第54話

「エルフの事について前に少し触れたが私を見れば外見的特徴は分かるだろうと思う。」


金色の髪を掻き揚げて耳を見せる。

「このように人族とは異なる外見がある。」


その耳は人族の耳より先端が尖っているが大きさとしてはさほど変わらないように見えた。

「そして髪色は金色であり、瞳色も金色をしている為に人族とはまた違った景色が見えているのだ。瞳色が濃いと色の違いを見分ける事が容易になることは知られていて、エルフの金色の瞳は人族が見えない霊的な存在を見分ける事が出来るのだ。」


教室にざわつきが広がる。

「他にも外見的には男女の差が小さく、私のように胸も小さく、あまり逞しくはならない事が多い。」


さっと回転して姿を強調して見せた。

「それで神魔国ユネイトだったな。神魔国ユネイトはかつて世界に神しか居なかった時代に神々が住んて居た場所だと言われている。そこに魔族が生まれて住むようになって神魔国ユネイトと呼ばれるようになった。数は少なかったが魔族は強くて神に匹敵するほどで悪行を働く様になってしまったので、魔族を抑える人間(エルフ)を神が造ったと言う。それで神々はこの世界を去ってしまったので今では神魔国ユネイトには魔族しか居ないらしい。」


いきなりとんでも話になったのでみんなはあ然としてしまった。

「魔族が悪さをしない様にエルフは神魔国の近くの森に住む様になったらしい。魔族の悪行はこのロシャ、チャナを滅ぼしたとも言われてる。」


シエルルゥーフ学園長は点線で囲った国を示した。

「ロシャ、チャナがどんな国だったかは分からないが大地を破壊するような魔導兵器を生み出したとタワンの伝承にはあるな。神魔国ユネイトも同じ魔導兵器で応戦したから大地が破壊されてかつてのロシャ、チャナは海になっているらしい。かつて神々住んだ神魔国ユネイトも同じように海ばかりらしい。」


神魔国ユネイトにシエルルゥーフ学園長は大きなバツを描いた。

「私の祖先もかなり前にエルフの国を出ているから今も国がそこにあるかどうか分からないんだ。数も多くない上に世界各地に散らばって様々なエルフとなった訳だな。」


シエルルゥーフ学園長は大きなため息を付いた。

「まぁ、エルフの話はこれくらいにして他の種族の説明をしよう。

次はドワーフだな。ドワーフは人族よりも筋肉が付きやすくガッチリとした体型に成りやすく、背丈もあまり高くはならない。美貌の点でもむさ苦しい。そして協調性が低く、我欲が強い。洞窟や鍛冶場のような光の少ない場所に居るせいか瞳は大きく虹彩も黒い。

詳しくは聞いたことが無いが鉱物や溶融色などの判別の特別な力があるかも知れない。髪色は焦げ茶が基本で濃かったり薄かったりするようだ。」


少しシエルルゥーフ学園長の言葉には敵意のような物が感じられた。

「ああっと、エルフの種族についても説明をしておこう。いわゆるダークエルフとは人族の黒人種みたいなもので私のような白い肌のエルフと何ら変わるところは無い。多少攻撃的な性格はあるがな。

それから200年を越えたエルフの事をエルダーエルフなどと称する事もあるがあれはただの老害だ。寿命としては500年位が限界だな。」


随分な言い方をするのは多少の蔑視があるからのようだ。

「エルフに対抗しているのかエルダードワーフと称されるドワーフが居るがこれも偉ぶっているだけなのでドワーフに変わらん。ドワーフの寿命はエルフより少し短くて400年くらいだ。」


あまり詳しく話したくないような素振りを見せる。

「それから天人族だが王国制で女王が治めているようだ。天人は銀髪銀瞳で背中から羽を出すことが出来て飛翔能力がある。種族属性などは不明だが頭は良いようだな。寿命は不明だな。」


思い出すように頬に指を当てて話を続ける。

「魚人サハギンは海底に王国を築いて居る様だが詳しい事は不明だ。鳥人族はほんとに何も分からない。こちらも寿命は不明だな。」


またもやため息をついた。

「それから獣人族だが彼らは国を持たん。同じ種類の獣人の群れを作るらしいが家族単位が多いようだ。見た目は動物が立ち上がり、人族のように服を着て森の中で生活をしている。逆に人族の街を好む犬人族や猫人族は見かける事もあるだろう。ハンターなどになって生計を立てている者もいるようだ。寿命は人族とほぼ同じか短い。種族でかなり違いがあるようだ。」


確かにハンターギルドなどで人族に混じってパーティを組んでいるのを見かけた。

お昼になったようで鐘がなって授業が終わった。

「午後からは他の国の話をしよう」


そう言ってシエルルゥーフ学園長は教室を出ていった。


あたしは学園長の後ろ姿を見ながら食堂に行こうとクロエに声を掛けようと振り返った。クロエがミッチェルさんとアビーさんだけでなくクルチャ、ナランチャペアとなんと、マクスウェルさんまで勢ぞろいしていた、クラスカースト最上位に詰め寄られていた。


マクスウェル•パンドーラ様のスキルは『指揮』魔法属性『水』。外見的にはピンクブロンドでグレイの瞳を持つ線の細い体型をしたパンドーラ侯爵令息。だぞ口調でとても高圧的な方だ。いつもなら背後に控えて視線威圧してくる方だ。

何故に?

