第21話

あたしははっきりしないアルメラさんに少し苛つく。


「一応、C級ハンター『銀耀の円盤』が今日から見張りに付くんだけどね。」

「パーティの名前が無駄にかっこいい!」

「そうねえ、“月“を言い換えただけなのにねえ、あははは」

「でも、ハンターが出るならあたしの出番は無いですねえ」

「あら、ミリオネアちゃんも参加したかったの?」

「いえ、こちらの狩れる魔物が少なくなったから違うところでどうかと」

「そうねぇ動物を狩るにも技術と知恵が必要よねぇ、じゃあないと狩人なんて要らないしぃ〜」


ハンターが居るところへ行って領主の娘と知られたくないし、マタギさんに動物の狩り方を聞きたい。


ということで狩人ギルドを後にしてマタギさんの狩り小屋に来てみた。誰も居なかった。だよね~と思いつつ鍋の蓋を取ると良い匂いがする。しっかりと煮込まれた野菜や茸の匂いだ。う〜ん、黙って食べると怒られるような・・・


どうしようかなと蓋を触りながら考えていたらドアが不意に開いた。そしてマタギさんが驚きもしないでズカズカ入って来てミリの反対側にどっかり座り、ミリを見た。

「あっ、あっ、これはその・・・」


ミリは自分が盗み食いをしているのところを見られたと思った。でも、マタギさんは気にしてなかった。

「俺の分も頼む」


マタギさんは棚に置かれた椀を指して言った。ミリは立ち上がり、大きな椀と小さな椀を持ち戻る。

スプーンが入ったままで鍋の中身を大きなお玉で掬い、大きな椀に盛り、マタギさんに渡した。

無言でマタギは受け取り中身を食べ始めた。ミリは自分の分も入れてマタギさんを見ていた。

「ん?食べないのか?」


マタギさんが言うのでミリは赤くなり俯いた。

「あの、すみません。勝手に食べようとしてました。」


マタギが大きく息を吐く。椀が熱いので冷ました訳では無いようだ。

「気にするな。子供が遠慮することは無い。それにここに来ることは許してるからな」


マタギさんの言葉に気が楽になり自然と笑みが浮かび、ミリは仮面をを外して食べ始めた。そう言えば素顔を見せてしまっていた、今更だけどと思う。


煮物を食べ終わったマタギさんが話始めた。

「動物の事を知りたいと言ってたな。まぁ狩人の狩りの仕方を知らないから聞いたのだと思うが」


ミリは食べるのを止めてマタギさんを見る。

「狩人は獲物を狩るのにほとんど罠を仕掛ける。理由は狩人が弱いからだ。」


熊獣人のマタギさんが弱い?

「動物といえど狩られたくないから暴れて反撃するからな。だからこちらが有利な条件で動物を追い詰めたり、反撃を封じ込める為に罠を用いる。」


ミリが訝しげな目で見ているのに気付いたマタギさんが言葉を続ける。

「獣人と言っても必死の動物に敵わない事もある。それに危険を無視する者は狩人に成れない。」


「罠は狩ろうとしている動物の癖を把握してから決める。動物の生活のパターンを見極めて仕掛けないと無駄になるし、罠を回避される事になるんだ。」


「落とし穴が有効なのはイノシシみたいな前しか見ない奴だな。くくり罠は狸やねずみなんかの特定の場所を歩く奴が良い。カスミ罠は網が必要になるし使い捨てになる。囲い罠は追い詰める必要が出てくる。箱罠なんて物があるが持ち運びも必要だし高い。」

やっぱり仕事の話なので嬉しそうに話してくれる。


「でも大切なのは狩ろうとしている相手の癖を知ることだ。」

グレイウルフが狡猾なことを知っている事なんだ。


「迂闊に近づいたり、初見で真正面から攻撃を仕掛けるのは狩人じゃない。ハンターのやり方だな。なんでも自分のスキルを使って力任せでゴリ押しをする。」

あ、頭が痛い。あたしがしていたことだからね。


「ハンターのやり方が通じるのはパーティを組んで役割を分担してそれぞれの負担を軽減しているから効果的なんだ。だからこそ、逆にひとりが崩れると弱い。魔物の様な強い相手に撤退とかする場合に犠牲が出るし、全滅する事も多い。」

少しマタギさんの言葉にはトゲがあった。まるでハンターに恨みがあるような。


「まぁ、狩人は単独で獲物を追い詰めるけど、危険は犯さないものさ」

のそりとマタギさんが立ち上がり言った。


「これから罠を設置に行くが見るか?」

それこそミリが知りたいことだった。ウンウンとミリは頷いて残っていた椀の中身を食べ切る。

マタギさんの椀とともに汲み置きの水で洗って、置いてあった場所に戻すまでマタギさんは待ってくれる。終わったのを確認するとマタギさんは出て行ったのでミリは付いていった。


