から十五枚、九枚、八枚とかなんだけど、レベル順とか、所有金額でも並び替えられるようになってた。
そこで私は、レベルでは14でトップに立ってしまっていた。昨日大量のオークを狩ったのが効いてた。掲示板には、私の研究スレッドみたいのまで立ってて、好き勝手な事を書かれてたけど、憶測しか元にしてない筈なのに、得ている加護やその効果とかは、良い線言ってるものが混じっていた。得ているスキルが複製なら、かなり厄介な相手になる筈だとかも書かれてた。
内心冷や汗がだらだらと流れた。やばい流れだけど、引き返せもしない。こうなったら突き進んでいくしかない。
チフ助がうなり声を上げたので、その視線の先を見ると、遠くの空から何かが近づいてきていた。それはだんだん大きさを増し、丘の上をぐるぐると回りながらだんだんと降下してきた。
鷲の翼と頭部と上半身に、獅子の下半身。鑑定持ちじゃないから分からないけど、少なくともチフ助よりは一個か二個はランクが上そうだった。私はスケッチブックを取り出し、急いで、しかし丁寧にスケッチしていった。
昨日稼いだ経験値で、素早さをさらに2上げておいて良かった。翼や羽を丹念に描き込めば一つのアングルで十分以上もかかったかも知れない。今ではグリフォンは丘の斜面に降り立ち、オークの死体をついばみ始めていた。何とか急いで一アングル五分未満で仕上げ、グリフォンが一体目を食べ尽くした所で2ページ目のも何とか描き上げられていた。
グリフォンは残りのオークの死体を見ると、一体のオークの手足をもいでから、その体を四つ足で抱えて元来た方へと飛び去って行った。私はその間も3ページ目にスケッチを加えていたのだけど、グラハムさんからの警告の声を受けてスケッチブックを消した。
「約束違反ですよ?」
「なぜ逃した?」
「グリフォンが一頭だと、誰か確認したんですか?」
「いや、それは、目撃情報がいつも一頭だったから」
「子育てしてるなら、つがいの片割れは巣を守っててもおかしくないですよね?」
「いや、それはそうだが、それこそ確証があるのか?」
「ここでずっと食べ続けるようなら狩ろうかと思いましたけど、一体をつまみ食いした後は、手足をもいだオークを一体お持ち帰りしました。つまり、持ち帰る相手がいると考えた方が自然です。それに、まだまだ餌があるのなら、連れ立ってくる可能性が高いです」
「かも知れないが、巣に貯めておく為に持ち帰っただけという可能性もある」
「次に来た時も一頭なら普通に狩ります」
「森の際に隠してるオーク達を使ってか?」
「あれは囮です」
「お前の側に置いてるのが本命という事か」
「護衛の様なものですけどね」
「わかった。また離れておく」
「次近づいてきたら、そちらの落ち度って事でキャンセルして帰りますからね?約束破ったのはそちらですから」
「わかった。次は終わるまで離れておく」
「こちらから呼びに行かない限りは近付かないで下さい」
「了解した」
アンガスさんは降参したように両手を体の前に軽く立ててから、丘を下って馬車へと去って行った。
「本当に、また来るのでしょうか?」
「今日中に、少なくとも一度は来ますよ」
「すごい自信ね」
「一度も来ない可能性があって、何日か粘らないとダメかなと思ってたので、運が良かったです」
さて、そこからお昼を挟んで、一時間半くらい後だったろうか。またチフ助が最初に見つけてくれた。私もそちらに目をこらしてみると、大きいのが二つと、小さめのが三つ飛んできていた。
「親子か。だとしても、五体だぞ?勝てるのか?」
「まぁ何とかなるでしょう」
今頃アンガスさんはやきもきしてるのだろうかと想像して、くすりと笑った。
私はまた新しいページにグリフォン達をスケッチし続けた。チフ助やトン助達には、鎖を結んだ鉄槍を手に握らせ、複製チフ助やトン助達は、森の際から丘の頂上とは反対側から回り込ませた。
グリフォンの親子は、子供達が取り合うようにオークの死体を貪り、たぶんさっき来たのではない
複製オーク達の準備が整うと、私は仕掛けさせた。複製した鉄槍を、子供のグリフォン達に投げつけさせた。みんなお腹が膨れて警戒が薄れていたのか、一頭の翼に槍が突き刺さり、もう一頭の体にもう一本が刺さった。
最初に来てたグリフォンが翼をはためかせて、見えない風の刃で複製トン助が二体上下に分断されたけど、気にせず複製オーク達を子供グリフォン達の方へと突撃させた。
食事を中断した番のグリフォンが翼をはためかせ、さらに三体の複製オークが上下に分断された。だけど構わない!
