第38話

「空歩って言うスキルや」

とクロエが教えてくれた。


「凄いスキルだね!あんなに高いところを走り回れるなんて!」

「まぁな。でもすっごく疲れるんや。ほら今日の『魔力纒』で足の裏から魔法を放つような感じや。空中に足場を作って進むんやけど」

「凄いな、クロエは自分で見つけたの?」

「いやいや、おとんから教えてもろたんよ」

「おとん?」

「ああ、ミリの言うところのお父様や」

「へー凄いね、クロエのお父様は!」

「そんな事は無いで、昔は海賊やったから『空歩』は必須だったようなんよ」

「ええっ、海賊?『空歩』が必須?」

「ああ、海賊は海の上で戦うやろ。だから海に落ちんように『空歩』で船まで戻るんや」

「お父様が海賊だった?」

「そうや、おとんは若い頃、弓月国とパルファムの間の島を根城にしていた海賊やったんよ。それでパルファムのお姫様だったおかんと出おうて、惚れたらしいんよ。」

「海賊とお姫様の恋?!素敵!」

「あははは、そないなロマンチックなもんや無かったらしいで」

「でも、結婚されたんでしょ」

「そうや、爺様の試練を受けておかんと結ばれて、今はオードパルファム領主や」

「凄い!物語みたい!」


「という訳だからミリも『空歩』を覚えんとわっちの狩り場に行けないんやけど」

「ええっ、無理!『魔力纒』だってまだまだだってバージル先生に言われて居るもの。」

「なら、どないしよ?」

「・・・クロエと一緒に空は駆けられないけど追いつけると思う。」

「どないして?」

「えっと、スキル『影』の力で移動出来るの」

「『影転移』できん言うとったやないけ」

「だから、転移じゃ無いけど影から影に移動出来るのよ。やって見せるね」


あたしは近くの木の影に近寄るとスキル『影』で影の世界に移動してちょっと離れた木の影に跳んで現実世界に戻って見せる。

「ほえ〜、凄いやんけ。日記にあった『影転移』みたいや」

「移動する距離があればあるほど時間が掛かるし何処へも行ける訳じゃないんだよ。でもこれでクロエが行く方向に移動して、追い掛ける事は出来るわ」


影の世界を説明しないで移動の事だけを教える。クロエを信用しない訳ではないけど、スキル『影』がもっと凄いことをあまり知られたく無い。

「あははは、やっぱりミリは凄いわ。『ディンブレス教団』が探し捲くっている噂はほんまかも知れんなぁ」

「ちょっとクロエ、今『ディン』何とかって言った?」

「そうやで、『ディンブレス教団』や。」

「その『ディンブレス教団』って何?」

「おとんが噂で聞いた限りじゃ『魔神ディンの神子を蘇ららせて世界を魔族の元に』って教義の秘密結社と言う事らしいで。」

「『魔神ディンの神子を蘇らせて世界を魔族の元に』」

「何でも『闇』と言う聞いた事もないスキルを持つ者が神子らしいで、そんでもって『影』のスキルも関係があると考えているらしいんや」

「スキル『闇』?」


ああ、なんてことだ。お母様が持っていた『森の生態系』に書かれていた事は本当の事なんだ。

危険危険、非常に危険よ。きっとスキル『影』は『闇』じゃないけどとても近しい関係なんだわ。

『森の生態系』と言う本もその教団関係の本なのかも知れない。流石にお母様がその所属とは考えられないけど。あたしと『ディンブレス教団』は敵対せざるを得ない関係な気がする。これも後でアン様に確認しないと。

「そうやで。『闇』ちゅうスキルがどないなもんかは分からんけどとてつもなく危険なもんやろ」

「それじゃ、注意しなきゃね。良いことを教えてくれてありがとう、クロエ。」

「どう致しましてや、そろそろお昼やけどどないする?」

「王都に戻って食事するのは面倒だからその辺で食べましょうか。あたしが出すわ。」


クロエを誘って道から外れた日当たりの良い草むらに座り、トレイごと収納しておいた寮の食事を出す。一昨日くらいの夕食に出された肉と野菜がゴロゴロ入ったシチューと細長いパンにチーズのセットだ。こっそりセットで取り込むには苦労した。

