第42話

独りで狩りをするのは慣れていたからクロエは楽観していた。

ミリの言う森に入れば出てくるのは森ねずみ、一角うさぎ位だし、一般的なゴブリンやコボルトはこの森には居ないようだった。聞いた話ではエライザ学園の管理する森が近くにあるために定期的にハンターギルドが魔物を減らしているらしい。

クロエがお気に入りで入って居た沼沢の森にもほとんど居なかった。まぁ狩ってもゴブリンは素材も取れないし、討伐証明の左耳を持って行っても鉄貨1枚にしかならないので邪魔な時に狩る位だ。

コボルトはまだゴブリンよりまし程度で肉は余程でないと食べないし、皮は素材としても最低だから銅貨1枚ってところだ。なのにゴブリンもコボルトも集団で出てくる。5匹程度なら楽勝だがそれ以上になると逃げ場を失い兼ねないから逃げる。弱い魔物は群れたがるが弱い人間も同じだ。

そんな事を考えながら森の奥に入って行くと次第に登り坂に成、抜けた高台は低木が散見するだけでゴツゴツした岩場に変わっていた。右方向の西に向かえばミリの言っていた崖に出てしまうらしいから反対方向の左に向かう。

大きな岩の陰を回ったところで山蜥蜴と出くわした。直ぐに右手に火魔法の塊を出して投げつける。

グェ

驚いてよろけたがダメージは無かったようだ。やっぱりちゃんと詠唱しないとなと考える。

「我が魔力を以て、炎よ、かの敵を攻撃せよ!」


さっきより魔力が絞られて飛んでいく。炎の塊は山蜥蜴の体にぶつかって山蜥蜴を数m吹き飛ばした。転がって行く山蜥蜴を追い掛けて行くとよろけては居るが倒せては居なかった。しかも炎の魔法が当たったのに少し煤けているくらいだったのでクロエも意地になった。

「我が魔力を以て、炎よ、かの敵を攻撃せよ!」

「我が魔力を以て、焔よ、かの敵を穿て!!」


次第に込める魔力を多くして飛ばすと山蜥蜴の額に穴が開いて、腹を見せて倒れた。ひくひくしているから今度こそ斃せたようだ。

「やった!殺った!」


小躍りして近づき、腰から短刀を出して解体を始める。尻尾近くの肛門に短刀を刺し、腹に向けて思いっきり引くと腹が裂けて内蔵がでろりと零れ落ちて、血が飛び散って顔に掛かった。構わず、切れ目を更に顎の方まで広げて頭の横に切って行く。

皮を引っ張りながら肉と皮の間に短刀を入れて皮を剝いて行く。前足の付け根は力任せにゴリゴリと骨ごと切る。反対側も同じように皮を剥き、尻尾も前足と同じようにある程度のところで骨と骨の間を切る。

う〜ん、鋸歯の付いた解体ナイフ買っとけば良かった。今まではここまで丁寧に解体しなかったから必要無いと思っちゃってた。山蜥蜴をひっくり返し、皮を背中まで両側から剝いて、背びれに当たった。背びれの骨が中々切れなくて苦労する。

頭と裸のようになった山蜥蜴から皮を持ち上げて、周りを見ると2匹の山蜥蜴がこちらに迫って来ていた。この状態で戦うには不利なので慌てて、山蜥蜴の死体から離れる。

2匹の山蜥蜴は死体に向かって突進して、ガブガブ漁り始めた。

手にした皮から血が滴っていたが自分ごと魔法クリーンで綺麗にする。死体を漁る2匹の山蜥蜴から目を離さないようにしながら腰のアイテム袋に山本蜥蜴の皮を入れる。危ない危ない。気が付かなかったら2匹の山蜥蜴に襲われていたところだった。

