第53話

翌日、朝食もそこそこにリリスお姉ちゃんはクロエの同室のマリーちゃんと急いでエライザ学園に行ってしまった。

課題って大変だなあと他人事で考えながらあたしは独りでもそもそ朝食を取った。


そのあたしの目の前に座った者がいた。エリザだった。あだしの中では久々に登場だが教室ではいつも視線を感じていた。どうにもエリザにはあたしがミッチェルさんやアビーさん達と仲が良いのがお気に召さないらしい。

だから、教室ではちょっかいを出さない代わりにリリスお姉ちゃんが居ない今を狙ったのかも知れない。

「あら、ミリ。今日は一人なのね」


分かって坐っだ癖に白々しい。かつてのようにエリザに恐怖を感じなくなっていた。ただ、面倒なだけだ。

あたしが返事をしないでいると苛立ったのか

「返事をしなさいよ!」


と声高に叫んだ。朝から騒がないで欲しい物だ。

「そうですが、何か」


素っ気ないあたしの言葉は更に気に入らなかったようだ。あたしは最後のパンの一欠片を口に立ち上がった。

「待ちなさいよ!何よ、その偉そうな態度は!」


あたしが返事をしないでいると、いきなり立ち上がってあたしに平手打ちをしようとしてきたのでとっさに後ろへ下がる。軽々とあたしがエリザの平手打ちを躱した為にエリザは空回りして倒れそうになった。

あ然とあたしを見て、睨んで来た。

「何よ、ミリの癖に!」


更にテーブルの上に置いた自分が持って来た朝食ごとトレイを投げつけようとするが誰かにトレイを押さえられる。見るとクロエだった。

「無茶せんとやめときぃな。ちゃんと授業を受けとるミリと違ごうて、あんたには無理やで」


煽っているのか諭しているのか分からない事がエリザには怒るポイントだったのか、今度はクロエに食って掛かった。

「何よ!あんたには関係無いでしょ!この生意気なミリに仕置きしてやるんだから!」


その時他から声が掛かった。

「食事を台無しにしようとする輩は許せんぞ」


どうも騒ぎを聞きつけて早くも料理長が出てきて声を掛けたようだ。声のする方を見てエリザは怯んだ。

前にも言い負かされて事があったからだろう。

「くっ、・・・いいわよもう」


そう言うとあたしにぶつかる勢いで逃げたが、当然あたしが避けたのであたしを睨んで食堂を出て行ってしまった。

「ありがとう、クロエ」

「どう致しましてや」


あたしがクロエに礼を行っていると料理長は残されたトレイを持って調理場に引っ込んで行った。

あたし達の騒ぎを遠巻きに見ていた人達も散って行く。

「クロエはこれから朝食?」


あたしが聞くと頷いた。

「そうやで。でもエリザのせいで食欲が失せてしもうた。」


そう言って笑う。

「ミリは終わっとんのなら後で一緒に行こか」


あたしは頷いて食堂を出て自室に戻った。

すると影従魔『ルキウス』からエリザの様子がおかしいと報告があった。どうやら自室に戻ったエリザが悔しさからか、部屋の中で暴れまくっでいるようだった。

エリザに興味がなかったので引き続き様子を見ておくように頼んでおく。


あたしは制服に着替えてカバンを手にして寮の玄関の外でクロエが来るのを待つことにした。

寮の生徒が三々五々学園に向かって歩いて行くのをぼんやりと見ているとエリザのお供達が不安そうに言葉を交わしながら歩いて行った。

聞き流していたがどうも最近のエリザは情緒不安定な感じで自分達にも当たり散らすようになって来たので幾ら実家の命令でも距離を置こうかと相談しているようだった。


確かにエリザの様子はおかしかったがあたしが心配することでは無い。散々虐められて来た身としてはざまぁと言っても良い筈なのに何故か心にモヤモヤが残った。


クロエがやって来た。朝食は食べなかった様だが、両手にはパンがあり、食べながら歩いている。

「お行儀悪いわよ」


と注意するが口の中に入ったまま返事をするので何を言っているのか分からない。あたしは苦笑しながらクロエと一緒にエライザ学園の教室に向かった。


教室に入った時にはクロエの持っていたパンは食べ切られていた。食べる速さがあたしとは段違いだ。何故か悔しい。


あたし達を見つけるとミッチェルさんが優雅に手を振ってくれる。とても美しい。さすがは公爵家ご令嬢だ、目の保養になる。

隣でこちらを見ているアビーさんも凛々しい。あんまり2人を見ていると周りから非難の目で見られるので大概にして、席に着く。


あたしがクロエにミッチェルさん達の美しさを説いていると授業の始業ベルが鳴った。でも、シエル•ルゥーフ学園長は現れない。みんな不安でお喋りが始まりざわつきが大きくなった。


誰も現れないのであたしがシエル•ルゥーフ学園長を呼びに行こうかと立ち上がった時、廊下を誰かが駆けて来る音がした。ドンとドアが開け放たれてシエル•ルゥーフ学園長が駆け込んで来た。

