第37話
リリスお姉ちゃんがスキル『妖精』で薔薇の妖精ラトゥールで一角うさぎを眠らせた。
あたしは初めて腰の短刀を取り出して持った。リリスお姉ちゃんが短刀の持ち方を直してくれる。リリスお姉ちゃんが一緒に行ってくれたので一角うさぎに近づき、眠っている一角うさぎの首筋を刺す。
グニュグニュして上手く刺さらなくてキュキュと鳴きながら暴れた。血を流しながら一角うさぎが逃げてしまった。
リリスお姉ちゃんは特に怒らなかった。
「初めはそんなものよ。わたしも怖かったもの。」
リリスお姉ちゃんが『妖精』ラトゥールに一角うさぎを追わせる。血を流して居るのであまり遠くまで行って無かった。木の根本で蹲って居た。見ていると可哀想に思えてくる。
「さぁ、ミリちゃん最後までちゃんと殺りなさい。一角うさぎも森ねずみも増えすぎると森から出て来て作物を荒らすの。だからこうして間引かなければならないのよ。」
あたしは目を瞑らないようにしっかりと目を見開いて再度一角うさぎの首筋を刺した。キュキュと鳴いたが今度は上手く殺れたらしくぐったりとする。リリスお姉ちゃんの言う通りにぐったりとした一角うさぎの足を持って逆さにすると血が落ちていく。手から一角うさぎの温もりが失われて行くのが分かった。
あたしがこの一角うさぎの命を奪ったのだ。ぼうっとしていたらリリスお姉ちゃんに怒られた。
「今日はわたしが穴を掘って埋めてあげるから次からはミリちゃんがちゃんとやるのよ。血をそのままにして置くと他の肉食の魔物が寄ってくるわ。危険よ」
返事も出来ずに頷く。ついでに括り方もリリスお姉ちゃんに教えてもらう。リリスお姉ちゃんみたいに腰に一角うさぎを吊るすと結構重かった。影の世界に入れてしまえば手ぶらだけど今日は無しだ。
その後、リリスお姉ちゃんが森ねずみを2匹、あたしが1匹を狩る。お昼が過ぎていたので歩いて王都のハンターギルドに戻って来た。疲れもあって1時間くらい掛かった。
リリスお姉ちゃんの話では2年生になると全員がハンターギルドに所属してハンター証を持つという。学園でハンターの経験をするがその後は各自の判断になるらしい。ハンターに向かない人は二度と狩りをしないし、ギルドにも来ないらしい。男性はほとんどハンター証を有効に使うようだけど女性は半数以上がほとんど無駄にするみたいだ。
リリスお姉ちゃんのスキル『妖精』も使い方次第だが大物の魔物には効かないので小物魔物しか狩れないと言う。だからリリスお姉ちゃんはD級止まりなんだそう。
あたしが一角うさぎ1匹、森ねずみ1匹で手取り6570エソ。
リリスお姉ちゃんが一角うさぎ1匹、森ねずみ2匹で手取り9490エソ。
ハンターギルドの買取職員バンジーさんにハンター証と魔物を渡す。相変わらず不愛想だが少し怪訝な顔をされた。きっと魔物のランクが低いのと血抜きされていることで変だと思われたのだろう。
金額が少なかったので硬貨で貰う。
もうお昼なので他に行くよりはとギルドに併設されている酒場でリリスお姉ちゃんと食事を取ることにした。
場所を探していると昨日の『金の目』パーティが隅で食事をしていた。また、声でも掛けられると嫌なので無視をして少しでも離れた場所に座る。注文する前にリリスお姉ちゃんにこそこそ話す。
「昨日、誘われたパーティがいました。」
「そう?気にすることは無いわよ」
リリスお姉ちゃんは素っ気ない。
通り掛かった配膳係に日替わり定食を2つ頼む。酒場には日替わり定食か酒のつまみしかないのだ。どちらも500エソ、銅貨5枚と安い。
直ぐに配膳されて来たので食事をしながら午後は森を抜けて山の方へ行くことをあたしはリリスお姉ちゃんに言ってみた。とにかく景色が素晴らしかったから魔物を狩らなくても一度は連れて行きたいと思ったのだ。
勿論、リリスお姉ちゃんは快諾してくれたのでゆっくりと食べる。有り合わせの豆に謎の肉が入ったスープは意外に美味しい。黒パンは少し堅かったがスープに浸ければ問題ないし、チーズも付いていた。食事の遅いあたしに合わせてリリスお姉ちゃんがゆっくり食べてくれたので助かった。
