エピソード9:オーク村の掃討と、ギルマスとの出会いと

 スキル:魅了を使うクロっちの対処は、わかっていれば簡単だった。神様的な加護の働きとかで油断しちゃいけない事もわかってたけど、全く素性や能力もわからない相手と殺し合いになるよりは、ずっとやりやすい。

 魅了スキルがチフ助とかには通じなかったのは、ステータスのランク差や私とのレベル差も関係してたと思う。つまり他の魔法系の効果も、推測できる事になる。


 オークの村に半分以上残ったオーク達をどうするか。私の能力的には、ここで一息に潰してしまった方が効率は良い。経験値やお金としても他人に渡したくなかった。


 どうせなら役に立ってもらおうと、半裸状態のクロっちを5メートルくらい高さの木で組んだ十字架にくくりつけて、それをトン助達に掲げさせて村の中へと突入した。村の広場に十字架を突き立てて、混乱してるオーク達に複製した鉄槍をどんどん投げさせた。トン助達の複製を二十体増やして、チフ助の複製も二体追加しておいた。


 スケッチから実体化した魔物達を中心に十字架の周りを守り、その左右から複製したチフ助とトン助達に攻めかからせた。これも複製した鉄槍を投げつけて相手の数を減らしたり手傷を負わせていった。

 敵方からすれば、妙なオブジェとそこにくくりつけられた半裸人間女性はともかく、そこを守って全体のオークを指揮してるのが、自分達を率いていた筈のチーフシャーマン祈祷師という事で、逆切れしたように突っ込んできた。あんたら何敵に回ってんねん!?て感じで。悪いのはこっちで確かなんだけど、殺されてあげるわけにはいかない。

 数にすればほぼ同数だったけど、複製オークはランクが一つ下がるのを考慮に入れたとしても、やはり統率力の違いが戦果と被害の差に直結していた。複製オーク一体が倒される間に、敵のオークを二体は倒していた。

 倒したオークからはホブ助達に魔石を取ってきてもらって、複製オークの数が減りすぎてきたら補充した。敵にしたら、悪夢だったろう。倒したオークの姿が消えたと思ったら、また無傷のがどこからか出てくるのだから。


 やがて相手の頭数がこちらの半数を下回ると、一体、また一体と逃げ始めた。向こうはリーダー役がいないので歯止めが効かず、全体が崩れて逃げ始めるまで時間はかからなかった。

 私はチフ助と複製チフ助や複製トン助達に追跡させて、トン助達には周囲の警戒を。ホブ助達には討伐証明と魔石の採取を命じた。


「見事なもんだね。これでまだ二日目なんだから」

「輝人もね。安物の短剣でも、オークの体に穴開けたり手首や足首に浅くない切り傷つけてたりしたじゃん?だいぶレベルも上がった?」

「お陰様でね。でも七瀬さんほどじゃないよ」

「何体かの討伐証明と魔石は分けてあげるわ」

「助かるよ」

「輝人には、しばらくクロっちの面倒見てもらわないといけないだろうしね。資金援助くらいはするわ」

「殺しておいた方が面倒は少ないと思うけどね」

「それも確かなんだけど、ランダム対戦で当たる相手との相性によっては、私も瞬殺とか封殺されてもおかしくないし」

「だから、時間稼いでる間に、なるべくレベル上げて自分を強化しておこうっていうの、間違いじゃないと思うよ」


 私は、村の中の探索と魔石取りとかが一通り終わり、チフ助達が戻ってから、彼らを村の中に留めていったん冒険者ギルドの出張所まで、チフ助達と戻った。


 防塁の上の見張り達はチフ助達の姿にびびってたけど、私やグラハムさんやオールジーさんが普通にその前を歩いてる事で何かは察してくれたようだった。

 見張りの人が、出張所の管理人さんを呼んでくれたので、大声で言った。

「オークの村を全滅させたので、ご報告に来ましたぁっ!」


「バカなっ!」

「一日で狩りきれるような量じゃない筈だ!」

「待て。証拠はあるのか?それに、その、お前達の背後にいるオーク達は、違うのか?」

「はい。この子達は、私の制御下にあります。それに証拠でしたね。とりあえず、討伐証明は持ってきました」

 私は複製した背負い袋に詰めてトン助達に運ばせていた、大量のオークの豚鼻をどさどさと地面にあけさせた。

「ふむ。以前までここらにいたオーク達の毛並みとは若干違うな。確かに、移ってきた連中のだ。村を全滅させたと言ってたな?案内してもらえるか?二人ついてこい」


 そうして私は再び討伐証明を袋に詰め直してから、オークの村へとんぼ帰りした。途中で狩り場にしてた所にも寄ったから、鼻を削がれたオーク達の死体の多さに驚いていた。

 村で警備していた複製オーク達にもびびっていたが、それでも死体を数え終えた管理人さんは言った。

「いやはや、恐れ入ったよ。アイアン級より上のシルバー級のパーティーですら、一日で倒しきる事は困難だったろう。ましてや君達は、ストーンになりたてが一人と、カッパーになりたてが二人だ。どうやったんだ?」