「ハァハァハァ、す、すまん。遅れてしまった。」


どうやらシエル•ルゥーフ学園長が遅刻していた様だ。

しばらく息を整えてから教壇の前に立ち、シエル•ルゥーフ学園長が話始めた。

「バージル先生は実践が主な魔力の授業が多かったと思われるので私はちょっと違った形で話を進めさせて貰う。」


どうやらシエル•ルゥーフ学園長は遅刻の言い訳をしない様だ。何事も無かったように話す。

「この世界には沢山の生き物が住んている。そして動物を除いてほとんどの生き物が魔力と言う力を持っている。そして魔力に似てはいるが全く違う力である『スキル』を与えられる。魔物の中には魔力を扱い魔法を放つ事の出来る物がいるが未だかつて『スキル』を持った魔物は見つかって居ない。」


シエル•ルゥーフ学園長が教室のみんなを見回す。

「ところで人間とは何か分かるかね。」


何だがシエル•ルゥーフ学園長があたしの持っている森の生態系と言う本のような話をし始めた。


あたしは手を挙げた。シエル•ルゥーフ学園長は返事があるとは思わなかったのか驚いて言った。

「ほう、ミリ嬢。分かるのかね?」

「わたしが読んだ本には『下肢で直立歩行し、上肢は手の機能を果たすようになり、地上生活を営み、道具を使用し、さらに大脳の著しい発達によって、言語、思考、理性の能力、また文化的創造の能力を有するに至ったもの。』って書いてありました。」


あたしが一気に答えたのでびっくりしていた。隣のクロエも驚いている。

「ほう、それは人族の定義のようだな。」

「言葉の意味は良くわかりませんが、結論として『人とは自分を人と認識している生き物のことである』と纏められていました。」


笑いが起こったが、シエル•ルゥーフ学園長が手で制して鎮める。

「何の本に書かれていたのかは分からんが、広義には正解だ。」


おお、褒められたのかな。

「世界に存在する人間には人族、エルフ、獣人、ドワーフ、天人、魚人、鳥人、魔族の種類がある。それぞれに共通することはなんだと思う?」


あたしに聞いたのだろうか。シエル•ルゥーフ学園長はみんなを見回しているのであたしだけじゃないようだ。

「アビー嬢、分かるかね」


いきなり呼ばれたアビーさんが立ち上がって答える。

「は、はい。ええっと分かりません。」

「では、ミッチェル嬢はどうだ?」


座ったアビーさんに変わってミッチェルさんが落ち着いて立ち上がった。

「スキルを持つ生き物と言うのはどうでしょうか」

「ほう、人族では一般的にスキルを与えられるがエルフ、獣人、ドワーフには人族の言うスキルは無いぞ。その代わりスキルに似た力である“種族属性“と言うものを生まれながらに持っているがな。」


そうだ、黒狐族であるアルメラさんは『光属性』を持っていた。

「特に獣人は種族ごとに違う属性を持っている。ドワーフは加工に特化した『金属性』、エルフは森との親和性が高い『霊属性』などがあるな。」


はぁ、ドワーフであるリタさんの種族属性は『金属性』なのか。じゃあシエル•ルゥーフ学園長は『霊属性』を持ってる?どんな力があるんだろう。

みんなの視線を感じたのかシエル•ルゥーフ学園長が少し顔を引き攣らせる。

「わたしの種族属性は『霊属性』になるが魔法を使うと『神霊魔法』を発動することになるのだ。これは人族の魔法やスキルには無い力だ。」


みんなから見たいと言う呟きが漏れる。

「ははは、脱線するから使って見せないぞ。まぁ言ってみれば穢(けがれ)を寄せ付けない力だ。」

「それはまた特殊な力ですね」


ミッチェルさんが興味深そうに言った。

「それから、天人、魚人、鳥人にはスキルがあるか知られていない。また、魔力も持っているかも分からない。」


ああ、天人のナサニエラさんやウキヨエラさんに聞いて見れば良かった。魚人サハギンのラフェさんにも聞けば教えてくれたかな。鳥人には知り合いが居ないな。

「魔族は言うまでもなく人族よりも遥かに強力なスキルを持っている。言わば人族の上位種みたいなものだな。」

「では、スキルを持つのが人間とは言えないのですね。」


ミッチェルさんが自分の言った事は正解では無いと分かった様だ。

「そうだな。魔力に至っては魔物も持っているからな。」


みんなが考え込んでしまった。漠然としか理解していないから聞かれると答えられないのだ。

「分からないようだからわたしの正解を言うと『神に造られた神話』を持つと言うのが共通している。それから種族を越えてせ、『生殖』が可能だ。」


シエル•ルゥーフ学園長が『生殖』を少し言いにくそうに言った。恥ずかしいのだろうか。

「『神に造られた神話』と『生殖』ですか」


ミッチェルさんが言うと何故か深みがあるのは何故だろう。

「そうだ。それぞれの種族が己を生み出した神を崇めている。宗教と言う概念に昇華させているのは人族だけだがな。それと人族と他種族との交配でいわゆる“ハーフ“と言う子供が生まれる事もあるのだ。かなり稀なケースだがな。これも不思議な事に人族との間にしか生まれん。ドワーフと獣人とかには例が無い。エルフとドワーフ・・・考えたくも無いな。」


