第36話

翌日、いつも通りリリスお姉ちゃんと朝食を取り、自室に戻った。今日はお休みなのであたしは狩りに出る積もりだ。リリスお姉ちゃんは寮のお友達と王都で買い物の予定で帰りは遅くなると行って出掛けてしまった。ちょっと寂しかったがあたしにばかりリリスお姉ちゃんもかま掛けても居られないのだ。


あたしは誰も居ない部屋でアン様に質問する。

「あたしにだけこの本に書かれている文字が読めるのは何故かしら」


眼の前にアン様の幻影が現れて教えてくれた。

「そりゃスキル『影』の持ち主だからじゃ」

「ええっ、そうなの?どうして?」

「それは主神ディンプルが初めて人に与えたスキルのせいじゃ。スキル名は口に出来ぬがスキル『影』は近しいスキルじゃから特別なのじゃよ」

「アン様も読めたのね」

「うむ、他の者には見えないこの文字が何故書かれたのか、何故スキル『影』の持ち主だけに読めるようになっているのかは初代『シド』様も突き止められなかったようじゃ。いく柱の神の力によってされて操作されて居るようで儂は警告と受け止めたのじゃ」

「警告?」

「そうじゃ、穴(ダンジョン)に入るべきはスキル『影』の持ち主だけで、他の者に入らせない為の警告じゃ」

「じゃあ、アンドネス公爵家のサイサス様の日記にある『あれは、魔力の根源にして脅威。敵対は愚策なり。黒き穴に気をつけよ。決して全種族にて掘り返すな。全てをエンドに導く罠と知れ』も同じなのかも知れないのね」

「じゃろうよ。どうやってかは知らぬがアンドネス公爵家でも読むことが出来た者がいたのやも知れぬ」

「そうだったんだ。」

「そもそも“ディプル“とは古語で窪みとか穴を指す言葉じゃ」

「そうなんだ!」


あたしはアン様の話で納得した。あとでリリスお姉ちゃんにも話をしておこう。


あたしは革鎧を身を包み、スキル『影』で影の世界へ入る。直ぐに影従魔ルキウスがやって来た。ルキウスに乗って昨日行った王都の南の森へ行く。現実世界に戻り、森を抜けた山に入って行くと低木ばかりの禿山に出た。山の傾斜はきつく、崖ばかりか岩山が剥き出しになったようなところへ出ると魔物に出くわした。


地を這う蜥蜴のような姿をしている。名前が分からなかったのでアン様に問い掛けると幻影は出さずに教えてくれた。

「あれは山蜥蜴じゃな。クラスCの魔物じゃ。数匹で集団を作っておるのじゃ。ああ見えて脚が早いから注意が必要じゃ」


遠目にはのそのそ動いていたがこちらを見つけると思った以上の速さで近付いて来た。こちらから行かなくても近付いて来るなら楽だ。あたしは『影操作』で自分の影を伸ばし、山蜥蜴の全面に大きな影の落とし穴を造った。ドサドサと音を立てて落ちていく。落ちながら口を開けて叫び、嫌な色の唾を吐いている。口の中の牙の並び以上に唾の色が危険に見えた。

「あれって毒とか持ってるの」

「無論じゃ、近付かれないように気を付けるのじゃ」


3匹ほど影に落ちると危険を感じたのか後続が影を避けてこちらに向かおうとするので、丸い影を横に広げて、影からも腕を伸ばして引き摺り込んだ。全部で6匹を狩ることが出来た。


更に起伏のある山道を山を巡るようにゆくと岩の影に数匹が隠れて居て、あたしの後ろから近付いて居た。習いたての『魔力纒』を使い、水の玉を投げつける。びしゃびしゃと当たるが嫌がるだけで少しも効果が無い。最も強い魔法が必要なようだった。多少は目隠しになったようで足元に広げた影の中に2匹が落ちていく。1匹は嫌だったのか身を翻して逃げていった。追い掛けるつもりも無いので1匹は放置する。

これで山蜥蜴が8匹になった。


他にも何か居ないかなと見ると山の高いところを大きな鳥が飛んで居る。見た目だけだと翼長は3mはありそうだ。狙われたらこちらが餌になりそうである。それに低木の間をよく見ると小さな野ネズミらしき姿やうさぎにしてはやけに大きな後ろ足をした動物が見えた。アン様に尋ねると小さな野ネズミは『高原ねずみ』で大きな後ろ足を持っている動物は『飛びうさぎ』らしい。どちらもとてもすばしっこそうだった。山蜥蜴の餌になっているのだろうか。