解体に時間と労力をだいぶ使って疲れたので近場の大岩の上に跳び乗り周りを見てみる。

ここなら襲われる事も無いだろうと座り込み、一生懸命に共食いしている2匹の山蜥蜴を見ていると更に体が一回り大きい山蜥蜴がやって来て、先の2匹を追い払い、奪ってしまった。追われた2匹も食べたりないのか近くをウロウロしていたが体の大きい山蜥蜴にガアァと一喝されてすごすごと離れて行った。

岩の上からその様子を見ながら腰ポーチから干し肉を取り出してくちゃくちゃ食べ始めた。

ミリが居ないから贅沢な食事は出来ない。ミリと知り合う前はこれが普通だったがとても物足りない気持ちになった。

ええい、クソっ!独り言を言って立ち上がる。

少し休んだからあの大きな山蜥蜴。狙う事にしよう。10m程離れていて遠いので少し近付かないといけない。あんな大きさの魔物の攻撃を受けたら唯では済まないので、風下を探して、大岩からスキル『空歩』で移動して地面に降りる。

ズシャ


着地の音がしている筈だが大山蜥蜴はちらりと見るだけで食事を続けていた。姿は見えているのに気にしないとは大物でよろしいとクロエは魔法を詠唱した。

「我が魔力を以って、焔よ、かの敵を穿て!!」

「我が魔力を以って、焔よ、かの敵を追撃せよ!!」


それなりに魔力を込めて放った焔の塊に続いて、逃げ出したら追い掛けるように2発目は少し詠唱を変える。バージル先生の真似だ。思ったように1発目は大山蜥蜴の頭の横に当たり、穿つ子とは出来なかったが血を長すぎ程度の傷を与えた。

グガァ、ガァ


悲鳴のような鳴き声を上げてこちらを見た額に2発目が当たり、穿つ。かなりダメージを与えられたけど斃すまで行かず、大暴れし始めた。

痛みにたえるように暴れるので近づけない。暴れすぎて再度魔法を放つには狙いが定まらない状況になってしまった。

どうしようと迷っていると空の上から何かの鳴き声がして、鳥のようなものが大山蜥蜴に襲い掛かって来た。鷲か鷹かと見ると数匹が交互に鋭い爪で攻撃を加えて行く。よく見ると鳥の頭の部分が人の女性の顔のように見えた。


ハーピィだった。思わず上空を見ると更に2匹がくるくる回っていた。襲いかかるタイミングを見計らっていたのだろう、大山蜥蜴を襲っていた1匹が尻尾に当たり、飛ばされると隙かさず上空の1匹が急降下して両爪で掴みかかった。

丁度頭を掴んだらしく大山蜥蜴と一緒に振り回される。もう1匹はと気が付いたらこちらを襲うべく、急降下して来た。クロエは慌てて転がって狙いを防いだが、バサバサと空中で留まり、再度クロエを狙おうとした。


狙っていた大山蜥蜴を横取りしようとするだけでなく、自分まで狙うとはと頭に来たクロエは『魔法付与』で焔の帯を両腕に発生させると空中のハーピィに飛ばした。

スルスルと伸びた焔の帯はハーピィを捉え、羽を焼いていく。苦痛でハーピィが甲高い声で鳴いた。

イタァーイィ!イタァーイィ!


それはまるで人が痛がって要るように聞こえる鳴き声だった。思わず怯んだが落下するまで離さない。

ドサッ


羽根がパチパチと燃えるがそのままにして、大山蜥蜴を襲っていたハーピィの群れを見るとハーピィの勝ちで大山蜥蜴が倒れるところだった。

奪われて成るものか!そのままクロエは両腕の焔の帯をハーピィごと包むように飛ばした。グォングォンと風鳴を起こして大山蜥蜴ごとハーピィの群れを包み込む。赤朱の焔はファイアーストームを創り出していた。盛大にハーピィの羽根が燃え、大山蜥蜴の体を炙る。肉の焼けるいい匂いが立ち籠める。思わず美味そうだとクロエは思った。


