プロローグ3:抽選会場にて

 転移した先は、ショッピングモールの広場みたいな場所だった。そこから四方に延びた通路の先には店舗みたいなスペースがあって、お店みたいに商品を飾ってる所もあれば、大小様々な大きさや形の宝箱があって、先行してこの場所にやってきてたのであろう生徒達が、宝箱を開けてはこれじゃないとか悪態をつきながら他の宝箱の中身をのぞき込んだりしていた。


 みんな何をしてるんだろ?と当然の疑問は浮かんだものの、視野中央には四面の大スクリーンが設置されてて、そこに表示されてた内容がイヤでも視野と意識の大半を占めてきた。


『この抽選会場にあるスキルやアイテムや魔法や何やかやを一つだけ選んで、ゲームを開始できます。

 早いもの勝ちだけど、他の人が選んだ何かは奪えません。二つ以上を選ぼうとしても、後から選んだ物だけが残ります。

 選んだ後は、それぞれの通路の先にある出口から各自のスタート位置へと転送されます。


抽選会場お品物目録

お金:金貨1000枚(一千万円相当)(50/残49)


武器:剣、短剣、長刀、短刀、長槍、短槍、弓矢、棍棒、鉄棍、メイス、弓矢、その他、(各∞)

防具:鉄鎧、鎖鎧、皮鎧、盾、兜、ローブ(各∞)


スキル:鑑定(10/残8)、隠密(ステルス)(15/残14)、

魅了(チャーム)(5/残3)、HP自動回復(15/残12)、

身体強化(30/残21)、MP自動回復(15/残11)、

自動マップ(10/残10)、反射(5/残3)

追跡(10/残7)、成長速度上昇(3/残1)

状態異常無効(2/残1)、成長上限上昇(3/残1)

物理攻撃無効(3/残0)、敵スキル無効化(1/残0)

魔法攻撃無効(3/残1)、魔物テイム(3/残1)

暗視(10/残8)、気配察知(15/残13)

複製(2/残2)、武器スキル(剣/槍/刀/弓/棒 各∞)、水中呼吸(5/残4)

無限収納(1/残0)


属性魔法

炎(30/残22)、水(30/残29)、風(30/残28)、土(30/残30)、光(10/残7)、闇(10/残8)、時空(2/残1)


経験値 5レベル相当(25/残21)


アイテム

ポーションセット(HP回復、MP回復、毒消し、各5本)(25/残25)

サバイバルセット(テント、寝袋、火起こし道具、ナイフ、浄水器)(15/残14)

結界ペンダント(1回1時間、3回分)(10/残8)

ランダム転移プローチ(3回分)(5/残5)

身代わり指輪(1回)(2/残1)


なお、スタート時の標準装備として、

金貨10枚(十万円相当)

異世界言語

世界マップ(自分と他人のメダルのおおよその所在が分かる)

センス(最寄りのメダルがどの方角にあるか感じ取れる)

などが与えられます。


それでは、良い旅立ちを!』


と書かれてた。


ヤバイ物がもういくつも取られてて、すでにたぶん旅だった後なのだろう。いわゆるチートスキルの中のチートスキル、定番物がすでに売り切れてたり減ってたりした。

自分がすでに出遅れている事ははっきりしていた。円城高校の生徒550人と教師達を合わせて約600人近くの、先頭一割の中には入っているだろうけど、とてもじゃないが安全圏にはいない。

 あれだけ目移りするチートスキルなどが揃ってるのに、5レベル分の経験値を選んだのがすでに4人もいた。通路の先に出口があると言ってたけど、四方向に通路が延びてるのなら、出口もおそらくは4つになる。どれもすでに安全ではなくなっていると考えておいた方が良いだろう。


さて、自分が見つけるべきスキルはどれかはもう判明した。幸いまだ残ってはいる。最強かと言われるとそうではないと判断されたからトップグループは選ばなかったのだろうけど、それでも絶対弱い訳は無い。自分のメダル加護のように絡め手を使う誰かなら欲しがっておかしくない。


