第43話

わっちの災難は大岩がゴロゴロしている場所で洞窟を見つけた事から始まったんよ。それでその洞窟に興味本位で入って見たら段々坂道がきつくなって戻ろうとしたら転んで中まで落ちたんよ。

落ちた先には『金の目』達がおってな。一緒に奥まで行ったらおっきな自然洞窟に出たんよ。もう入りすぎたと言う事で『金の目』が入って来た入口まで戻ったけど、夜になってたんて野営することになったんよ。

わっちひとり女の子やから危のうて、保険に美味しい夕食作ってご馳走したんよ。ハーピィを1匹潰してやったら『金の目』の男達泣いて喜んでいたわ。

で、次の日に帰って、休んで、次の日にギルドに顔だして、素材売って・•・そうなんよ、金貨3枚って無いと思わん?

だからふて寝してたら、ミリが帰って来おってん。


く、苦労したんだなぁクロエ。普通のハンターは魔物を狩ってもまるまる(無傷のまま)持ち帰らないよね。

やっぱり、あたしのスキル『影』が特別過ぎるんだよね。でも、もう遅いよね。バンジーさんは傷のある魔物や素材だけ持ち込めば変な顔するし、アルマントさんも気付いて居るから手遅れ。クロエに至ってはあたしと狩りをする楽さ加減を身に沁みてるし、あたしも解体を覚えて普通のアイテム袋を使う気もないのだから。

「それじゃ、ギルドへ行こう!」


あたしの言葉にクロエが複雑な顔をする。クロエに取ってギルドは魔物を売るだけの場所になってるわ、あたしもだけど。

「いちおう、状況が気になるじゃない。クロエが落ちた穴のこともあるし」

「そやな、あんの男共のことは気にならへんけど」

「着替えられたらあたしの部屋に来て」


あたしはそう言ってクロエの部屋を出る。自室に戻り革鎧を身に纏い、鏡を見る。あんまり傷も汚れも無い。肉体派じゃないから攻撃受けないし、受けたら死んじゃいそうに弱い。

クロエの装備くらいに変えた方がいい気がしてきた。お金は掛けたくないけど、万が一もあるからね。

ドアが叩かれたのデメリット開けて、クロエを招き入れる。

「準備出来たんよ。」

クロエに机の上に置いてあった『鍵』を渡す。

「これを無くさないように首から下げて」

「なんや、ミリからのプレゼントかいな」


喜んでくれるのは良いが何のために必要か説明する。

「これはあたしのスキル『影』で移動するのに必要なものなの。今まで黙って居たけど影の世界へクロエを連れて行く為の文字通りの『鍵』よ」


あたしの説明に良く分かんない顔をしたクロエだったがあたしが手を握り、離さないように念押しをして、スキル『影』を使う。

部屋の中が薄暗くなり、窓から光の影が射す。握った掌からクロエの怯えが伝わって来る。何か叫んで居るが勿論聞こえない。周りを見渡し、不思議な世界を見ていて、あたしの後ろに蟠(わだかま)る黒い影に怯えて抱きついて来た。あたしは現実世界に戻る。

「ななな、なんや!ミリ!何が起きたんや!」


現実世界に戻ってもクロエは叫んだ。

「クロエぇ〜、静かに!寮のみんなに聞こえるでしょ」


あたしの言葉にはっとなったクロエは大人しくなった。

「何やったんや、今のは」

「あたしのスキル『影』を使って影の世界に行ったのよ」

「影の世界?」

「そうよ。影の世界は現実世界の光と影にが逆転した世界なの。影の世界ならあたしは凄っく強くなれるの。もしかしたらクロエが『覚醒』使った時ぐらいに。ちょっと大袈裟だけどね」