「みなと話をして、君達からエリザ嬢の事を聞くことにしたぞ。話してくれるよな?」


ええっ、幾ら学園内は身分不問と言われてもこの圧には勝てない。クロエがこちらを見て瞳で問い掛ける。あたしはカクカクと頷くしか無かった。それから7人で食堂に行って、さらに奥の特別室へ招待された。


初めて入る特別室は教室ほどの広さがあり、丸いテーブルが3個置いてあった。それぞれに給仕らしき服装をした人達が二人づつ待機している。

壁の装飾やシャンデリアはまるで王宮ではないかと思わせる豪華さだ。中央の丸テーブルから5人ほどが立ち上がり特別室から出て行く途中だった。


それに気づいたアビーさんがあたし達を守るように壁側に移動させられたので通り道を作るように避け、アビーさんを真似て軽く頭を下げる。うわぁ〜公爵、侯爵レベルの人達なんだと思った。見ればミッチェルさんもマクスウェルさんも頭を下げていたぞ。

「おやおや、マクスウェルとミッチェルじゃないか。珍しい組み合わせだな。」


集団を率いているらしい金髪碧眼の短髪の男性が声を掛ける。

「はい、ストーレ殿下。」


あたし達を代表するようにマクスウェルさんが答える。

ええっ、ストーレ殿下と言えば王族じゃないか。確か第3王子で最上位学年生の筈。あ、頭を上げられない。

「おや?そちらのご令嬢2人は知らないぞ」


スッとあたし達の前に出て隠す様にしてミッチェルさんが答える。

「こちらの令嬢はわたくしの友人です。殿下がお気にされる程の者ではありませんわ」

「そうか。それにしてもクルチャもいるなんて何の集まりだい?」

「大した事ではありませんわ。こちらの特別室を見せてあげようと連れて来ただけですから」


ミッチェルさんがはぐらかすような説明をする。

「・・・まぁ良い。ではな。」


そう言うとストーレ殿下は特別室を出ていった。あたし達はそれを見届けるまで席に座れなかった。

「ふう、まさか殿下が居られるとはな。何時もなら居ないのに。」


マクスウェルさんが愚痴った!珍しい。まぁ愁いを含んだその美顔も良いけど!


丸テーブルにマクスウェルさん達が座ってからあたしは最後に着席した。左隣にはクロエで右隣にはアビーさんだ。なんとあたしの正面にはマクスウェルさんでその左隣にはミッチェルさんだ。クルチャさん、ナランチャさんはマクスウェルさんの右側に座った。

うわぁ〜と心のなかで叫んでしまうほどのメンバーではないか!でもその様相は違う。


着席と同時に周りにいた給仕の人達が動き始めた。あっという間に食器類が並べられ、最初に琥珀色のスープが提供された。

「まぁ、食事をしながら話そうではないか」

「そうですわ。お腹も空きましたし」


マクスウェルさんとミッチェルさんの言葉に従って皆が食事を始めた。どうやって食べようかと思案していると隣で軽快な咀嚼音が聞こえて来た。

・・・クロエは気にせず白く四角いパンに手を伸ばし、セットされていた乳白色のバターを塗って食べていた。片手にはスプーンを持ったままだ。マクスウェルさんとか男性陣がいる前で凄い度胸だ。クロエより爵位が低い自分が気にしてるのにいつものクロエに苦笑してしまう。そんなあたしに気づいたミッチェルさんが言う。

