第20話
再びあたしに向いていたメイドが悲鳴を上げた。
「そ、そ、そこにいまぁーす!」
指さしたのはあたしを抱き締めて居るお母様だ。お母様が影?益々訳が判らない。お母様がハグを止めて立ち上がりメイドを見る。
「あれ?」
メイドは自分で言っていておかしいと気付いたようだ。
「あれ?いませんね」
お母様とあたしが目を合わせて軽く笑う。
「「疲れているのはあなたね」」
2人に言われてメイドは見間違いみたいでしたと謝った。
あたしは起き出せたのでお母様と食堂に行った。少しお腹も空いている。お母様は夕食中だったようだ。メイドに指示してあたしの分を持ってこさせる。
「ミリちゃんもう大丈夫ね?」
お母様は心配してくれる。その気遣いがとても嬉しい。
「はい、お母様」
「いったい図書室で何があったの?気絶するなんて余程の事よね。教えて頂戴」
「はい、お母様。」
ミリは図書室に行った理由を話し、そこで見つけた本の事を話し、影を見たことを話した。
「・・・ロザリア・・そう聞こえました。」
お母様の顔が驚いたのか白くなる。
「なんですって?!」
それは叫び声に近い。先程までの落ち着きが嘘のように震えてる。食事中で有ることさえ忘れてしまっていた。
「・・・お母様・・・」
ミリの声も届いていないようで何かを呟いて居るようだった。
「お母様!どうかなさったのですか?!」
お母様の様子が変なのでミリは大声を上げてしまった。メイドもお母様の驚き様にどうして良いか分からずあたふたしている。ミリもお母様の近くに寄ろうかと考えた時になってお母様の声が聞こえた。
「ロザリア・・・そういったのね?ミリちゃん。」
「・・言ったというか、頭に聞こえたというか。その名前は何なのでしょう?」
「それは・・・いえ、ミリちゃんは気にしない方が良いわ。どうしても聞きたかったらお父様が戻られてからにしてね。分かった?」
お母様は直ぐには教えてくれないようだった。お母様はお父様と相談してから話したいらしい。
「気になりますが、分かりました。忘れます。」
忘れられないかも知れないが気にしないようにする。それから残りの食事を済ませ、紅茶を飲みながら図書室で見つけた本の話をする。
「『森の生態系』ね。懐かしいわ。」
やっぱりお母様の本だった。
「わたしのスキルが『共感』だった話をしたでしょう。あの頃スキルがcommonなのを気にしてもっと違うことに使えないかって考えていたのよ、うふ。」
お母様が少し口を隠すような仕草をする。きっと照れているのだ。
「『共感』なら森の動物とも気持ちが通じ合うんじゃないかって思っていたのよ?だって、あの頃はモフモフな動物が好きだったんですもの」
お母様が動物好きなのはそんな頃からなのかと驚く。馬で遠出をする前もお母様は馬の世話をしたがる。前にもお父様に猫を買って欲しいとねだっていた事をあたしは知っていた。
「でも駄目だったのよね。『共感』というスキルは人間どうしじゃないと働かなかったわ、それでその本はお蔵入りよ。でもミリちゃんには良いかも。もう森ねずみや一角うさぎは卒業なんでしょ?」
お母様はあたしが狩っている魔物の事を知っていた。何を狩っているかは言っていなかったがきっとハンターギルドから報告でもあったのかも知れない。こう見えてお母様は凄く心配性なのだ。
だから、グレイウルフの群れに襲われた事は大した事が無かったように話す。
「今日は、グレイウルフの群れを見つけて狩ろうとして失敗しちゃったんですけど丁度狩人の人に助けて貰ったんです。マタギさんて言う熊獣人の方です。」
「まぁ、大丈夫だった?気を付けるのよ。で、熊獣人?モフモフ?」
やっぱりお母様はそっちに気を取られた。
「はい、抱かれた時はとても気持ち良かったです。」
「抱かれた?」
「あ、いえ、抱き上げられたんですけど」
「おいくつなのかしら」
お母様の想像が違う風に向かうのがおかしかった。
「獣人の方の年齢は良く分かりませんけどとても落ち着いていましたから結構な年かもです。」
「そう、ミリちゃんのお礼もしたいから今度連れて来てね」
お母様の目的がモフモフなのかお礼なのか分からなかったがミリは頷いた。
それからミリは部屋に戻るとベッドサイドに『森の生態系』が置いてあるのに気がついた。図書室であたしが気絶したときに一緒に落ちていたから持って来てくれたのかも知れない。
メイドの助けを借りて風呂に浸かり、身体を清潔にして温めた後、ベッドに横になりながら『森の生態系』を捲ってみた。
1.動物の種類と生態
2.魔物とは
3.魔物の種類と生態
4.動物と魔物の生態系
6.人とは
7.神話時代と歴史
8.森の生態系
と目次にあった。それほど厚い本では無いのに色々書いてあるようだ。なかなか興味ありそうな目次だけど動物の事を知りたいから最初から読んでみよう。
何々、近隣の森に住む動物には小型の動物が多いとな。地上に住む動物にはねずみ、うさぎ、蛇、狸、猪、鹿、小熊。樹上に住む動物には栗鼠、ムササビ、鳥、小猿。みな体が小さい生き物なのが共通していて攻撃的性が低いと。あまり種類がいないな。南の大陸では鱗を持つ鰐、蜥蜴や獅子、虎、豹と呼ばれる動物がいるようだ。へー。
小型の動物の食性は草や植物の実や昆虫を食べ、動物同士をあまり食べないと。ははぁ、南の大陸の動物の食性は良く知られていないのか。
互いの生きていく場所の広さはあまり広く無く、干渉しようとしないので同種同士の諍いはあまり見られないく、番を作って沢山の子孫を残すと。