どちらも見つけるのが難しそうでこちらが気づくと直ぐに逃げて姿が分からなくなってしまう。遠くから素早く狙うしかないようだ。

更に西側に進んで行くと崖があり、眼下に樹海のような鬱蒼と繁った森が見えた。山に登らずに森を西に行けばあそこに出られそうだ。森の中にキラキラ輝く光が見えるから湖か沼でもあるのかも知れない。


陽射しが強いから大分疲れて来た。そろそろお昼にすることにした。岩陰を見つけて座り、影の世界から朝と同じ物を出す。細長パンとチーズと野菜を煮込んだスープだ。スープにパンを浸してチーズと交互に食べる。影の世界に荷物を入れられるから手ぶらで狩りに出られるが食事用の道具など抱えていたらとてもじゃなくここに来れないだろう。最も移動自体ができないか。

森の更に遠くには海も見えて時折、何かが水面を跳ねているようだ。かなり大きいだろうなと推測出来る大きさを見ると海って怖いと思う。食事をし終わると少しうとうとしていまう。ちょっと影従魔『ルキウス』に頼んで見張りをして貰い、ぼんやりとした。

暖かくて気持ちが良いので今度はリリスお姉ちゃんも連れて来たいな。


そう思っていたら地響きがした。ズシンズシンと音が近付いて来る。直ぐ近くは崖だから戻る方向に逃げないといけないが音はそちらから響いて来るようだった。そっと岩陰から音のする方を覗いてみると大きな棍棒を持った白い人影が見えた。頭から真っ直に伸びる角に1つ目の大きな魔物。腰には何かの毛皮を巻いている。目指しているのはこの岩のようだ。

「あれは何よ?」


あたしの問い掛けにアン様の幻影が答えた。

「ありゃサイクロプスの子供じゃな。ランクBとCの間にくらいじゃろか」


あれで子供なのか、全長3mはあるぞ。

「大人のサイクロプスなら5mは越えるもんじゃからな」


デカ過ぎ!あんなのに殴られたらこの岩だって粉々だろう。スキル『影』を使って影の世界へ行き、サイクロプスを避けて反対側へ回ろうとしたらいきなり地面を叩き出した。

ガツン!ガツン!

衝撃で地面が揺れ、土埃と破片が飛び散る。

うわぁ〜

慌てて飛び退くが何故かあたしを追いかけて来た。どうやら現実世界で影が動いて居るのでそれを目掛けて棍棒を振っているようだ。逃げ回るあたしの影を追い回されあたしはまた、岩陰に追い詰められてしまった。

多分、あの棍棒があたしの影に当たっても大丈夫とは思うけど当たりたくない。嫌です。


仕方ないので現実世界に戻って『影操作』でサイクロプスの足元に大きな影を作ってやった。直ぐに落ちるかと思ったら何故か俊敏な動きで避けて来た。周りをキョロキョロ見回して攻撃してくる者を探しているようだ。

むう〜どうしてくれようか

悩んでいるとズシンズシンとあたしのいる岩陰に近付いて来た。もう、こうなったら崖の方に逃げるしかない。


あたしは影の世界へ行き、サイクロプスの前に出た。サイクロプスが大きな棍棒で地面に出来たあたしの影を叩く。サイクロプスを誘うように崖の方に誘導し、後少しで何故かサイクロプスが転んだ。重い巨体故か立ち上がるのに苦労して居る。あたしはこの隙に崖から遠のき岩陰で現実世界に戻り、サイクロプスの影を大きくして影の世界に落とした。


何だ、転ばせれば問題なかったんだ。あたしはサイクロプスとの追い掛けっこに疲れてしまったので王都のハンターギルドに行く事にした。


再び影の世界へ行き、影従魔『ルキウス』に乗って移動する。ハンターギルドの中はまだ時間が早いのか閑散としていた。前にも対応して貰った大柄な男の人の前に行ってハンター証を出して言った。

