第8話

リリスと同席してはむはむしていると何故かリリスにほんわかと見られた。ミリは不思議に思う。


やがて食堂にやってくる生徒が増え、リリスに声を掛ける者が多くなった。大抵はミリをちらりと見るだけでミリに声は掛けてこない。

なのに大きな声でミリに声を掛けて来た者が居た。エリザである。何故か後に数人の人を従えている。

「あらあぁ〜、『影』スキルのミリじゃなぁい。」


知っているのにわざわざ、言わなくても良いことを言う。多分周りに言い触らしたいのだ。ミリは視線が自分に集中するのを感じて食事の手を止めて俯いてしまった。

「あらあら、ご挨拶ねぇ。一緒の馬車で来たのに挨拶も無いのぉ〜」

「・・・・こ、こんばんわ・・エリザ様・・」


エリザが屈んで耳に手を当ててこちらに向ける。

「なんですって?!よく聞こえなんですけどぉ〜」


ミリがもじもじとしているとエリザは呆れたようにため息をつく。エリザの後ろからクスクス笑いが起きる。

「はあぁ〜相変わらず鈍臭いわねぇ〜、まあ良いわ」


一声ミリに声を掛けて意地悪出来たから気が済んだらしい。エリザはリリスに向いて自己紹介し始めた。

「ごきげんよう、私はエリザ•ダンダン。ダンダン伯爵の娘よ。名前を教えて頂けるかしら」


「ごきげんよう、エリザ様。アマリリス•ボアンよ。ジュゼッペ侯爵の寄子のボアン子爵の娘よ。」

リリスがわざわざ寄親の名前を出して皮肉る。


「あら、なんだ。子爵の娘なのね」

エリザの後に居たエリザと同じくらいの背の痩せた女の子が小声で耳元で囁いた。


「そっかあ!子爵は子爵同士の相部屋なのね!まぁミリ相手じゃ可哀想なこと!この子は『影』だから詰まらないわねえ〜」

リリスが子爵の娘と分かったからか興味を失ったらしく、笑いを残して離れた席にどつかりと座った。周りに居た女の子達にあれこれ指示を出して自分は動かない積りらしい。


エリザが居なくなってミリはほっと息をする。それをリリスは見て複雑な顔をした。

「あれがエリザね、ミリちゃんに同情するわ」


どうやらリリスはエリザの事を知っているらしい。ミリがリリスを伺うように見るとリリスは話してくれた。

「同年代の女の子が居る領に頻繁にお茶会をするからと連絡したり、遊び回って居る女の子が居るという噂があったのよ。それがあのエリザね。」


エリザは悪い噂でだいぶ広く知られていたらしい。ミリは自領に引きこもってスキル検証していたからそんなことは知らなかった。


「それにミリちゃんの事を悪く言い触らしていたみたいね。だから少し私も知ってるわ。ねぇ、教えてくれるかしら。エリザの言っていた『影』ってスキルの事よねえ」

ミリは動揺した。どうしよう、エリザみたいに馬鹿にされたら同室に居られない。


ミリの顔が曇ったのに気付いたリリスが言う。

「あら、言いたくなかったら良いのよ。ちょっと聞いたことが無いスキルだったから気になっただけだから」


リリスが優しく言ってくれたお陰でミリは安心出来た。何故かリリスは安心出来る。

「あ、あたしのスキル『影』は影の中に隠れる事ができるスキルなんです。」


「まぁ、珍しいわね。じゃあエリザが来たら逃げられるって訳ね、うふ」

悪戯っぽくリリスは笑う。それ以上聞いて来ないリリスに思わず聞いてしまう。


「あの、リリスさんはどんなスキルなんですか?」

聞かれると思っていたらしいリリスが答える。


「わたしのスキルは『妖精』よ。このスキルは妖精とお話が出来るの。ドアン領じゃ薔薇の花の妖精と良くお話していたわ」

凄いスキルだ。学園にも沢山の花壇もあるから妖精も沢山住んでいるのだろうか?

思わず残っていた食事の手を止めてミリは聞いてしまう。


「学園でも妖精さんは沢山居ますか?」

「それがねぇ〜、あんまり見かけないのよ。話を聞くと良く分からないけど住みづらいらしいわ。」

妖精も人が多い所は苦手なのだろうか。ミリも妖精に会いたかったから残念だった。


「淋しいですね、妖精さんに会いたかったな」

ポツリとミリが言うとリリスがにっこりする。


「ミリちゃんがドアン領に来た時に逢わせてあげるわ」

思い掛けない言葉にミリは嬉しくなった。


「それは楽しみです!」


ふたりは食事を終えて部屋に戻り、ミリは寝間着に着替えた。すっぽりと頭から被る貫頭衣のような柔らかい薄緑の服だ。リリスを見ると制服を脱いで桃色のパンツスタイルの服に着替えていた。

「私はお風呂に行ってくるわ、ミリちゃんはどうする?」


下着以外は手ぶらだから多分お風呂に使う物は風呂場にあるのだろう。それを聞くと洗い物はベッド下の容器に入れて置くと洗濯して、隣の容器に畳んで置いてくれるらしい。勝手が分からなかったのでミリも下着を持ってリリスに付いて行くことにした。



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