う〜ん、エルフとドワーフは仲が悪いってほんとかな。

ここで授業の終わりのベルが鳴った。

「では、続きは午後としよう。」


シエル•ルゥーフ学園長はそう言って教室を出ていった。

他の生徒も出ていく中でミッチェルさんとアビーさんが一緒に行こうと誘ってくれた。一緒に狩りに行ってから良く4人で食堂に行く事が多くて嬉しい。周りの目はちょっと怖いけど。


トレイにランチのセットを載せてオープンテラスで座る事になった。

「ミリさんはどう思います?シエルルゥーフ学園長のお話」


アビーさんの問いかけはあたしの感想と同じだと思う。

「『生殖』ってエッチですよね、ふふふ」

「あ、いやそこでは無いな」


あれぇ違った様だ。

「確かに『生殖』出来る為には体の作りが同じで無いと不可能だ。良く知られて居ない鳥人や魚人は分からないのだが」


とアビーさんが言う。

「鳥人も魚人も図書館の図鑑を見れはその姿が書かれていますわ。どちらも服を着る文化は無い様ですけど男女の別は人族と同じで胸の有無のようですわ。」


ミッチェルさんが教えてくれる。確かに魚人サハギンのラフェさんは服を着ていなかった。こ、股間を見た訳じゃ無いけどラフェさんは男の子だった。

あれ?あたしはラフェさんの話し方で男の子と思っていたな。年齢は不明だったけど。

「あたしは魚人サハギンの知り合いがいます。」


みんなの視線が集まってしまったので特徴を説明する。体は魚のように鱗に覆われて、鰭とかあったけど顔は人族のようだった。手足には水掻きがあってぬめりのある液体で体を覆われているから水の中に居ないと乾いて仕舞うらしい事を話す。

「何で魚人サハギンの知り合いがおんねん!」


クロエの突っ込みには苦笑するしかない。オークション落ちを奪ったなんて言えないもの。

「まぁ全身ヌメヌメですの?」

「想像しただけで生臭くなりそうだ」


ミッチェルさんやアビーさんには不評だ。確かに臭いは凄かった。

「鳥人は見たことも無いねん。絶海の孤島に住んでるって噂は聞いた事あんねんけどな」

「確かに人族の街に住んでいるのを見たことは無いですわ」


クロエとミッチェルさんが知っている事を教えてくれる。

「ハーピィって鳥人の仲間じゃあ無いんですよね?」


あたしが知っているのはそれくらいだ。

「ミリ〜、ハーピィは鳥の魔物やでぇ。人間の声に似た鳴き声しとるけどなぁ」


やっぱり違うよね。

話をしながら食事は進み、ゆっくりと紅茶を飲んでいると午後の予鈴が鳴った。


あたし達は教室に戻ると今度はちゃんと教壇の前にシエル•ルゥーフ学園長が待って居た。

あたし達が最後では無くて、男子生徒が慌てて入って来るとシエル•ルゥーフ学園長は声を上げた。

「揃ってないかも知れんが先程の続きを話そう。」


何事か考えながらシエル•ルゥーフ学園長は話始めた。

「先程、人間に共通する項目を『神に造られた神話』と『生殖』と言った。これを説明しょうと思う。まずは『神に造られた神話』だがこれを一つ一つ見ていこう。」


シエルルゥーフ学園長は持ってきた資料に目を落とす。

「人族の神話では神セテスと言う知恵を司る神様が人の神とされている。

神セテスは人を造ったが動物のようにあるものを食べて生きるだけなのを不満として知恵を授け、文明を発達させたと言う事だな。ミリ嬢が言った『言語、思考、理性の能力、また文化的創造の能力』が知恵と言う事だ。」


人族の神が『ディンプル』であった事をあたしは知ってる。何故それを消して主神ミュイーズなったのか分からない。ましてや知恵の神セテスなんて。

「そして、スキルを与えたのは主神ミュイーズと言う世界を造った神様だな。人族が10歳を迎えると誰でもスキルが与えられる訳だ。

スキルにはcommon、レア、ULTRAレアがあってそれぞれ与えられる人は限られて行く事になる訳だ。この教室にもULTRAレアが片手程度はいるが他のほとんどがcommonスキルな訳だな。

レアはcommonの100分の1程度、ULTRAレアはレアの1000分の1程度とされている。だからcommonスキル持ち10万人に1人がULTRAレアな訳だ。

まぁ貴族の中からULTRAレアスキルが出やすいとは言われて、平民はほとんどcommonスキルな訳だ。おっと、commonスキルだからと言って平民と同じレベルと言っている訳では無いぞ。」


慌てて手を振って自分の発言を訂正する。

「神ヘライトスが力を司る神様で獣人の神とされている。力自慢で何事も実力を持って判断する獣人らしい。スキルについては前述しているので割愛しよう。」


「神アパが技術を司る神様でドワーフの神とされている。ものづくりの神とも言われている。地の底の洞窟暮らしをしていたドワーフが鉱物を掘り出して武具などを造れるようにしたと言う神話だな。」