「買い取りをお願いします」


無愛想な男の職員が顎をしゃくるのでアイテム袋から出すように見せ掛けて山蜥蜴を1匹出したら、場所が無くなってしまった。

「他にあと7匹居るんですけど」


無愛想な男の職員が眉を上げて睨んで来た。黙っていると置いた山蜥蜴を担いで奥へ入っていきながらあたしを呼んだのでそちらに行くと大きな倉庫の解体場があった。

「此処へ出せ」


言われたように残りを出していく。少し驚いていたが1匹1匹を丁寧に確認した後言った。

「何処にも傷跡も魔法痕もない。一体どうやって狩ったんだ」


それは聞いているとも独り言とも取れた。黙っていると

「ああ、悪い。マナー違反だった。」


と謝ってきた。

「俺は元A級冒険者のバンジーだ。よろしくな腕利きのミリオネア」

「よろしく、もっと出していい?」

「まだ、あるのか?」


返事もしないで昨日の森ねずみ2匹を出すと苦笑された。もっと大物出すと思ったのかも知れない。だから子供のサイクロプスも出してみた。

「おお、お前ぇ!何だそれは!ランクCのサイクロプスじゃねえか!凄えな!」


バンジーは驚きながらもサイクロプスを確認して言った。

「森ねずみ2匹で8000エソ、山蜥蜴8匹で160000エソ、サイクロプスの子供50000エソだな。合計218000エソだ。ミリオネアはDランクだから税とギルド取り分を引いて159140エソだな。」


バンジーはあたしのハンター証を魔導具の掛けながら教えてくれる。

「金はどうする?このまま全額預けるか?」

「いえ、金貨分のみ預けますので残りは硬貨でください。」


バンジーは腰に付けていた小袋から硬貨を出しながらあたしの掌に乗せてくれた。

「ほらよ、大銀貨1枚と銀貨4枚と銅貨1枚と鉄貨4枚だ。」


ハンター証も記録が終わって返してくれた。

「どうやってこんな大物を狩っているのかは知らねえが、ミリオネアはCランクになったぜ!また、頼むわ」


バンジーは話して見れば気風の良いおじさんだった。あたしは来た所を戻ってハンターギルド内に帰り、そのまま外へ出た。直ぐにスキル『影』で影の世界に行こうとしたけどハンターギルドから後を付いて来た者達が居た。

「おい、そこの小娘!ちょっと待て」


声を掛けてきたのはハンターギルドに来た時バーカウンタで飲んで居た3人組だった。

うわ〜、絡まれるのかなぁと思いながら返事をする。

「何ですか」

「そ、そんなに警戒心するんじゃねえ」

「そうだぜ」

「ちょっと声を掛けただけぞ、ロリコンじゃねぇ」


3人3様の言い方をする。

最初に声を掛けた男は少し背が高く160cmぐらいあり、2人目はちょっと背が低く150cm、3人目はあたしと同じくらいの140cmだけど小太りだった。

「俺たちは『金の目』というパーティだ。見ての通り俺は剣、こいつは弓、こいつは槌で魔法を使う奴がいないんだ。あんた魔法使うんだろ。良かったら仲間に入らないか?」


警戒したけど勧誘だったんだね。確かにあたしは魔法を使えるけど主にスキル『影』で狩りをしてるから役に立たないと思うな。

「ごめんなさい、事情があってソロじゃないと駄目なの。他を当たって」

「お、おい。素っ気ないな」

「そういう訳だから」


あたしは踵を返して足早にその場を離れた。少しづつ早足になる。追い掛けて来ないよね。来ないでね。

ドキドキしながら人通りのある大通りに出た。そこで振り返ったけど誰も居なかった。

良かったぁ。


少し大通りを歩くと町並みを急ぐ人が行き交っていた。のんびりしていたら夜になってしまうだろうなと思いながらエライザ学園の寮に向かって歩いた。

現実世界をこうして歩くのは久しぶりな気がする。いつも、影の世界に行って移動しているから音もしないし。喧騒や馬車の音、売り買いの声になんだか嬉しくなった。


ふと、通りの反対側にあったパーラーが目に入った。そこのオープンテラスでリリスお姉ちゃんがお友達3人と楽しそうに談笑していた。ああ、リリスお姉ちゃんだと思いながら一緒にいる人達を見たが知らない人ばかりだった。