なるほど。あふっ。
次からは魔物の事が書かれているようだ。魔力を帯びている動物の事を一般的に魔物と呼んでいる。動物とは違い何処から現れて来るのか知られてない。そうなんだ。動物と違い知能があり、集団が多いと。ふわぁ。
で、種類はゴブリン、コボルト、豚オーク、猪オーク、ウルフ、竜といる訳だ。神話に出てくる魔物は龍、不死鳥、巨人などがいる。
神話かぁ・・・お伽噺には神様や悪魔や魔族とか出て来てドキドキしたなあ・・ふわぁ〜あ。
・・・・・・・・寝落ちした。
◆
翌日、朝食時にお母様に昨日は色々あって聞けなかった事を聞いてみた。
「お母様、昨日は視察にいらしゃったのですよね。どちらに行かれたのですか?」
それは単に興味があったというより昨日あって話が出来なかったからのミリのちょっとした恨み言だった。
「あら、ミリちゃんも領地経営に興味が出てきたのかしら」
「う〜ん、少しだけ・・・」
ミリの答えにお母様は苦笑する。ロベルトお兄様が婿に行くことが決まって、あまり興味の無い領地経営の勉強の為にミズーリ子爵領の地名などの勉強はしたがあまり記憶に残っていない。
「王都に近い森の外れに新しい村を起こそうとしているの。名前は村長の名前を取ってブラクと言うわ。」
領主は新しい村や街を興す事がある。人口が増えすぎたり、集中し過ぎたりするのを防ぐためだ。ただ、村や街を興す為の資金が必要である。新しい村や街を興す為に税金を低く抑えたり、資材などを商人に運ばせたりするのを援助しなければ上手く行かない。
酷い領主になると場所を指示するだけで強制する事もあるが大抵は上手く行かない。何事にも領主の手腕が物を言うのだ。
「一応、街に住む仕事の無い人達を募集して少しづつ始めたのよ。王都に近い場所というのは作られた農作物を王都に卸すためね。森に近いのは軌道に乗るまで森の恵みを受けるためと森を少し切り開いて農地を確保するためよ。」
なるほど、お母様も考えがあっての事なんだ。
「ミリちゃんも覚えてね。そのブラク何だけど森を開いたら動物や魔物が出やすくなってちょっと困った事になったみたいなの。それで被害の状況を視察に行ってきたのよ。ああ、そう狩人ギルドのアルメラも一緒にね。」
なるほど、それで狩人ギルドにアルメラさんが居なかったのか。
「ミリちゃんにも手伝って貰えたら嬉しいけど、もしそのつもりがあったら狩人ギルドのアルメラに詳しい事を聞いてね。魔物も居るようだから気をつけてね」
お母様の言いつけを守り、狩人ギルドのアルメラさんに会いに行こう。どうせ、文句も言うのだから!
革の装備を身に着け、いつものようにスキル『影』を使って“影の世界“に入る。光で出来た影伝いに跳ねながら移動して早々に狩人ギルドの近くの場所に出た。現実世界に戻り、狩人ギルドのドアを抜けると今日は狩人ギルドマスター兼受付嬢のアルメラさんが居た。
愛らしい黒狐族の顔を見てホッとする。
「今日は、アルメラさん!」
「あら、ミリオネアちゃんじゃない。お元気そうね、顔は見えないけど」
そうなのだ、あたしは仮面を被っているから顔は見えない。だからあたしが元気に怒っていることはアルメラさんには分からないのだ。
「あたし、怒ってます!」
「へっ?何で?」
アルメラさんには分からない。
「幾ら獣人の人には匂いでバレるからってあたしの事を言い触らさなくても良いでしょう?」
「何言ってるか分からないけど、ミリオネアちゃんの事はひとりしか言ってないわよ?」
「へっ?」
「熊獣人のマタギがこの間久しぶりに顔を見せたから新人でこんな子が入ったとは言ったわよ。他の人とはまだ話せてないから言ってないわ」
アルメラさんには全然悪気が無かったようだ。
うむむむ、これは怒っても仕方ないのか?
「兎に角!他の人に広めないで下さい!あたしの事はあんまり知られたくないんです!」
「そんなの知ってるわよ、マタギだってたまたま集まった素材を納入に来ただけだし」
「そのマタギさんに助けられたんです、昨日」
アルメラさんに昨日の事を話す。
「そういう事なのね。マタギって子供好きだし」
「ええっ、マタギさんに子供さん居るんですかぁ?」
「見えないって、分かりづらいわよね。去年奥さん亡くなられて、ミリオネアちゃんより小さな女の子が居るはずよ。」
道理で子供扱いされるはずだ。自分の娘と変わらないと見られたのだろう。
アルメラさんの“のほほん“としたキツネ顔が何とも小憎らしい。仕方ないので話を変える。
「昨日、聞いたんですけどブラク村で動物だか、魔物だかの被害があったんですって?」
「あら、領主奥様に聞いたのかしら。そうよ、一応狩人ギルドマスターとして立ち会ったわ。もちろんハンターギルドマスターのブルマントもね」
何だが一緒にだったのが嫌なのか、口吻が突き出る。あっ狐だから当たり前か。
「それでどうだったんです?」
「ハンターギルドの見立ては猪じゃないかと言うこと何だけど、足跡の数が多いのよね。」
「何匹も猪が出たって事ですか?」
「ちょっとねぇ、違うような気がするのよ。荒らされた農作物も地面を掘り返しただけでなく、地上になっているものも根こそぎなのよね。」
「それって、豚オークにやられたと言う事ですか?」
「そうねぇ、それとも違うような」
「はっきりしませんねえ」
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