「さあさ、ミリさんも食べてみて。一般食堂とは違う筈よ」


ミッチェルさんの言うことに頷いてあたしもスプーンでスープを食べてみる。美味しい。比べて見れば一般食堂の物が水に思える程に味があり、旨さが違った。

ミズーリ子爵領でもだしている出汁が違うのだろう。美味い。視線を上げるとミッチェルはがにっこりして言った。

「それで、ミリさん。エリザ嬢とはどんな関係なの?」


あたしはスプーンを置いて答える。

「エリザはご承知の通り、ダンダン伯爵家の娘です。あたしとは幼馴染でもあり、寄親の娘でもあります。」

「ふ〜む、ミリ嬢はエリザ嬢を良く知っていると言う訳だな。」


マクスウェルさんの言い方だと何でも知っているような言い方だ。

「いいえ、性格はわがままで自分中心なところはありましたが暴力を振るわれた事は一度も無いのです。だからあたしを襲おうとしたのはとてもおかしな事なんです。」

「エリザが現れた時はミリ以外目に入っとらんかったみたいや」

「朝にちょっと絡まれたけどいつものエリザらしかったわ」


クロエがバターを浸けた白い四角のパンを渡してくれたので礼を言って受け取り、口にする。柔らかくてバターの香りが美味しい。

「でも、少し苛ついていたかしら」


もそもそ食べているとマクスウェルさんが言う。

「苛つきが高じてあのような事をしたと?」


あたしは食べていたのですぐには答えられなくてクロエが代わりに話す。

「あれは苛つきだけやないで、もっとこう・・・抑えられない何かがあった感じや」

「ほうほう」


あたしは口にパンを頬張ったまま答えた。

「あんなぁ、食べてから喋りぃな」


へへへ、クロエに怒られた。

「そうなの、エリザの体の中から瘴気が湧き出る前に魔力みたいなのが膨らんだの、です。」


ミッチェルさんとマクスウェルさんが同時に言った。

「「瘴気?」」

「そう、シエル•ルゥーフ学園長が言うには瘴気って悪い感情で毒された霊気らしいんです。それが身体から出てきて黒い霧に見えたようなんです。」

「でも学園長が魔法を使ったら暴れ出しましたよね」

「あれは『神霊魔法』ちゅうもんで、瘴気には良く効くらしいで」

「なるほど、神霊魔法ですか。エルフ特有の魔法ですね」


マクスウェルさんは直ぐに分かってくれたようだ。

ズズーと残りのスープを口の中にクロエは流し込んだ。

もう、クロエったらとあたしが思っていると、クロエがパンの山を指差す。

「すみません、このパンをもっと貰っても構いませんか?」


あたしがマクスウェルさんに許可を貰う。侯爵令息で身分が一番に高いから許可を貰わないといけないだろう。

「もちろんだ。沢山食べ給え。」


許可を貰えたのであたしはお皿ごと影の世界にしまう。

マクスウェルさんは皿ごと消えるとは思わなかったらしく驚いている。ミッチェルさんは前に見ているから驚きはしなかったが少し眉を潜めたような気がする。

「あ!すみません。あんまりにも美味しかったので仕舞って置いて後でクロエと食べようと思って。」

「ミリ嬢のスキルは物を収納することも出来るのか!」

「えへへへ、はい。」

「いったい、どれくらい?」

「え?分かんないですね。いっぱい?」

「ミリさんは前にミズチと言う魔物を10匹以上収納してましたし、5mを越えるヒュドラも収納してましたね。普通のアイテム袋以上の力がありますよ」


ミッチェルさんがマクスウェルさんに補足して説明をしてくれる。それを聞いたマクスウェルさんがブツブツと考え出した。あっ、あれは不味い。なんか公務とかで力を貸して欲しいとか言いそう。

「マクスウェル様、今はエリザ嬢の話では?」


アビーさんが話を戻してくれる。

「ああ、済まない。それでエリザ嬢は本当に実家に帰ったのか」

「いえ、警備棟で軟禁されている内に瘴気が再発して逃げ出しました。」

「ええっ?」


今度はクルチャさん達だ。

「何でも瘴気が蜘蛛のような形を作って壁を破壊して逃げたそうです。」

「いったい、何処へ逃げたというのか?」

「方向からして自領に向かったのでは無いかと学園長が仰しゃってました。」


食べ終わったのを見た給仕がデザートを出してくれたのでクロエが食べてる。

あたしも綺麗に切り出された果物をフォークで刺して食べる。甘くて美味しい。これはなんだろう。

「これはイエロークリームと言う南国の果物らしいよ」


ナランチャさんが教えてくれる。ねっとりとした舌触りと甘さが癖になりそうだ。手間暇掛けて加工したらしく、どれくらい高いかは考えない。

「だから、当分エリザは姿を見せないと思います。」


クロエが給仕にお代わりをねだって断られていた。

「そうか、分かった。」

「ミリさん、ここできかれた事はシエルルゥーフ学園長には話さないで下さいね」


マクスウェルさんが答えて、ミッチェルさんがあたし達に釘を刺した。もちろん、食べ物に釣られて喋ったなんて言えない。それに彼らは遅かれ早かれエリザの事を知るだろう。

ただ、同じクラスのあたしがいたから直接聞いたに過ぎないと思う。決してあたしと接触したからだとは思えない。教室でも男子達とは少し挨拶するくらいは接触しているし。むしろ、クロエとお友達になりたいと思っていても不思議では無いくらいクロエは強いのだ。


豪華な、と言ってもあまり多くはあたしは食べられないが、昼食を食べてあたし達は教室に戻った。

席に着いてクロエと先程の食べ物の話をしているとベルがなってシエル•ルゥーフ学園長が入って来た。

「あー続きを話そう。エライザ王国の話はしたのでオーロソン王国についてだな。

この国はエライザ王国の南西にバルチ山を始めとするバルバル山系で遮られた場所にある。大きさはエライザ王国の半分程度だ。

現王はランドン18世だな。確か40代で国内情勢は落ち着いている筈だ。人口は40万そこそこでエライザ王国よりも獣人が多い。規制が緩く人の移動も活発で何より貿易が盛んだ。」

「バルチ山ってどんな山ですかぁー」


男子からふざけた質問が飛んだ。

「結構有名な山で、エライザ王国の山より高い。形も綺麗でオーロソン王国では観光で山に登る者も多いと聞いている。エライザ王国側は深い森に覆われて居るので魔物が多いが、オーロソン側は多くないようだ。」


真面目に答えられて質問が止んだ。

「質問が無いようたから次はイーユだな。ここは人口200万ほどでエライザ王国の2倍くらいの大きさがある。王国制ではなくてフランドイツ帝国が中心にあって多数の国をまとめている。エライザ王国と接しているガリア帝国はランベック辺境伯領と接している。」


シエルルゥーフ学園長がクルチャさんの方を見て言う。

「クルチャ君、現在の状況を知っていたら教えてくれるか」


頷いてクルチャさんは立ち上がった。

「ご存知の通り、我がランベック家はロンドベール侯爵家の一部ではありますが、国境を接しているので辺境伯を頂いています。今のところ帝国との紛争は無く、主に魔物被害を抑える事が主になっています。

陸続きの場所が平原ではありますが大きなクズネツォフ河を国境としています。それから・・・」

「あー、ありがとう。それ以上は細かくなりすぎだ。」


クルチャさんが着席するとシエルルゥーフ学園長は話を続ける。

「イーユの中心フランドイツ帝国は魔導具を沢山生み出す工業国だ。中には魔力を必要としない“機械(マジーン)“と呼ばれる金属製品も作り、ドワーフが活躍している国だ。わたしが友人から聞いた話では甲殻類(詰まり昆虫だな)の殻を利用したり、セラミと呼ばれる陶器のような材質を利用するのが流行りらしい。