あたしが笑ったので緊張が解けたのかクロエも笑ってくれた。

「それがミリのスキルの秘密なんやな」

「そうよ。クロエにも知って置いて欲しかったの」

「・・・なんやミリも変わったんやな。初めの頃は凄いオドオドしとったけど」

「そう、言われるとクロエは全然変わらないわよね。」

「でも、ええんか。秘密やったんやろ」

「うん。まだ秘密はあるけど、クロエだってそうでしょ?スキル『覚醒』って唯の『身体強化』だけじゃないよね」

「・・・知っとったんか、気付いたんかは分からんけど、本当にミリ変わったわ」


静かに抱き着いたあたしから離れながらクロエは話す。

「でも、クロエは信用して良い友達だと信じてる。500年前のアン様のお弟子さんがご先祖様だった事を除いても。」

「そうか、そうなんやな。ありがとう、ミリ。」

「それからあたしの近くに居る影従魔『ルキウス』は怖がらなくても大丈夫、あたしの仲間だから」


それからクロエには言わないがクロエの背後には影従魔『ルキウス』の付けた眷属が居る。形から多分グレイウルフだろうな。

改めてクロエと手を繋ぎスキル『影』で影の世界へ移動して、部屋を抜け出して寮の外に出る。光の影を強く踏み締め、跳び上がると他の建物の光の影を踏み、跳んで行く。跳ねて飛んではクロエも現実世界で体験しているからか、あまり手に力は入っていないが、目の前に薄光る建物を見るとぶつかると思うのか力が入る。

あたし達は建物を透過するようにすり抜け、移動して行く。


直ぐにハンターギルドの建物の影に出た。影の世界から現実世界に出るとクロエは目を瞬かせる。慣れないと現実世界は光がだらけで眩しく感じてしまう。

「す、凄いもんやなあ。」

「そんな事無いよ。クロエだって空を駆ければ同じくらいで着くでしょ?」


言われた事を考えたのか

「そうやな、そう言われるとそうなんや」


あたしが手を離そうとするとしっかりと握り締めていた事に気付いてクロエは苦笑いする。

「じゃあ行こうか」


あたしの掛けた声にクロエが言う。

「本当に寄るん?」

「そうよ、だってクロエの話じゃ森に入れないかも知れないじゃない」


渋々後を歩いてくるクロエだが、あたしは気にしない。ハンターギルドの中に入ると何故かざわざわしている。何かあったのだろうか。いつもより多いハンターの数に不思議に思いながら受付じゃなくてバンジーさんの所に行く。いつも通りバンジーさんの所には人が居ない。

「バンジーさん、何かあったんですか」


バンジーさんはあたし達の姿を見ると苦笑して、教えてくれた。

「何だか、海の様子がおかしいつう連絡があってな。今確認の最中で海でハンターしている連中が屯って居るんだよ。」


海のハンターと言えばパルファムとかクロエの言うところの掃海士の事だよね。

「森の方はどうなんです?」

「森?ああ『金の目』の話か。そう言えば昨日は戻って無いな。」

クロエを見るとそっぽを向いている。特に気にしている様子はない。

「何か問題あるんです?」

「いや、俺は何も聞きてないな」

「じゃあ、森に行っても大丈夫ですよね」


あたし達はハンターギルドを出て、クロエと手を繋ぎ、影の世界を通って移動する。現実世界の王都の南門を通るのは大回りになるからだ。

真っ直ぐに移動して王都の南門の外の木の影に到着する。時間にして5分くらいだろうか。普通に歩けば30分以上掛かってしまう。


森の中には相変わらず魔物が少ない。クロエは全然狩らなかったがあたしは違う。見えた途端にスキル『影操作』で片っ端から影の世界に招待だ。森ねずみ5匹、一角うさぎ3匹を捕まえる。一角うさぎが少ないのは明らかに生息数が少ない。

森の斜面を登り、高原に出る。ちょっと調べたらこの森では採集も出来るらしい。薬草とか木ノ実とかあるらしいからそのうちアン様に聞いて採集にも挑戦してみる積りだ。


クロエの先導で東に向かう。途中で山蜥蜴に出会ったがクロエに何かさせる前にあたしが影の世界に招待した。

クロエが指差す方向にはクロエが説明した通りに大岩がゴロゴロしていた。違ったのはその岩の上にハーピィが沢山こちらを睨んでいた事だ。あたしのスキルは空を飛ぶものには効きづらい。しかも大岩の上では影が近づくのを察知されそうだ。

あたしが固まっているとクロエがあたしを押し退けて前に出た。クロエが『魔力纒』をしてから『魔法付与』で焰の帯を両手に出す。何時もならそのまま魔物に向かって投げつける筈なのに幾つかの岩を囲むように伸ばして行った。