「おいおい、こないなモンまで!」

クロエが驚く。

「大丈夫よ、器とトレイは後で返して置くし」

「そないな、話とちゃうで」

「それじゃクロエは要らない?」

「いんや、ありがたく頂くで」


あたしももそもそ食べ始める。クロエも遠慮なく食べてる。さっき、まるパンを食べたから問題ない事も分かっているのだろう。

「まだまだ、ミリはスキル『影』の秘密を持っでそうやなあ」

「そうねぇ、その内に教えてあげるわ。それよりこの森の奥でいつもクロエは狩りをしているのね。」

「そうやで、主にリザードンとバルフロッグやな。沼近くの湿地帯におんのや」

「どちらもランクCの魔物なのね」

「そうやで、捌くのにちくっと手間が掛かるけんど、素材として売ってもええ値段になるわ。でもミリにまんま預かって貰えんならもっと上がるわ。内蔵だけでなく骨まで売れるけんな。」

「でも、狙いはランクBの魔物なんでしょ」

「そうや、ラミーア。人頭蛇体の魔法を使う魔物や。こっちは沼より奥の深い森におんのや。」

「他にハンターは来ないの?」

「偶に見るで。だいたいパーティ組んどるけんどな」

「ソロで狩れるクロエは腕利きね」

「無論やで、なにせスキル『覚醒』の持ち主なんよ」


クロエは笑って見せる。でも流石にランクBの魔物は大変なのだろう。


食事を終えて少し休んだ所でクロエが立ち上がったのであたしも立つ。

「それじゃ行くけん、付いて来てや」


クロエがスキルを駆使して森の上を走って行く。あたしもスキル『影』で影の世界に入って、影従魔『レリチア』に乗ってクロエを追うように言う。影従魔『レリチア』は何か言ったようだが残念ながら声は聞こえない。

バサバサと翼を振り上げて飛び上がった。薄暗い影の世界をクロエの光影が走って行くのを追う。森の中を影従魔『ルキウス』に乗って移動するのとは違う爽快感がある。とても不思議な景色だけど好みの光景だった。


程なくクロエの光影が高度を下げて少し森が開けた所に降りたので近くに影従魔『レリチア』も舞い降りる。あたしだけ現実世界に戻るとクロエが言った。

「なんとのう、後を追って来てるのを感じたわ」


クロエは気配とか分かるのだろうか。返事に困って居るとこっちと言って歩き出した。


直ぐに地面が濡れ始めて足跡が地面に付き始め、泥濘になっていく。

「きいつけへんと足を取られんで」


なるべくクロエの跡を歩くようにする。するとクロエが止まった。

「あれや、あの塊がバルフロッグや」


クロエが指差す先には幾つかの泥の塊があった。木々が点在する隙間の光が差し込む場所にあり、泥が乾き、まるで岩のように見える。大きさは1mから1.5mくらいあるだろう。重さは考えたくない。

「まずはわっちがやって見せるから、よう見といてや」


クロエは『魔法纒』をすると属性魔法を発動して腕に炎の帯を出現させて、鞭のように振るった。炎の帯は風を切って伸び、泥の岩の尖った部分を強かに叩く。

バチンと音を立てて、泥が爆ぜてバルフロッグの頭部が現れた。炎の帯は既に手元まで引き戻されて、再び伸びようとしていた。

バルフロッグは自分の泥を飛ばした敵を認識しているようで大きな口を開いて赤黒い舌を伸ばした。5mは離れて居るのにそれはクロエの炎の帯と同じくらいの速さでクロエに伸びて来た。それをクロエの炎の帯が迎え討つ。

舌をヂュと焼き焦がしながら炎の帯はバルフロッグの口の中に飛び込んで頭部の後ろから飛び出た。炎の帯が直ぐに細くなり消えていく。頭の爆ぜたバルフロッグの泥の塊だけが残った。

「ざっと、こんなもんや」


狩り馴れているとしか言いようの無い手際の良さだった。

「凄いわ、クロエ」

「狩るのは良いんやけど、あの泥を落として解体すんのが結構大変なんやで」


仲間のバルフロッグが狩られて居るのに数m離れているハルフロッグは微動だにしない。

それをクロエに言うと笑いながら教えてくれた。バルフロッグはああやって陽当りの良いところで日向ぼっこして体温を上げて居るから満足するまで音がしようが何が起きようが動かないらしい。

ただし、バルフロッグを複数一度に相手をすると囲まれて逃げ場を失うし、逃げても跳んで追い掛けて来るくらいしつこいらしい。きっと体験しているのだろう。あたしは体験したくない。

「それじゃ、ミリもやって見せてや」


クロエの期待に応えられるか分らないけどと考えながら隣のバルフロッグの影が見える位置に出来るだけ木の根本を伝いながら移動する。木の影に手を付きスキル『影操作』で影を2本伸ばしてバルフロッグの影に繋ぎ、更にバルフロッグの頭の上まで伸ばして、素早く引き込む。