食事を終えて立ち上がろうとしたところで声が掛かった。
「なぁあんたら、俺達と一緒に狩りに行かないか?」
声を掛けてきたのは昨日の『金の目』パーティの長身の男だった。
「残念ながら、お断りさせて頂きます。」
リリスお姉ちゃんの突慳貪な言葉にビビる男。隣の男が言う。
「昨日も声を掛けただろ!良いじゃねえか!」
「そうだぜ、仲良くしようぜ、ロリコンじゃねえけど」
小太りの男もあたしを見ながら言う。
「わたし達はエライザ学園の生徒ですよ、実習をしているのでお断りします。」
「「「げ!!」」」
失礼な奴らだ。12歳と13歳の可憐な乙女を捕まえて言う言葉じゃない。
「お貴族さまかよ!」
「それが何か?」
リリスお姉ちゃんの言葉に棘がある。軽薄そうな男の言葉が気に触ったようだ。
「そっちのちっこいのは昨日、ランクCの山蜥蜴をバンジーの親父に預けてたからD級は行ってんだろ!俺たちはまだD級で、C級を目指してんだ。助けろよ!」
一番長身の男が何か勝手なことを言っていた。
「いい加減にしろ!」
怒鳴り声がバンジーさんの声でした。見ると肩を怒らせてバンジーさんがこちらに向かって走ってきた。あっという間に『金の目』パーティの後ろに現れると全員にげんこつを落とした。
「さっきから聞いてりゃ勝手なことばかり抜かしやがって!お嬢さん方が怯えてんだろ!!」
いやいや、バンジーさんの方が百倍は怖いです。
とにかくバンジーさんが怒ってくれたので『金の目』の連中は小さな声で謝ってきた。
「ハイン達は仲間募集を掛けてんだから条件に合う仲間が現れるまで待てねえのか!」
ハインと呼ばれた長身の男が謝るがまたもバンジーさんの拳が落ちる。
「済まねえな、お嬢さん方。こいつら仲間募集してるけど了解してくれる奴が居なくて焦ってやがんだ!」
事情は分かったからもう良いだろうか。
「失礼な人達でしたがもう二度と声を掛けて来ないなら構いませんよ。それではわたしたちはこれで。」
リリスお姉ちゃんが宣言する。まだ、ハイン達『金の目』パーティはバンジーさんに小言を言われているのを横目にあたし達はハンターギルドを出た。
まだ時間はあるのでリリスお姉ちゃんと手を繋いでスキル『影』で影の世界へ行く。そのまま影従魔『ルキウス』に乗って昨日の森を抜けた高原まで直行した。見覚えのある岩近くで現実世界に戻る。
「此処に連れてきたかったの、見て、リリスお姉ちゃん」
あたしは崖下の樹海のような森を指し示した。陽射しが移動して少し逆光になっていたがあまり雲もなくいい天気だった。
「うんうん、凄いわね」
遠くに森の中からキラキラ光る湖か沼が見えた。あそこにはどんな魔物が居るんだろう。
「あの森の向こうはきっとロンドベール侯爵領かな」
そんなふうにリリスお姉ちゃんは呟いた。
「リリスお姉ちゃんのボアン子爵領はどっちなの?」
「多分左側の山の向こう側になるかな。この大きな森を迂回して道がある筈よ」
前にボアン子爵領のアントウーヌの森へ行った時は夢中だったから何処をどういうふうに通ったのか分かってないのだ。
「じゃあ、この下の森は行ったこと無いの?」
「無いわね。エライザ学園の使う森はもっと手前だし、森の名前も分からないわ」
「此処からは崖下のキラキラ光る湖か沼が見えてるけど遠そうだね」
「そうね。もし行くならハンターギルドとかで調べてからが良いわよ。ランクの高い魔物が居たら大変でしょ」
「そうだね~、この山の上の方にもランクの高い魔物が居そうだけど、まだC級になったばかりだし。」
「そんなに背伸びしちゃ危険よ。ミリちゃんはお金が必要でも無理はいけないわ」
リリスお姉ちゃんが注意してくれる。焦ってもいけないことは分かっているが、まだまだお金は必要。ハンターとしての腕も未熟だからもっとスキルに頼らない戦い方も覚えなきゃ。
