第11話

新入生は全部で28人。公爵が一人、侯爵が一人、伯爵が9人、子爵が11人、男爵が5人、騎士爵が一人だった。

爵位を持つ貴族の子供は成人すれば爵位がひとつ下の身分を持つことになる。公爵は王族の親戚なので伯爵位、侯爵は功績が王より認められ王族に準ずる身分なのでその子は伯爵位。伯爵の子供は子爵位、子爵の子供は男爵位、男爵の子供は準男爵位、騎士爵の子供は爵位が無い。準男爵の子供は功績を挙げないと爵位が取り上げられてしまう。

他に爵位として商爵というのがあるらしい。


だから、成人する15歳前の学園で学ぶ者たちはみな爵位の無いただの子供だ。


全寮制だが公爵と侯爵の子供は特別扱いで別棟に小さいながら邸宅があった。元々5棟ほどあり、入学する家が建て替えるなり、改装するなりをして子供に与えるようだ。

公爵と侯爵の子供が別棟になるのは自領の寄子を招いてパーティなどを催すかららしい。


クラス分けなど無く全員が一緒に学ぶので教室は大きく、後に行くに連れ高いところにあり、教壇が見やすくなっている。席は決まっては居ないが身分の高い貴族の子供が後に陣取り座るような慣習があるようだった。


ミリは何となく前よりの廊下側の端の席に座る。その隣に座った者が居た。

「さっきぶり!」


座ったのは入学式で隣に座った黒髪短髪黒目の活発そうな女の子だった。

「わっちの名前はクロエ•オードパルファムなんよ。あんたの名前を教えて?」


とても押しが強そうだった。それに話し方が何だか貴族らしくない。ミリが戸惑って居ると更に勝手に話しだした。

「オードパルファム伯爵領って知ってる?このエライザ王国の東にへばり付くように縦に細長い領で、漁村や港湾がある所なの。あっ、領都はパルファムね。唯一の港湾が有ってもっと東の国との交易があるんよ。あたしのこの黒髪も東の弓月国の血を引いている証拠なんよ。面白いっしょ?」


「えっと・・・クロエさん?」

やっとクロエの息継ぎの合間にミリは言葉を入れる。


「あははは、ごめんごめん。」

クロエが謝った所で教室の前の扉が開けられて大人の先生と思われる男性が入って来た。長髪銀髪で瞳がシルバーだった。先生は教壇の上に持ってきた紙束を置き、全体を見回す。


「俺の名前はバージル•ダンダウェル、騎士爵持ちだ。年は26、既婚だ。」

文句あるのかという様な鋭い眼差しで睥睨するのでみんなが俯いてしまう。ミリは見られる前に下を向いてしまった。バージル先生が最初から怒っているように見えたからだ。


「ハイ!ハイ!質問で〜す!」

そんな雰囲気の中でも気にもせずに質問をする生徒がいた。ミリは近くで聞こえたのでそちらを向くと、クロエが元気よく両手を上げていた。


「何だ?!」

とっても質問を受け付けるのが嫌そうにバージル先生が言う。


「先生の好みの女性のタイプは?わっちらもお嫁さんの対象になる?スキルは何を持ってます?嫌いな言葉は?住処はどちら?奥様のお名前は?専攻は?」


バージル先生はクロエの顔を見て、手元の紙をペラペラ捲り何かを書き込んだ後に言った。

「クロエ•オードパルファム、減点5だ。それと個人情報は秘密だ。余計な事を聞くんじゃない!それから、俺のスキルは『特殊強化』で専攻は武術教育だからクロエには特に念入りに教えて殺る。」


最後のバージル先生の言葉の意味が違ったような気がしたけどクロエはその黒い瞳を燦めかせて笑った。

「是非とも個人教授でお願いしまっす!」

どこからかクスクス笑い声がする。


バージル先生はため息を付いて殺気を収めると名前とスキル名を言う自己紹介をしろと言った。最初は窓側の一番前からだった。印象が強い人がそれなりに居た。


「ミッチェル•アンドネスよ。スキルは『舞踏』」

金髪碧眼のスタイル抜群のとんでもない美人さんだった。髪型は言わずと知れた縦ロール。アンドネス公爵令嬢だと思う。


「マクスウェル•パンドーラだ。スキルは『指揮』」

ピンクブロンドでグレイの瞳を持つ線の細い体型をしていた。パンドーラは侯爵の名前だから侯爵令息だな。


「アビー•セクタフよ。スキルは『超感覚』」

髪色は黄色掛かった赤でポニーテール。瞳は濃い蒼。胸は小さいがスタイルは良かった。バージル先生が騎士爵令嬢だと口を挟んだ。


「クルチャ•ランベックだ。スキルは『予見』」

ランベックは有名な辺境伯てその令息だろう。明るい茶髪でグレイの瞳だったが左右でちょっと濃さが違うように見えた。ミリよりも背が高い。


「ナランチャ•クロールだ。スキルは『呼吸』、男爵の息子だ。」

銀髪短髪で黒い瞳をしている。落ち着いた雰囲気で微笑んで居た。


そして

「クロエ•オードパルファムなんよ。オードパルファム伯爵領は東にある縦に細長い領で、漁村や港湾があるの。それで・・・」


バージル先生が余計な事を言い始めたクロエを止めてスキルを言えと冷たく言い放った。クロエは笑いながらスキルを告げた。

「わっちのスキルは『覚醒』なんよ」


大抵のスキルは女性なら『縫製』『細工』『共感』などで男性なら『剣術』『体術』で重なっていて多かったが彼らのスキルは他に持っている者が居なかった。だがら、聞いたことが無いスキルは少なからず驚きが起きていたが、クロエの場合は暫く静かだったがどよめいたのだ。


『覚醒』って古の勇者が持っていたスキル?神話の描かれた絵本でしか聞いたこと無かったなぁとのんびりミリは思った。ぼんやりしているとバージル先生にお前の番だと名指しされた。

慌てて立ち上がり自己紹介する。

「ミリ•ミズーリですっ!す、スキルは『影』だす!」


あっ、噛んだ。恥ずかし過ぎてミリは俯く。誰の反応も無く静かだった。ただ、何故か珍しいスキル持ちの人達から視線を向けられていた。ミリの頭の中は“はてな“だらけだった。隣のクロエはニコニコしていた。


ミリが最後の自己紹介を終わると2日の休みの後から普通の授業が始まるから遅刻しないようにとの注意を受けて、最初の授業は終わった。

隣のクロエが言った。

「これからもよろしくね、ミリちゃん」


クロエが手を出してきたので思わず握手してしまう。








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