第10話

翌朝、ミリが起きると既にリリスは食事を済ませていた。もしかしたら昨日の楽しさは夢じゃなかったのかとミリは思ったけど、ちゃんとリリスはいてくれた。

「今日はミリちゃん達の入学式で私達は準備があるから先に学園に行ってるね」


ミリは一緒で無い寂しさを感じながらもリリスを送り出した。ミリも制服に着替えて朝食を食べに食堂に行った。まだ早くて誰も居なくて安心した。

まるパンだけでなく幾つかのサンドイッチも余分に取って、じゃがいもスープとトマトジュースを確保するとスキルを使って影の世界に隠れた。ここならば誰にも邪魔されないし気兼ねない。もそもそミリが食べていると影でできた生徒が食堂に入って来るのが分かったので、そのまま自室に移動した。別に邪魔にはならないけど、ミリは目の前に人がいるのが気になるタイプなのだった。


影の世界から出てきたミリは入学式の説明書を読んでそのまま学園に行くことにした。別に早く行っても問題無いし、リリスが言ってた妖精のいる花壇も気になったのだ。ゆっくりと歩いて行けば色々と見て回れると思ったのである。


入学式をする建物はあちこちにある看板を見て直ぐに分かった。でも直ぐに入っても準備している人以外は誰も居ない筈だ。場所の確認が出来たのでミリは花壇を探すことにした。

建物の近くには花が植えられた花壇が並んでいた。花壇には赤や黄色や紫の小さな花を見ることが出来た。その花はミズーリ子爵領などでも冬から初春にかけて良く見かける花だった。ミリは名前を知らなかったがとても綺麗だった。きっと誰かが丁寧に手入れをしているのだろう。

でも、リリスお姉ちゃんが言っていたのは薔薇の花壇だった。そこには妖精がいるはずだった。だから、ミリは薔薇の植えられている花壇を探す事にした。


建物の横を通って行こうとすると建物の陰に数人の生徒が居るのに気付いた。そのうちの一人はリリスだった。

ミリはリリスに声をかけようとしたが大きな音がしてびっくりしてやめてしまった。

「だから、あなたは生意気なのよ!」


それはリリスが頬を叩かれた音だった。リリスが壁を背にして、ピンクブロンドで縦ロールの髪をしたアイスブルーの瞳の生徒が声を荒らげていた。

「私はサブリナ様にもお手伝いをお願いしただけです。」

「伯爵令嬢であるわたくしに力仕事をしろと仰るの?」

「アリスアラン様は侯爵令嬢ですが率先してお手伝い頂けています。」

「はん!あんな人気取り女なんかどうでも良いですわ!」


サブリナと呼ばれた生徒の後に居た3人の生徒が口々に賛同して文句を言う。それにリリスは唇を噛んで耐え忍んで居た。

ミリはそれを見てどうにも我慢ができなくなってスキル『影』を使って影の世界から近付いた。


すると先程のサブリナがまたもやリリスを叩こうと手を上げたのでミリは思わずサブリナの靴の踵を影の世界にに引き込んだ。

踵が沈んだことで後にバランスを崩したサブリナは背後に居た3人の生徒に倒れ込んでしまった。咄嗟に3人が支えようとするが適わなく、4人とも尻もちをついてしまう。


唖然とするリリスだったが、気勢を削がれたサブリナが何とか立ち上がり、残りの3人も立ち上がり尻に付いた土を払う。

「・・・もう良いですわ。とにかく、わたくしはそのようなことは致しません、フン!」


言うだけ言っておろおろする3人を連れてサブリナは行ってしまった。残されたリリスはそれを見送ったが姿が見えなくなったのを確認したのか笑い出した。

「ふふふ、あはははは。あ〜可笑しい。

もしかしてラトゥールが助けてくれたのかしら。でもまだ力を失っている筈だし?」


ラトゥールとは薔薇の妖精でリリスの友達だった。冬に入る前に薔薇の時期が終わり、眠りに付いて力を蓄えているはずなのだ。


リリスはひとり事を言いながら叩かれた頬をさすりさすりその場を去った。

その様子をミリは影の世界から見ていた。そして、上手くリリスを助けられたミリは涙目で笑った。


影の世界から出るとミリは建物の後側まで歩いていった。するとかなり大きな花壇があった。薔薇の花壇だった。でも花は咲いていなかった。古くて枯れた枝や土元の雑草もきれいに取り除かれて、丁寧に手入れがされていることが分かる花壇だった。さすがリリスお姉ちゃんだとミリは思った。それなりに大きかったがリリス以外の他の人の手が入っているとは思えず、嬉しくなって微笑んだ。


薔薇の花壇の向こうには白い建物があり、その見た目から温室かも知れないと思った。温室の中なら花の咲いた薔薇や他の花が見られるかもと思ったが、もうそろそろ行かないと入学式に遅れる。残念な気持ちを残してミリは急いで元の道を戻った。


早めに来た割にのんびりと散歩しすぎたのか、建物の中には生徒が半分程に席に座って居た。後ろの方は座られていて開いている席は前の方が多かったが端の開いている席にミリは座った。周りで案内をしている上級生は何も言わなかったので問題無さそうだった。リリスの姿は見えなかった。


時間と共に席は埋まって行き、幾つかの空席はあったがほぼ全員が揃ったらしい。ミリの左隣は空席だったが後から入って来た生徒が慌てたようにミリの前を通り、座った。ミリを見てニッと笑う黒髪短髪の黒目の活発そうな女の子だった。


知り合いでも無いのにこちらに話し掛けようとミリの方を向き、口を開いた時に時間を知らせる鐘が鳴り、先生達と思われる大人が並んで入ってきて、入学式が始まった。










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