第13話

クロエはリリスが入ってくるなりハグを止めて、ミリから離れた。

「あら、どちらのお嬢さんかしら」


リリスはミリに聞いたようだがクロエが直ぐに答える。

「わっちはクロエ•オードパルファム伯爵令嬢なんよ。今日、ミリちゃんと友達になって部屋に遊びに来たんよ!」

「まぁ、部屋に招ける友達ができてミリちゃん良かったわね。」


リリスはミリに声を掛けてから改めてカーテシーをして自己紹介する。

「わたくしはアマリリス•ボアン子爵の娘ですわ。よろしくお願いしますね、クロエ様」


クロエの言葉遣い変なのは最初からだけどリリスの言い方は他人行儀だ。少し警戒しているのかもとミリは思った。

「クロエって呼んで欲しいんよ、あ、アマリリス様」


先輩でも子爵の娘なのでなんて言って良いか混乱しているらしい。そんな様子を微笑ましくリリスは見て言った。

「あら、部屋の中ならリリスって呼んでね。クロエちゃん」

「はい!えっと、また来るねミリちゃん!」


リリスが帰って来たからだろう、クロエは慌ただしく部屋を出て行った。そんな様子にミリは何も言えない。

リリスはにっこりして着換え始めた。そして、今日あったことをミリに聞いた。

ハグについては聞かないらしい。


入学式の感想や教室で自己紹介した様子などを話す。着替えを終わるとベッドサイドに座ってニコニコしながらリリスはミリの話を聞いてくれる。

公爵令嬢の『舞踏』、侯爵令息の『指揮』、騎士爵令嬢の『超感覚』、辺境伯令息の『予見』、男爵令息の『呼吸』という特別なスキルのこと。そして『覚醒』スキルを持つクロエの事を話す。

「まぁ、今年の新入生は粒揃いなのね。私達の世代はそんなULTRAレアなスキル持ちは居ないのに。でも3学年の世代には王家の方々もいるからその弟妹なのかも知れないわね。」


なるほど、2つ違いの兄弟は多いんだとミリは納得した。

それから揃って食堂に行き、食事を済ませる。風呂にも揃って入ったが混んでいてゆっくり入って居られなかったので早々に上がって仕舞う。

風呂場を出た所でトラブルがあった。ミリの下着が無くなって居たのだ。沢山の生徒が出入りしていたので誰かが持って行ったのかも知れない。ミリひとりだったらどうしていいか分からず泣いてしまったかも知れないが、リリスが助けてくれた。先に部屋に戻り、下着を揃えて持って来てくれて事なきを得た。


リリスには何か思うところがあったようだが何も口にしない。ベッドサイドで話をしているとリリスが今日あった不思議な出来事の事を話してくれた。

「あのね、今日とっても不思議で、面白いことがあったのよ。思い出すだけで笑っちゃう。」


リリスが口に手を当てて上品にうふふと笑う。逆にミリは少し冷や汗が出て来た。

「ちょっと伯爵令嬢の方に今日の入学式の準備のことで文句を言われたんだけど、その時その方がね・・・」


リリスはミリの目が泳いで居るのに気付いて言葉を止めた。

「・・・ミリちゃん?もしかしてあなたがなにかしたの?」


リリスは怒ってはいないけど凄く真剣な目でミリを見詰める。ミリは俯いてしまって小さく呟いた。

「ごめんなさい・・・あたしが悪戯(いたずら)しました。」


リリスが深くため息を付いた。

「見てたのね。あの程度の事はしょっちゅうあるのよ。怒っていたら身がもたないわ。それに今は無いけどもっと暖かくなれば妖精さんとも話をするようになるから、私に意地悪する人は妖精さんに反撃されたりするのよ。