リリスお姉ちゃんと来たいなあと思ったら何だが涙が出た。人通りを外れて路地に入るとスキル『影』で影の世界へ行き、そこで待って居た影従魔『ルキウス』に抱きつく。

ルキウスに寮へ帰るように指示をしてそのまま抱きついている。あっという間に寮の自室に着いたが暫くルキウスに抱きついている。


涙を拭って現実世界へ戻ると魔法クリーンで埃を払い、薄緑のワンピースに着替えてどうしょうかと考えた。リリスお姉ちゃんはあの様子なら夕ご飯を外で食べるのだろう、ならあたしは、ベッドに立って壁の転移扉を開けてアン様の『拠点』の家に行く。

でも、『拠点』の家にはお父様もお母様も居なかった。居たのは空を飛ぶ影従魔『レリチア』だった。

「いらっしゃいませぇ、あるじ殿。なんや『ルキウス』もかいな」

「煩い『トリ』じゃな」

「ほらほらほら、喧嘩しないでね」


あたしがふたりを制したのでそれ以上言わずに互いにそっぽを向いた。お父様かお母様が居るなら一緒に食事をしようと思ったのだが仕方ない。

あたしは『れいぞうこ』から凍った食材を木の椀に入れて『れんじ』でチンする。食パンを出して適当な大きさに切ってチーズを乗せて、チンが終わった『れんじ』で食パンもチンするとカウンタでひとり夕食を取った。美味しかったが何故か寂しさが募る。

あの男の人達のパーティ『金の目』みたいな仲間がいたら楽しいのかも知れないなと思う。でもパーティを組んだらあたしのスキル『影』を知られる。便利な能力として利用されてしまうかも知れない。そう考えると怖い。でも、仲間が欲しいなと思ってしまう。そのまま後片付けもせず、2階に上がりベッドに潜り混んだ。

人恋しさにそのまま眠った夜はとても寒かった。


翌日、影従魔『ルキウス』に起こされたあたしは転移扉を使ってエライザ学園の寮の自室に戻った。すると眼の前に仁王立ちしたリリスお姉ちゃんが居た。

「ミリちゃん!どこ行ってたのよ!心配したんだから!!」

声を上げられた後にばくっと抱き着かれベッドの上で膝立ちになってしまう。

「ほんとにほんとに心配したのよ、ぐすッ」


涙声で言われてしまっては反論も出来ないなあ。

「ごめんなさい、リリスお姉ちゃん」


暫く抱き着かれたままリリスお姉ちゃんを感じていると改めて聞かれた。

「いったい何処に行っていたの?」


体を離して話す。

「昨日、王都を歩いていたらリリスお姉ちゃんがお友達と楽しそうに話しているのを見たらリリスお姉ちゃんはあたしだけのお姉ちゃんじゃないんだなぁって思って、寂しくなって、お父様お母様に逢いたくて『拠点』の家にに行ったんだけど二人とも居なくて、そのまま『拠点』の家で寝ちゃってた。」


あたしの告白にリリスお姉ちゃんは息を飲んだ。何か言おうとして言えないようで躊躇っていたけど優しく言った。

「馬鹿な子ねえ、誰と楽しくしていてもわたしはミリちゃんのお姉ちゃんよ。血は繋がっていなくても心は繋がってるの。第一、街中で見掛けたならちゃんと声を掛けてね。誰であってもミリちゃんをちゃんと紹介するから」

「ありがとう、リリスお姉ちゃん」


あたしも涙が出てきちゃったけどリリスお姉ちゃんがハンカチで優しく拭ってくれた。勿論リリスお姉ちゃんも自分でも拭いたのだ。それから2人で揃って朝食に行った。


朝食を済ませて部屋に戻ってから、リリスお姉ちゃんにアンドネス侯爵家の歴史本にあたしが読んだ内容にそっくりな文章が残っていた事やどうやらスキル『影』の持ち主だけに読める文章だった事を伝える。やっぱりねーと納得される。何故に?