軍国を主張するガリア帝国以外の国は農業を主としているようだ。」


何だが凄く繁栄している国なんだなあと思う。

「それにガリア帝国についても話をしておこう。この国にいわゆる騎士は居ない。軍隊と呼ばれる訓練された兵士達だ。兵士は戦う事を仕事にしている点では騎士と同じだが身分は平民で、イーユ各地に赴き、治安維持に努めている。その数なんと50万人だ。ガリア帝国は食料生産をしていないからイーユその他の国から輸入して賄い、軍隊をイーユ各地に派遣することで成り立っているのだ。」


黒板の一箇所を指し示して説明する。

「それから、ここギリスだ。大陸から離れた島国で弓月国のような独自の文化を持っている。ギリスに依れば世界の白人の元の国だそうだ。寒さが厳しく夏は霧が濃く出るようだ。そして特異な事に空を飛ぶ船を持つと言われる。この船によりイーユとも交易が行われ、我々の気づかないところで監視されているとも言われてる。」


誰かが呟くように質問する。

「空を飛ぶ船?」


シエルルゥーフ学園長は声のした方を向いて説明する。

「空気より軽いガスがあり、それを使用しているらしい。私にも良く分からないのだがな」


クルチャさんが博識を見せて言う。

「それってヘリウムガスだね」


ナランチャさんも釣られて思ったことを口にした。

「戦争に応用されたらとても敵いませんね」


シエルルゥーフ学園長がナランチャさんの懸念に答えるように説明を重ねた。

「今のところ遺跡から見つかった魔導具を応用していると聞いている。数は片手も無いようだ。」


シエルルゥーフ学園長が黒板の他の場所をさらに示す。

「それから少し場所を移動してエライザ王国の南部でも紛争を起こしているインデラ国だな。オーロソン王国の南にある民主主義の国で9年前にオーロソン王国と紛争を起こし、それが飛び火して今でもエライザ王国と揉めている。」


エライザ王国とインデラ国の間にバツマークを描く。

「エライザ王国側はジュゼッペ侯爵家の寄子のデズモンド辺境伯領だ。少し前は南方戦線とか言われていた。」


デスモンド辺境伯と言えばリリスお姉ちゃんと同じ班の人であるラーニャ•サルドス子爵令嬢やバルチ•ランベック男爵令息が寄子だった。他にナルニア•ゼノンさん、ジュゼッペ侯爵家の寄り子のデズモンド辺境伯爵家の騎士だ。

「ジュゼッペ侯爵領にはロンベルク地方と言われる良い紅茶の原産地が多いのだがな」


ジュゼッペ侯爵家の南側にはかなり高い山々があるのだ。そこが紅茶の産地である。

「それからイーユの南方には大きな大陸があって幾つかの宗教国家と黒人部族が作る小国が無数にある。この辺には行ったことが無いので良く分からん。しかもとても暑い砂漠とかもあるしな。」


シエルルゥーフ学園長は逆三角形の上の方に砂漠と書く。

「とまあ、エライザ王国だけでなく世界には多数の国家があることを理解して欲しい。住む人も違えば考え方、制度も、まちまちなのだ。

少し早いが今日の授業はこれまでとしよう。今日の内容に興味があるようなら図書館で調べると良い。直接見に行くことはかなり難しいからな。」


授業はあまり時間も掛かって居なくてだいぶ早く終わってしまった。みんなが三々五々寮に戻って行く中、エリザの取り巻きの二人が視界に入って何か言いたそうにしていたが、結局その場では話しかけられなかった。

でも、後を付いてきたのか寮に入る直前で話しかけられた。

「あ、あのぉー!」


声を掛けて来たのはパメラだった。

パメラ•ミルトン、ミルトン男爵の娘でバタン子爵の寄子だ。バタン子爵はダンダン伯爵の寄り子でもある。詰まりエリザの子分と変わらない。いちばんエリザに逆らえず子分歴も長い。あたしも知り合いと言えば知り合いだ。

栗毛のポニーテールを揺らして何か必死だ。

「ミリさん!少し話を聞いて貰っても良いですか!」


隣で同じように激しく首を縦に振っているのはパメラより10cmくらい背が高いが線の細いヘレン•ゲレルト、ゲレルト男爵の娘でドタン子爵の寄子だ。ドタン子爵はダンダン伯爵の寄り子でもある。詰まりエリザの子分と変わらない。2番目にエリザに逆らえず子分歴もパメラさんに次いで長い。


実はこの二人はエリザの影であたしに意地悪をしてきた。エリザが許せば自分達も許されると思ってか、影で陰湿な行為をしてきた。エリザの機嫌を取るためにはあたしを貶める事は疎か、陰湿な事をしている。

「嫌です。」


思わず本音が出た。どうせろくな話では無いだろう。エリザが居なくなって後ろ盾がいなくなったのて困ったとかじゃないだろうか。

「ええっ、あたし達とミリ、いえミリ様の仲では無いですか!」


別にあんたらと仲良くなった事など一度も無いのに何を言っているのだろう。

「誰がどんな仲なんです?」


あたしの冷たい声にもめげないパメラが心にも無い事を言い始めた。

「あのエリザから強要を受けて来た仲間でしょ!エリザがあんな調子ならもう学園に戻って来ないだろうし、来ても場所もありませんよ。ミリ様ほど人気も無いですし!」


ヘレンも額に汗を掻きながら一生懸命肯定する。なんという事だろう、エリザが居ないとこんな態度を取っているのだろうか。しかもあたしを褒めている積りなのか何を言っているのか分からない。