影の中に引き込む時に抵抗されたが難なく泥だらけのバルフロッグが影の世界に入った。

「ほえ〜、何とも言えん光景やなぁ」


影が動くのを見たらそれは不思議だと思うだろう。

「危険も無いし攻撃も受けんなら無敵やなぁ」

「そうでも無いのよ。影が動くのを不審に思って逃げる魔物も多いし、動かすのに時間が掛かるのがネックなの」


スキル『影操作』の弱点も知って置いて貰うのも必要だろう。ついでにクロエが倒した頭の無いバルフロッグを影の世界へ取り込んで仕舞う。

「アイテム袋より便利やなぁ」


確かに収納と考えれば便利かも知れないが影の世界から見たらシュールだと思う。

「それじゃ、ちゃっちゃっとこの辺のバルフロッグを狩ってしまぉうか」


結果的にクロエが3匹とあたしが4匹を狩って影の世界に取り込んだ。クロエはまるまる売れると分かって嬉しそうだ。

「それじゃ、もっと森の奥まで行こか」


クロエに付いて泥濘んだ足元に気を付けながら進むと眼の前に沼が見えて来た。沼の辺りだけが森の木を切り取ったように開けている。歪な形をしては居るが大きさは200m✕200mくらいあるだろうか。

太陽の光を受けて沼面はキラキラ輝いている。時折魚が跳ねているのかぴしゃんぴしゃんと音がする。

「この沼はそないに深く無くて2mくらいなんやけど、底なし沼みたいに泥があって、落ちたら唯では済まんよって、きいつけや」


あたし達は木の根本を足場に立って居たけど、沼の中を何かがやって来るのが分かった。嫌な予感がする。

「クロエ、何か来るよ」

「あれがこの沼の主のリザードンや」


沼の中から這い上がって来たのは大きな口をし、立ち上がった姿をした鰐だった。前足は短いが人の手のようだし、後ろ足は太く短かった。ギャバ、ギャバと変な鳴き声を上げて何匹も集まって来た。

駄目、あんなの駄目!あたしは影を伸ばして自分の体を木の上の方に持ち上げてリザードンが届かない高さまで逃げた。

「なんや、ミリ逃げんのか」

「駄目よぉ〜、あんなの!水の上には影が落ちないからスキルが使えないわぁ!」


あたしが木の上に逃げたのでクロエもスキル『空歩』を使って登って来て、あたしの隣に立つ。

「このまま放って置くとどんどん集まるで」

「どうしよう!クロエ!あたしの魔法じゃ水を掛けるくらいしか出来ないよう」

「わっちの魔法じゃ森を燃やしそうやで。でも大丈夫かも?」


あたしとクロエが話している最中にもリザードンはわらわらと集まって互いにギャバギャバと騒いでいる。数が多すぎて互いに押し合っている。


クロエが『魔力纒』を使い、魔法の炎の帯を出してあたし達を囲むように伸ばしてリザードンごと縛り付ける。炎の帯の熱さにリザードンが騒ぎ、逃げようとするが逃げ場がなく次々と焼け焦げて行く。水分が熱で蒸発してもうもうと立ち込める。あたし達まで息が苦しくなって来た。

「ちょっと、ちょっとクロエ!待って!!」


あたしの抗議にクロエが慌てて魔法を解除すると焼け焦げなかったリザードン達が逃げ出して、沼に帰って行った。

水蒸気が無くなった木の根本には4匹くらいのリザードンが倒れて居た。

「よし!殺ったんよ!」

「よし!じゃない!」


クロエの魔法の熱で地面は乾き、びひ割れていたがじわじわと水が滲みてきていた。とても降りる気にならず木の上に登ったままあたしはスキル『影操作』でリザードンを影の世界へ送った。


あまり水浸しにならない内に地上へ降りて沼から離れる。沼から離れるに連れて次第に固い地面が出て来てホッとする。

「もう、クロエったら」

「あははは、ごめんごめんなんよ。前はあんなに沼に近づく前にリザードンが出て来たから、バルフロッグのように頭を狙って狩れたんやけど。今回は失敗やった。」


逃げるなら影の世界から逃げられたけどクロエは狩る気満々だったから様子を見たけど二度とご免です。あたしのスキル『影』では沼に居るリザードンは狩れないなぁ。もっと沼から離れた場所まで引き寄せないと無理よ。