夕闇が迫るまでミリはマタギの後を付いて色々な罠のし掛け方や場所を知った。マタギさんの表情はあまり変わらなかったが目が笑っていたから喜んでいたように思う。



マタギさんと別れ、スキルを使って家に帰る。埃を払い着替えて食堂に行くとお母様が居た。夕食に間に合ったようだ。

今日あった話をお母様にすると笑顔で頷いてくれる。やっぱり魔物を狩る話より笑顔だ。

「そんなに親切にしてくれる狩人ならやっぱり会って見たいわね。ミリちゃんが人見知りしないし」

やっぱりお母様は誤解してる気がする。お嬢さんが居るようだし、会ってみたいな。


食事を済ませて部屋で風呂に入り、『森の生態系』の続きをベッドにもぐり込みながら読む。

1.動物の種類と生態

2.魔物とは

3.魔物の種類と生態

4.動物と魔物の生態系

6.人とは

7.神話時代と歴史

8.森の生態系


魔物の種類と生態まで読んだから続きから読み始める。


動物は魔物に襲われる事が無いと書いてあり驚く。襲われていない目撃は無いが、襲われているなら魔物の方がずっと強いので動物は駆逐されてしまうだろう。個体数が動物の方が多いが動物には動物間の食物連鎖があるのだ。強い物が弱いものを食べるのは魔物も動物も同じらしい。生息地も違うらしい。動物は比較的森の浅いところに住処を構えるが魔物は深いところに多いとある。これは森の中に魔力が濃い場所があるせいらしい。魔力と魔物の関係には諸説有って本当のところは判明していないと書いてある。


そして、突然内容が変わって『人とは』と書かれている。いきなり、結論として『人とは自分を人と認識している生き物のことである』と書いてある。

ふ〜ん、どういうことだろう。良く分からない。


その次に人の条件とあって

・言葉を話し意思疎通が出来ても人では無い。

神様も龍も人では無いものね。


・スキルを持つ持たないは無関係。

そうね、獣人はスキルを持たないけどスキルより高い能力を持っている事があるものね。


・社会性を持ち、互いの関係性を維持•継続するだけでは無い。

そうね、蜂や蟻みたいな生き物も居るしね。


・魔力を持つ持たないは無関係

これはどうかしら。誰でも魔力持って、いえ獣人は魔力が無いとも僅かにあるとも言われているらしいわ。


纏めると『下肢で直立歩行し、上肢は手の機能を果たすようになり、地上生活を営み、道具を使用し、さらに大脳の著しい発達によって、言語、思考、理性の能力、また文化的創造の能力を有するに至ったもの。』かも知れない。


って、えー全然纏めてない!

でも、これで合っているのかしら。少なくても間違ってはいなさそう。


結論として『人とは自分を人と認識している生き物のことである』


結論だけが合っているような気もする。あふっ

その先には、伝説にある魔族は人が魔力を持ち過ぎた姿なのか、魔力が少なくなったのが人間なのか疑問である。動物が魔力を持ち過ぎた姿が魔物なのか、魔物が魔力を失った姿が動物なのか疑問であるとある。

確かに魔力の違いだけだとすると面白いわね。

論外であるが超古代の先進文明の時代に宇宙より飛来した生物に依って魔力を与えられたと言う説があると紹介している。

とんでも説ね。伝説の中の神様を宇宙より飛来した生物にすれば似たような話になるものね。

あら、ここで次の章に・・・ふわぁ、眠いからここまでね。



翌朝、いつものように食堂に行くとお母様が朝食を終えて出掛けようとしていた。どうしたのだろう、あたしが寝坊した訳では無いのに。

「ごめんね、ミリちゃん。また、ブラク村で問題が発生したみたいなの。これから直ぐに視察に出るわ。」


C級ハンター『銀耀の円盤』に何かあったのだろうか?それとも村に更に被害が出たのか?

朝の挨拶も早々にお母様は出掛けて行った。あたしは朝食をもそもそ食べながらお母様の心配をした。お母様には領騎士の先鋭が護衛として付いているから心配無いはずなのに胸騒ぎが止まらない。


今日は、マタギさんに教えて貰った事を参考に魔物狩りしてみようと思っていたのだが、食事も進まなかった。

心配するよりも影の世界から見守った方が早いと思ったので食事もそこそこにあたしは部屋に戻り、革の防具を身に着け、スキル『影』を使い、影の世界に入る。


ドキッとする。この間に見た影が部屋の隅に居た。現実世界で見たのと同じに見える。頭の大きな赤ちゃんのようであり、あたしより大きな姿をした女性のようにも見えるといった不思議な影だ。

影が腕を伸ばし、北を示した。お母様が向かった方を指していると直ぐに分かった。

ドキドキが止まらない。思わず北を見て影を振り返ると影は消えていた。


あたしは全力で北を目指した。目的地はブラク村、お母様の元へ。


・・・慌て過ぎたようだ。影の世界からブラク村に到着したけどお母様はまだ到着していなかった。考えてみれば影の世界での移動は現実世界での移動とは違うのだ。

でも現実世界に出てみるとブラク村は大混乱していた。開発途中の村なだけあって規模は大きく無いが家があちらこちらで燃えていた。村人らしき人々が右往左往している。

逃がそうとしている人達の中に狩人ギルドのギルドマスター兼受付嬢のアルメラさんがいた。となると何処かにハンターギルドのマスターであるブルマントさんもいるに違いない。

あたしはアルメラさんに声を掛けるかどうか迷った。こんな時にこんな場所にあたしが居るなんて変だ。でも何が起きたのか知りたい。あたしは影の世界に入り、忙しく駆け回るアルメラさんの影に入った。


人の影の中に入ると自動的に追尾出来るのだ。そして何を話しているのかも分かる。

「あなた達はあっちへ走って!森から離れるの!」


村人らしき人々を森から離そうとしている。でもその人達を襲っているのは豚オークだ。何匹居るのだろう。見える影の数からは3匹だが他にも居るかも知れない。でももっと悪い事に目だし帽を被った男達が家に放火して、破壊しまくっている事だ。いったい何者なのか?


目だし帽の男たちや豚オークと戦っている者達がいた。装備を整えていることからハンターらしいので彼らがC級ハンター『銀耀の円盤』のメンバーかも知れない。


戦いは激しかった。











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