「神アロフェンが美醜を決める神様としてエルフの神だな。エルフの姿形が他種族に比べて整っているのはこのせいだと言われている。自惚れ、高慢とかエルフが非難されるが神アロフェンのせいかも知れないな。ははは」


「神シェルナは海を司る神様で魚人の神とされている。魚人とはサハギン種の事だな。海の中の支配をしやすくするためにサハギン種を生み出したと言われているらしい。深きものダゴンはサハギン種に言わせると魔物だそうだ。」


「神ウェフは空を司る神様で鳥人の神だな。あいにくと私でも鳥人の神話を知らない。全く分からない状態だ。」


「神オゾンは空の上を司る神様で天人の神とされる。神話では地上人を見張らせる為に天人族は造られ、地上人が天に向かって来ないようにするのが目的とされているらしい。遥かなる太古に地上人が天に戦いを挑んだと伝承があるようだ。」


「ついでに地の神エンドは植物を司る神様で昆虫の神と言われている。まぁ昆虫人などと言う物は存在しないがな。死の神デズは人間の魂を司る神様と言われている。そして一説には魔族の神とも言われているな。まぁこれは魔神が言った事では無くて人族の考えらしいがな。魔族が余りにも強くて出逢えば死と考えられていた為だろう。」


魔族の神は名前の無い魔神だとあたしは知っている。

「と言うように種族ごとに主神が違う訳だが。逆にそれぞれの種族が崇めていた神の名前を種族の特性に合わせて人族が言い出したとも言われている。面白い事に人族は宗教と言う概念を生み出し、教会でこれらの神を崇めている訳だ。エルフから言わせれば人族の権威を高める為に宗教を利用しているのだと考えられている。まぁこんな考え方は不敬だと言われてしまうが。」


「ここで面白いのはエルフの森との親和性が高い『霊属性』の事だ。これは神の力を地上に顕現させる力なのだ。エルフの主神は美の神アロフェンなのに人族が言う主神ミュイーズの力だと言うことだ。エルフが使う魔法は神霊魔法となって結界を作り、魔族や魔物を寄せ付けない。弱い魔物であれば身体を焼かれ消滅されてしまう事があるようだ。」


「このように神と人間には結びつきがある訳だ。人族の中には神を信じない者が居るらしいが神は存在する。超常の存在であり、宗教上は『神託』と言う形で命令を下す。宗教を持たない種族では『顕現』と言う形で姿を表す事がある。まぁ滅多なことでは会えんがな。」


「さて、次の『生殖』だが子孫を残す行為のことだ。男女のからだの違いなどは上級生の授業があるのでそちらで学んで欲しい。興味はあるかも知れんが君達にはまだ早い。交配で来るから同じ人間であると言う事を理解してくれれば良い。」


「外見的に種族は違えど同じ人間ということだ。まぁ人族の中では外見だけで差別をする者もいるが、無意味だ。

また、貴族、平民で差別するなんてもっと無意味としか言えん。貴族である君達にはそう言った偏見を持って欲しくはない。

むしろ『ノブレス・オブリージュ』を理解して欲しい。古語である『ノブレス・オブリージュ』とは財力、権力、社会的地位の保持には責任が伴うことをさし、 身分の高い者はそれに応じて果たさねばならぬ社会的責任と義務があるという、貴族社会に浸透する基本的な道徳観だ。

エライザ王国建国時に貴族に陞爵(しょうしゃく)した者は皆誓ったと言われている。貴族の一人となる諸君には人間とは何かを理解して、貴族としての誇りとともにこれから色々なことを学んで欲しい。以上だ。」


見栄を切るようにシエル•ルゥーフ学園長が話を終えた所にドアが開いてエリザが入ってきた。授業が終わるのに遅刻で来たのかなと思っていたが何か様子がおかしい。

ブツブツ俯きながら喋っていると思ったらあたしを睨んで叫んだ。

「何でアンタなのよ!ミリィーーーー!!!」


何を言っているのか分からない。鬼の形相で両手を振り上げあたしに駆け寄って来た。

隣にクロエが居るので逃げ場が無くて、椅子の上に立ち上がり飛び退る。クロエも同じように飛び退るがこちらは『空歩』を使ってもっと離れる。


あたしに掴みかかろうととしたエリザの手は空を切り、酷い形相でこちらを睨んで更に叫ぶ。

「逃げるなぁーー!ミリィーーー!」


心なしかエリザの口から牙が見え、手の爪が凄く長くて魔物みたいに見える。こ、怖い!