そこら中に乱雑に置かれてる宝箱を手当たり次第に開けていく事も考えたけど、それは最後の手段だ。通路の先以外の出口も探しながら探索する。そして、ショッピングモールを模した場所ならば、当然、フロア地図はある筈で、それは苦労せずに各通路の入口部分で見つけられたので、とりあえず四枚の案内板を見て回った。


 武器は武器屋、防具は防具屋、アイテム類は道具屋に陳列されてた。なら、店舗アイコンから中身の予測がある程度はつけられる筈。

 自分にとっては、本屋やコンビニ、後は画材店みたいのがあれば、そこが候補だった。

 フロア地図の店舗絵アイコンで本屋みたいなところに行き、そこで本棚に挟まってる小さな宝箱を開けると、「土魔法」だった。これの取得を選ぶと土魔法が使えるようになるというのが伝わってきたけど、自分はそれ以上の詳細説明が意識に流れ込んでこようとするのを遮断して、宝箱を元の場所に戻した。

 他にもいくつか魔法が使えるようになる宝箱は見つけたけど、それが光とか闇のでも私は無視して元に戻し、全部を開けきってはいないけど本屋を後にして、通路出口付近にあるコンビニっぽい店舗へ向かった。


 あくまでも、陳列棚とかがコンビニを模されてるだけで、慣れ親しんだ雑誌とかスナック類、お弁当その他諸々商品は置かれてなかったけど、あちこちに宝箱が点在してた。

 出口付近の雑誌棚に置かれてた地図帳を手にしてみると、自動マップのスキルだったので、元の場所に戻した。

 店舗の奥に進んでいくと、ATMを模したのであろう何かと、コピー機を模したのであろう何かが置かれていた。

 私は迷わずコピー機らしきオブジェに手を触れ、複写部分のカバーを開けると、スキル『複製』が提示されてきた。取得しますか?という確認メッセージには、即座にYesを選択。スキルの詳細は後からでも確認出来そうだったので、いったんコンビニから出て、側にあった通路出口の一つを眺めてみた。


 そこは有り体に言うと、白い霧の壁で先が見通せなかったのだけど、壁際には立て看板があって、その先にあるのが、ラングロイド帝国という武と力を尊ぶ国の帝都だと書かれていた。


 私はいったん中央広場に戻り、すでにスタートしたプレイヤーの数が、自分が転移してきた時の倍くらいに達してるのを見て取ってから、フロア地図に非常用出口がいくつかあるのを確認。

 武器屋や防具屋や道具屋で、役に立ちそうな物を手当たり次第にスケッチを済ませてから、他の三つの出口の先の国案内にも目を通しておいた。

 一つは、ポルジオ王国。自然が多く農業が盛んな平和な国らしい。一つは、レイキア工国。名前の通り工業技術が発達した国らしい。一つは、ユーツエル連邦共和国。海に囲まれた群島が多い地域にあるせいか、商業が盛んで航海技術が進んでいる国らしい。

 ちなみに、ラングロイドが北、ポルジオが東、レイキアが西、ユーツエルが南の、それぞれを総じて四大大国と呼ばれているんだとも書かれていた。てことは、他にも国々があるって事で、そちらに通じた出口があってもおかしくないって事でもある。


