第15話

ミリの授業が本格的に始まった。殆どは座学であるが身体を使った実技もある。本が好きで部屋に籠もっているのが好きなミリではあるが嫌だと言っても居られない。


男の子は剣などの武器を振る実技であり、女の子は身を守る体術の実技である。

ミリは身体が大きく無い事もあって体力が無かった。同じ位の背丈である筈のクロエは違った。体力お化けと揶揄されるほど、男の子に負けないほどの体力があった。


ミリがへばっていてもクロエはピンピンしている。そして、足捌きの指導を受けてもミリがドタドタしているのにクロエは直ぐに覚えて華麗に足を運ぶ。クロエがミリの近くに居るからか、ミリはクロエと比べられ易くなっていた。


逆に座学ではミリのほうが上でクロエに教えている事が多い。クロエは頭が悪いのでなく覚えようとしないのだとはミリの弁だ。


週に2回のお休みではミリはリリスにベッタリだ。リリスが友達と遊びに行くのにも付いていく。買い物にも付いていく。


もちろん、ミリのスキル『影』の検証も続けていた。何度かリリスもミリに手を繋がれて“影の世界“に行った。その結果、やっぱりリリスの考えている通りだった。

リリスを連れて行くとミリだけで行った時よりも短くなる。ミリの疲れが激しいのだ。1時間も一緒だとその日はミリは何も出来ない程に疲れてしまうらしい。

あまりの疲れでミリに何かあってはいけないとリリスが制限を掛けては居る。


それから新しい発見もあった。

“影の世界“で人の影に触れて居るとその人が動くとミリが動かなくても一緒に移動する事が分かった。ミリは楽ちんと言った。

それから、ミリは“影の世界“では凄く早く動ける事が分かったのだ。ミリの実感では10倍だそうだ。

それから、影から影まで飛び移れる事も分かった。“影の世界“でミリはジャンプして飛び移っているらしい。

“影の世界“はミリの世界らしく超人的な力を発揮出来るようだ。でも、曇の日や雨の日や夜はてんで駄目になる。


学園での生活に慣れて来た頃になって気安くなっているのだろう、男の子達にミリのスキル『影』を馬鹿にされる事が起きるようになった。ミリがスキル『影』の本当の力を言わず、ミリが隠れるだけのスキルと公言しているからだ。それをみんなは信じていた。リリスからも厳しく本当の事は言わないように言われていたからミリは馬鹿にされていることを我慢してリリスには言っていなかった。


ミリのスキル『影』が収納能力に優れている事を知られるだけでも大事になる。ましてや人を簡単に殺せるなんて知られたらミリはこの世界に居られなくなるだろう。


リリスの懸念をミリは正しく理解していた。リリスだけでなく近頃仲良くなって来たクラスの他の女の子達ともお喋りなど出来なくなるのは嫌だった。


授業の中に魔力について学ぶ事があった。

魔力は生き物には必ずあるが個体差があり、多い少ないがある。生命力と密接な関係があり、スキルとも関係があるとされていた。


魔力を使うと魔法が使えた。魔法には大まかに4つの属性があり『火』『風』『土』『水』と言われている。魔力に属性を与えて操作することを魔法と呼んでいる。属性は人の性格に関連があると言われているが得意不得意はあっても全く使えない訳では無い。

魔力に属性を与えて魔法にしても攻撃するだけでなく癒す事も出来た。ただこの効果は属性に依って違いがあった。

攻撃では『火』属性の魔法がいちばん高く『水』では効果が低いとされていた。

治癒では『水』属性の魔法がいちばん高く『土』では効果が低いとされていた。


身体の一部の欠損などの治癒は魔法では出来なくて『神聖』など神の力を与えられたスキルでないと出来ないとされていた。他には神秘の薬『エリクサー』も可能と知られていたが誰も持って居なかった。