「何の事を言ってます?」

「またまたぁ〜、パンドーラ公爵令息のマクスウェル様に特別室へ招待して頂ける身分でしょ?」


お昼に食堂で特別室に入って行くのを見ていたのだろうか。油断も隙も無い人達だ。

「・・・それがあなた達とどう関係するの?」


眼力を込めて冷たく見詰める。

「あたし達も仲間にしてくださいなぁ〜。ね、ね、ね、良いでしょミリ様ぁ〜。」


それまで黙って聞いていたクロエが口を挟む。

「ミリの友達は間に合ってんよ。あんたらの場所は無いねん。」


文句を言おうと口を開き掛けて、パメラはクロエが伯爵家令嬢である事に気づいだみたいで、モゴモゴ言う。

「ええっと、クロエ様はハンター仲間・・・あたし達は同郷仲間・・・と言うことでどうでしょう〜?」


呆れた事に何が何でも仲間に成りたいようだ。

「ところで暫く前にお仲間になったシェラトン•バヴァロアさんはどうしたの?」


シェラトン•バヴァロアと言われてピンと来なかったらしい。キョトンとしていた。

「ゆるふわピンク髪のシェラトンですよ?」


そこまで言われて思い出したらしい。

「あ〜あ〜彼女ですかぁ〜、駄目ですよぉ。少し一緒にいたけどお世辞の一つも言えないし、愛想も無いし、ただ付いて来るだけのお荷物ですもん〜」


えらい言われようだが、もう一緒じゃあ無いようだ。

「少し前に、エリザに頼まれた事も出来ずにいたからエリザの癇癪を受けてひっくり返っちゃったもの、あはははは」


もう敬意もなくエリザと呼び捨てしている。

「癇癪?」


あたしが聞き返したので認めて貰えたと考えたのか機嫌よく話してくる。

「そうそう、凄っごい迫力でね。殴られたみたいに後ろにすっ飛んて行ったのよぅ〜、思い出したら笑えて来るわ。あはははは」


珍しい事に感情を滅多に出さないヘレンまでお腹を抱えて声を出さずに笑っていた。エリザにいつそんな力が付いたのだろうか。少しおかしい。

「それ、いつ頃の話?」

「ええっとねぇ〜、6日くらい前の事ね。」


するとあたしが魔族と戦う前の事になるかな。

「それでシェラトンさんは無事なの?」

「え〜、知らないわぁ〜。すっ飛んで行ってから戻って来なかったもの。」


なんて酷いんだろう。それこそエリザ被害者仲間の筈なのに。

「クロエ!」

「ああ、分かったで。聞いて来るわ!」


直ぐにクロエは分かってくれてマリーちゃんに確認してくれるようだ。先に寮へ入っていく。

「じゃあ、よろしくね、ミリ様」

「何の事かしら」


あたしの言葉に眉を潜め、少し怒りを滲ませてパメラは言った。

「だ・か・ら!あたし達があんたの取り巻きになってやるって事よ!」


クロエが居なくなったから取り繕う事を止めたらしい。周りを歩く人も居ない。

「結構よ。必要ないわ。」


あたしがはっきり断ったのでパメラとヘレンで取り囲んだ。

「良いから言う事聞きなさいよ!」


正体を見せて大声で怒鳴るパメラは少し迫力あるが少しも怖くない。ただ少し気になるのはエリザと同じ黒い霧を滲ませていることだ。

あたしは少しため息を付いた。

「はぁ、じゃあ教えて。エリザが何故ああなったのか」


あたしは黒い霧の事は伏せてエリザの気性が荒くなった事の原因を聞いた。パメラはあたしが受け入れたと思ったのか得意そうになって言った。

「多分あれよ。夏休みにエリザのダンダン伯爵家に行った時に紹介されたエリザの婚約者のせいよ」

「は?」


エリザに婚約者?初耳だったので思わず変な声が出た。

「確か外国のなんて言ったかしら。」


パメラが言葉に詰まると珍しくヘレンが答えた。

「ユネイト」


魔族の国じゃない!あんたら今日の授業を聞いてなかったのぉー!あたしの驚きをよそにパメラは話を続ける。

「そうそう、そこの宰相の孫だって言ってたわ。あたし達より2つ年上でそこそこ美顔だったし、頭も良くて、褒め上手だったからエリザもご機嫌だったわ。結婚すれば今よりずっと贅沢出来るし、王家なんて目じゃないなんて言われたらしいわ。あたし達は一度しか会ってないけど。紹介されて直ぐに実家に帰ったし」

「ユネイトですってぇ?魔族の国よ!それ!!」


あたしの驚きにキョトンとしている。そして笑い出した。

「魔族って、あんた。あれでしょ赤目に黒い角が売り物の化け物じゃない。ハセット•ローゼンベルグ様はそんな事無かったもの。間違いじゃないの?」


全く危機感が無い。ご令嬢では無理も無いだろうが、魔族退治の噂くらい聞いている筈だろうに。近場で魔族に襲われた事件で不安になったりはしないのか。能天気か、能天気なのか。

それに外見などスキルや魔導具でいくらでも誤魔化せる。ただ、分からないのは何故ダンダン伯爵家のエリザに目を付けたかだ。


そこへ影従魔『ルキウス』から緊急の連絡が入って来た。

>ご主人様、エリザが見つかりましたぞ。その上、見つけた眷属が殺されてエリザを連れ去られましたんじゃ。<

は?ちょっと待って、良く意味が分からない。

あたしが急に取り乱し始めたので話は終わったと思ったのかパメラ達はさっさと寮に入って行った。もう彼女らと関係も持ちたくないので放置だ。それよりもどういう意味なのよ、ルキウス。

あたしは心のなかでルキウスに問い掛ける。

エリザは何処に居たの?