クロエの生み出したファイアーストームが静まると風が周りから集まって熱を冷ましていく。最初に焼いたハーピィに近づくと舌を出して羽根のほとんどを失っていた。

脚を持って引きずって他のハーピィと大山蜥蜴のいる場所に行く。これだけ取れると周りから他の魔物が集まって来る。もう、ミリが居れば直ぐに片付くのにと恨みがましく思いながら、ハーピィを置いて、大山蜥蜴の解体を始めた。

流石に大きさが一回り違うと時間が掛かる。何とかアイテム袋に入れて周りを見るとさっき大山蜥蜴が蹴散らしたと思われる他の山蜥蜴が2匹近付いて、こちらの様子を伺っていた。


きっとさっきのように肉にありつこうとしているのだろう。大山蜥蜴の肉を少し大き目に切り取り、そのままアイテム袋に投げ込み、ハーピィを5羽を大岩の上に持ち上げる。ほかは諦めて山蜥蜴の撒き餌とする事にした。あれだけの死骸があればしばらくは離れないだろうな。

大岩の上でハーピィの解体を始めた。ハーピィは羽を広げた大きさが2mに届かない鶏みたいな感じで、良く見れば顔に見える顎の辺りに小さな嘴があり、人の顔に見える模様であると分かる。

羽根が綺麗に焼けてくれたのでどんどん毟って、頭を落として大岩からながれる出るに任せる。これだけあればもうアイテム袋には入らないだろうなと思う。大岩の下で死骸を漁っているあの2匹も頂きだ。2匹の皮を剝いで魔法クリーンで綺麗にしてアイテム袋に入れたらやっぱり満杯になってしまった。もう持ち帰れないけどまだ時間はあるし帰りたく無かった。寮に帰ってもミリは居ないし、マリーちゃんも居ない。


折角だからこの高原みたいなところを探索しようと更に東へ歩き出した。日差しはまだまだ高く温かい。山の上の方にハーピィと思われる鳥が群れて飛んでいた。降りて来てくれれば狩れそうだが結構用心深そうだった。大岩の上でハーピィを毟っていた時にも飛んでいた様だったが直ぐに何処かに行ってしまっていたからだ。仲間の焼ける臭いが苦手なのか、近付くと危険と判ったのかも知れない。


さっきの大岩みたいな岩がごろごろしていて、結構危険そうだった。ひとつでも転がり始めたら全部が玉突きで転がりそうに見えた。大岩の溜まり場を見ていたら岩の陰に穴が見えた。丁度太陽の光が刺さない方向で中が暗くてよく見えない。

山蜥蜴が居るかも知れないなと中に入って見る事にする。穴と言うより洞窟に近かった。大きさはクロエが普通にうまい立って歩ける高さがあったし、足元にもあまり石が無くて歩き易い。人口の洞窟とは言えないが自然の出来たとも言い難い。

洞窟の専門家じゃない!とセルフ突っ込みして10mも入ると真っ暗だ。光魔法は得意じゃないので『魔力纒』で指先から小さな炎を出して灯りの代わりにする。自分の周りが見えるようになると安心した。少し下り坂で分かれ道も無い。山蜥蜴も居ないし、ハーピィも居ない。無駄足かなぁと重いながらまだ先が続いて居るので先に進んで見る。


坂は次第に急になって来て、戻るのが不安になりそうな角度になって来た。何も無さそうなので戻ろうと振り返って歩き出した所で地面が揺れた。まさか、山の斜面にあった大岩でも転がり出したのだろうかと思ったら、足元が崩れて坂道を自分が転がってしまった。頭を打つ恐怖に駆られて、灯していた炎を消して、両手で頭を庇いながらバージル先生が言っていた『身体強化』の方法で身を守る。

ごろごろ転がり、天地が分からなくなりながらも、あちこちの痛みを感じながらも止まるのを待った。どれくらい経ったのか、あっと言う間にだったのか、何分も転がって居たのか分からなかったが気が付けば身を投げ出すように地面にクロエは伏して居た。