 グラハムさんが質問され、

「彼女の力です。詳しくは私の口からは申し上げられません」

 私の方を向いてそう答えたので、

「冒険者としての秘密です。詳しい事はお話出来ません」

 と答えておいた。

 管理人さんの付き添いで来た二人が村の中の見回りを終えて戻ってきて、確かに空になってる事を報告すると、一緒に街へ報告に戻る事になった。


「このオークの大量の死体はどうするつもりだ?素材としては、皮まで剥げばそれなりの値段は付くが、手間がすごいがな」

「そこまで手間かける時間がありません。埋めるのも手間ですし、明日、グリフォン狩りの釣り餌に使おうかと。だから、ここにいるオーク達に運ばせてもいいですよね?」

「街道の往来を邪魔したり、その治安を逆に悪化させるような事が無ければな。しかし勝てるのか?」

「強いんですか?」

「オーク達よりもさらにずっと格上だ。風の魔法を操り、下手な魔法や弓はその体にすら触れられない」

「なるほど工夫が必要って事ですね。良い情報をありがとうございました!」


 もういい感じに陽も落ち掛けてきていたので、早足で出張所経由で街まで戻った。チフ助とトン助1から3は荷物持ちとして付き添わせた。何故かというと、一日でオークの村を全滅させた事の信憑性を疑う向きをどうにかする為と、これからの事の牽制の為だった。

 当然、門番の兵士さん達が慌てて門を閉めようとまでしたけど、そこは冒険者ギルドの出張所管理人さんとその付き添いさん達にがんばって説明してもらい、チフ助とトン助達を消す事で安心してもらった。

 今度は背負い袋を付き添いさん達に背負ってもらって冒険者ギルドまでたどり着き、一人に付き金貨一枚をお駄賃に払った。出張所管理人さんが窓口のお姉さんにも声をかけ、一緒に解体所に行き、討伐証明を全部ぶちまけて再度数え上げ、またギルドタグを受け付けのアマンダさんに預けてから、二階にあるギルマスの部屋に、私とグラハムさんとオールジーさんは連れて行かれた。あ、もちろん、報酬額からレイグ達への支払いの手続きを済ませておくようにも頼んでおいた。


 ギルマスの部屋のドアを荒くノックした出張所管理人さんは、返事をほとんど待たずに部屋に押し入った。

「ジュゼルです。入りますよ、ギルマス!」

「なんだ?せめて返事くらい待て。何があった?オークが増殖して街にまで攻めてきたのか?何人犠牲が出た?」

「いえ、それが、今日初めてあの村の辺りに来たこの三人、現状までのランクはストーンが一人にカッパーが二人なんですが、村のオークを全滅させまして。討伐証明も、死体も、村の様子も、私自身で確認してきました。間違いありません」

「お前が言うのなら間違い無いのだろうが、本当にそこの3人だけでか?」


 じろりとイケ中年オジににらまれた。体格も良いし、顔にいくつか古傷もあるので、元は歴戦の冒険者だったのだろう。

 ジュゼルさんがどこまで言っていいのかと、こちらの様子をちらりと伺ってから説明した。

「いや、この娘さん」

「アヤです」

「アヤが、その、魔物のテイムみたいなスキルを持ってて、それでオークやチーフなんかを多数召還?か何かして、村のオークを倒しきったようです」

「ふむ。アヤか。聞いた事の無い名前だな。冒険者歴は?」

「昨日登録したばかりで、今日が二日目です」

 ギルマスさんは驚いて目を大きく見開いて、ジュゼルさんを疑いの目で見た。

「本当ですよ!自分もさっき受付で確かめましたけど、昨日の午前中に登録して、夕方に数十匹のゴブリンの討伐証明持って帰ってきてウッドからストーンに等級が上がって、その翌日にはオークの村を全滅させたんです!」