私の側に伏せさせていたチフ助達が体を起こし、こちらに背中を向けていた番の方のグリフォンに鉄槍を投げつけて、四本中三本がその体に突き立った。致命傷だろう。めちゃくちゃに暴れたけど、チフ助達は大盾を構えて身を屈めつつ、鎖は必死に掴んで放さないように踏ん張った。
最初に飛んできてた旦那かも知れないグリフォンは迷った。オーク達に迫られてる子供達と、番と、どちらを助けるかを。
子供達を助けて!という感じで番が大きな声で吼えた。その声を受けて、旦那と思われる方は複製オークをさらに二体狩ったのだけど、頭上に現れた五頭のグリフォン達から放たれた風の刃で体をばらばらにされていた。
番の方は、たぶんまだ無傷だった唯一の子供に逃げるよう鳴き声で指示して、その子供もすぐに飛び立ったのだけど、番の方は四頭からの風の刃を受けてやはり即死した。
飛び立った子供のグリフォンも必死に逃げようとしたけど、追いすがるのは成体のグリフォンだ。最高速度の違いはすぐに結果に現れ、二つに分かたれて落下したその死体を、私は追わせていたグリ助5に拾ってくるよう命じた。
手負いの子供達もすでに絶命していた。私はグラハムさん達にアンガスさんを呼びに行ってもらった。ばらばらにされたグリフォンの死体から魔石を取り出してた頃には、ほとんど駆け足でアンガスさんはやってきた。
「五頭ものグリフォンがやってきた時は、さすがに無理だろうといつでも駆けつけられるよう身構えていたが、さらに五頭のグリフォンを出して倒しきるとはな」
「質問には答えませんからね」
「そういう約束だからな。守ろう。しかしお前はこれで表舞台に嫌でも立たざるを得なくなる。私から言えるのは、出来るだけ顔を隠して身を守れというくらいか。顔や姿さえ知られてないなら、いくらでも普通の相手からは逃げられる筈だからな」
「ご忠告ありがとうございます。でも、私は表舞台とやらに関わってる暇がほとんど無いんですけどね」
「ギルドに立ち寄るくらいの時間はあるのだろう?これは近年希に見る快挙だ。このグリフォンの死体も持ち帰ろう」
「報酬、どうなるんですか?」
「さすがに五百枚というのは厳しいだろうな。だが、大人のグリフォンが一頭百枚に、子供のも五十枚は支払えるよう調整しよう」
「そうですか。ではオーク達に運搬用の筏みたいの組ませて街の側までは運ばせますので、後の事はお任せします」
「戻らないのか?」
「グリフォン達が飛んできた方角が気になりますしね。一応、確認しておこうかと」
「そうか。もし頼めるなら、お願いする」
「一頭百枚?」
「善処する」
「街まではチフ助達に護衛させますよ」
「よろしく頼む」
「運び賃代わりに、グリフォンに付ける鞍とか作れそうな職人さん、後で紹介して下さいね。戻るの数日後になるかも知れませんけど」
「無茶はするなよ。お前は大事な新人だ」
「忠告は受けました。それではまた後ほどか、後日」
輝人達の食料の事も頭をよぎったが、まぁ数日程度なら何とでもなるだろう。私はグリ助1に地面に伏せてもらって、翼の前に座った。
「私を乗せて飛べる?」
「ぐぅぅ」
肯定の意の返事をしてくれた。
「体を固定する道具とか無くて大丈夫?風の抵抗とか」
「ぐう、ぐうぅ」
心配しなくて良いというので、低高度低速度で飛び立ってもらった。翼の力ではなく、魔法の力で飛んでる設定なのだろう。正面から風が吹き当たるという事も無かったので、中高度、地上数百メートルほどの高さでそれなりの速度で飛んでも問題無い事を確認してからいったん元の場所に降りた。
「という訳で、問題無さそうなので、グラハムさんとオールジーさんも別のに乗って下さい」
「その、留守番じゃダメ?」
「ダメです。飛んでいった先で反応があるかも知れませんからね」
「はあ。せめて、命綱を付けさせてもらってもいいか?」
私はグリ助2に尋ね、二人くらいなら問題無い事と、綱も許容してもらえる事を確認した。二人は、オールジーさんを前に、グラハムさんを後ろに、二人の体をつないだ縄の先を、緩くグリ助2の首に回して結んだ。グリ助2の首が絞まらないようにというのは念入りに確認したら、グリフォンの死体を運ぶ準備も整ったようなので、そちらはチフ助とアンガスさん達に任せて、私は飛び立った。
今感じられるのは、輝人とクロっちのメダルの反応だけなんだけど、これから向かおうとしてる西の山脈の方には、うっすらと別のメダルの反応があるように感じていた。
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