・・・だから、平気。」


リリスは涙を溜めて頭を上げたミリの頭を優しく撫ででくれた。

「ミリちゃんはわたしを護ってくれようとしたのね、ありがとう。」


頭を撫でられミリは涙をポロポロ零す。リリスがそんなミリをハグしながらも撫で続ける。

「ごめんなさいね。ミリちゃんにも嫌な想いをさせちゃったわ」


ガバっとミリがリリスから身を離す。

「そんなことを無いです!リリスお姉ちゃんに痛いことするからついカッとなって・・・」

「あら、嬉しいわ。ミリちゃんはわたしのかわりに怒ってくれたのね。でも、もうしないって言って頂戴。わたしだって大好きなミリちゃんを護ってあげたいのよ。」


大好きと言われてミリは半泣きになった。それからミリはリリスから詳しくやったことを聞かれる。

影の世界から踵だけを落してバランスを崩したことを言うと他にも何が出来るのかと聞かれ、生き物を影の世界に引き入れると固くなって死んでしまうこと、一度やって怖くなってもうやっていないことを告げる。

生き物じゃない食べ物や飲み物も影の世界に入れるとぷかぷか浮かぶことやずっと変わらずにいて、後で取り出して食べたこともあると告げるとリリスは凄く驚いた。


ミリは知らなかったがリリスは魔法袋(アイテムバッグ)を知っており、沢山の物を運ぶのに使われ、時間停止の物がない事を知っていた。


リリスはミリの言うことを疑う訳では無いが実際に見てみたいと思ったので翌日、他人に見つからない場所でミリのスキル『影』を検証することになったのだ。

翌日の休みはリリスはお友達とでも買い物に行く積りだったがもう興味はミリの事だけになっていた。

沢山泣いてしまったミリは心細くなったのかリリスのベッドで一緒に眠る事になった。安心仕切っているミリの寝顔に癒やされるリリスだった。


翌日の早朝、リリスとミリは食堂が開くやいなや直ぐに入り、食事を済ます。そして幾つかのサンドイッチやまるパンなどをミリが影に保管し、リリスも自分のリュックにしまった。


誰も起きてこない内に寮を出る。向う所は寮よりも北の森である。エライザ学園の中には学生の郊外学習の為の森があるのだ。定期的に先生が間引きして弱い魔物か動物しかいない。森の前は大きな公園となっていて、生徒が良く天気の良い日に遊びに来るのだ。


森の入口付近なら小動物も居るし、朝早ければ誰にも見られない。

最初にミリがスキル『影』を使うとどう見えるのかだ。リリスの眼の前でミリがスキルを使って自分の影の中に入る。

リリスからするといきなりミリが影の中に落ちたように見えた。誰も居ない影がするするとリリスに近づき、手を伸ばしリリスの影に接触するとミリの声がした。

「リリスお姉ちゃん、これで良いの?」

「そうよ、今ミリちゃんの姿が消えて、影だけになったわ。戻ってみて」


途端にミリの姿がリリスの眼の前に現れる。消えた時のように影から徐々に現れる訳では無いようだ。

「リリスお姉ちゃんどうだった?」


ミリの質問にリリスが見えたままを説明する。自分がどんなふうに見えていたか分かってミリはびっくりする。

「そうなんだぁ、やっぱり人前でスキル使うと驚かしちゃうね」


誰かにミリが襲われたとして、ミリがスキルを使って逃げる事は出来るが、影だけが動くことに不審に思う人も居るかも知れない。次にやることをミリにリリスが告げてミリにスキル『影』を使わせる。離れた場所で影だけになったミリにリリスが小石を放ると小石はミリの影の上に転がった。影が動いて小石が影の中に落ちる。

再び影がリリスに近づいて接触するとミリの声がした。

「リリスお姉ちゃん、小石を拾ったよ」

「そう、こっちからは小石が影に吸い込まれたように見えたわ。じゃあ、小石を戻してみて」


ミリの影がリリスから離れると影が動いて、ミリの影から小石が現れた。ついでにお皿に乗ったケーキまで現れた。

ミリがスキルを解除して姿を表すと手にケーキの乗ったお皿を持っていた。

「これでどう?」


悪戯のつもりでケーキの乗ったお皿を持ち出したようだ。

「ふふふ、影の世界でミリちゃんはどう動いたの?」


リリスが聞くとミリは説明する。

















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