第24話

「これです、これ!」

影から赤首鷹を取り出すとあんぐりとされた。


し、しまった!ハンターギルド倉庫のつもりで出しちゃった。

「お主、今何処からその鷹を出した?」

「えっと、その。・・・言わないと駄目?」

アルメラさんがカウンターから身を乗り出してあたしに詰め寄る。


「駄目じゃ!言え!」

「・・・スキルで出しました。」

そう言うとアルメラさんは落ち着いてカウンターの向こうに戻った。


「影じゃな。領主の奥様、訳アリ、仮面、未成人の娘・・・『影』のスキルを得たミズーリ子爵家令嬢ミリ•ミズーリ!」

バレた。観念してミリは仮面を取った。

「そうです。ミリオネアは狩りの名、ミリが本名です。」

「やはりの」


アルメラさんはじろじろあたしを見て言う。

「領主様と奥様、ハンターギルドと狩人ギルドと街長、金策・・・なるほどミリ様が稼がないといけないほどの窮地とはの」

あたしの目的もバレた。


「その赤首鷹は状態が良いから金貨1枚じゃな」

「へっ?」

「狩人証を寄越さんか」

「へっ?」

「買い取ると言っておる」

バレたショックで話が見えなかったが言われたように狩人証と赤首鷹を渡すとそのまま奥に入って行った。暫くして戻ってくる。


「ほれ、入れといたぞ。後で領の金庫に入れるんじゃろ。」

「ありがとうございます」

「もっと狩って来んと足らんじゃろ」

「はぁ」

「どれくらい必要なんじゃ」

「えっと、言って良いのかな?」

「どうせバレたんじゃろ、なら白状せい。儂は味方じゃ。」

「えっと、2年間で金貨2000枚?」

「ほう、なら足らんのう」

「え?何がです?」

「お主の稼ぎじゃよ」

「ええ〜、駄目ですかぁー!」

「ああ、このままじゃと半分と言った所じゃな」

「ええっ!駄目ですよぉそれじゃ退学になっちゃう!」

アルメラさんが誰も居ないギルド内を見回すとこっちに付いてこいとあたしをギルドの地下室に連れて来た。


「えっと、何でここに?」

あたしが恐る恐る聞くとアルメラさんが椅子を引いて座ってから言う。

「ここなら音漏れ漏れず秘密が保てるからじゃ」


そこまでしてする話とはなんだろうとあたしもアルメラさんの眼の前の椅子を引いて座る。

「その前にもう一度確認するぞ。お主のスキルはULTRAスキルの『影』じゃな。」

「はい」


アルメラさんが椅子の背もたれに身を任せて呟く。

「魔女と同じじゃな」

「魔女?魔女ってなんです?」

「魔女は狩人に伝わる伝説の魔法使いの事じゃ。良く聞け、アントウーヌの魔女の伝説を」


かつてアントウーヌという森に住む女性の魔法使いが居た。魔法使いの出自は王族とも孤児ともはっきりしなかったが魔力に掛けては途方も無かった。そして持っていたスキル『影』が無敵だった。如何なる魔物でも『影』には敵わない。魔法使いを親しい者は地名からアン様と呼んだ。この国の王族はアン様の事を快く思わなかった。なぜなら王族よりも民衆に慕われていたからだ。来るもの拒まず病気、怪我、回復不可能な欠損なども膨大な魔力を持って治癒したからだ。しかも治療費と言う名の対価を取らなかった。だから民衆は対価として食料や魔法使いの家の修理や魔法使いが狩った魔物の解体などをして報いた。

森に狩人でも敵わない魔物が出れば行って狩り、被害を及ぼす魔物を退治してくれた。狩人の守り神のように尽くした。

あまりの人気に王族は魔法使いに『聖女』の名を与えて国の為に働くよう命令したが魔法使いは聞かなかった。称号や名誉も要らぬただ民と共に生きる。王族は激怒して『魔女』と蔑称した。そしてやってはいけない事をした。民衆を盾にして脅したのだ。言う事を聞かぬならお前の親しい人達を殺すと脅した。その翌日から魔女は突然に姿を消した。家、庭、菜園ごと全て消えた。何処へ行ったのか誰も知らぬ。

そして激怒して魔法使いを『魔女』と呼んだ王族は翌日から姿を消した。アン様の怒りに触れて殺されたのか、怒りを恐れて逃げたのか誰にも分からないが居なくなってしまったのだ。

親しい者たちはアン様が居なくなっても必ず帰ってくる。スキル『影』を持つ者として姿かたちを変えて帰ってくると信じた。


「ということじゃ」

ミリは凄い人が居たもんだと思った。


ミリの顔がのほほんとしていたせいかアルメラが複雑な顔をする。

「お主、分かっとるのか?魔女と呼ばれた凄い魔法使いと同じスキル『影』を持っとるという事なんじゃぞ!」

「はぁ」

「・・・分かっとらんようじゃの。お主もアン様のような運命を辿るかも知れんと言うことじゃよ」

「ええ〜あたしはそんな凄い事出来ませんよ?」

「アントウーヌの魔女の話は当時を知る者か王族しか知るまい。しかも500年以上も前の話じゃから、王族とておとぎ話と思っておるかもしれんがの。」


アルメラさんはあたしの抗議も受け付けず話を続ける。そして、ふと気づく。

「アルメラさんてその時から生きてるんですか?」


アルメラさんのキツネ顔が赤くなったのが分かる。お、怒らせてしまった?