沼を大きく迂回して行くと沼に注いでいる水の流れがあった。小川程度の大きさのものがたり複数あるようでその源流は山の上まで続いて居るようだった。

「この上の方に行った時にラミーアに出会ったんや。人頭蛇体の魔法を使う魔物やで。」

「クロエでも狩れなかったランクBの魔物なんでしょ。」

「そやで、ラミーアが使う魔法が風魔法やったんや。わっちの炎が吹き消されてしもうて逃げ出したんや。どうもこの沼を嫌がってる風やってん」

「蛇なら水の上でも走れる筈だよねぇ」

「あー、はっきりは見てないんやけど沼に半分嵌っとったようやで?」

「・・・まさかと思うけど、重すぎて?」

「あははは・・・それは・・・ないんやない?」


よっこらと坂を上がって行くと少しなだらかになっているクロエがラーミアと会った場所に出た。草が薙ぎ倒されて、木の枝があちこち折れて、戦いの痕跡があった。

「ラーミアはあっちの方から来おったんや」


クロエが指したのは東で少し離れた所には崖が見えた。ええっとあっちはあたしがサイクロプスの子供と遭遇した高原の方向で崖があった所だろうか。

「じゃあ、あっちにラーミアの住処があるのかなあ」

「洞窟でもあれば、そこに住んでるん違うか?」

「まぁ行ってみましょうよ」


あたし達はクロエを先に用心しながら歩いて行く。地面を良く見れば何かが擦れた跡があるようで、ラーミアが通った証拠かも知れない。


ズリズリと遠くから音がする。クロエの歩みが慎重になり、様子を伺いながら進む。斜面がくねって右に曲がった先に何か大きな物がズリズリ音を立てていた。

クロエが立ち止まり、指を指す先にはクロエが教えてくれたラーミアがいた。


ラーミアの人に見える部分は成人した女性の上半身に見えていたが腰から下は5mを越えるようなヘビだった。人の顔の辺りから二俣の舌がチロチロ伸び、尻尾の先端は立ち上がっていて、細かく震えて居る。


先を見るとクロエが見立てたように洞窟があった。洞窟にラーミアは戻る途中のようだ。洞窟に入ってしまえば逃げ場を失うがラーミアの動きは制限出来るし、あたしのスキル『影』で落としてしまえるだろう。

「どないする?」


クロエが小声で聞いてきたので洞窟に入るまで後を着けて行った方が良いと言うと頷いてくれた。クロエの魔法とラーミアの魔法の相性が悪いのであたしのスキル『影』の力を頼りにしているのかも知れない。


高い空を何かが飛んで行ったと思ったら風があたし達の後ろから吹き込んでラーミアの方へ流れた。突然ラーミアが動きを停めて、何かを嗅いだと思ったら上半身をこちらに回してあたし達を睨んだ。どうやらあたし達の臭いから追われていることに気付いたらしい。

シャーーー!


蛇特有な威嚇音を女性の形をした口から発して、両手を上げ体が発光したかと思うと、両手に旋風を起こして、あたし達に投げつけて来た。旋風は2つが合わさり次第に大きくなって突風のようにあたし達を襲った。


クロエは咄嗟にスキル『空歩』で山下へ逃れた。あたしは顔を手で庇いながら腰から下を自分の影の中に落として、吹き飛ばされない様に堪えた。


風が去って見ると眼の前にラーミアが両手の爪を立てて襲って来ていたので慌てて、影の世界へ移動する。

そのままラーミアが行こうとしていた場所の近くの木の影の中から現実世界に戻った。ラーミアはあたしとクロエを見失って、きょろきょろ見廻していた。


クロエはラーミアの真上まで既に移動していて、両手から炎の帯をラーミア目掛けて投げつけていた。見事にラーミアの頭に炎の帯は絡みつき焼き始めたがラーミアが頭を振ると髪の毛みたいなものが風を起こし、炎の帯を吹き飛ばす。


そして真上を見上げて身体を持ち上げてクロエを掴もうとしたが、動かなかった。その時にはあたしが木の影を使ってスキル『影操作』で蛇体を押さえていたのだ。

そのままラーミア自体の影から影の世界に引っ張ったがラーミアは尻尾を近くにあった木に巻き付けて抵抗してみせた。ラーミアの蛇体を半分以上影の中に落としているにも拘わらず、暴れる。