リリスお姉ちゃんとのんびりして日が傾き掛かって来たのでまた、手を繋いでスキル『影』で影の世界へ入り、影従魔『ルキウス』に乗ってエライザ学園の寮の自室に戻った。
革鎧を魔法クリーンで埃を払い、薄赤のワンピースに着替える。リリスお姉ちゃんは緑色のシャツにグレイのスカートだ。
もうすぐ夕食になるので少し早めだけどリリスお姉ちゃんと食堂に行って待っている事にした。
リリスお姉ちゃんと今日の事をお喋りしながら入るとクロエが何やらエリザと口論をしていた。周りに数人が見守っている。
「だからエリザは横柄なんよ」
「そんな事有りませんわ、クロエこそ口の利き方がなってませんわ」
「人の事はよろしい。割り込みは勿論、勝手なことばかりしてたら寮だって追い出されるんよ」
「あら、あたくしは伯爵令嬢として相応しい振る舞いしかしておりませんわ」
「だから学園じゃあ、皆平等を謳ってるんよ。分かってないんよ」
「あら、未成年とはいえ、貴族としての振る舞いは必要でしてよ」
「いい加減にせんと皆んなから除け者にされるんよ」
「あたくしは構いませんわ。そのような事をする者たちなど必要ではありませんもの」
「もう、ええわ!」
クロエが“風に唾“となって投げてしまって、怒って出ていった。周りは掴み合いの喧嘩にならなくてホッとしたようにそれぞれ離れて行ったがエリザも居心地が悪かったようで、あたしを睨んだ後に食堂から取り巻き2人を連れて出て言ってしまった。エリザはいつも余計な事をする。
「あらあら、クロエちゃんも可哀想ねえ」
リリスお姉ちゃんが同情するがエリザ相手では同格の者の話は効かないだろう。
「明日にでもクロエから話を聞いてみる」
あたしの言葉にリリスお姉ちゃんが頷いた。
夕食は謎の肉と大切りの野菜がたっぷり入ったシチューとまるパンと野菜ジュースだった。例に依ってまるパンは沢山確保して置く。
今日は沢山体を動かしたからたっぷり食べられた。勿論リリスお姉ちゃんも一緒でシチューがとっても美味しいと言っていたので今度はレシピを聞いて自分でも作ってみようかなと思う。リリスお姉ちゃんは謙遜するが料理が出来るようだ。味付けの隠し味がどうのとか言っている。
ゆっくりした食事の後はお風呂に入って自室に戻ったけどあたしもリリスお姉ちゃんも疲れて居たので早々にベッドに潜り込む。ああ、買い取りの高い魔物は何処かにいないものか。
◆
今日はエライザ学園で勉強だ。
休みの間は色々あったけどリリスお姉ちゃんと沢山お話も出来たし、楽しかった。でもお金が稼げなかったので考えものだ。かと言って影従魔『ルキウス』や『レリチア』に狩らせるのも違うと思う。2匹に狩らせたらあっという間に森から魔物が居なくなりそうだ。
何時ものようにリリスお姉ちゃんと食事をしてエライザ学園に行く。リリスお姉ちゃんと別れて教室に行くとクロエはまだ来ていなかった。珍しいなと思っていたらクロエが走り込んで来た。
「おはよう、ミリ!」
ああ、いつも通りの元気なクロエだ。エリザとの喧嘩なんて微塵も感じさせない。
「おはよう、クロエ!いつも元気ね」
えへへとクロエが笑う。昨日のエリザとのやり取りを見ていた事を伝えると詳しいことを教えてくれた。
どうやら寮の子爵家の子がエリザに意地悪をされたらしいのだ。寮の廊下で邪魔と突き飛ばされたらしく泣いていたのをたまたまクロエが見つけてエリザに文句を付けたという事だった。
「あんなに聞き分けが無い令嬢もいないで!口だけならまだしも暴力はいかんよ」
「そうね、エリザの高慢は今に始まった事じゃ無いし」
「そやったな、ミリの寄親やったな。ミリの方が付き合い深いもんやろな」
「聞き流すのが一番だけど、乱暴はされたことは無かったかな」
「それじゃ、わざとじゃなかったのかもしれんなぁ」
あたしがエリザを擁護するとは思わなかったらしく少しクロエは考え込んでしまった。
そこへバージル先生がやって来て授業が始まった。
「最初に言っておく。今日は都合により午前の早い時間に終わる。午後からは『魔力纒』の自習練習をして置くように。では実習棟へ行け。」