「我が魔力を以って、焔よ逆巻く嵐になれ!」


魔法詠唱だった。クロエの魔力を得て焰の帯は渦巻くように天に伸びて行き、大岩とハーピィごと囲いこんでしまった。

ゴオォーブォォー

風切の音を立ててハーピィの群れを閉じ込め、中で暴れ出ようとするハーピィを焦がす。数分の内に全部のハーピィが地に落ちていた。中には羽根を焼かれパチパチ燃えて居るものもいた。

「あっちぃー!早く冷やしてぇな!ミリ!」


得意技でハーピィを斃したのは良いが熱すぎて近付けなかった。あたしが雨のように散水して岩を冷やすと濛々と水蒸気が舞った。クロエが『空歩』で大岩の上に登り、大岩の上のハーピィを蹴り落とす。あたしが『影操作』で影の世界へ取り込む。総数19羽のハーピィが狩れた。クロエはニンマリとしている。

「さっきの詠唱は何?」

「あれ?あれば前にやったらファイアーストームみたくなったんで、詠唱にしたんよ。」


見事な『魔法付与』だけどあたしが冷やせ無かったら熱が落ち着くまで待たないといけないと指摘する。

「あははははは」

笑って誤魔化された。


更にクロエの先導で東に向かうとクロエが落ちたと言う洞窟があった。洞窟には入らないで周辺を調べると東の方は落石があったのか岩がゴロゴロしていて、その上の方に同じような洞窟があった。岩の大きさはあたし達でも抱えられるくらいの大きさだったが何かに削られたような筋が幾つも付いている。何だろうと考えて居たら遠くでコェーコェーと鳴くハーピィの姿が見えた。この辺じゃない場所にハーピィの巣があるのかも知れない。


クロエの方は何か見つかったかと聞くと何も無かったと言った。クロエはもっと山を登った方を見て回ってくれたのだ。この辺には山蜥蜴も居なかった。そう言えば飛びうさぎや高原ねずみも見ないなあ。

これでは狩りにならないのでクロエと相談する。

「洞窟の中に入ってみる?」


クロエは嫌そうな顔をする。

「また、転がり落ちるのは勘弁や。おにぎりや無いんやで」


おにぎりが何か知らないが入りたく無いらしい。

「でも、こっちは調べて無いんでしょ?」

「そうやで、あっちの穴に落ちたやからな」

「それじゃ入って見ましょ」


嫌がるクロエを宥めながら洞窟の中に入って行く。陽射しが丁度良く洞窟の中に差し込んで居るので中が良く見えた。確かにクロエの言うように自然に出来たように見えない。あたし達くらいの背丈なら普通に歩けてしまう。なだらかに下り始め、次第に暗くなってくる。クロエが『魔力纒』をして炎を明かり代わりに出したので、あたしも練習に『魔力纒』をして『魔法付与』で炎を出そうとする。

「我が魔力を以って、炎よこの指止まれ」


あたしの詠唱を聞いてクロエが吹き出す。

「何やねん、その詠唱は」

「だって、クロエみたいに炎を操れないもの」


あたしの出した炎は指先程度の大きさであまり明かり代わりになって居なかった。クロエがコツを教えてくれたので何度か詠唱を繰り返して、拳程度の大きさになった。松明の炎を想像して魔力を調整すると良いらしい。ああ、光属性のアルメラさんが羨ましい。アルメラさんなら簡単に出来るだろうに。

気が紛れたのか先を歩くクロエの歩き方が普通になった。坂道がそれ程でなく、曲がって居るせいもあるらしい。坂を螺旋状に降りて居る感覚だった。分かれ道も無く30分も往くと洞窟の先から何かの音が聞える始めた。思わずクロエと顔を見合わす。

何だろうと思っても音は明瞭には聞こえない。何か危険なものの音かも知れないので慎重にゆっくりと降りていくと音がはっきりとしてきた。何かを叩く音と誰かの泣き声、そして地面に落ちた松明の揺らめき。洞窟を抜けた先は大きな自然の洞窟みたいで下からも上からも尖った岩が乱立していた。そんな岩の間で剣を持った男がてらてら光る芋虫のような魔物と戦って居た。その後ろの折れた岩の上から泣きながら弓を飛ばす男が居た。その近くにも同じような魔物が居る様だった。

