エピソード5:その他のプレイヤー達の初日。伊藤輝人と黒田茜、他
自分は、伊藤輝人。十七歳、男。剣道はそこそこやり込んできた。全国大会でももっと上は狙えるだろうね。
高校に上がる時も、もっと剣道が盛んなところから誘われてはいたけど、綾華と同じ高校に通う方を優先した。
そして、始業式に起きたアクシデントだ。これこそ、自分に与えられた天の恵みだと思えた。もう何度もふられている綾華の気持ちを取り戻す為の絶好の機会だと。
自分は剣の神アグルディアに見込まれてメダルを与えられた。個別面談の場での質問は最小限に留めて、彼の推奨するスキル、敵スキル無効化か、魔法攻撃無効、どちらも無ければ状態異常無効を取得する為もあったし、綾華を見つけて一緒に、もしくは出来るだけ近い場所でスタートする必要があった。
敵スキル無効化は既に取られていたので、状態異常無効を取っておいた。鍛えていけばたいていの魔法も剣で切れるとアグルディアが言ったのと、誰かを探しているらしい黒田茜の様子が怪しかったからだ。加護とスキルの重ね合わせによっては自害させられるとも警告された。
綾華が自分を見つけたら、まず間違いなく逃げられてしまうという自覚はあったから、黒田茜の後をつけて、彼女が女子トイレに入ったので、自分は反対の男子トイレ側に潜んだ。
どうやってだかは知らないけれど、黒田茜は綾華を非常出口前で捕まえた。彼女たちの話し声を聞いて、自分も姿を現した。
やっぱり綾華は逃げて、もう少しで捕まえられたけど指先がかからず逃がしてしまった。
転移先の街で、一番近くに感じたメダルの気配の方へとしばし駆けていくと、黒田茜がいた。逃げようともしていなかった。
自分を見つけると、手を振りながらにこやかに微笑みかけてきた。黒田茜の瞳が淡い光を放った瞬間、自分は彼女の喉頸を掴んで、脇道の壁に押しつけた。
もう片手で表通りからの視界を塞ぎ、身を寄せて恋人同士が何かしている体を装った。
「魅了のスキルを使ったのか?残念だったな。このまま死ぬか?」
「残念。テルっちなら使いでが良さそうだったのに。ちなみに死にたくはないから、見逃してもらえるとうれしいな」
「見逃しはしない。お前が近くにいたという事は、もう一つ感じるメダルの反応は、綾華の筈だ」
「綾華って呼ぶなって言われて、う、ぐぅぅっ」
黒田茜が苦しげに自分の腕をどうにか喉からひきはがそうとするけど、力が違い過ぎる。
「ぼくは好きなように彼女を呼ぶ。彼女の前ではない限りね。お前は生かしておいてやる。ぼくに協力するのなら。ぼくは、綾華の為に、他のプレイヤーを狩っていく。協力するか?断れば殺す」
喉を掴む手の力を少し弱めると、げほげほと咽せてしばし呼吸を繰り返して落ち着いてから、うなずいた。
「ランダム対戦を免れる為の分け前くらいは、もらえるんでしょうね?」
「おとなしく従ってついてくるならな」
「わかったわ。とりあえず、放してもらえない?いいかげん、目立つわよ?」
「そうだな」
何事も無かったかのように彼女を降ろし、とりあえず服をどうにかしようと言われたけれど、狩るには制服の方が都合が良い筈と却下した。
同じ高校の五百人以上の生徒全員を、誰も覚えている訳が無い。そんな奇特な奴がいても一人か二人くらいの例外だろう。なら、同じ服装で仲間と分かる方が便利そうだった。
町中をうろついて情報収集しながら、新たなメダルの反応が感じられるまで、およそ一時間以上かかった。その間に、どうやって獲物を釣って処理していくかというやり方を二人で練った。
道端に座り込んでいた男子生徒に二人で近づいていくと、最初は怯えていたけど、黒田茜に話しかけさせると、目に見えて警戒が緩んだ。
「右も左も分からない場所で、いきなり一人で動いても危ないでしょう?最終的にどうなるかよりは、当面を安全に生き延びなきゃ。だから、協力しあえるでしょ?」
向こうは自分を知ってたのもあって、二人で見つけておいた人通りが無い行き止まりに彼を誘い込み、道端に落ちてた木の枝で、背後から胸を一突き。元の世界なら服を破れなかったかも知れない一撃は、たやすく彼の体を貫通した。加護の効果かも知れない。