バージル先生の指示通りどやどやと教育棟を出て少し離れた実技棟とか武連棟とかも言う実習棟へ移動した。ここは大きな建物で2階の見学席がある他は練習用の木造武器が沢山置かれ、魔法の訓練も出来る場所だ。魔導具が設置されていて建物を壊さないように出来ているらしい。
「まずは各自に『魔力纒』をしてもらい、俺が弱い魔法をぶつける。それで各自の『魔力纒』の強度を実感して貰う。良いな、心して掛かれよ!」
どよめきが渡るとバージル先生は再度口を開いた。
「大丈夫だ、このためにもポーションは沢山用意してあるし、俺が調整してぶつけるから万が一も無いぞ。まぁ、今まで事故は無いから心配するな。」
安心して良いのか、不安になれば良いのか分らない。
「じゃあ、最初はクロエ譲、見本を見せてみろ」
指名されたクロエは苦笑しながらも『魔力纒』をしながらバージル先生の眼の前に立つ。
バージル先生は『魔力纒』をしないで魔法詠唱を始めた。
「我が魔力を以て、風よ、かの敵を撃て!」
小さな風の塊がバージル先生の右手に集まり、右手が突き出されると真っ直ぐにクロエに当たる。風の塊はクロエの腹部辺りに当たったが、霧散してクロエは平気な顔をしていた。
「む!クロエ譲には弱すぎたか?」
少しも様子に変化が無いのが気に触ったのかバージル先生は再度魔法詠唱を始めた。
「我が魔力を以て、風よ、かの敵を追撃せよ!」
今度の風の塊はさっきより3倍くらいに大きい、それが飛んできたクロエは慌てて逃げ出したが、魔法の風の塊は逃げるクロエを追って来た。逃げ切れないと分かったクロエが振り向きざま両手を突き出し『魔法纒』を強めた。
バチン!と音を立てて魔法は霧散したが、クロエも少し後ろに下がった。
「バージル先生!洒落にならんですよって!」
クロエだったから対処できたようでバージル先生が謝る。
「いやいや、流石にクロエ譲だな。」
バージル先生がみんなの方を振り向き、説明をする。
「魔法詠唱は『我が魔力を以て』から始めて、属性を指摘し、作用を指示しないと漂うようにしか飛ばん。無詠唱での発動は魔法の効力を弱めるのでできるだけ簡潔に詠唱する努力が必要だ。それと、クロエ譲がしたように『魔力纒』で魔法を無力化する場合は相手の魔力を上回る魔力量を纏う事で相殺出来る事を覚えておけ!」
それから『魔力纒』が上手く出来ているものからバージル先生が呼んで、順番に魔法の無効化を体験していく。あたしは丁度真ん中くらいで呼ばれたからまずまずと思っていたらバージル先生からもっと練習して動いていても崩れないようになれと指導された。
あたしより後の者たちはもっと練習を積むようにと念を押されている。エリザ達は最後でバージル先生は無効化の体験は危険と見做して取りやめてしまった。
どうにもエリザ達は魔法の実技が嫌いなようだ。
一通り終わるとバージル先生はそそくさと去っていった。
あたしはクロエに声を掛けて一緒に帰ることにした。そしてクロエに狩りの相談をする。
「クロエ、ハンター証を持ってるんでしょ。このあと狩り行かない?」
「ミリからお誘いを受けるとは思わなかったかな」
「どうして?」
「うん、アマリリス様と仲ようしとるんでお嬢様の付き合いしてるん違うかと思っとたで。」
「そんな事無いよ。昨日だってリリスお姉ちゃんと森に狩りに行ったもん」
「さよけ。2年生になるとハンター証を取るという噂はほんまなんやな」
「うん、だからバージル先生が感心するクロエなら色々教えて貰えるかなと思って」
「ええで、わっちはC級やけどもうちょっとすればランクアップや。ミリはどうや?」
「えへへ、あたしもC級。」
「・・・やっぱりや、ミリ。スキルの力隠しとんのやな。」
「・・・うん」
話しながら帰ったらあっという間に寮に着いてしまった。
「じゃあ、準備が出来たらわっちの部屋へ来て!」
今は早い時間だから同室のマリーちゃんはいないのか。正しくはマリアンヌ•ロッテンマイヤー伯爵令嬢で眼鏡を掛けた事務的なクロエの同室の先輩だ。あたしはあまりというか話したことが無い。