あちこちが痛い。でも幸いなことに何処からも血は流れていない、詰まり切れた所は無かった。立ち上がると少しフラフラしたが倒れる事は無さそうだ。魔法クリーンで埃を払い、改めて『魔力纒』で指先から小さな炎を出す。

明かりが周りを照らすと後ろの壁に大きな穴が空いていた。此処から転がり落ちて来たのだろうか。何処からか風が入り込んで居るのか炎が揺れる。空気はありそうなので問題ないようだった。しかし、ここは何処だろう。山に空いた洞窟から下に落ちてきたから何処かの洞窟に出てしまったのかも知れない。

右に行くか左に行くか迷った末、左に向かう事にした。特に理由は無い。この穴は落ちてきた穴より大きかった。高さは3m程、横幅は2mくらいだろうか。さっきの穴より一回りは大きい。穴、いや洞窟というべきか。

洞窟は暫く行くと分かれ道に出た。こういう時は案内板でも無いものかと手掛かりを探していると地面に矢印を見つけた。と言う事は誰かが入って置いたと言う事だろう。まだ新しそうなのでこの先に誰かが居るかも知れない。クロエは注意深くあまり音を立てないように先に進んだ。

数分も歩くと松明の灯りと複数人の足音が聞こえた。思わず炎を消す。声を掛けるべきなのか、逃げるべきなのか。悩んだ末に声を掛けた。

「誰かおんの?そっちに行っても大丈夫なん?」


再び指から炎を大き目に出すと松明の灯りが近付いて来た。

弓を構えた男が松明を持った男の横に現れた。

「こんな所に女の子?」

「ええ、わっちはクロエリア言いますねん」


思わず偽名を言ってしまった。ミリがミリオネアなんて格好良い名前をハンターネームなんて言うからだ。

松明を持った男が言った。

「俺はハイン、C級パーティ『金の目』のリーダーだ。ハンターギルドからの依頼で沼沢の森の奥の崖の洞窟の調査に来ている。君は何でこんな所に居るんだ?」


隣の弓を構えた男が弓を下げて目を細める。

「わっちは高原の方で山蜥蜴を狩っていたら、洞窟があったんで中を探索してたら、落ちて此処に来たんよ。」


松明を持ったハインが少し考えて言った。

「途中にあった穴から落ちて来たのか?・・・まぁ良い。君独りで返す訳にも行かないから、俺たちと同行してくれ。この先まで探索して何も無かったら戻るので、一緒に戻ろう。


同じハンターと言う事でクロエはハイン達と行動を共にすることにした。同じC級と言う事は何か大きな獲物でも見つけようと言う腹だろう。クロエも同じような考えだったからだ。

ハインは160cmと長身でクロエより20cmも高いので見上げるようだが槌を持った小太りの男はクロエと同じくらいの背丈だった。弓使いはその間の背丈だ。ハインはやたらとクロエに話し掛けて来た。クロエが女だからか、それとも仲間内では話すことも無いからかは分らない。

「君は幾つかな。高原の山蜥蜴を狩れると言う事はD級か、C級という事だよね。君のような小さな女の子がソロで狩りをするなんて危険じゃないのかな。装備はそれなりだけど短剣だけしか持たないのはもしかして魔法が使えるのかな。僕たちのパーティは男ばかりでしかも魔法が使えないから魔法が使える仲間が欲しいんだ。少し前に君と同じような二人連れの女の子がいたから、声を掛けたらエライザ学園の生徒だったんだ。君と同じ位の背丈の金髪で碧眼の可愛らしい女の子を守るようにもうひとりの栗毛、茶色の瞳の女の子に素っ気なく『駄目!』って言われちゃったよ。」


そこで小太りの槌持ちがボソリと言う。

「凄く可愛かったなぁ、お人形さんみたいでさぁ、ロリコンじゃないけど。」

「ボロンはそればっかりだな」


弓使いの男が1番後から小太りの男に言う。

「ガインだって茶髪ポニーテールの女の子が好みって言ってたじゃないか!」


ああ、ミリとアマリリス•ボアンだろうな。それにしてもこのハインって男は年齢は分らないけどお節介だ。ハンターは自己責任だからやたら聞くのはマナー違反だし、ましてやこんな場所で軟派なんて止めて欲しい。