少し離れた地上に戻ったクロエがラーミアの尻尾が絡んでいた木を根本から燃やしてしまうとさすがのラーミアも抵抗も出来ずに影の中に落ちて行った。


パチパチと音を立てて燃え始めた木に向かってあたしは『魔力纒』をして魔法の水球を投げつけて慌てて消化した。

火が燃え広がらなくて良かった。

「クロエぇー、危ないじゃない!」

「あははは、慌てて燃やしちゃったんよ。」


木を燃やさなくてもクロエの腰の剣でラーミアの尻尾をグサグサしても良かった筈だ。

とにかく2人掛かりで何とかランクBのラーミアを狩れた。

お互いに顔を見合わせて笑い合った。


戦いは長く無かった筈だか緊張と集中のお陰で凄く疲れた。陽射しも大分傾いて来ていて、あと2時間もすれば陽が落ちるだろう。丁度良かったのでクロエはスキル『空歩』で、あたしは影の世界から森の入口まで戻る事にした。


2人して狩りの仕方について話をしながら王都の南門を通ってハンターギルドまで歩く。グズグズしていると暗くなって来るのでバンジーさんのところへ行くと男3人パーティが買取を頼んで居る所だった。あたしとクロエが大人しく後ろで待っているとバンジーさんが声を掛けて来た。

「お、クロエとミリオネアか。先に倉庫へ行って待っててくれ」


前の3人組はあたし達を不審な顔で見たがバージルさんの言う通りに横を抜けて奥に入って行って、倉庫に入る。ハンター証を置く魔導具の近くで立って待っていると短髪黒髪黒目のベストを着た大柄の男と一緒にバージルさんがやってきた。

ベストに何だが既視感を覚えながら見ているとクロエが驚いて居た。

「クロエ、知ってる人?」


と聞くと小声でクロエが答えた。

「ハンターギルドのギルドマスターなんよ。」

「えっ?ギルマス?」


ギルマスと思われる大男がじろじろとあたしを見る。

「俺はギルマスのアルマント•ワイトだ。お前さんがミリオネアか?」

「そうですけど」

「何でもランクCの魔物を無傷で狩ってるそうだな」

「・・・何か問題でもあるんですか」


思わず仏頂面になって答えてしまった。

「いや、凄腕がクロエ以外に居ると聞いて興味を持っただけだ。今日も狩って来たんだろ。俺も見たいが構わんな」


もちろん異論なんて言える筈も無い。

バージルさんにハンター証を2人して渡し、あたしが腰のアイテム袋に見立てている中から泥だらけのバルフロッグを取り出す。頭が無いバルフロッグには何も反応が無かったのに泥の塊みたいなバルフロッグには驚かれる。


頭の無いバルフロッグ3匹と泥の塊のバルフロッグ4匹が置かれた。バージルさんが何かを操作すると天井からバルフロッグに水が降りかかり、泥を流して行った。泥水がこちらにも跳ねる。

バージルさんが状態を確認して言った。

「頭の無いバルフロッグが1匹25000エソ、傷の無いバルフロッグが1匹30000エソだ。他にも魔物はあるか?」


あたしは頷いて少し離れた場所に同じようにしてリザードンを4匹出す。バージルさんが近付いて同じように確認して言った。

「リザードンは大分鱗が焼け焦げて居るから1匹29000エソだな。もう無いよな」


バージルさんの言葉にあたしとクロエは顔を見合わせてニヤリとした。

「とっておきが1匹居ますが、もう置けないですね」


あたしの言葉にバージルさんだけで無くギルマスも驚いた。

「実は今日はなんと、ランクBの魔物が狩れたんよ」

「ものは何だ」


ギルマスの問いかけにクロエが胸を張って言った。

「見て貰えれば分かるんよ」


勿体ぶっで居るがクロエの気持ちは分かる。半信半疑でバージルさんが魔導具を創作すると奥の扉がガラガラ行って開いた。倉庫はもっと大きかったが普段は使って無かったようだ。王都の近郊ではそんなに大きな魔物は多くないからだろう。


開いた場所にバージルさんが出すように言うのであたしがアイテム袋に見せ掛けた中からラーミアを取り出す。ラーミアの全長は5mを越すのでほぼ倉庫の幅いっぱいだった。

バージルさんとギルマスが顎が外れたような顔で見て、動かなくなった。クロエが手を叩くとようやくギルマスが言った。

「これは何処で狩った?何処に居たんだ?」

「王都の西の森の南側の山の途中やで」

「沼沢の森の南側か」


ギルマスは直ぐに判ったらしい。それにしてもバルフロッグやリザードンが居た森は沼沢の森と言うんだ。

ギルマスと話している間にもバージルさんが確認して言った。

「尻尾が少し焦げて居るが他に傷ひとつ無い。状態の良さもあるがランクBのラーミアは60000エソだ。」










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