>グランドスウォームが住み着いて居た穴の先の坑道の出口じゃ。そこで魔力を失って倒れているのを眷属が見つけたのじゃ。坑道の出口で影に隠れて見張って居たら急に現れた何者かに襲われたらしいのじゃ。<

影従魔の眷属を殺せる者が居るの?

>現実世界の眷属の影に攻撃出来れば殺す事ができるのじゃ。恐らく魔導具での攻撃らしいのじゃ。<

それでエリザを連れ去ったのは誰?

>密かに見ていた眷属が後を追って居るのじゃがまだ分からないのじゃ。<

取り敢えずエリザは生きているのね?

>多分大丈夫な筈なのじゃ。<


あたしが安心して寮に戻ろうとしたら中からクロエが出てきた。

「ミリ!シェラトンは大丈夫らしいでぇ〜。さっき部屋に見に行ってきたわ。」


良かったわ。後であたしもお見舞いに行って来ましょ。

「そう、心配したわ。どんな様子なの?」


一緒に歩きながらクロエに聞く。

「転んだ拍子にあちこち擦りむいたくらいで怪我は大した事無かったみたいやで。」

「でも、エリザの癇癪くらいで人が飛んで行くなんて無いわ。きっとあの瘴気が関係してるんじゃないかと思うの」

「そやな、あり得る話や」


あたしはさっきパメラ達から聞いた話をクロエにする。エリザがユネイトから来た宰相の孫と婚約してからどんどん気が大きくなって傲慢になったらしい話だ。流石に直ぐにクロエも気づいた。

「まぁた、魔族かいな。」

「うん、可能性は大きいと思うの。それから・・・」


あたしは影従魔『ルキウス』から得たエリザの状況も説明する。見つかったは良いけど何者かに連れ攫われた事と影従魔の眷属が殺された事を伝える。

「影に潜んで居るものを殺す事が出来るやなんて初耳やけど」

「なおさら魔族が怪しいのよね。『影』スキルに付いて詳しいのはアン様の時代の事を知ってる可能性があると思うのよ。」

「ほんとに魔族かも知れんて」


あたし達は別れてそれぞれの自室に戻った。あたしはいつものワンピースに着替えて食堂に行く。相談したかったリリスお姉ちゃんはまだ帰って来ない。


夕食を選んで独りもぐもぐ食べて居るとクロエがやって来た。選んだのはあたしと同じ白い野菜がごろごろ入ったスープと四角く切られて焼かれた肉の皿と白い細長いパンだった。あたしはクロエのトレイを見て笑ったらクロエも苦笑していた。

「なんや、ミリも同じのやったな」

「好みも一緒なんて嬉しいわ」


互いに笑い合い、食事を続ける。

視界の隅にパメラ達が見えたがクロエが一緒のため近づいて来ない。クロエもパメラ達に気づいて言った。

「なんや、わっちは虫除けみたいやな」

「そうね、最強の虫除けかもね」


クロエがこれからどうするのかと聞いてきたので、取り敢えずエリザが見つかった場所に様子を見に行ってくる積りだと言うと案の定付いてくると言った。まぁ約束だから。


食事を終えて自室で装備を整えて待って居るとクロエがやって来た。もちろんリリスお姉ちゃん宛の手紙を机の上に置いてある。クロエもマリーちゃん宛に書いている筈だ。


スキル『影』で影の世界に行き、影従魔『ルキウス』に乗る。影従魔『ルキウス』は軽快に駆けて行き、王都を直ぐに出てしまった。

そのまま南下して学園の森を抜けてラーミアが出た洞窟の隙間を抜けて行く。グランドスウォームの卵があった天然の洞窟の穴からどんどん登って行き、ジュゼッペ侯爵家の坑道に出ると坑道を走り始めた。

あたしたちには洞窟などは白く輝いて見えて岩や曲がり角など分からなかったが危なげ無く影従魔『ルキウス』は迷い無く走る。程なくして暗闇差す坑道出口に着いた。



一度現実世界に出てエリザが倒れて居たと言う場所を確認する。確かに誰かが倒れていたらしい土が擦れた跡や誰かが歩いたらしい様子があった。

「足跡は無いでぇ。でもこの引っ掻いた跡みたいなのはなんやろな」

「良く分からないけどエリザとは関係無いのかも」


地面が擦れた跡に爪で引っ掻いたような窪みがあったので知らない魔物が居たのかも知れない。魔物の知識があれば分かったのかも。アン様に聞いて見たが分からないと言う事だった。

「影従魔の眷属は死ぬとどうなるんや」


クロエに聞かれたので影従魔『ルキウス』に聞くと

>眷属は影の世界に引き入れた魔物の命で魔力を使って造り直した存在なので、霧散してしまうのじゃ<

ならば弔う事は出来ないね。

せめてありがとうだけは言う。


再び、影の世界へ行き影従魔『ルキウス』に乗ってエリザを攫った者のいる場所へ案内して貰う。山を降りてジュゼッペ侯爵領の街に向かったのかと思ったら尾根を縦断して小さな森に向かった。

おかしい、エリザの婚約者とかのいる場所じゃないのかと思ってたいると着いたらしい。


現実世界に出ると日が暮れて月が登り初めていた。月明かりの中、クロエが出した炎の明りを頼りに森の中に入って行く。森の中心付近の大きな木の辺りにエリザは居るらしい。


あまり大きくない森の為か魔物らしき気配は無い。うさぎや蛇のような小動物はいるようだ。木の目の前に立つとその木は中央部分が大きく膨れて虚(うろ)になっているようだった。

