第12話

ミリは矢鱈と友好的なクロエと寮に帰ることになった。というかクロエが引っ付いてくるのだ。

「なぁミリちゃんは甘党?わっちは辛党なんよ。唐辛子たっぷりの麺類とか大好きなんよ。ミリちゃんは辛いのはどれ位行ける?辛さはねぇ1から5まで度合いがあるんよ。でも、痺れ豆入りの辛物はクロエは苦手なんよ。舌がビリビリするのは痛いもんなぁ〜」


食べ物の話を際限なく返事も待たずに垂れ流す。良く喉が乾かないで話せるものだとミリは感心する。それよりクロエの持つスキルに興味がある。クロエの息継ぎの間に思い切って聞いてみる事にした。

「クロエさんのスキルってあの神話の勇者と同じスキルなの?」


「『覚醒』の事?それよりさん付けはやめて欲しいなぁ〜。せめてクロエちゃんって呼んでぇなあ、そしたら教えてあげても良いんよ。」

ちろちろこちらを伺うような振りをして居るが目が悪戯っぽく燦めいている。


ミリはため息を付いて、もう一度言った。

「『覚醒』ってどういうスキルか、教えてクロエちゃん!」


ミリが思う通りに言ったことで機嫌が良くなりクロエは話しだした。

「そんな凄いスキルじゃ無いんよ。使っている間は能力を十倍にしてくれるだけなんよ。それだけなんよ。今ある力が1なら10になるだけだから、今ある力を鍛えて鍛えて鍛えないと全然凄く無いんよ。相手の力が11あればスキル遣っても負けるんよ。ね?凄くは無いんよ。」


クロエはわざと凄くないように言っているがとんでもないとミリは思った。50cmジャンプ出来るならスキルを使えば5m飛び上がれるという事だ。腕力が上がるだけでなく強度も同時に上がらないとおかしい。勇者が持っていたスキルというのも頷けるというものだ。

「ミリちゃんのスキルこそ、どんなことが出来るか教えて欲しいんよ」


同室のリリスからは教えたような事を吹聴しちゃ駄目よと釘を刺されている。今日たまたま隣になっただけのやたらと馴れ馴れしいクロエには話せないから最低の事だけを伝える。

「クロエちゃんのスキルみたいに凄く無いです。あたしのスキルはあたしが影の中に隠れる事が出来るだけだけだから・・・役立たずなんです。」


エリザには散々馬鹿にされて来た。酷い言われようもしてきたのだ。だから、クロエから馬鹿にされる事も仕方ないと思っていた。

「へ〜ぇ〜、凄いねぇ!」


だから、凄いと言われてキョトンとしてしまった。何を言っているのだろうクロエはと思った。

「だって影の中に隠れたら何処にいるか分からないんよ。攻撃されてもさっと避けられるんよ。ねぇねぇ、頭だけ出して身体を隠すことが出来るんじゃないかと思うんよ。どうよぉ?」


余りの勢いに思わずミリはうんと肯定してしまった。確かにそういう事が出来るのは確認したことがある。ただ見た目がとても怖いから、やらない。だって他の人から見たら影の上にミリの首が転がって居るように見えるのだから。

「わぁお!ねぇねぇ、そこの木の影でやってみて欲しいんよ!」


さすがに嫌だ。見世物じゃないし、寮に向かって歩いているのはミリとクロエだけでは無いのだ。知らない生徒が沢山居るのだ。

「手品みたいな遊びじゃないです!」


ミリが拒否するとクロエは目に見えてしゅんとしてしまった。テンションが下がり過ぎだろう。

「クロエちゃんのスキルだって見世物じゃないでしょ?」


ミリが嫌がっている理由を知ってクロエが顔を上げる。

「うんうん、そだね。ごめんねぇ〜」


謝りながらクロエがミリにハグする。

「うわぁ~止めてよぉ、クロエちゃん!」


バランスを崩しそうになるけど何とか頑張る。クロエは何かとミリにハグをするのだ。

「だってぇ〜ミリちゃんのおっぱいは大きくて柔らかくていい匂いがするんだもん〜」


確かにミリの胸はクロエの胸より大きいかも知れないが恥ずかしいのだ。お母さんにもここまでハグされた覚えは無い。

「それにミリちゃんは美人さんなんよ。」

「ええ?あたしよりミッチェル•アンドネス様の方が凄い美人ですよぉ」

「ミッチちゃんは怖い系だけどミリちゃんは可愛い系なんよ」


いつの間にかミッチェル•アンドネス様もクロエに掛かるとちゃん呼ばわりなようだ。そうこうしている内にもう寮に着いた。残念そうなクロエと別れで自室に入る。

まだリリスは帰って居なかった。まだ日が沈むほど遅くは無いが夕食にはまだ時間がある。


新入生は全部で28人。公爵と侯爵は寮には居ない。伯爵9人の同室は先輩伯爵で、子爵11人の内5人が同室は先輩伯爵、残り6人は先輩子爵が同室で、男爵5人の同室は先輩の子爵、騎士爵は同じ先輩の騎士爵だった。

さて、先輩伯爵と子爵は何人でしょう?なんてね。


「ミリちゃん!来たんよ!」


クロエは部屋着に着替えていた。可愛らしい灰色のワンピースだ。腰のところにリボンが付いている。クロエがわざわざミリのところに来たのは理由があった。ミリに呼ばれた!それだけである。

「・・・わざわざ、ありがとう。クロエちゃん」


ミリがクロエを部屋に招いたのは帰りながらお喋り、ほぼクロエから一方通行ではあったがもっと知りたい事があったからだ。ミリはあまり部屋を出たく無いし他人にも遭いたくない。クロエは部屋に入るなりあちこちに物色し始めた。

「へー、ここがミリちゃんの部屋かぁ。なんも無いんよ。あっ、同室の先輩は何処?うちの部屋の先輩はマリーちゃん言うねんね。マリアンヌ•ロッテンマイヤー伯爵令嬢なんよ。それで・・・」


クロエを放って置くと長くなりそうだったのでミリは口を挟む。

「それでね、クロエちゃんに教えて欲しいの。あたしが自己紹介でスキルを口にしたらみんな黙っちゃったでしょ?どうしてか教えてくれる?」


クロエは驚いたようだ。ミリが一気にここまではっきり言ったからでは無いようだ。

「そっかぁ、ミリちゃんは知らないんね。10歳のお披露目パーティ事を覚えている?」


忘れられる事なんて無い。エリザに連れ回されて恥ずかしさの余り逃げ出して初めてスキル『影』に目覚めた夜。


「ミリちゃんが居なくなったって大騒ぎになったんよ。ミズーリ子爵夫妻はとっても取り乱して探し回って。でも王様が騒ぎを治めたんよ。『影』スキル持ち主なら心配要らない、出てくるまで待つようにって。あれはスキルの事を知ってたんよ、きっと。それを教室でミリちゃんがスキル名を言ってみんなは思い出したんだと思うんよ」

「そうなの?あの日の事はお父様もお母様も何も言わなかったから・・・」


「心配要らないんよ。わっちはミリちゃんの友達だし」

クロエにそんなことを謂われると何だが安心出来た。友達、ミリにとって初めての貴族の友達。そう思うと嬉しくなる。ミズーリ子爵領では平民の友達はいたが貴族の友達は居なかったからだ。エリザは友達じゃないし、リリスは友達じゃなくてお姉ちゃんだもん。


「ありがとう、クロエちゃん」

「あ〜〜〜可愛いぃー」

我慢出来なくなったクロエがミリをハグする。


ガチャ

「ただいま〜ミリちゃん」

そこへリリスが帰ってきた。














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