 ギルマスさんは、眉間に寄った皺を指で揉みほぐしてから言った。

「とんでもないな。アヤ。お前はどこの出身だ?」

「秘密です」

「そうか。お前のスキルもどうせ秘密なのだろうが」

「そうですね」

「まあいい。あまり悪さをするような奴には見えないしな。だが最初から目立ち過ぎると、後で苦労するかも知れないぞ。気をつけろ」

「脅しですか?忠告ですか?」

「忠告だ」

「なら、明日からはグリフォン狙いますよ。ちゃんと倒せるかはわかりませんが」

 ギルマスさんがまたジュゼルさんをじろりと見たので、

「ちゃんと警告はしましたよ!風魔法使ってきて、弓矢とか魔法でもろくにダメージ与えられないって」

「何とかなります」

「おもしろい。俺も見物に付いていっていいか?」

「すぐ側でなく、遠目の見学というのであればどうぞ」

「まぁ、それでいい。どうせお前くらいになれば、領主様の耳に噂が届くのも早かろう。ジュゼル」

「はい、なんでしょう、アンガスさん?」

「アマンダ達に伝えておけ。アヤは今日の分だけで等級を二つ上げろ。後ろの二人は一つだ。そして明日グリフォンを倒せたら、アヤはまだ一つか二つ等級を上げろと」

「わ、わかりました!」

 ジュゼルさんが階下へと戻って行ったので、私は尋ねた。

「質問とかお願いごとされてばかりなので、こちらからもお願いしていいですか?」

「なんだ?」

「他のギルドと情報連携出来てるのなら、私と似たような話が余所のギルドでも起きてないか、調べてもらえませんか?」


 ギルマス、アンガスさんの太い眉がぴくっと震えた。

「お前みたいのが、他にもいるというのか?」

「どこでも、という訳じゃないでしょうけど、昨日から今日くらいにかけて、いきなり現れて活躍しだしたっての、それなりに出て来てるんじゃないかと」

「お前達は何者なのだ?」

「お話出来ません。私達は、そうですね、否応無しに巻き込まれた口です。私達に拒否権も拒否する力もありませんでした。これは秘密ですけど、ああ、まだもったいぶっておくか。少なくとも、この世界の人々や国とかに好き好んで敵対するつもりは無いですよ。一部の例外はもしかしたらいるかもですが、その程度です」

「なぜそこまで話す?自分を危険にさらしてる自覚は無いのか?」

「すでに命の危険て奴にさらされてるからですよ。だからといって自重する気は無いからお話ししました。私はあなた方に敵対するつもりは無い事を証明する為にも」


 アンガスさんは私の目をじっとのぞき込んでから言った。


「明日朝、ギルドに寄ってから西の街道へ出発だ」

「だいたいどの辺にグリフォンが出るかわかりますか?」


 アンガスさんは地図を出して説明してくれた。

「この街から馬車で一、二時間ほど移動した辺りだな。いつもいるという訳ではなく、たまに顔を出すくらいだから、警戒しきれず、倒せてもいない」

「わかりました。今日倒したオーク達の死体をその辺りにばらまいて寄せ餌にするつもりです」

「おびき寄せられたとして、どう倒す?」

「それは秘密です」


 にこりと微笑んでみせても、渋面で返され、去れと手振りされたので部屋から退出した。

 一階受付に戻るまでに、グラハムさん達に質問された。

「あそこまで話してしまって良かったのか?」

「はい、自重せずに今のペースで魔物を狩り続けてたら、隠し通す事は無理です。なので、信頼出来そうな相手にはある程度の事情を話して、出来れば私を保護してくれそうな状態に持ち込む方が有利だと判断しました」

「でも、貴族相手だと、危ない事もあるわよ?」

「だとしても、です。いざとなったらすぐ逃げる為にも、グリフォンを見つけて倒そうとしてるんですから」

「ああ・・・」

「なるほどね」

 と二人は得心してくれた。


 一階受付に戻ると、何か騒ぎになっていた。レイグ達もいたので、私は歩み寄って尋ねた。

「お金は受け取った?」

「あ、アヤ!お前、すげぇ奴だったんだな」

「で、受け取ったの?」

「ああ、しっかりとな。安心しろ。もうグラハムにもオールジーにも変に絡もうとはしねぇから」

「お前等、そんな事してたのか?」

「まぁ、不幸な事故がありましてね。もう終わった話ですよ。プスロさん」

「アヤ、今日は助けられた。礼を重ねて言うが、しかし、本当に今日一日で倒しきってしまうとはな。見事だ」

「運が良かっただけですよ、きっと」

「謙遜はいらない。今日で登録二日目とは恐れ入った。後で酒でもおごらせてくれ」

「お酒はまだいいですが、情報とかなら喜んで」

「はは。では食堂の方で待ってるぞ」


 あれだけ私達には高圧的だったレイグ達が、プスロさん達の前では殊勝な態度を取っていた。プスロさんがシルバーで他は全員アイアンなので、きっと憧れとか目標としてる存在なのだろう。

 私達はアマンダさんに呼ばれてカウンターに行き、三人揃ってアイアン級のタグを受け取り、さらに大きな皮袋を渡された。


「オーク・チーフが一体で金貨15枚。オーク・シャーマンが一体で金貨10枚。他のオークが一体につき金貨3枚が締めて75体だから、何枚?」

「・・・225枚ですよ」

「レイグ達への支払いの金貨21枚は引いてあるわ。だから204枚ね」

「一人頭で68枚か。アマンダさん、この金貨を三つの皮袋に」

「アヤ、忘れたのか?」

「何をでしょう?」

「今日と明日、私とオールジーは、一日銀貨5枚で雇われていた身だ」

「そういえばそうでしたね。じゃあ、このお金はいったん私が預かっておきます、というか、こんな大金持ち歩いてられないので、アマンダさん、これギルドで預かっててもらう事って出来ますか?」

「年に預かり手数料として金貨一枚もらうけど、それで良ければ。どの冒険者ギルドでも引き出し可能よ」

「すてきです。そしたら、この残りをお願いします」

 私は袋から金貨を三十枚ほど掴んで、一枚をアマンダさんに渡し、残りを自分の財布に入れてから、食堂へ向かった。


「それでは祝杯を上げましょうか。ぱーっといきましょう。お二人の分は私が払いますので!」

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