あたし達が戸惑っていると目の前の木から何かか飛び降りて来た。


2つの影、それは人の身体に鳥の頭を持つ鳥人と呼ばれる人間だった。両方共170cmを越える身長で普通の男性みたいにズボンを履き、シャツを着ていた。ただ、足は大きく鋭い爪が生え、後指にも爪がある鳥の脚だった。

鳥の頭は鋭い眼差しの鷹であり、嘴があった。クロエは相対するや否や直ぐに腰の細剣を抜き、構えて居た。あたしも腰の剣に手をやっていたが抜いてはいなかった。


最初、あたしたちには分からない言葉で何かを囀っていたが、あたし達が小さな子供であることに気づき標準語を話し始めた。

「お前たちは何だ?雛(シャンティ)では無いか。こんなところで何をしてる。」

「何だか分からんが何をしにきた。」


ふたりが同時に話すので良く聞き取れない。

あたしが口を開こうとするとクロエが先に話し始めた。

「わっちらは友達を探しに来たんよ」


クロエは細剣を納めると落ち着いて話し始めた。

「身長はわっちらと同じくらいで髪色は赤色髪で茶色の目ェぇーしてる女の子や」


あたし達から見て左側の鷹のような鳥人が答えた。

「その喋り方は弓月国の者か?」

「まぁ関係無くもないんやけど」

「我ら鷹族は弓月国の者は信用している。彼らは我ら鳥人族を蔑視しない。」

「それで女の子を知らんか?」

「少し前にこの国の者と見られる雛(シャンティ)を保護した。雛(シャンティ)は巣で面倒を見ている。雛(シャンティ)一人ならいいだろう。連れて行く。」


クロエがあたしを見るので頷いてクロエに任せる事にした。鷹族の男がクロエを抱き抱え羽根を広げ飛び上がった。体長の数倍はあろうかと言う翼は風を巻き起こして鷹族の男とクロエを木の虚(うろ)まで持ち上げて行った。


その場にはあたしともう一人の鳥人が残った。頭の黄色い羽が特徴な鳥人がどんな鳥なのかあたしには判別つかなかった。

「われは鸚族。」


え?何だって?オウムって言った?

多分あたしがジロジロ顔を見たから教えてくれたのかも知れない。

「われは鸚哥族では無い。」


ああ、インコとオウムは似ていても違うと言いたいのかも知れない。あたしには違いが分からないけど。

さっきの鷹族の人とは違うのは分かるけど珍しい鳥人だよね。

「なんであなた達はこの森に居るの?鳥人は離島とかにいるって聞いたけど。」

「その質問には答えられない。許可が居る。離島に住んで居る者も居なくは無い。むむっ!それは!」


あたしの胸のウキヨエラさんから貰ったペンダントを見て鸚族の人は驚いた。暗くて気づかなかったのかも知れない。

「ああ、これ?これは天人族のナサニエラさんから貰ったのよ。知ってる?ナサニエラさん。」

「何と!驚き!ナサニエラは知らん。」


そこであたしは簡単にナサニエラさんの事を話した。現女王サマヨエラさんの石化の呪いを掛けられて居たお母様だと教えてあげる。

「何と!サマヨエラ女王の!」


サマヨエラさんの事は知っでいたようだ。鳥人と天人って付き合いがあるのだろうか。

「鳥人は天人の事を知ってるの?」


あたしの質問が悪かったのか震えながらあたしに跪く。

「天人族はわれら鳥人の上位存在。敬うべき。その天人族の友好の証を持つものも敬うべし。」


思わぬところでラージアの花のペンダントの力を知ってしまった。


そこへエリザを確認に行っていたクロエと鷹族の人が帰ってきた。あたしの前に鸚族の人が跪いて居るので2人共驚いた。

「な、何やねん。ミリなんかやったん?」


鷹族の人も驚いて鸚族の人に囀るような言葉で聞いている。盛んにあたしの胸を指して説明したようだ。

訝しげなクロエはあたしの胸を見て零(こぼ)す。

「なんやーミリの胸が大きいのがそんなに大事かいな」


いやいや、違うよクロエ。

「ははは、違うったら。あたしのブローチを見て驚いているのよ」

「おお、いつの間にそんなん付けとるんよ」

「これはウキヨエラさんから貰ったのよ。ほら学園の補助教員だったナサニエラさんのお姉さんよ」

「そうなん?」


そう言えばクロエはウキヨエラさんと会って無かった。そんな事を言って居たら鷹族の人も一緒に跪いて平伏し始めてしまった。

「そんなことよりエリザはどうしたの?」


あたしの言葉にクロエは平伏している2人から視線を外して言った。

「あんの巣の中にはもう一人の鳥人がおってな。ミミズク族の太ったおっさんなんやけど、そのおっさんが介抱してくれて気がついておったんや。確かにエリザやった。でもなぁ〜困った事に記憶喪失みたいなんや」

「ええっそんなぁ」


意外性がMAX!