あたし達の周りにいた生徒達は散り散りに悲鳴を上げて教室から逃げ出し、気付くとシエル•ルゥーフ学園長がエリザの背後に立っていた。

「エリザ・ダンダン!貴方は何をしているのですか!」


腰に手をして先生らしく叱りつける。

振り返りざまエリザが叫ぶと黒い霧のようなものがシエルルゥーフ学園長に降り掛かる。

「煩ぁーい!お前には関係ない!」


黒い霧には魔力でも籠もって居たのか、顔を手で覆ったシエル•ルゥーフ学園長が吹き飛んだ。しかもその霧は消える事なく漂い、エライザがこちらを振り向くとあたしに向かって飛んで来た。

「危ないで!ミリ!」


クロエが焔の帯を身に纏い、黒い霧に腕を振るい、跳ね飛ばす。焔に焼かれて黒い霧は少し少なくなったが塊のままにエライザに引き戻されて行く。

はっきりと分かる牙の見える口を開いてその霧をエリザが飲み込むと、さっきより数cmは伸びた爪を振るって、またもや襲いかかって来た。あたしとクロエは『魔力纒』からの『身体強化』で窓側に飛び退く。机の上を飛び跳ねて居るから置かれていたノートやペンが飛び散る。


グウウゥーーワァー

意味不明な叫び声を上げてまた、エリザが口から黒い霧を吐き出す。

「お前なんか!お前なんか!あたしの奴隷なんだぞぉー!」


エリザの意思どおりに動くのか黒い霧はクロエじゃなくてあたしに向かって来る。クロエの焔の帯だけじゃなくてあたしの水球が飛んで行くと黒い霧に当たり、少し削れて残りがエリザの口の中にまた戻って行く。

よく分からないがあの黒い霧は魔法で削れる様だ。教室の中なのでクロエも詠唱して魔法として焔は放たない。あたしの水魔法ならなんとかなるかも知れない。


訳の分からない主張をしてエリザがらしくない身体能力で机の上に飛び上がり、こちらに駆けて来ようとした。

声が聞こえたのでちらりと見るとシエル•ルゥーフ学園長が詠唱をしていた。

「我が魔力を糧として神霊の力よ、彼の者の悪しき力を駆逐せよ!」


シエルルゥーフ学園長から白い霧のような物が吹き出し、エリザを包んだ。

「うがぁー!痛い!痛い!痛いよぉー!」


白い霧に包まれたエリザは机の上で転がり回る。暴れるエリザの力が強いのか木の机が破壊され、破片が辺りに飛び散る。

あたしとクロエの魔法とは異なるシエルルゥーフ学園長の魔法はエリザに効果があり、白い霧から黒い霧が吹き出してもそれを追って白い霧が包み込むと少しづつ消滅しているようだった。


白い霧が晴れるとエリザから出ていた黒い霧は見えなかった。蹲ってブツブツとエリザは何かを云っている。良く聞こえないがあたしに対する恨み言の様だ。

あたしの事を貶しながらミリの癖にと言っている様だ。クロエにもそれが聞こえたようであたしを見てくる。

「なんや知らんけど世の中の悪い事全部ミリのせいや言うてる」

「そんな訳無いじゃん~」

「わぁっかっとるって」


あたしとクロエが話していると学園の警備員が2人入って来て、シエ•ルルゥーフ学園長の指示でエリザを両側から抱えるように連れ出した。教室に残っていたあたしたちと廊下で様子を伺っていたみんなにシエル•ルゥーフ学園長が大きな声で指示した。

「騒ぎは収まったから皆は寮へ帰るように。それとミリ嬢は付いて来るように」


あたしに関係無い筈だけど?

あたしの疑問は置いといてあたしとクロエは手早く自分の荷物を手にして後を追った。


教室を出て警備員に拘束されたエリザはそのまま警備員棟に連れていかれた。牢獄は無いが拘束した者を一時的に軟禁するようだ。牢獄と違って普通の部屋らしい。

あたしとクロエはシエル•ルゥーフ学園長の後を追って教員棟に入り、そのまま学園長室に入って、クロエが一緒なのにシエルルゥーフ学園長が驚く。

「むむ、何故クロエ嬢が一緒なのだ。」

「友達を心配して悪い事無いんよ」


ありがとうとあたしがクロエに礼を言う。

「うー、まぁ良いか。クロエ嬢もあれを見ているからな」


シエル•ルゥーフ学園長は学園長室の立派な机の前に立っているあたし達にソファへ座るよう言うと自分も対面に座った。

「エリザ嬢が吐き出した黒い霧だが心当たりがある。『神霊魔法』を使う私だから分かる、あれは瘴気だ。」

「「瘴気?」」


あたしとクロエの声が重なった。

「うむ、なんと説明すれば良いか・・・人間の霊気が悪質な物に変わった目に見えるようになった物・・・とでも言えば良いか。黒い霧のように見えただろうがあれを吸い込むと心を殺られる。私の『神霊魔法』が『瘴気』から私を守ったから浴びても私は大丈夫だった。」

「何でエリザはあんなものを吐き出せたの?エリザの魔法属性は火だし、スキルは『共感』だった筈よ。」

「そこだ!エリザ嬢は盛んにミリ嬢への恨みなどを呟いていた。かなり根の深いものと思われる。ミリ嬢何か心当たりはないか?例えばエリザ嬢に恨みを持たれるような事をしたとか・・・」