「ハイン?ガイン?」


クロエから名前が出てきた。ミリも見た覚えがある『金の目』のパーティだろう。

クロエが駆け出した。あたしも後に続く。クロエはスキルを使ったのだろう、あっと言う間に魔物に『魔法付与』の焔の帯を巻き付けて絡め取る。

芋虫に似た寸胴で節くれ立った魔物は2mほどで焔で焼かれ、動きが鈍る。そこへ剣を持った男が剣を振るうとさっきまで跳ね返されていたのが突き刺さり、内蔵を飛び散らせた。クロエの焔が当たりを明るく染めたので後10mくらいあったがあたしはスキル『影操作』で揺らめく影で弓使いの男に飛びかかろうとした魔物を引き落とし、影の世界に取り込む。近付いて更にもう1匹、更に纏めて2匹。クロエは剣の男ともう2匹の魔物を始末した。剣を振るう男はクロエの纏う焔と疲れからかはあはあと呼吸をしている。周りには焼かれた魔物が3匹転がっていて、弓使いの男が岩にもたれ掛かって怯えていた。よく見ると弓使いの足元に太った小男が横たわっている。近くには槌に潰されて魔物が1匹ひくひくと断末魔の状態で転がっていた。

「ボロン!ボロン!」


剣を持っていた男が剣を腰にしまって小太りの男にしがみつく。暗さで良く見えないが小太りの男は魔物に横腹を食いちぎられていた。血が黒ぐろと流れて、血溜まりをなしていた。

「ぼ、ボロンが無理をして、潰したけどもう1匹が・・・俺を庇ってやられた、食われた、おお、俺も弓撃って、でも弾かれて、全然駄目で・・・」


ガインと呼ばれた弓使いは独り言のように言い訳を続けていた。クロエも寄ってきてボロンという小太りの男を見たが首を横に振る。あたし達はポーションを持っていない。ハインという剣使いがクロエを振り向いて言う。

「なぁクロエリア、あんたの魔法で何とか出来ないか、頼む、何とかしてくれ。このままだとボロンが死んじまう!」

「悪いけどまだ、あたし達は治癒魔法を習って無いし、使えるようになるかは分からへんよ」

「じゃあ、せめてこの血を難とか止めてくれ!あんたの焔で焼けば何とかならないか?」


クロエがあたしを見る。何とか出きるとは限らないが出きる事をしよう。あたしはボロンの近くに屈み込み、魔法で水を出して傷跡の汚れを流す。痛かったのか力なくボロンが身を捩った。そこを隙かさずクロエが焔で焼くと叫びながら身を捩った。ハインが必死にボロンを押さえる。流血は何とか止まったがボロンの息はほとんど無く死んでしまうのは時間の問題だと思えた。ハインがボロンを背負い、ガインに声を掛ける。

「おい、ガイン!行くぞ。帰るぞ、ギルドへ」


虚ろな顔をしていたガインの顔をクロエが叩くと立ち上がってクロエに食って掛かった。

「痛えな!何しやがる!」

「ほら見いな!ボロンを早く連れ帰らんと!」


力無いボロンを背負ったハインを見てガインは正気に戻ったらしく、ハインに縋り付く。

「ハイン!ボロンは大丈夫だよな?」

「分かんないけど、急いでギルドへ帰るぞ!」


ハインがこちらを見て言った。

「危険だから、お前達も直ぐに帰った方が良いぞ!じゃあな!」


落ちていた松明をガインが持ち、ハインと一緒に来ただろう道を急いで歩いて行き、次第に小さくなった。周りを暗闇が包み込む。あたしは『魔力纒』をして、魔法で明かり代わりの炎を出して明るくした。

揺らめく炎で見えたクロエの顔は歪んで見えた。きっとあたしの顔も強張っているだろう。蒼くなっているかも知れない。遠くに見えてた松明が不意に消えた。多分入ってきた洞窟に戻ったのだろう。2人して『金の目』の男達が消えるのを目で追っていたようだ。