「それはそうでしょ。わっちもエライザ学園の生徒なんよ。聞かんかったの?エライザ学園の生徒はハンターになる資格があるんよ」


暗くて良く見えなかったが松明を持ち、クロエに話し掛けていたハインが顔を顰めた。結構独善的で人の言う事を聞くのが嫌いなようだ。

「ギルド職員のバンジーさんにも怒られたよ」


そこでハインは口を閉じた。道が変わったからだ。今までは同じ位の洞窟だったが広く大きく開けた場所に出たのだ。しかも自然の洞窟らしく天井からは岩が棘のように下を向いているし、下には大きな岩が道を作るように今まで来た洞窟から続いている。松明の明かりが遠くの天井にも、洞窟内にも届かない。


クロエは『魔力纒』を強め、警戒する。この自然の大洞窟からすると今まで来た穴は何かとてつもなく大きな魔物が掘り進んだものだったと分かる。

「此処までだな。急いで戻ろう」


声を潜めたハインの声が大洞窟の中に響いた。遠くで何かの鳴き声がした。ガインもボロンも恐怖を感じたのか慌てるようにハインを先頭に走るように戻った。足音が響き、後からから何かに追われているような、逃げ方になった。


洞窟から出て、山肌に出ると既に陽は暮れていた。かなりの時間を洞窟の中に居たようだ。出た山肌の場所はクロエがラーミアを退治した場所だった。ハインはこのまま森を抜けて帰るのは危険だからこの近くで野営をしようと言う話になった。ハイン達はこの辺をあまり知らないようなのでクロエが先導して、少し山を登った平らな場所へ連れて行く。

「クロエリア君は良くこんな場所を知っているな」


大岩が崩れて出来たような場所で、周りから見つかりにくく山下の木々も少ないので野営にはぴったりだ。クロエが良く休憩した場所なので焚き火の跡もある。

「何度か来たことあるんよ」


ハインの指示に従ってガインが見張りに立ち、ボロンとクロエは枯れ枝を集める。ハインは背中の荷物を下ろすと中から鍋を出した。アイテム袋になっているようだ。石で作った竈に乗せて持っていた水筒の水を出そうとしたのでクロエが止めた。

クロエが魔法で水を鍋に注ぎ、焚き木に魔法で火を付ける。手際の良さにハインは感心し、ボロンは涎を垂らした。クロエは昼間仕留めたハーピィの1匹を腰のアイテム袋にから出し、捌き始めた。

解体した内臓や骨は分離して、枯れ枝と一緒に集めた大きな葉に乗せる。先ずは骨を投入。浮いて来た脂分は短刀の刃先で掬い取り、捨てる。ある程度煮えた所で刻んだ肉と皮を投入した。更にアイテム袋から乾燥させた野菜屑を入れて、最後にスプーンで味見をする。塩味が濃いが鳥の旨味が出ている。我ながら上出来だ。ボロンの涎が止まらない。ハイン達も椀は持って居る様だったのでハインの出した椀にスープを掬ってやる。クロエが料理している間にハインはパンを配ってくれた。もちろんクロエにも渡された。

「旨いなあ」

「う、旨過ぎるぞぅー!」

「やっぱり料理が出来る女の子が居ると違う」


ガイン、ボロン、ハインが感想を言う。ミリが出してくれる食事はクロエが作るものより数段旨いし、手間も要らない。うん、ミリが居ないとなぁ

感動して喜んで居る男共を横目に少し落ち込む。クロエが作ったハーピィのスープは全て食べられた。お腹が膨れて満足すると眠くなって来た。

「ありがとう、クロエリア君。お陰で素晴らしい夕飯になった。あの鳥はハーピィかい?君の大事な獲物を提供して貰って助かった。」

「俺たちが見張りに立つから休め」

「僕は先に休むよ 」


ハイン、ガイン、ボロンの言葉にクロエは山の窪みの場所に木の葉を敷き、座って目を瞑った。男達を前に熟睡なんて出来ない。まぁ子供と思って襲って来ないとは思うけど。クロエの魔法も見てるし。ハインとガインがボソボソ話しているのを聞きながらクロエは眠りに落ちた。