 私が一番近い非常用出口につながる脇道の様な細い通路を見つけて入り込むと、その両脇には男女トイレがあって、その先の扉が非常用出口だった。


 迷わずそちらに駆け寄ろうとすると、女子トイレから出てきた誰かが、通り過ぎようとする私の手を掴んで止めた。


「アヤっち!?良かったー!会えたんだ。うわーぃ!」

 一番会いたくない内の一人に出会ってしまった。

「クロっち・・・」

「アヤっち、組もっ!ねっ!いいでしょ?!」


 黒田茜くろだ あかね。クラスの中でも明るすぎて引かれるくらいの陽キャラの一人だけど、誰とでも仲良く出来るコミュ力の化身みたいな存在だった。

 でも、だからこそ、断った。


「無理。ごめん」

「え、えっ、なんでー!?気使うのなんて後回しで良くない?」

「後回しに出来たとしても、その時はもっとつらくなるだろうし、たぶん、もっと凄惨になるから」


 クロっちの瞳から親しみといった光が消えた。この方が割り切れて良い。


「クロっちと戦いも敵対も出来ないし、殺し合いもしたくないから」


 私が教科書とかノートに描いた落書きスケッチみたいな絵とか好きなマンガやアニメとかについてバカ話をするのは好きだったけど、そんな二人の関係のまま別れておきたかった。


「私っちは、信用できない?」

「そういう問題じゃないよ。じゃあ私は行くから」


 クロっちの手を振り払って非常用出口に進もうとした私の背後から声をかけられた。


「待って、七瀬さん!」


 私が嫌々振り返ると、会いたくなかった筆頭候補な男子生徒、伊藤輝人いとう てるとが立っていた。

 そこそこ整った顔立ちで剣道部の副将にしてエース。剣道の県大会で優勝して全国大会でも三回戦まで進んだらしい。応援に来てと呼ばれてたけど行かなかった。ご想像の通り、校内でも五強と呼ばれる人気男子生徒の一人だ。


「待ちたくない」

「どうして?」


 お前に会いたくなかったから、というのが強い理由の一つだけど、さすがにストレートに伝えるのはどうかと思ったら、黒田さんクロっちがぶっちゃけてしまった。


「そりゃ、こんな状況でふった相手につきまとわれたら恐怖しかないじゃん。そんくらいわかんないのかな、テルっちは?」

「黒田さんは黙っててくれないかな。ぼくは、七瀬さん、いや、綾華に話しかけてるんだ」

「名前で呼ばないでって頼んで約束したよね?」

「したけどさ、こういう非常事態だし」

「関係無いよ。それに私にも近づかないでってお願いしてるよね、ずっと」

「でも、こんな時だからこそ、ぼくに君を守らせてよ!」

「いらない。クロっちにも言ったけど、あんたとも変に絡みたくないから、一緒に行くとか論外だから」

「でも、ずっと一緒だったじゃないか。いまさら、あや、七瀬さんを放ってなんておけないよ」

「邪魔だって言われてんのわかんないの?この幼なじみ君は?」

「邪魔ってより迷惑だから。二人とも、ついてこないでね」


 私はクロっちにホールドされてた腕を解いて、非常出口へ向かい、扉に貼られてた注意書きを読んだ。


”この先、中央大陸諸国家へのランダム出口。いちおう、人里には出ますが治安度の良さはぴんきりです。”


 砂漠や大海の孤島とか、人外魔境に放り出されるのでなければ、ありだろう。


 自分の背後の二人は去ろうとしないし、こっちに近寄って来てたし、他の非常用出口の行き先を確かめてる内に、それぞれの出口周辺はもっと危険になっていく。二人を振り切れない可能性もあった。


 ええい、女は度胸!かどうか知らんけどっ!


 私が扉を開けて、やっぱり白い霧の壁の中に飛び込むと、

「待って、あやっち!」

「一人にはさせない!」

 黒田さんに手を捕まれ、かけたけど振り払い、輝人の指先が肩にかかりかけのを身体を何とか捻って避けて、転んだ、と思ったら、また見知らぬどこかに転移していた。

 人里、というか、それなりに発展してる町中の表通りの脇道に、私は転んで倒れ込んでいた。行き交う人たちが私にちらりと視線を投げたりしたけど、すぐに通り過ぎて行った。

 私は背後を振り返ったけど、あの二人の姿は無かった。ただ、ずっと遠くってほどでもない近くに、メダル?の気配を二つ、少しずつ違う方角に感じた。

 それがすぐにでも自分の近くに現れるほど近くでもないと感じ取れた私は何気ない風を装って立ち上がり、日本の現代社会ではそれなりに目立たない女子高生の制服ブレザーが、絶対に浮いてしまうと人々の姿を見て気づいてたので、通りの物陰まで引き下がって、心の中でディルジアに話しかけた。


――スケッチしたアイテムを出したいんだけど、どうすればいいの?