「さて、どないしょ」


クロエの言葉にあたしは周りを見て言った。

「この魔物を取り敢えず全部回収するわ。明かりをお願い」


再度クロエに明かりの代わりの焔を出して貰う。あたしは自分の炎を消して、大きな芋虫のような魔物を影の世界へ回収する。片付けて分かったがクロエとハインが倒したのは3匹。それ以前に『金の目』達が倒したのは1匹だったようだ。あたしが影の世界へ取り込んだのが4匹、全部で8匹いたようだ。

多分、消えていった洞窟から此処まで来た所で襲われたのだと思えた。クロエと一緒に他にも居ないか探したが見つからなかったが大きな自然洞窟の中央辺りに大きな卵を見つけた。卵の数は10個だ。全部割れて中身が無かったから孵化したとしたら後2匹は何処かにいるかも知れない。証拠になるからとクロエに言われて割れた卵の殻も回収する。


出来るだけ見て回ったが他にいる様子も無く、見つけたのは何処に続いているのか分らない別の洞窟だった。どうやらこの洞窟から残りの2匹は出て行ったのかも知れない。歩き疲れ、お腹も空いたのであたしがご飯を出す。クロエは器用に焔を空中に浮かせたまま食事をしてみせた。出したのは『薔薇』のサンドイッチだ。クロエにあげる為に買って置いた分である。自分は寮のトレイに乗った朝セットだ。トレイにクロエの分の飲み物も置いておく。


クロエは旨い旨いとサンドイッチを食べてくれた。あたしが喫茶店『薔薇』の話をすると入りたいと思っていたがいつも通り過ぎていたと言った。なら、堪能してくれ。


食事をしたら少し気力が湧いてきた。クロエの腹時計ではまだそんなに時間は経って居ないと言うので新しい洞窟に入る事にした。

洞窟は多少は曲がっていたがほぼ真っ直ぐで少し登りになって行った。暗闇の中、松明の明かりを頼りに歩いていればいると時間の経過が分からなくなって来た。歩きながらあたしが知り合いに会いに行った事をぽつりぽつり話した。勿論魔族の話は無しだ。クロエが幾ら強くても巻き込むのは筋違いと思ってた。魔族と戦うのは魔族に恨みを持つ者だけで良い。怪我では済まない可能性が高いのだ。

かなりの距離を歩いたのに変化が無いと思っていたがクロエは何かに気付いた。

「これ、良く分からへんけど銀の鉱床ちゃうん」


クロエが焔を近付て見せたのは壁の銀色の筋だった。確かに2cm程の厚さに斜めに銀色の筋が見えた。

「ほんとね、ちょっと取れるかなぁ」

あたしは腰の短剣を使って銀色の石を削り落とした。キラキラして綺麗だった。見ると零れ落ちた小さな石をクロエも拾ってアイテム袋に入れていた。

「これが鉱床なら一財産かも知らへんよ」


ニコニコ顔が焔に揺れて何だが悪どく見えた。あたしは苦笑したがクロエには違って見えたらしい。

「ミリの顔が悪うなっとるで」


そんな、心外だ。

「そう言えば、『金の目』のハインにクロエ、クロエリアとか言われていたわね。どういう事?」


あたしが話を変えるとクロエが吹けない口笛をしてそっぽを向いた。

「あー、もしかしてあたしのハンターネームを真似て偽名を言ったのね?」

「さ、さぁな、どやったかなぁ」


とぼけて見せたが誤魔化せ切れてない。

「本当の事を言いなさいな、クロエリア!」

「なんや、ミリオネア!」


お互いに言い合ったら可笑しくなった。

「「あははははは」」


互いに腹を抱えて笑い合う。笑い声が洞窟に響いて消えて行くのが聞こえて、互いに黙った。そして先に進む事にした。

でも、そんなに進まない内に明かりが見えて来た。慎重に近付いて明かりのある場所に出るとそこは四角に掘られた坑道だった。

明かりは松明じゃなくて魔石を使った角灯(ランタン)だった。一定間隔で木材で出来た補強が並んで居る。穴は坑道の反対側に続いて居た。やっぱり洞窟は人が掘ったものではなくあの芋虫みたいな魔物が掘った穴なのだろう。