差し込む朝日の明るさと熱さに目が覚める。ハインとガインが離れた所で丸くなって居て、近くに座っていたボロンがうつらうつらしている。クロエは身を起こし、身体を動かす。まだ寒さがきつくなって居なくて良かった。野営の準備なんてしていなかったからだ。

ボロン、ハイン、ガインの肩を叩いて起こす。既に熾火となっている焚き火に魔法で水をかける。これからどうするのかと聞くと一度ギルドに戻って報告しないといけないし、クロエリアを独りで帰す訳にはいけないと律儀に答えた。

出した荷物を片付けたハインを先頭に全員で森を抜けて、王都に向かって帰った。王都の南門の門番にハンター証を見せて通用門を通らせて貰い、中にはいる。大門を開けるにはまだ陽が早かったようだ。


ハイン達はこのままギルドに行くと言うので別れて、クロエはエライザ学園の寮に歩いて戻る。まだ時間が早いので大通りも人気が無い。寮に着いたが案の定玄関は鍵が掛っていた。クロエは寮の端にある自分の部屋の窓を開けて中に入った。こんなこともあろうかと鍵を掛けてなかったのだ。

中に入ると魔法クリーンで埃を払い、装備を外し、いつものホットパンツとシャツに着替えてベットに潜り込んだ。昨晩は寝たというより熟睡出来なかったのでまだまだ眠かったのだ。


昼頃お腹が空いて目が覚めた。ミリの部屋に行ってドアを叩いたが返事が無かった。ミリが外泊とは珍しいなと思いながら食堂に行って食事を取る。簡単なサンドイッチと野菜ジュースで済ますとまた眠気が襲ってきた。

頭を振って自室に戻り、再度装備を身に着け、ハンターギルドに向かった。昨日の成果を売るためだった。日中の喧騒の中、ハンターギルドに着くとバンジーさんの所へ行く。暇そうに肩ひじを付いてぼんやりしていたがクロエが目の前に立って話し掛けるとシャキっとした。

「おお、クロエ、来たか。『金の目』の連中から聞いたぞ。洞窟に落ちるなんて最難だったな。」

「ははは、ほんとに。」


クロエはアイテム袋から昨日の成果を取り出す。ハーピィの羽根を剥いたやつが4羽と山蜥蜴がが4匹と大山蜥蜴1匹の皮だ。大山蜥蜴の肉も出す。凍らせてあるからまだ食べられるだろう。

「おお、これは随分と頑張ったなあ。ハーピィが3000エソ、山蜥蜴が5000エソ、この大きい山蜥蜴は6000エソだな。肉は重さから3000エソって所で税とギルド分を抜いて合計29930エソだな。」

あれだけ頑張っても素材しか無いから約金貨3枚にしかならない。ミリが居ればランクCのハーピィだって10000エソだろうし、山蜥蜴は20000エソ、大きい山蜥蜴なら25000エソで金貨10枚は行った筈だ。

残念な思いしか無かったのが顔に出たのかバンジーさんが言う。

「なんだ、不満か。C級ソロで狩りをする事を考えたら凄い事だぞ。魔物をまるまる持って倉庫で解体させる奴は規格外だからな。」


肩を竦めて見せるとバンジーさんは教えてくれた。

「クロエが今朝一緒だった『金の目』の連中なんかだと山蜥蜴を狩れれば良いところだからな。連中は解体も禄に出来んからクロエの半分にもならん。だから、また連中は山に戻ったよ。依頼の調査はまだ半分しか出来ていないとか言ってな。まぁ真面目なのはましだな。」