血の海に倒れた彼の体から、財布を取り上げ、メダルも奪った。メダルを奪われた死体は、だんだん薄くなって消えてしまった。血の海はそのままだったから、その場を離れた。
「で、メダルが増えるとどうなるの?その神様の加護ももらえるようになるの?」
「確認してるところだ、少し待て」
ステータス画面で見ると、獲得メダルが0枚から1枚になっていた。得たのは、建築の神のメダルだった。大工の息子とかだったのだろうか。
「どうやら、所持メダルが増えると、元々持っていたメダルの加護レベルを上げるか、新たに得た加護を増やすかどちらかを選べるみたいだよ」
「へぇ。それでどんなメダルをゲットしたのよ?」
「建築の神のメダル。自分には不要だろうから、元々のメダルの加護レベルを上げるよ」
「ほとんど聞くまでもないけど、一応聞いとくね。テルっちが加護を得たのは剣の神様?」
「当たり。外しようが無いよね」
「それで、加護レベルが上がるとどうなるの?スキルみたいのが増えるの?」
「秘密」
「ケチ。教えてよ」
「まぁ、ほぼご想像の通りだよ」
「そっか。やっぱりね。スキルは何かもらえたの?」
「いいや。そこまで大盤振る舞いじゃないらしい」
「じゃあ、次のは私にちょうだいね?」
「自分で殺せるのならな」
それからはしばらく待っても次のメダルの反応が現れなかったので、見つけた武器屋で安物の短剣を買っておいた。残りのお金でローブを二着と背負い袋を買ったら、さっきの男が持ってた金貨十枚はほとんど無くなってしまった。
「お金を稼ぐ手段も見つけておかないとだね」
「そうだな。今日中にあと一人二人はやっておければ、すぐに金に困る事も無さそうだけれど」
「見つけて、狩れればね」
さっきの男から一時間くらいして、ようやくまた新たなメダルの反応が現れた。
今度は女子生徒で、一応は黒田茜の知り合いの一年生だった。自分は彼女を知らなかったが、彼女は自分も知っていた。自分と黒田茜が組んでいて、協力をもちかけると、彼女は参加させて下さいと即答した。
これでもうしばらくは心配しなくても良くなったと泣いて喜んでいた彼女を、二人でまた人気の無い場所まで誘導。
黒田茜が魅了スキルを使って自害させようとしたけれど、そこまで従順にさせる事は出来ず、結局は自分が首を切って出血死させた。
「残念だったな」
「ちっ。次はその短剣貸してよね」
「いいよ。ちなみに、いつまでかはわからないけど、敵の
「じゃあ、魔物倒さなくてもプレイヤーだけ倒して強くなる事も一応可能なんだね」
「みたいだね。で、今回ゲットしたメダルは、音の神。加護は、好きな音を一定範囲内で出せるらしい。使い勝手良さそうだし、この加護は得ておこうと思う」
「好きな音を出せるって、そりゃ驚かしたりは出来るだろうけど、それ以上の使い道なんてあるの?」
「戦闘に長けた者同士の戦いなら、とっても、ね。それに、無効化もされにくいだろうし、防御も難しい。良かったよ。こんな戦闘向きな加護を、弱い誰かが持っててくれて」
「さっきの子、確か吹奏楽部だったかな」
「知り合いだってのに、躊躇無かったね。さすが黒田さん」
「あんたなんてもう二人も殺してるのに全然応えた様子無いよね」
「どうでもいい相手なら、何とも思いはしないよ。君もぼくの同類だと思うけどね」
黒田茜は舌打ちしたものの否定はしなかった。
次のメダルの反応は中々現れなかった。綾華と思われるメダルの反応は街の中からだいぶ離れてたので、ローブを着て冒険者ギルドに行って、登録もしてみた。
自分にそういった知識は無かったけど、黒田茜にはわずかに知っていた。綾華から聞いたらしい。町中のお使いクエストの中でも短時間で終わりそうな物を受けてみた。
午後の早めの時間から、配達屋みたいな仕事の手伝いを二件ほど終わらせて、夕方近くになってようやく次の新しいメダルの反応が出現した。