「やばいで、ミリ」

「そうね。距離は分らないけど山の反対側にあるジュゼッペ侯爵家の鉱山に出たのかも知れないわね」

「急いで帰るで」

「分かったわ、じゃああたしの手を繋いで」


クロエは大人しくあたしの手を繋いだので直ぐにスキル『影』で影の世界行き、影従魔『ルキウス』に乗って元の道を戻るように指示する。いきなり柔らかなものに包まれたクロエは驚いたが直ぐに大人しくなった。あっという間程では無いが歩いた時間が何だったのかと思える程の短い時間で光に溢れた洞窟の中を戻った。


あたしとクロエが入って来た洞窟の入口に着くと影従魔『ルキウス』から降りる。影の世界から現実世界に戻ると夕闇が迫って、陽がもうすぐ落ちる時間だった。

「ミリのお陰で帰りはあっという間だったんよ」

「そうね『ルキウス』のお陰ね」

「『ルキウス』言うねんな、あのもふもふ。」


クロエもお母様のように気に入ったようだ。勿論あたしもお気に入りだ。暗くなると影の世界では道が分からなくなるので急いで帰る事になった。現実世界ではクロエの方が早くスキル『空歩』で空を駆けて帰れるがあたしが居るお陰でそうは簡単に行かなかった。

そこで思い付いたのがクロエにあたしがおぶって貰う作戦だ。重くなるとそれだけスキル『空歩』に掛かる負担は大きくなるので高くは上がれないが、樹上スレスレなら何とか行ける事が判った。クロエにかなりの負担だったが森を越えるだけやんとクロエが言ってくれたお陰で何とか森の外まで出れた。クロエを逆にあたしが背負うしか無いかと思える程の消耗具合だったが、此処までくれば王都内なら何とか影の世界から移動出きる。

あたしはクロエの手を繋ぎスキル『影』で影の世界へ移動して跳んで行く。真っ直ぐにハンターギルドに向かったお陰で直ぐに到着した。真っ白な世界に黒い光が漏れる影の世界ではハンターギルドの場所の判別が難しかったが影従魔『ルキウス』が連れて行ってくれたお陰で何とかなった。あたしが跳んだら直ぐに迷子になっただろう。


ハンターギルドの建物の陰で現実世界に戻ると、中に入った。外からも賑やかだなとは思ったが昼間と変わらないくらい人が多かった。いったいどういう事だろうと思って居るとギルドマスターのアルマントさんが姿を現し、声を張り上げた。

「昼間の海に出現した魔物の群れだが海に戻ったぞ!あればサハギンの王が率いた軍隊だったようだ。王宮からの情報ではサハギンの王子が地上人、つまりエライザ王国の誰かに連れ去られたそうだ。それを見つけに、場合に依っては戦争も辞さないとやって来たらしい」


ざわめきが広がる。あちこちでなんてこった、とか俺たちが戦うのかよとか聞こえた。

「だが、幸いにして何者かに依って助けられて既に南の海に帰ったと言う情報が届いたらしい。王宮から見た情報ではリバイアサンが現れたらしいぞ!」


あちこちでリバイアサンの名前が聞こえた。リバイアサンといえば海の王龍じゃないか。途轍も無くデカくて津波のような災害を操ると言われる伝説的な魔物だ。

「リ、リバイアサンかぁ、見たかってん!」


興奮した声がクロエから聞こえた。そういやクロエは掃海士だっけ。海の魔物には詳しいのかも知れない。

「と言う事で、脅威は去ったから海でハンターの仕事も明日からから再開出来るぞ!宜しくみんな頼む!」


周りから歓喜の声が聞こえた。ここにいた人たちは海でハンターの仕事をしていた人達だったらしい。三々五々人が散って行った。アルマントさんも奥に引っ込んで姿を消した。


煩く無くなったのでバンジー産の所へ行く。あたしの顔を見るとバンジーさんは一声、奥へと言ってさっさと引っ込んでしまった。まぁバンジーさんのカウンターに出すわけには行かないから奥へ行くけども。隣を見ればクロエも笑ってる。