新入生全員が実技の時間に魔力の検査をした事があった。ミリが覚えていたのはこんな人達だった。

バージル•ダンダウェル

スキル『特殊強化』魔法属性『風』

ミッチェル•アンドネス

スキル『舞踏』魔法属性『風』

アビー•セクタフ

スキルは『超感覚』魔法属性『風』

クルチャ•ランベック

スキルは『予見』魔法属性『土』

ナランチャ•クロール

スキルは『呼吸』魔法属性『火』


そして、仲の良い友達

クロエ•オードパルファム

スキル『覚醒』魔法属性『火』


そして、嫌いな知人

エリザ・ダンダン

スキル『共感』魔法属性『火』


そして、自分

ミリ・ミズーリ

スキル『影』魔法属性『水』


そして、大好きなお姉ちゃん

スキル『妖精』派生スキル『呼び掛け』『誘引』。魔法属性『土』


やっぱりULTRAレアのスキルを持っている人は魔力も大きいらしい。魔力を測る水晶玉での輝きが凄かった。そしてミリの魔力も負けずに大きくて輝いた。commonのスキルのエリザの魔力は小さくあまり光らなかった。


「ふっ、今日はたまたま調子が悪かったのよ」

とエリザは負け惜しみを言っていた。


そんな中で一番の輝きを見せていたクロエが言った言葉が一番振るっていた。

「おっ、今日はたまたま調子が良いぞ!」


なお、ミリはエリザが近付いて来るとクロエの陰に隠れる事にしていた。エリザはクロエが苦手なのだ。


魔法の座学の時にミリはバージル先生に派生スキルについて聞いてみた。先生に依ると派生スキルはスキルを熟す事で習熟の度合いが上がり生まれて来ると言った。それと必ずしも誰にも派生スキルが生まれるものではないとも言った。

やっぱり2つの派生スキルを持つリリスお姉ちゃんは凄い人なんだと心の中でミリは自慢した。


春が過ぎ、夏になり夏休みになった。

エリザが馬車でミリを迎えに来たがミリはスキルを使って隠れた。一緒の馬車になんて乗ったら3日間ずっと嫌味を言われてしまう。

ミリはエリザの前でスキルを使って見せた事は無い。だからミリがエリザの影の中に潜んでいることを誰も知らなかった。


ミリがミズーリ子爵家に帰ると両親が大歓迎してくれた。約半年ぶりで久しぶりに会う娘は両親にとっては凄く成長していると思えた。いつも何かに怯えおどおどしていた娘はすっかり怯えるような素振りは無く、嬉しそうに学園での生活について話す。特に親しくなった友人クロエの事や寮で同じ部屋になったリリスをお姉ちゃんとして慕っていることを話す。


帰ったその日はミリも疲れが出たのかぐっすりと眠り、次の日は昼頃に目覚めた。学園ではこんなに遅く起きては遅刻であるが家に帰ったせいか、以前の家に籠もる感覚で起きてしまっていた。

メイドの手助けも無く自分で着換え、食堂に行くが誰も居なかった。母親と話をしたくて家の中を探すが見つからず、老齢の執事に聞くと孤児院に行って、ハンターギルドを回って戻ってくる予定で出掛けたと言われる。

父親はと言うとこれまた街長と狩人ギルドに会いに出掛けたと言われる。

2人が居なければミリの話し相手はメイドや老齢の執事しかいない。家の者の数が少ないのでミリの話し相手などしていられないのだ。ミリが学園に行く前よりメイドの数が2人減っていた。理由をメイドにしつこく聞けば身体の不調や家の都合で辞めたと言う。ミリにあまり納得が行かなかったのは半年前に辞めた2人にそんな素振りが無く、笑顔でミリを送り出してくれたからだった。知り合いが少ないミリにとって家のメイドは数少ない話し相手だったのだ。


休み中に学園から出されていた課題はあったがそれをする気分にもなれず、両親が街に出ていると言うので自分も出かける事にした。ミリの世話をしてくれるメイドも付いてくると言ったが仕事もあるので断った。

自分はもう何も出来ない引き篭もりのミリでは無いのだと笑って見せる。心配をするメイドを他所にミリは町娘が着るような飾り気のないワンピースと帽子を被り夕方前には戻ると告げて出掛けた。






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