「バッカも〜ん!幾ら黒狐族が長命でもそんなわけあるか!儂の婆さんから聞いた話じゃ!」


それでも長命だなあと思いながら興奮してしまったアルメラさんが収まるまで待つ。

「お主のスキルで“影の世界“に行けるか?」


アルメラさんがなぜ知っているのだろう。

「アン様が居なくなったのは“影の世界“に行ったのではないかとも思われたそうじゃ。当時何人かは連れて行って貰った者がいたようだ。儂には“影の世界“がどういったところかわからんがお主が“影の世界“に行けるならもしかしてアン様に会える、いやアン様が居た家に行けるかも知れん。アン様は錬金術にも優れ、かの伝説のポーション『エリクサー』も作れたそうじゃ。最も魔法の治癒で欠損まで治せたから必要が無かったろうが幻の秘薬ポーション『エリクサー』は人を生き返らせる事が出来たとも言っとった。まぁ婆さんの事じゃからほんとかどうかは分からんが。その家に行ければ金貨2000枚位端金じゃ。」


凄い人だったんだなあとミリは考えていたがふと気付いた。アルメラからならスキル『影』の出来る事を知っているかも知れない。

ミリは身を乗りだしてアルメラの肩を掴んで言った。

「影の世界に連れて行ってあげますから、スキル『影』の詳しい事を教えて下さい!」


突然のミリの変貌にアルメラは驚く。でもそれ以上にミリが言った“影の世界“に興味があった。

「良いぞ、それ位」


アルメラさんからスキル『影』の派生スキルらしい力の事を聞いた。

現実世界の影を操る『影操作』。影を操る事で現実世界の人や物を操る事も出来たらしい。影を操る事で人を動けなくしたり、同士討ちさせたりかなりエグい事も出来たようだ。

現実世界の生き物を影の生き物に変える『影従魔』。今はやり方が分からないけど影の仲間が出来るなら楽しそう。

遠くの場所まで転移させる『影転移』。自分だけでなく現実世界の人を沢山危険な場所から転移させる事が出来たらしい。自分だけ見える範囲程度なら転移みたいに影の世界を通って移動出来るけどね。

自分の知っている人の魔力を探る『影探索』。魔法で魔物の所在を探索出来るらしいけど影でも出来るって凄い。


アルメラさんの話を聞いていると凄すぎてびっくりだ。スキル『影』はまるで神様みたいな力だなとミリは思った。とても自分には全部出来るようになるとは思えない。でも、幾つかは聞いただけで何となくやり方が少し分かった様な気がする。自分のスキルは何となく分るけど他の人のスキルは調べられるんだろうか?

「アルメラさんのスキルって何ですか?」

「こらこら、人にスキルを聞くのはマナー違反じゃぞ!」

「え、だってアルメラさん、あたしのスキル聞いたじゃないですか!」


そう言えば、と言う顔をする。

「済まなんだ。ついな。・・・まぁ教えてやろう。儂のスキルは『化身』だ。ついでに魔法属性は光じゃ。」


え?色々聞きたい。

「魔法属性が光って聞いたことありませんよ!」

「じゃろうな、これは黒狐族の種族属性とも言われておる。他の人間達には無いものじゃ。」


アルメラさんはドヤ顔で説明してくれた。

「種族属性?」


聞いた事無い話だ。もしかして学園で教えて貰うのだろうか。

「獣人特有と言って良いじゃろうな。持っている獣人と持ってない獣人がおる。ちなみに熊獣人のマタギは魔法の才能もスキルも持ってないぞ。」

「そうなんだ。あっ、マタギさんで思い出した。ねぇねぇ、アルメラさん。マタギさんにお礼をしたいんですけど何したら喜ぶと思います?」


アルメラさんが笑う。

「カッカッカ、マタギにはお主が甘えればそれが褒美となろう。あやつは娘を溺愛しとるで、娘に近いお主がお気に入りじゃ」


それじゃ話にならない。ミリは何かをあげられないか聞く。

「それじゃ、マタギさんの好物って何だが知ってます?」

「そりゃ、蜂蜜じゃな!」

「蜂蜜ですかぁ高いですよねぇ~」

「しかも魔物キラービーの特上品じゃ!ここだけの話、あやつは森の奥にある川沿いのがけの木に居るキラービーの巣を狙っておるのじゃ。じゃが、高いところにあるし崖上からも取れずに“酸っぱい熊“となっておるわ」