「仕方ないからこのままエリザを引き取ってシエルルゥーフ学園長にでも預ける他に無いやろ」

「そうね、あたしたちには手に余るわ」


ジュゼッペ侯爵領だから屋敷に連れて行くのが近いのかも知れないけど理由も説明出来ないから行く訳にはいかない。

平伏していたふたりの鳥人があたしに話し始めた。

「天人に認められた方。」

「あら何かしら」

「是非、われらの風切に会い、我らの目的知るべし」


風切とはクロエが会ったミミズク族の鳥人らしい。リーダーというような意味のようだ。ラージアの花のブローチのお陰であたしも会えるらしい。


ふたりに連れられて木の虚(うろ)にお邪魔した。下から見るよりかなり大きいが入り口はスライドする木の壁で入り口を隠す事が出来るらしい。床は乾いた森の枯れ葉を敷き詰められ、クッションのように柔らかい。

密閉されているように見えて換気はされているので息苦しくは無い。壁側の一段高い場所がベットの様になっている場所にエリザはぼんやりと座って居た。


虚(うろ)の中心にはテーブルがあり、その前にかなり太めの鳥人が居た。立ってる?座ってる?良く分からない。

そのミミズク族の鳥人に鷹族と鸚哥族の鳥人が囀るように話す。するとミミズク族のとりひとがあたしに向かって話しかけた。

「ようこそ、風切の前に。我が群れの目的告げる。天人に認められた方。」

「その前に、お礼を言わせて。ありがとうございました、エリザを助けて下さって。」


あたしが頭を下げると驚く。3人3様で囀るのが驚き方のようだ。


「天人に認められた方。頭下げる宜しくない。雛(シャンティ)助ける当たり前。」とミミズク族の鳥人。


「そう、雛(シャンティ)闇の魔物に狙われてた。殺して助けた。」と鷹族の鳥人。


「だから此処に連れて来た。」と鸚哥族の鳥人。


ああだからあそこに爪跡があったのか。そして眷属は闇の魔物と間違わられた訳だ。仕方ないね。善意だし。

「それであなた達は何故この森に居るの?」


「我が群れは見張り、報告する。山向こうの人族の街に『魔族』居る。」とミミズク族の鳥人。


「『魔族』ガドット悪い奴」と鸚族の鳥人。


「まんまる鶏族の風切を喰った。」と鷹族の鳥人。


「ジェラルド孤島の鳥人戦う。」と鷹族の鳥人。


「報告3日前。後3日で戦士集まる。総攻撃する。」とミミズク族の鳥人。


うわぁ〜どれくらい集まるのか分からないけどジェラルド孤島と言う絶海の孤島から戦士の鳥人が来るんだ。多分ここから一番近い街に魔族『ガドット』がいるから襲おうとしているんだろう。当然住民も巻き添えになるんだろうな。

あたしは影従魔『ルキウス』にこの場所はどの領になって街の名前は何かと聞く。

>ご主人さま、ここはダンダン伯爵領に当り、街は領都ドンドンですじゃ。<


あっちゃー、やっぱりぃー!

>偵察に出ている眷属に依れば魔族らしき者は伯爵邸に滞在しているようですじゃ。<


領都ドンドンはエリザに引き摺られて何度か足を運んだ事がある。当然エリザの自慢の部屋にも案内され、散々自慢話を突合された。

領都ドンドンは険しい山の中腹にあり坂道が多く、荷物の運搬に苦労するような場所だ。その代わり領主邸は攻め難く、守りやすい。鉱山が主な産業だから食料の輸入はほぼ全てで、自給出来る穀物は無いに等しい。

豊富で綺麗な水が豊かではあるがそこから得られる魚などもそれ程ある訳でもない。魔族が目を付けるような物は無く、むしろ目立たずに事を成すには向いているのかも知れない。


例えば占領して魔族の住処にしてしまうとかだ。ダンダン伯爵はジュゼッペ侯爵の重鎮だから領都ドンドンにはほとんど滞在していない。

居るのはエリザ以上に我儘で傲慢なエリザの母親マレナ•ダンダン伯爵だ。とても気難しくてエリザでさえも喜ばせる事は難しい。

以前ニコリとしたのはあたしがズッコケで転んだ時だけだ。他人の醜態を笑うなんて酷いと思う。恥ずかしかったし。

会いたくは無いがみすみす知り合いが殺されるのを許容は出来そうもない。


全く魔族の目的が見えない。鳥人族の離島を襲った理由もそうだ。話を聞けばいつの間にか侵入され、露見したのはまるまる鶏族の風切が襲われた後だそうだ。

「考え込んでもしゃーないんよ、ミリ」


クロエがあたしが大人しいので直ぐに何を考えてたのか分かったようだ。

「そうだね。今はその魔族『ガドット』を何とかしなくちゃ」

「そうや。魔族『ガドット』が領都ドンドンちゅー所に居るのか見付けるのが先や。そんで出来ればこの辺の山ん中に誘き出せれば万々歳や。わっちがやっつけたる。」


頼もしい限りだ。


「魔族『ガドット』は我らの敵」とミミズク族の鳥人。


「魔族『ガドット』の力は侮れない。その力、ひとつ以外不明。」と鷹族の鳥人。


「故に鳥人の戦士みなで戦う」と鸚族の鳥人。


「魔族『ガドット』さらに罪重ねてる。」と鷹族の鳥人。


「ジェラルド孤島の鳥人族の秘宝奪った。」と鸚族の鳥人。


「秘宝ってなんや?」


クロエが言うと3人は顔を見合せて囀った。そして言った。

「闇の魔物を殺す魔導具と対となる闇の魔物の攻撃を防ぐ魔導具」とミミズク族の鳥人。


そして鷹族の鳥人が魔導具を見せてくれたのが杖のような魔石が付いた短い筒だった。持ちての部分に出っ張りがあり、魔力を込めて押すと、筒の先から魔法が飛び出して闇の魔物を殺すらしい。

闇の魔物の攻撃を防ぐ魔導具はネックレスで鳥人の羽飾りらしい。このネックレスを奪われたようだ。

あたしとクロエは顔を見合わせた。

「不味いんちゃう」

「そうだね、魔族『ガドット』が身につけてたら・・・」


鳥人族の前であたしのスキル『影』の話は出来ない。あたしの攻撃が魔族に通じないとしたらクロエの負担が大きすぎる。



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