2人してカウンターの横を抜けて奥の倉庫まで行きバンジーさんに話し掛ける。

「『金の目』の人達は来ましたか?」


魔物の受付と思ってたバンジーさんは怪訝な顔をしたけど、何が言いたいのか分かったみたいで教えてくれた。

「おう、昼過ぎに仲間を担いで来たぞ。」

「それで、そのデロン?」

「ちゃうちゃう、ボロンやで」

「ボロンさんはどうでした?」


目を瞬かせてバンジーさんが答えた。

「あーうん、駄目だったな。連れて来た時にはこと切れていたよ。ギルマスのところで状況説明して、近所の火葬場に行ったよ。まぁ、ハンターやってるとこういう場面には出くわすさ。」


あたしとクロエは顔を見合わせた。あの時から無理だろうと思ってたけど予想通りになってしまったようだ。

もし、あたしが背負って影の世界を通ってギルドに連れてきていたら間に合っただろうか、それとも『錬金術室』のエリクサーを常備していたら死なせずに済んだだろうか、エリクサーと言わずともハイポーションくらいは持って置くべきだったかも知れない。そんな詮無いこと事を考えて居たら、クロエの顔も暗い事に気付いた。

「クロエ・・・」


あたしの声にクロエが呟く。

「わっちにも出きる事があったんやろか」


やっぱり、クロエも自分が手を貸すべきだったのかと悔やんでいるのか。

「あいつらは、『金の目』はパーティで責任を取るんだ。お前らも居たらしいがお前たちのせいじゃないぞ。第一奴らが助けてくれと言ったか?言わなかっただろ。お前たちが見捨てた訳じゃない。気にするなと言うのは無理かも知れんがハンターは『自己責任』だぞ」


バンジーさんがあたし達の気持ちを慰めてくれる。

「バンジーさん、ありがとうございます。」

「ぐすっ、なんややるせないやんけ」

「あたしはクロエを見捨てないからね」

「わっちもやで、ミリ」


優しい目でバンジーさんは見ていたが気持ちを切り替えて聞いて来た。

「それで、何を持って来たんだ」


あたしはアイテム袋にしている中から大自然洞窟の中で狩った魔物を出した。

「これは『金の目』が狩った分。これはクロエとハインが一緒に狩った分。これはあたし」


潰れてずたずたな魔物1匹。胴体が焼け焦げて傷のある魔物3匹。変な形で硬直している魔物4匹。

明るいどころで見ると尚更奇妙さが目立った。直径は30cmくらいで長さは1mから2mくらいあり、金属みたいな光沢のある帯を連ねたみたいな胴体に丸い口に牙だらけで一番外側の牙は5cm以上の長さがある。後ろには触手がわさわさ生えていて、中央に肛門らしき穴があった。

バンジーさんはあたしが狩った1番傷の無い魔物を子細に調べて言った。

「これはやっぱりグランドスウォームの幼体みたいだな。」

「「スウォーム?」」


あたしとクロエの声が重なる。

「ああ、このへんじゃあ見たことが無い。主に鉱物を食べるスウォームのひとつだ。」


あたしはクロエと顔を合わせる見合せお互いに頷いた。そしてあたしはあの卵の殻みたいな物を出した。

「その大洞窟の真ん中あたりで見つけたのよ、これ」

「これは珍しいなぁ」


しげしげとバンジーさんは見て数を数える。

「卵の殻が10個にグランドスウォームが8匹か、残り2匹は見なかったんだよな」

「奥に別の洞窟があったからどんどん進んで行ったら壁にこれがあって、鉱山の坑道みたいな所に出たんです。」


あたしが銀色の鉱物を出す。クロエもアイテム袋から小さな塊を出す。バンジーさんが鉱物を見て言った。

「こりゃ銀だな。」

「やっぱり、あれはジュゼッペ侯爵領の鉱山かも」

「そんなところまで繋がってんのか!」

「方角がそっちなんよ」

「こりゃ、ギルマスに報告だな。」


あたしとクロエは顔を見合わせて言った。

「やっぱり?」

「そやろなぁ〜」


あたし達はここで待つようにバンジーさんに言われ、バンジーさんはギルマスを呼びに行った。












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