それから王都の南方向の森を抜けた高原で山蜥蜴やサイクロプスの子供を狩った事も伝える。ランクCだと伝えたら驚かれる。


王都のハンターギルドでC級に上がった事と『金の目』という3人組のパーティに誘われた事も伝える。ナンパされたの、どんな男の子とやたらと聞かれる。


リリスお姉ちゃんは笑ったり真剣に注意してくれたりした。ちゃんとあたしの事を受け止めてくれるリリスお姉ちゃんだった。そこであたしは悩み事を打ち明けた。

「ソロでスキル『影』だよりで良いのかなぁって思うの。パーティを組んで楽しく狩りが出来ないかなって」

「それならわたしと組んで見る?」

「ええっー、リリスお姉ちゃんのスキルは戦いに向いてないよ」

「でもね、補助にはスキル『妖精』は使えるのよ」

「でも、あたしは短剣しか武器無いし」

「こう見えてもわたしの体捌きは結構なものよ。それに魔法属性『土』は攻撃にも使えるわ」

「でもぅ〜」

「一度はミリちゃんの戦い方を見たいと思っていたんだ。」


そこまで言われては一緒に行かない訳にはいかない。

リリスお姉ちゃんの先導でエライザ学園の寮を出て、通りを歩いて王都の南門を出る。いつもは影の世界でさっさと抜けて行くので思わず珍しさが顔に出た。

あちこちを見ているあたしをリリスお姉ちゃんは笑っていた。

「便利なのも考えものね」


リリスお姉ちゃんの言う通りだ。あたしは効率的に狩りをすることばかりで普通が無かった。寮を出て1時間ばかりした頃眼の前に森が見えてきた。

「この辺りがエライザ学園の専用の狩り場よ」


そんなものがあるなんて気づかなかった。看板があるわけでもなく目の前にはこんもりとした森が広がってる。

「2年生になればここで狩りの実習をするわ。わたしも何度か引率されて来てるの。出てくるのは森ねずみと一角うさぎね。強い魔物は学園が依頼を出して間引いているわ。」


リリスお姉ちゃんの説明に納得する。あたしとリリスお姉ちゃんは森の中に入って行くと獣道とは違う人が歩いたらしい道が出来ている。

ゆっくりと歩いていると10mくらいの道の先に森ねずみがチョロチョロしていた。

「まずはミリちゃんがいつも通り狩ってみてちょうだい」


リリスお姉ちゃんに頷いて、自分の影をスキル『影』で伸ばしていき、森ねずみを捕まえて影の中に引きずり込んだ。あっという間に終わる。

リリスお姉ちゃんが息を飲んだのが分かった。

「凄いわね。こんなに簡単に狩っちゃうんだ。」

「影の世界からならもっと近付いて直接引き込むの」


あたしの説明にリリスお姉ちゃんが感心する。

「次を見つけたらわたしがやって見せるわね」


リリスお姉ちゃんに頷く。リリスお姉ちゃんは道を外れて森の中を進んで行くと倒木の陰で草を食べている一角うさぎが居た。リリスお姉ちゃんがあたしを見て頷く。

リリスお姉ちゃんが手を組んで目を瞑り集中する。スキル『妖精』を使うようだ。

「ラトゥール、お願い。あの一角うさぎを眠らせて」


ラトゥールはリリスお姉ちゃんの薔薇の妖精の友達だ。リリスお姉ちゃんの近くに何かが現れて、一角うさぎに飛んで行くと、一角うさぎを包んだ。ひくひく動いていた一角うさぎが頭を上げたかと思ったらぐったりと倒れた。

リリスお姉ちゃんがゆっくりと近付いて腰から出した短刀で一角うさぎの首筋を一突きにする。キュと小さく一角うさぎが鳴いて傷跡から血が出てきた。リリスお姉ちゃんは一角うさぎの足を持って逆さにすると地面に血がぼたぼた垂れる。辺り一面に血の匂いが漂う。あたしはちょっとむせて手を口に当てたがリリスお姉ちゃんはへっちゃらだ。

血が出なくなるとリリスお姉ちゃんは腰から紐と小さなスコップを出した。あれは狩人マタギさんが使っていたのと同じものだ。スコップを使って穴を掘り、血の溜まった土を穴の中に入れて踏み固める。紐で一角うさぎを器用に括ってリリスお姉ちゃんは腰に吊るした。

「魔法で穴を掘って埋めても良いんだけどこの方が楽なのよ」

リリスお姉ちゃんがわざわざスコップを使った理由を教えてくれる。


「ミリちゃんみたいに生きたまま捉える事が出来れば血も出なくて楽ね。」

リリスお姉ちゃんの言うとおりだ。あたしはスキルで楽をしている。


「じゃあ、次はミリちゃんが締めてみて。」

「ええっ、あたしが殺るの?」

「そうよ、ミリちゃんの殺り方だと命の重さを感じられないもの」

何だがリリスお姉ちゃんが怖い。それともあたしが甘すぎるのか。




















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