「そんな!」

「ミリがエリザに散々嫌味を言うことはあってもミリは言い返しもせえへんかったよって」


あたしもクロエもシエルルゥーフ学園長に抗議する。ああ、前は抗議なんて出来なかったな。

「そ、そうか。ならば逆恨みなのかもしれんな。」

「そういえばエリザの奴、ミリの癖にとか生意気とか溢し取ったな」

「んん~、ミリ嬢はエリザ嬢と付き合いが深いのか?」


その質問にはなかなか答えづらかった。

「・・・3歳の頃からの知り合い、というか寄親の娘なので側仕えのように扱われていました。」

「ははあ、なるほどな。エライザ学園に通うようになってミリ嬢が自分から離れて行くのを許せなかったと言うところか。」


そんな勝手な!あたしの中にエリザに対する悶々とする気持ちが湧く。確かにエリザはいつも偉そうにあたしに命令はしたり、貶したりしてきたけど今日みたいに手を出すことは無かった。


ドガァーン

外から何かか破壊される音がした。シエルルゥーフ学園長もクロエもあたしも慌てて窓の外を見たが何も見えなかった。すると慌てて走って来る音がしてドアが開け放たれた。それはエリザを連れて言った学生の警備の人だった。

「学園長!大変です!!」


シエルルゥーフ学園長が窓から離れてその警備の男の人の前に行く。

「いったい、何の音だ!」

「それが、軟禁していた学生の女の子が黒い蜘蛛の化け物になって壁を破壊して逃走しました!」

「「はぁ?」」


あたしとクロエは訳が分からないと言う声を出した。でも、シエル•ルゥーフ学園長は違った。

「ぬう、浄化仕切れなかったか?」


浄化と言った。さっき言っていたシエルルゥーフ学園長の『神聖魔法』は瘴気を消すと言っていたからそれの事だろう。

「それで蜘蛛の化け物は何処へ行った!」

「それがとても早く移動したので方角しか分からないですが王都の南門の方に」

「そうか、ミリ嬢。」


シエルルゥーフ学園長に声を掛けられて驚いて変な声が出た。

「はひ?」

「エリザ嬢は何処の領の人間だ?」

「エリザはダンダン伯爵領の娘です。」

「南・・・ダンダン領に向かったのか?」


あたしはエリザの向かった所よりその姿の変化が気になった。あたしを襲った時も少し様子がおかしかった。

「それより蜘蛛の化け物ってどういう事?」


あたしが警備の人に聞くと、誰だと言う顔をしたがシエルルゥーフ学園長が頷いたので答えてくれた。

「部屋の隅で蹲って何事か呟いて居たんだが突然変な鳴き声を上げたと思ったら体から黒い霧が吹き出して、黒くて長い脚みたいなのが何本も生やしたと思ったら壁に激突して破壊したんだ。その姿が余りにも蜘蛛に似てたから・・」


思い出したら怖くなったのか震え出した。それを見ていたシエルルゥーフ学園長は警備棟の戻って後片付けの対応をするように指示したので警備の人は走った。

あたしは不安でクロエの服の裾を掴んた。

「どうにもエリザ嬢の瘴気は抜けきらずに逆にエリザ嬢の身体を操ったようだな。」


シエルルゥーフ学園長の言った言葉の意味が分からなかった。

「それはどういうこっちゃ?」


クロエの質問に今更ながら目をやりながら答えた。

「瘴気とは霊気が悪質な物に変わって出来ていると言った通り、ミリ嬢への暗い情念、恨み、嫉み、嫉妬が霊気を変質させて生まれたのだろう。そして強烈な瘴気は人の姿をも変えるようだな。瘴気が物質化したと言うべきか。」

「それで、これからどないすんねん」

「エリザ嬢についてはどうもできん。恐らくだが瘴気を消耗し尽くせば元の姿に戻るだろうが目的地まで持つかどうかも分からん。魔物が居る森の中でひ弱な貴族令嬢に戻れば生きていけるとは思え無い。それにたとえ辿り着いたとしても瘴気分の己の霊気を失うのだ。無事に人間の意識で居られるかわからないだろう」


詰まり、エリザにしてやれる事は何も無いと言う事だった。

「でも・・・何故エリザは瘴気なんてものを出すようになったんでしょうか、学園長」


あたしの問いかけに少しシエルルゥーフ学園長は考えてから言った。

「先程、ミリ嬢はエリザ嬢のスキルが『共感』だと言った。普通の人間ならミリ嬢への暗い情念、恨み、嫉み、嫉妬があっても陰気で攻撃的になるだけだが近くに瘴気を出す何かがあったならどうか。・・・スキル『共感』がその者の瘴気とエリザ嬢を繋いだとしたら・・・」

「それでエリザが瘴気を持つようになったちゅう訳やな」


クロエが結論を急ぐ。

「あくまでも可能性ではあるのだかな」

「瘴気を出すって、そんな事ってあるんですか?」


あたしの疑問にシエルルゥーフ学園長は答える。

「瘴気を纏う魔物、瘴気を操る魔族、瘴気を出す魔導具などがそうだ。エルフは『神霊魔法』を使う事で浄化、詰まり瘴気を消す事が出来るからそういったものに触れる機会が多い。」