アルメラさんが笑う。

「“酸っぱい熊“ってなんですか?」

「自分の手が届かんからキラービーの蜂蜜は酸っぱいと言っておるのじゃよ」


あぁ、あの童話だ。でも熊じゃなくて狐だったよね。でも良いことを聞いた。

「じゃあ、アルメラさんを影の世界に招待すると同時にそこへいきましょう!さぁ、手を繋いで下さい。絶対離さないで下さいね。離すと死んじゃいますよ!」


あたしは怪訝そうなアルメラさんの手を繋いで影の世界に入った。地下室だろうと影の世界に入れば通過出来ない場所は無い。直ぐに地上に出る。そこからはアルメラさんが影の世界を堪能出来るようにゆっくりと森へ向う。森の中を歩いてマタギさんの狩り小屋の横を通り過ぎて川辺りに出る。そこで現実世界に戻ってアルメラさんの手を放した。

影の世界では何か言っていたのに現実世界に戻ったら無言になってしまった。

「さぁアルメラさん、キラービーの巣は何処ですか、教えて下さい。」

「・・・ちょっと待て、今余韻を味わっておる。凄いなお主」

「いいえ、違います。スキル『影』が凄いんであってあたしはひ弱な12歳の女の子ですよ。」


何故かアルメラさんは眇にあたしを見る。変な事は言っていない。全部事実だ。

「まあ良い、キラービーの巣じゃったな。あそこじゃ」


アルメラさんの指す方向には崖の横から木が生えていた。そしてそこには確かに蜂の巣があった。

キラービーは蜂系の魔物で大きさは大人の人の握りこぶしくらい、女王蜂はその倍位だとアルメラさんが教えてくれる。少し遠目に見える蜂の巣にはブンブン音を立ててキラービーが飛んでいた。しかも沢山居る。

アルメラさんの先導で攻撃されないくらい近くまで川を渡って近づく。蜂の巣は木から下に向かってぶら下がるように出来ていた。大きさは直径で2m弱と言ったところだった。


あたしはアルメラさんの説明で『影操作』が出来そうだったのでやってみた。あたしの影が伸びていき崖を這い登る。そしてキラービーの蜂の巣をがっちり手で掴み、体の中に取り込んだ。終わると伸びた影が消える。あっという間だった。隣でアルメラさんが驚いている。

「お主、お主!いつの間に影操作を覚えた?!」

「いや、出来そうだったのでやってみたら出来ました!」


やったぜ!と思う。

アルメラさんがやってみたら出来たって、お主とか呟く。


「そうですよ!ここでアルメラさんのスキル『化身』を見せてください。誰かに見られるのは困るんでしょ?」

「確かに誰彼構わず見せるものではないんじゃが、分かったぞ。」


アルメラさんはあたしから少し離れて川に近づいて手を組み、複雑な形にし始めた。言葉を出しながら手の組み換えが激しくなり、両手を振り声を出した。

「ウンケンソバカ!オン!!」


黒狐族のアルメラさんの身体から光が放たれて大きくなるとその中から3m位の巨大な黒い狐が現れた。ただの狐では無い証拠に尻尾が沢山あった。そして喋った。

「どうじゃ、これが我が黒狐族の化身の姿じゃ!」


力を見せてくれるのだろう。その場から空中を駆け回りあちらこちらに炎の塊を出して操り川にある巨岩などに当てる。炎の塊が巨岩に当たるとドロドロに溶けてしまう。暫くして戻ってくるとスキルを解除したのか再び光だし、元のアルメラさんに戻った。

「凄いです、アルメラさん!その辺の魔物なんか相手にならないですね!」


少し気だるげにアルメラさんが答える。

「体力も気力も魔力も大分使ってしまったわ。疲れたのじゃ」

「それじゃあたしのスキルで戻りましょう」


あたしはアルメラさんと手を繋ぎ、影の世界を通ってマタギさんの狩り小屋に入った。アルメラさんは何で此処にと言う顔をしたので説明する。

「いつでも此処を使って良いとマタギさんに許可を貰ったんです。だから〜」


あたしはテーブルの上にキラービーの巣を出した。巣の中にいた数匹のキラービーはもう一度影の世界に仕舞う。そして壁の棚から数個の瓶とスプーンを取った。そしてキラービーの巣から蜂蜜を取り分ける。幾つかは影の世界に仕舞い、一瓶をアルメラさんに渡す。

「はい、どうぞ」


















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