革鎧を身に着けてクロエの部屋に行く。あたし達の部屋は1階の真ん中辺りだけどクロエ達の部屋は突き当りの端っこにある。ドアをノックすると返事が合ったので開けて中に入るとクロエは装備を身に着けて居た。
クロエの装備は胸の部分鎧と肩アーマーや腰よろいや膝当てに長ブーツで縁には銀色の金属で補強されているものだった。髪の毛は短いのにカチューシャのような物を付けていた。
「随分とミリはえらい簡単な装備やな」
「クロエこそ凄く装備でベテランみたい」
お互いに評価しあった後に、クロエが勧めた椅子に座る。これはマリーちゃんの椅子かも。
「でな、ぶっちゃけるとミリのスキル『影』についてはある程度知っとんのや」
「ええっ、何で?」
「うちの領のオードパルファムは昔『影』スキル持ちと関係が深かったんや」
「どういう事なの?」
クロエが言うにはパルファムには『魔女』と言われる『影』スキル持ちの弟子が住んで居て、しょっちゅう『魔女』がやって来て滞在していたと言うのだ。その弟子の名はアーノルド•パルファム、クロエの祖先だという。
アーノルドは日記に『魔女』のスキル『影』について書いていて、沢山の恩義を受けて居るから子々孫々是を伝えていつか現れるスキル『影』持ちに恩を返さなくてはいけないと教えられて居たというのだ。
10歳の王都でのお披露目に同い年のスキル『影』持ちがやって来るのを知って、クロエは楽しみにしていたのに話をする前に行方不明の騒ぎとなってしまった。それでエライザ学園には来る筈なのでその時は絶対に仲良くなるんだとあたしを探して居たらしい。あたしは納得した。入学式の時からクロエってば凄く馴れ馴れしかったし、全然隔意が無かったのも頷けた。
パルファム領が大きく発展を遂げた原因には『魔女』の膨大な知識が多大な影響を与えたらしい。小さな漁港くらいしか点在しなかった場所に近代的な大きな木造船の作り方を教えて、海の魔物との戦い方を指南したのだと言う。
後でアン様に確認しないとね。
「それでミリは『影転移』ってできるん?」
「ええっ出来ないよ!」
まだ、転移扉の事は黙っていよう。
「何だ、残念やなあ」
「一応、影の中に隠れるだけのスキルとは言ってるけどアイテム袋みたいに影の中に物を仕舞って置けるよ」
そう言ってあたしは影の中からまるパンを取り出して見せる。
「おお、凄いなぁ。どれくらいの収納出来るんやろ」
「色々魔物を仕舞ったりしてるけど限界は感じた事は無いかな。一応、誤魔化す為にこの袋を使ってるけどね。」
取り出したまるパンをむしゃむしゃ食べながらクロエは感心する。
「ハンターギルドで山蜥蜴を沢山出した強者が居るって聞いたけど、そりゃミリの事やったんや」
「あはははは、噂になってるんだ。」
「おおっと、あんまり話ばかりしとらんと、狩りに行こか」
「そうだね、クロエはスキル『覚醒』で走って行くの?」
クロエはニヤニヤして言った。
「いいや、空を走るんや」
「ええっ、空を?」
「説明するより見せた方が早いやろ」
あたしとクロエはエライザ学園の寮を出て王都の南門から森に向かった。王都の中でスキルを使うと騒ぎになるので使わないらしい。1時間ほどするとエライザ学園の森を過ぎて更に西に出た。もう少し行けば昨日リリスお姉ちゃんと話した森に近づく。
「ここらへんなら大丈夫よって、ほな見せよか。」
クロエが『魔法纒』をしてスキル『覚醒』を使って走り始めるといきなり跳び上がって、空を蹴って更に跳び上がって行った。数歩走って100m程の高さになるとその高さのまま辺りを走り回る。
あたしはあんぐりと見上げてしまった。
暫くしてクロエが空から駆け下りて来た。眼の前にぽんと立ち止まるとニンマリとする。
「どや、驚いた?」
あたしは返事も出来ずに首を縦に揺らす。
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