今度の相手は、自分達が近づいてくるのを感じ取ると、すぐに逃げ出した。自分達も走って追ったけれど、相手も全速力で走って街の外まで逃げたのか、メダルの反応は街からもずっと離れていってしまったので、追跡をあきらめた。
「追わないの?」
自分よりずっと早くにばてて走れなくなった黒田茜はなぜか恨めしげだった。
「ああ。逃げていった方角は分かってるし、今夜はもう一人のメダルの反応が綾華なのかどうか確かめないといけないからね」
「まだこの街に誰か出てくるかも知れないしね!次は私のだからね!」
「ああ。だけど、その次はまたぼくだから」
「ずるい!」
「ずるくない。君の総メダル枚数は常にぼくより少ない状態に留めておく。保険の為にね」
「はーーーっ、仕方ないか。まだ殺されたくないし」
「そうそう。従順でいてね。それだけ後回しにしてあげるから」
そして夜になり、綾華はやっぱり綾華で、しかも想像してたよりずっとたくましく初日を乗り切ったらしい。さすがだ。やっぱり君は特別なんだ。
黒田茜との部屋は、一室しか取らなかった。自分が寝てる間に、変な手下を増やされても面倒だし、監視に置けない時に綾華に会いに行かれても面倒だったから。
「んで、するの?」
「する訳が無い。ぼくをバカにしてるのか?」
「一応の確認だよ。んじゃお休み」
「ああ、お休み」
部屋の明かりを落としてしばらくすると、黒田茜がベッドに潜り込んでこようとしたので、蹴り出した。
「次やったら殺す」
「だよね」
魅了のスキル持ちに魅了されたら末路は明らかだろう。自分は綾華の姿を瞼の裏に思い描きながら、眠りに落ちていった。
=====
その日。
元格闘家だったが、膝を壊してプロとしての道は断念させられていた
水の神エイミアの加護を得た水野舞は、同じ水泳部の男子部員達六人にショッピングモールで捕まり、南の国への出口からその先へと連行され、さらにその先で人気(ひとけ)の無い場所に連れ込まれた。だだ漏れだった欲望の海に彼女を沈めようとした彼らは、彼女が加護の力で出した大量の水に残らず溺れさせられて死亡。彼女自身は水中呼吸のスキルで何の不都合も無く、いつでもどこでもいつまでも泳げるようになった異世界ライフを今後もエンジョイしていく事に決めた。メダルは、寄ってきた相手を以下同文にすれば何とでもなりそうだった。
円城高校でも随一の富裕な生徒な
一千万相当の資金を元手に、資金力を活かし殖やしながら、自分では戦わずに雇った他の誰かに戦ってもらう道を選んだ。メダルの取得方法は指定されてないのだから、これが一番賢くて安全な戦い方だと尾上は判断した。
彼は冒険者ギルドではなく商業ギルドに登録し、最初に着ていた制服を高値で売り、その金で最初の傭兵を用心棒として雇い、彼を襲ってきた二人の敵を倒してメダルなどをゲットしていた。
市議会議員の長男でもある、生徒会長の
及川が加護を得たのは、法の神の加護。これは、世界に存在するあらゆる法則性の中から任意のものの働きを強めたり弱めたり出来るという、取り扱いは若干難しいものの極めて強力な物だった。
そして彼が、たった一つしか用意されていなかった、スキル無効のスキルを得ていた者だった。
校長である
個別面談も非常に時間がかかったが大半は雑談だった。秦野は抽選会場に最後に訪れた一人になった。無限個用意されていた物以外はほぼ何も残っていなかった中から、彼はサバイバルセットを選択。理由は、ソロキャンプが彼の少ない趣味だったから。
彼が選んだ出口は、綾華達が出たのとは違う非常用の物で、転送先は町中ではなく、どことも知れぬ森の中だった。
秦野は、月明かりの下でテントを組み立て、火を起こし、水を飲んで空腹を紛らわした。
そんな、本来人がいる筈の無い場所で、ある筈も無いたき火の灯りに惹かれてやってきた何者かと秦野は意気投合し、その者の助けも借りて当面の生活を乗り切っていくことになった。
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