プロローグ2:個別面談

 警察の取調室ぽいとは言っても、実際入った事なんて無かったし、狭い部屋の中央に机があって、私がその片側にある椅子に座ってて、反対側にも椅子があって、そんなシンプルな部屋の壁の全周や天井が透明な覗き窓みたいになってて、そこでさっきも感じた誰かが私を値踏みするような視線を時折感じた。

 値踏みして興味を失ったように気配がいくつも離れていったのを感じたりした後、部屋の中にその視線の主の一人が現れた。

 全身白タイツでものっぺらぼうでもない。人の姿ではある。ただし、頭部と左手と右手しか無かったけど。マジックショーでも無ければ普通は絶叫が必至だけど、自分は堪えた。さっきの痛覚体験で集団幻想とかの線は消えたし、もう驚いてる暇は無かった。願いを何でも叶えてもらえるなら、絶対に元の世界では叶えられない願いをもう見つけてもいたのもある。


「すごいね、君は?」

「え、どこが?」

「もう、どうすれば願いを叶えられるか考え始めてる。男でも女でもわめいたり泣き叫んだり呆然としたり、まともに面談をすぐに始められそうだったのは少数派だよ。あ、ぼくは絵描きの神、ディルジアだ」

「絵描きの神?芸術の神とかではなく?」

「この世界の主神は、確率を司るアルゴニクス。その下に七大神がいる。水を司る冬の神エイミア。春を司る風の神リーズ。夏を司る火の神ミリュジン。秋を司る土の神ドルオン。昼を司る光の神イルキオ。夜を司る闇の神ワイオラ。時を司る運命の神ジュール。

 その七大神の配下には多数の中級神が付き従い、君達にわかりやすい言葉で言うなら派閥を構成している」

「あなたは?」

「昼を司る光の神イルキオの配下、絵画の神だ。主に絵描き達に崇拝されている。君自身の事も教えてもらいたい」


 私は、宙に浮かんだ生首と両手という圧迫面接にもめげる事無く答えた。ここであまり時間を消費できないと想像出来てたから。


綾華あやか。七瀬綾華。それが私の名前。絵を描くのは好き。芸術っていうよりは、落描きの類だろうけど」

「一生の職業としては考えていないのか?」

「美大を受験してプロになれるのは一握り。それで成功して食べていけるのはさらにもっと少ない極一握り。マンガとかの世界でもそれは同じだし、趣味で描き続けられていければいいかなって」

「なるほど。それでは簡単なテストだ。私をスケッチしてみてくれ。一分以内にだ」


 机の上には、白紙と2Bの鉛筆が出現していたので、正面に浮かぶ不思議物体、絵描きの神様らしいんだけど、その顔と両手を素直に紙に描き落とした。人物画というよりは、ほとんど静物画として。

 一分という制限時間もあり、ほぼ素描だったけれど、描き上がった絵は気に入って頂けたらしい。


「うん。やはり君に目をつけた私の勘は間違っていなかったらしい。君に、私の加護の象徴となるメダルを与えよう」

「そりゃどうもです。それっていわゆる、チートスキルみたいなものがもらえるって事ですか?」

「君達の世界の物語は予備知識として与えられているが、その理解でおおよそ間違ってはいない。

 君達はこの世界でステータスを与えられる。ステータスはいつでも確認可能だ。ステータスは魔物などを倒す事により得られる経験値でレベルが上がる事により上昇する。より強い相手はより多いステータスを持っていて、相手とのステータスの差で、得られる経験値も変わってくる」

「つまり、レベルを上げつつ、敵となるプレイヤーを倒せと?」

「そういう事だな。飲み込みが早いのは良い事だ。君自身の為にも」

「メダルを集める事でもステータスは上がる?」

「ステータスではなく、加護の位階、強度や恩恵が上昇する」

「なるほど。この後、お楽しみの抽選会場みたいなところで何かもらえるらしいんだけど、そこは早いもの勝ちなの?」

「そうとも言えるな」

「で、そこからの出口は一カ所なの?」

「そこで狩られる事を心配してるなら、半分当たっていて、半分は外れだ。その抽選会場の出口とその付近までは保護下に置かれて殺し合いなどは発生しない。ただし、そこから進んだ先はランダムな場所にそれぞれが転移させられるが、その転移先は全員が完全にばらばらになれるほどに多くは無い」

「それなりに安全な街とかに、だったら少なくとも数人以上か」

「場合によってはそれ以上だな。他に何を確認しておきたい?」

「あなたからもらえるっていう加護の内容。それを知らないでは何も始められないわ」

「それもそうだな」


 ディルジアは、机の上に、一冊のスケッチブックと、布製ペンシルケースを出現させた。スケッチブックにはおよそ100枚のページが、布製ペンシルケースには2ダースほどの鉛筆が収められていた。


「君に与えられる加護は絵描きとしての物。最初のユニークスキルはスケッチ。そのスケッチブックの紙に描かれた何かを実体化する事が出来る」

「モンスターとか、武器とかを?」

「そうだな。それらを描いて戦わせたりするのが、君の基本戦術になるだろう」

「でも、このスケッチブックに描かれた絵の大きさのものが呼び出せるとしても、小さ過ぎない?それに紙製のモンスターとか武器で戦えって無理が無い?」

「君が呼び出せるのは、自分が直接観てこのスケッチブックに描き留めた物だけだ。大きさは君が観た対象モデルと同一となる。生命力などのステータスもオリジナルモデルの性能を踏襲する」

「それだと強すぎる気もするけど、その場で描いて出すなんて、すぐには出来ないでしょうね」

「そう。だから君は、ある程度の予備を含めて描き貯めておく必要があるだろう。ちなみに呼び出した魔物が倒されたり武器が壊れたりすると、その姿を描き留めたスケッチブックのページごと失われる」

ページの補充は?」

「普通の手段では出来ない」

「じゃあ、どんな手段なら可能なの?」

「そうだな。例えば、抽選会場に用意されている、あるレアスキルなら可能だ」

「それは運が良ければ手に入れられるとして、手に入れられなかったらどうすればいいの?」

「それもその時になったら分かるようになる。当面は心配しないでも良い。スケッチの線は消す意志を持って指でなぞれば消せる。つまりページは再利用出来る」

「無茶して大幅な紙面をロストしない限りは、って事ね。それじゃあこの場ではあと一つだけ聞いておくかな。あなたとはいつでも連絡は取れるの?」

「過保護も禁じられていてな。日に何度か、わずかな時間なら」

「分かった。じゃあ、抽選会場とやらに案内してもらえる?」

「ああ。君が前途を切り開けるよう、いや描き切れるよう、神界から見守っているよ」


そして視野は再び変化して、ショッピングモールの様な建物の中に転移していた。

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