確かに帰り際にまた戻って来るような事は言っていた。

「じゃあ、洞窟が不自然なのと最奥に自然の洞窟があった報告はしたんやな」

「そうだ、人が通れるような不自然な洞窟を造れる魔物となると此処では聞いたことも無い。ラーミアが出たことと言い何かか起きてる。気を付けろよ、クロエ。」


心配してくれる事は単純に嬉しいのでバンジーさんとは笑顔で別れてギルドを出た。まだ疲れが抜けきっていない感じなので適当に屋台の串などを買い食いしながらエライザ学園の寮に戻った。そして、寝る。


明朝、クロエはドア叩くミリに起こされた。

ミリは呑気に狩りに行こうと誘って来た。わっちがどんなに大変な目に合ったのかも知らないで。うん、語らないでは居られません。


「おはよう、クロエ。狩りから帰ってたんだね。」

「ああ〜ミリや。良かったわぁ〜、探したんやでぇ〜」

まるでミリが行方不明になっていたような言い方になってしもうたわ。


部屋の中はクロエだけでマリーちゃんの姿は無い。

クロエは髪の毛を整えもしないで寝巻きのままでミリをベットに座らせると滔滔と独りで高原に狩りに行った顛末を話し始めようとした。

ミリはクロエを止め、服を着替えさせ、髪の毛を梳り、落ち着かせた後に飲み物とまるパンをテーブルに出して話しを聞く態度になった。

「あんな、わっちはな。ミリがつきおうてくれへんゆうから独りでミリに教えられた森を抜けて高原に行ったんや」


クロエはむしゃむしゃパンを食べて野菜ジュースを飲んだ。

一息付いて続ける。

「ミリがゆうた通り山蜥蜴がいたんや。ごっつい大きな蜥蜴やで。」


クロエは山蜥蜴を狩るのに魔法の炎を当てただけでは斃せなかったと言い、学校で習った通りに詠唱をすることで山蜥蜴にダメージを与え、バージル先生の詠唱の真似をしたら額を狙えた事を説明する。

1匹目は何とか出来たので腹から裂いて解体に苦労したことを説明する。ミリが居れば楽なのにと何度も思ったと愚痴る。

山蜥蜴の手足や尻尾の骨を切るのに唯の短刀では大変なので今度からは刃の反対側に鋸が付いた解体用のナイフを買うことにしたと話す。

「解体しとったらな、他の山蜥蜴が寄って来おんねん」


同じ位の大きさの山蜥蜴だったが、後から来た山蜥蜴の方が大きく、先に来た山蜥蜴を退かして自分だけでクロエが苦労して解体、皮剥ぎした残りを食べたという。

「1匹ならな、何とかなる思うて、同じように倒したんや」


最初より大きいのでもっと解体に苦労して、少し肉も切り取ったらしい。

そうしたら逃げていた2匹の山蜥蜴が戻って来て、その大きい山蜥蜴を食べ始めたのだと言う。避難するために近場の大きな岩の上に乗ったら、今度は上空からハーピィの群れに襲われたと言うのだ。ミリはハーピィを見たことが無いのでどんな魔物か分からなかった。それでクロエはハーピィの説明をする。

ランクCのハーピィは翼長2m程度の鶏のような鳥で顔が人のように見え、言葉のような鳴き声を上げるらしい。鋭い爪や短い嘴で攻撃するだけだが飛んでいるので攻撃し辛いらしい。

クロエは『魔力纒』をして『魔法付与』によって焔の帯を創り、焼いて落としたのだ。山蜥蜴に襲いかかったハーピィは山蜥蜴共々纏めて焼き上げてやったら凄い火柱のなったと得得と説明する。ハーピィは羽根を毟って、山蜥蜴は解体して皮だけをアイテム袋に押し込んだ事を行った。

まだ時間があったので簡単に食事を済ませて、更に東へ向かったとクロエは言う。









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