第9話

あたしも行きますとミリは言ってそのまま部屋を出ようとしたらリリスに止められた。


「そんな薄着じゃ肌が見えちゃうわよ」

リリスの指摘にミリの顔が赤くなる。


「上着を羽織れば大丈夫よ。無ければわたしのを貸すわ」

リリスはベッドの下の衣装箱から前閉じボタンの長袖の服を出して肩から掛けてくれる。少し大きくてぶかぶかだった。

リリスがそれを見て笑う。

「なかなか似合っているわよ」


ミリの頬は更に赤くなった。小声でミリは礼を言った。

「ありがとうございます、リリスさん」


リリスは軽く良いのよと言ってミリの手を取って先導した。風呂場まで連れて行かれて、集団での風呂の入り方を教えて貰う。

脱いだ服を入れて置く籠や身体を擦る柔らかなタオル、泡立てて身体を洗う石鹸、上がって来たら自由に使える乾いたタオルなどを教えて貰う。

いちいちびっくりするミリにリリスは笑いながら優しく教えて、風呂場に入った。前をほとんど隠すことなく中に入って行くリリスの後をタオルで一生懸命前を隠すミリとは対照的だった。


中では桶が用意されており、これで湯船からお湯を汲み出して洗う。実家に帰ればメイドなどに手伝って貰えるであろうリリスも気にせず自分で汲んている。

ミリも真似をして桶に湯を組み上げるが上手に出来ない。体つきは大人びていてもまだまだ力が足りないようだ。


四苦八苦しているミリに笑いかけながらリリスが手伝ってくれた。

「洗ってあげるから後ろを向いて頂戴!」


恥ずかしくて思わず

「いいです、良いです!」


と声を上げてしまったが、リリスさんは言った。

「最初くらいなものよ。一緒にお風呂に入れるなんて。お互いに生活パターンが違ってくれは話す事も出来なくなるのだし・・・」


言葉尻が小さくなるリリスさんの話し方は何か寂しそうだった。

「それよりもミリちゃんの肌って綺麗ねぇ〜。色も白いし」


そんなことを言いながら丁寧に背中を洗って貰うととても気持ちいい。

「ええっと、あたしは外にいるのが苦手で家にばかり居たからですよぉ。それよりもう大丈夫なのでリリスさんの方をあたしが洗います!」


恥ずかしさの余りミリは身体の向きを変えてリリスと向い合せになる。そのせいでミリの身体の正面の泡で隠しようが無い部分を見られてしまった。

「あっ!」


ミリは慌ててタオルと手で自分の胸を隠した。リリスが目を見張る。

「まぁ、大きいのね」


何がって胸の事だろう。ミリは自分の胸が背丈の割には大きいことにコンプレックスを持っていた。散々エリザに嫌味を言われていたからだ。将来男垂らしになるだの、これ見よがしに見せつけるだの、偉そうにするんじゃないとまで言われていたのだ。だから大きな胸は良くないと思っていた。


「恥ずかしがることないわ。ミリちゃんの身体は素敵よ。学園で鍛えたり、遊んだりすれば筋肉も付くし、背も伸びるから気にしなく良くてよ」

そう言ってくれるリリスの身体は少し日焼けしているのか服の線が出るぐらい焼けて健康そうだ。胸は小さく無いし、お腹もミリみたいにぷっくらしていなくて、腹筋の窪みが見えてとても健康的だ。


「あたしもリリスさんみたいになれるでしょうか?」

思わずミリは聞いてしまった。にっこり笑ってリリスは背中を向けた。


「大丈夫よ。だってまだまだこれからですもの。」

ミリが洗い始めたリリスの背中は先輩というだけでなくとても広く見えた。ミリは気持ちを込めて一生懸命にタオルで擦る。リリスも気持ち良かったのか吐息を吐いた。


「ありがとう、ミリちゃん上手ね。また、一緒のときはお願いね」

「はい!もちろんです!」


ミリが力強く答えたものだからリリスが笑った。

身体の泡を流して二人して浴槽に浸かる。そこそこ深くてミリだとお尻を底に付けられなくて中腰になってしまったが、リリスは頭を浴槽の縁に乗せて身体を浮かせる。

楽ちんそうなのでミリもリリスの真似をする。それを見たリリスがまた笑った。

「こんな入り方は他の誰もいない時だけね。ほら、誰か来たみたいだからやめましょ」


ミリも笑って従った。

話をしながら他の生徒が入って来たのでふたりとも無言になってしまったが暫くして浴槽から出た。リリスの後をミリは慌てて追う。

温まった身体をリリスが拭きながらミリにやり方を教えてくれる。使い終わったタオルの置き場所や濡れた髪の乾かし方などだ。

新しい下着に着替えて服を着終わって部屋に戻るまで他の生徒がいるせいかリリスはあまり喋らなかった。


でも、部屋に戻るとまた話しかける。

「どう?大きなお風呂もいいものでしょう?」


確かにリリスの言う通りだったが、それはリリスと一緒に入ったからだとミリは思った。

「はい!でもリリスさんと一緒だったからです。楽しかったです!」


こんなにも気持ちを素直に出せて楽しいのはミリにとって初めてだった。

「まるで、リリスさんがお姉ちゃんみたいです。お姉ちゃんは居ないんですけど・・・」


「私もミリちゃんが妹みたいな気がしてるわ。妹はいないけどね、うふふ」


寝間着に着替えてお互いにベッドに腰を掛けて話しをする。身体が暖かくて気持ちよく話が出来たためか眠くなってくる。身体を横たえながらミリはリリスと話しを続けている。


リリスはスキル『妖精』のお陰で薔薇を上手く育てられて、花ともお話する楽しさを語る。


ミリはスキル『影』のお陰で影の世界という不思議な世界を独り占めしていることを語る。


ミリはリリスに妖精の姿やその可愛らしさを聞き、リリスはミリに影の世界の不思議な風景を聞く。やがて、ふたりは夢の世界へ。










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