「・・・瘴気を操る魔族」


あたしの呟きにシエルルゥーフ学園長は聞いてきた。

「そう言えばミリ嬢は魔族退治に1役買ったと聞いたな。」

「大した事してません」

「・・・まぁ、無理には聞かない。それで、エリザ嬢の話は終わりだ。わたしの方からエリザ嬢の家族に魔法便を出して連絡をして置く。とんでもない結果になったが。」


あたし達はシエルルゥーフ学園長の指示で寮に戻った。寮にも連絡が来るそうだが破壊された教室の修理や警備棟の修理があるが別の教室を使って授業は続けられるらしい。


思ったより学園長室での話が長引いていて、寮に着いた頃には夕食の時間が近かった。あたしとクロエは制服から普段着に着替えて一緒に夕食を摂る事にした。

リリスお姉ちゃんはまだ、帰って来なかった。多分課題で時間が掛かって居るのだろう。


食堂は何時もに増してガヤガヤが煩かった。時折こちらを見て話す者達の視線も嫌だ。シエル•ルゥーフ学園長にあたしが呼ばれた事で噂になってしまって居るからだろう。

無言で食べるクロエも早々に切り上げて自室に戻る。


あんな中では話も出来ない。風呂には独りで入り、自室で寛いで考えを纏めようとしているとドアが叩かれた。開けるとクロエが居たので中に入れる。いつも明るいクロエが真面目な顔をしていた。

「どうしたの、クロエ」

「・・・ああ、ミリはどないするつもりや」


色々説明を端折って、ベットサイドに座るや否や聞いてきた。

「なんの事?」

「決まっとるやろ、エリザの事や」

「そんな、学園長も言った通りあたし達に出来る事なんて無いよ」

「嘘や、ミリはわっちに隠れてまた何かやらかす気やろ」


問い詰めるような言葉にあたしは苦笑する。

「まぁ、気になるから探しに行きたいけど、行ってどうするって事だよね」

「そうやな。寄親の娘ちゅうてもエリザはいじめっ子やからな。でも、ミリは何かしてやりたいって思うんやろ」

「ははは、クロエにはお見通しかな」

「それでどないするねん」


そこでさっきまで考えていた事をクロエに話す。クロエは少し驚いたが賛成してくれた。そしてあたしが動く時には必ず自分を連れて行けと念押しして自室に戻って行った。


次の日の朝、あたしが目を覚ますとリリスお姉ちゃんがベットサイドで座ってあたしが起きるのを待っていた。何だが目が座っている。

「おはよう、ミリちゃん。顔洗って朝ごはん食べた後にちょっとお話しましょ」


う〜ん、これは昨日の事を報告しないといけない流れだな。小さくあくびをしながらリリスお姉ちゃんの言う通りにする。

朝ごはん中も話はしないけど何となく皆の視線が集まっているような気がした。リリスお姉ちゃんはパクパク食べて早いけどあたしはもそもそ食べている。いつも道理だけどちょっとリリスお姉ちゃんは不機嫌な気がするのだ。


食べ終わると自室に戻って制服に着替えて、ベットサイドに座ってからリリスお姉ちゃんの質問が始まった。

「それで、何があったのか話して頂戴」


あたしはシエルルゥーフ学園長の授業内容は飛ばして、エリザが現れた時の事を話した。

遅刻してきたエリザがブツブツ呟きながら現れたと思ったらあたしに襲いかかったこと。

それをシエルルゥーフ学園長が『神霊魔法』で止めたこと。大人しくなったエリザを警備棟に軟禁している間にシエルルゥーフ学園長とお話して、エリザの様子について学園長の話を聞いたこと。

そしたらエリザが蜘蛛の化け物になって消えたことだ。


時々質問をされたが知っている事は全部話した。するとリリスお姉ちゃんは言った。

「それでミリちゃんは何をする気なの?」


何だがクロエみたいにあたしが何かをするのを知っているみたいに言われる。

「なんの事?」

「決まってるでしょ、エリザの事よ。ミリちゃんはきっとエリザの事を放って置けないから探しにでも行く気でしょ?」

「リリスお姉ちゃんにはお見通しかな」

「当たり前じゃない、誰だと思ってるのよ」


嬉しい。自分のことをこんなにも分かってくれる人が二人も居るなんて。

「それでどうするつもりなの?」


もう一度聞かれたので、昨日クロエに説明したことをリリスお姉ちゃんにも話す。

まずは影従魔『ルキウス』の眷属に探させてエリザを探す。その後、影の世界を通ってエリザを確保して、出来ればダンダン伯爵領に連れて行く。

ついでにエリザが瘴気を出す原因を探す。魔物、魔族なら退治、魔導具なら破壊を目指す。

「大丈夫なの?心配だわ」

「もちろん、危険なことが分かったら直ぐに影の世界へ逃げて帰ってくるよ、リリスお姉ちゃん。」

「ミリちゃんが原因を探したり、壊したりする必要なんてないじゃない。」


確かにあたしでなければいけない事は無い。でもあたしに関係した事なのだからあたしが出来る事をしないと気がすまない。怖い、怖いけどしなくてはいけないと心の中から聞こえて来るのだ。