<首にかかってるメダルに触れて願えば出せる。スケッチブックや鉛筆などを出す時も同じだが、何も無い所から物を出し入れするのは、少なからず目立つ可能性がある>


――じゃあ、荷袋みたいのも買わないとか。


<とりあえずは着替えだな。準備しておいた物を出して着込むといい>


――アイテムとか出す時にMP魔力とか消費するの?出したその場で気を失って倒れるとか怖いんだけど?


<おおよそ、単なるアイテムなら消費MPは出す時に1かかるだけだ。また念じればアイテムからスケッチに戻せるし、眠るとか気を失うなどすればアイテムはやはりスケッチに戻る>


 他にもいろいろ聞きたい事はあったが、先ずは着替えだ。

 私が念じると、スケッチブックが脳裏に浮かび、そこで描いておいたフード付きローブを選択すると、手元に出現した。灰色の、何のファッション性も特徴も無い、理想の外装だった。


――ちなみに今ここでスキル:複製を使えば複製できる?


<可能だ。複製されたアイテムは、眠ったりしても消える事は無い>


――消費するMPは?


<自分でステータス画面を見て確かめるといい。他にもいろいろと最初に確認しておいた方が良い事が多い。手早く済ますんだな>


 ステータス、と呟いてみると、視野にそれらしき情報がずらっと現れた。


プレイヤー名:七瀬綾華

与えられたメダル加護:絵師

メダルを与えた神:絵画の神 デリュジア

獲得メダル枚数:0枚

月1枚のノルマ獲得までの残り時間:29日23時間55分37秒


ステータス

レベル:1

生命力:3

力強さ:2

器用さ:7

素早さ:3

知性:5

HP:30/30

MP:50/49

経験値:0


加護レベル:1


使用可能なユニークスキル

スケッチ


スキル

複製(レベル1)


 確かにいろいろ確認しないといけなさそうな事が多かったけど、今は急いで、スキル:複製に意識を合わせてみた。


スキル:複製

 アイテムを複製する。複製されたアイテムのランクは、オリジナルのアイテムのランクより一段階落ちる。

 消費するMPは、複製するアイテムの品質や体積やランクによって決まる。


 ※複製の特殊例外:魔物を何らかの形で支配下における手段を有する者のみ、魔物も複製対象と出来る。ランクと消費MPの関係は、アイテムの場合と基本的に同一。


 ランクがどうとか今は置いといて、とりあえず今はローブに対して、複製、と念じてみた。

 すると、手にしていたローブが淡い光に包まれて、その上にもう一着の灰色のローブが出現してふわりと重なった。

 私はスケッチで出していたローブを念じてスケッチに戻すと、新たに出現したローブを頭からずぽっとかぶって裾を足下まで落とした。

 着心地は、そんなに悪くは無いものの、良くも無く、最初に手にしていたローブの生地はそれなりに厚みがあって柔らかさがあったのに、複製したローブの生地の厚みはたぶん半分くらいで、柔らかさは無くなってごわごわしていた。


 でもまぁ着れるってだけで及第点だった。制服でうろつき回るとか、はっきり言って目立ちすぎただろうし。下着とかの事情を考えれば、複製で出せるだけでかなり恵まれた立場にいるだろう。

 感じていた最寄りのメダルの位置は先ほどまでよりも近づいてはいるかなってくらいで、ほとんど変わってなかったのは少しだけ安心できた。向こうも向こうでいろいろ確認しなきゃいけない事は多い筈だしね。


 ここがどこで、どんな環境なのか。最初の一ヶ月、いやたぶん数日をどうしのぐか。違うな。私の場合、特に初日が一番大事だ。

 私は表通りに出て人の流れに紛れ混みながら、多くの人が向かってるだろう広場や市場を先ずは探索してみる事にした。

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