「リリスお姉ちゃん。もう怖がるだけのミリじゃ居られないの。あたしにしかできない事はあたしにさせて、お願い。」


あたしの決意が変わらない事が分かったのか理解してくれた。

「でも、本当に危なくなったら逃げるのよ。」


リリスお姉ちゃんはいつもあたしの味方だ。

「うん、リリスお姉ちゃん大好き!」


あたしはリリスお姉ちゃんにしがみついた。気持ちの高ぶりと怖さで震えたがリリスお姉ちゃんの暖かさで落ち着いた。


それから一緒に学園に行き、別々の教室に向かった。

いつもの教室の前には張り紙があり、隣の教室で授業をすると書いてあった。隣の教室は前のと変わらないが少し狭いようだった。みんなとの距離が近かった。


始業のベルが鳴ると直ぐにシエルルゥーフ学園長が入って来た。今日は遅刻しなかったようだった。教壇に着くと開口一番に昨日のエリザの話をし始めた。

「昨日はエリザ嬢が少し騒いだせいで教室が使えなくなってしまってのでこの教室となった。どうもエリザ嬢は心労が募り、あの濫行となったが静養の為にダンダン伯爵領に戻った。よって暫く休みとなる。」


ザワザワする。みんなそれだけじゃないことを目撃している。エリザが良く見えた者なら少しエリザが変化していたのがわかっただろう。だが、シエル•ルゥーフ学園長はわざとそれには触れずに言い切ってしまった。でも誰もそれに言及出来ないからざわめきが広がったのだ。

「あーそれでは今日はそれぞれの種族の外見的特徴や居住地を紹介しつつ、世界の大きさを教えて行くとしよう。まだ、君たちはエライザ王国のことばかりで他の国については説明を受けていないだろう?」


だが、シエルルゥーフ学園長からもっと興味がある事を授業すると宣言された事で意識が変わった。

「まずは君たち人族の事だな。最もこの世界に蔓延る、失礼、人口の多い種族である人族だ。」


シエルルゥーフ学園長は振り返り、黒板の中央に大きな丸を描き、エライザ王国と書いた。

「これがエライザ王国だ。この世界で2番目に人族が多い国、それがエライザ王国。人口はおおよそ100万人。王都には約5万人居るとされる。国内の諸領についての説明はまた後だな。」


振り返り皆を見ながら説明を続ける。

「そしてエライザ王国の人族は大部分が白人種と言われている。肌の色が白く様々な髪色と瞳色をしているのが特徴だ。それから褐色の肌を持つ黒人種だ。黒い髪と様々な瞳色を持っている。それから少数だが黄色人種だ。黒い髪と黒い瞳色を持っている。こちらの起源は弓月国方面らしいな。」


人種についての説明は人族の不思議さを感じさせる。

「人種によっても背丈が違う。白人種は高く黄色人種は低めで、さらに黒人種は身体的に強力だとされている。」


背丈が違うのはどうなのだろうか。食べ物が良ければ背丈も高くなるような気がするし。

「そして他国の説明をしよう。」


シエルルゥーフ学園長はエライザ王国のまるの下に逆三角形を描いてインデラ国と書き、その隣に長方形を描き、オーロソン王国と書いた。

「インデラ国は未だエライザ王国と紛争中だな。この国は王が居ないが民主主義と言う考え方で人間の中から統治者を変える国だ。」


「オーロソン王国はエライザ王国の友好国だったが少し前から関係が悪化しているが王族が姻戚関係にあるので暫くすれば元に戻ると思われる。」


シエルルゥーフ学園長はさらにエライザ王国の右に離れた場所に縦に長い長方形を描き弓月国と書く。下に小さく丸を描いてタワンと書く。さらにエライザ王国と弓月国の間に点線で丸を描きチャナと書く。エライザ王国の上に点線で四角を描きロシャと書く。


さらに弓月国より離れた場所に大きな四角を描き神魔ユネイトと書いた。その上に小さな四角を描いてエルフ国と書く。戻ってオーロソン王国の隣に丸を大きく描きイーユと書いた。さらに左の離れた場所に弓月国のように長方形を描いてギリスと書いた。イーユの下に大きな逆三角形を描いて小国諸国と書いた。

「これが今のところわたしが知っている世界の国だ。点線はかつて国があったとする伝承がある。」


どよどよとざわざわより疑問一杯の話し声で満ちる。知ってる知らないで話が弾んでいるのかも知れない。実際にあたしもそうだからだ。

「それからここには書いてないが」


そう言って天人族、魚人族、鳥人族と書いた。

「かれらの国は何処にあるか知られていない。」


あたしは知ってる。ナサニエラさん、ウキヨエラさん達天人族は浮遊大陸に住んでいるのだ。ラフェさん達魚人族サハギンはインデラ国の沖合から海の中に国があるのだ。鳥人族とは知り合いが居ないけど。

「ああ、そうだ。ドワーフは国を持たない。当人達に聞いても出自もはっきりしていない。」


すると手が上がった。

「ん?質問かなミッチェル嬢」


ミッチェルさんが手を上げたようだった。

「はい、神魔国ユネイトとはなんですか?国名ですか?種族ですか?」

「ああ、これか。これはエルフの国と大きな関わりがある国なんだ。」



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