第6話

王都のパーティが終わってからエリザがミズーリ子爵領を訪れる事は無くなっていた。その代わり他領に出向いたり、招いてお茶会をしているようだった。

ミリは自分に関わって来なければ良かった。平穏な日々が過ぎていた。


その間にミリは影の世界を探検していた。

影の世界は不思議な世界だった。現実世界が逆転したような世界で有りながら現実ではあり得ない事が出来た。


歩いても歩いても疲れない。


行きたい所を念じれば歩かずともそこに行ける。


生き物を影の世界に連れてくると時間が止まったように動かなく成る。その姿は現実の姿はと異なり光で出来た生き物みたいだった。そしてそのまま現実世界に戻すとその姿で絶命してしまった。


初めて生き物が死んでしまった時は心が冷えたのでそれ以降生き物を影の世界に引き入れるようなことはやらない事にした。


夜に影の世界に行ってみたが、光が多すぎて何もかも見えなかった。夜に出歩くのと変わらなかったのだ。現実世界に戻るにも入った自分の部屋でないと戻れなかった。


雨の日に影の世界に行ってみたが、雨が降っているのは分かったが濡れないし、夜の場合と同じで出歩くには不都合だった。ちなみに灯りを持って影の世界に行けば影が照らされて歩く事が出来た。不思議な光景だった。


昼間の天気の良い日が影の世界に行くには良かった。


ミリは人に知られずに影の世界を堪能していた。


やがて、ミリが12歳の年がやって来た。子爵領でも勉強はしていたが王都の学園に入るのだ。

ミリには憂鬱だった。この頃には既に人と接するのが苦手なコミュ症になっていた。


ミリの父親と母親にはミリのスキル『影』は隠れる事が出来るだけのものだと嘘を付いていた。影の世界を知れは知る程に知られることを恐れた。

ミリは命令されたりしたら自分は逆らえ無い事を知っていた。そうしたら何をさせられるか分かったものでは無かった。犯罪のようなやりたくない事をさせらるだけでなく、危ないことをしなくてはならなくなったらと思うととても怖かった。


ミリの父親はとても優しい領主だった。ダンダン伯爵への納税と領を治める為の税以外は取ろうとしなかったし、公共の福祉の為には尽力していた。

ミリの母親も慈悲深く、領の孤児院を援助していた。訪問して子供達の相手をするだけでなく、必要なら養子縁組もしていた。


ミズーリ領に住む住人も領主を好んでいた。だからダンダン伯爵領で税の重さに苦しんでいるものは移り住んでいた。他領への移住は基本的に許されていなかったが、親戚を頼っての移住は可能だった。その代わりダンダン伯爵領へ財産は全て納付しなければならなかった。身一つで移住する事を望む程ダンダン伯爵領の税率は高かった。


ミズーリ子爵領には特産品などは無かったが自然だけは豊かだった。エライザ王国の中央に南北に連なる連峰を囲むような森があり、そこに接していたからだ。

森は深く狩りを専門とする狩人や魔物を狩ることを専門とするようなハンターと言われる者以外は近づか無かった。狩人やハンターはギルドと呼ばれる互いの利益を保護する組織を構成して所属していた。

身寄りの無い者や食い詰めた者が森の浅い所で生活をしようとしても狩人やハンターに見つかり追い出された。そのような者が魔物を避けて動物を狩って生活をしようとしても技術や知恵が無ければ不可能だった。

だから狩人やハンターは身寄りの無い者やハンターになった。保証人や出自を問わず自己責任という厳しい現実を突き付けられながら身を削ったのだ。詰まり、失敗は死に繋がって居た。

小さな孤児は孤児院に入れれば、身一つで逃げて来たものは就職斡旋所で職を得られれば何とか生活が出来た。

故に、狩人やハンターになるには年齢制限も性別も犯罪歴も問われない、ただ登録さえすれば良かった。勿論無料では無いが互助の為に借金も指導も受けられた。


狩人やハンターは他領にも居たがミズーリ子爵領に特に多かったのは特別な理由があった。森の深い場所に点在する沢山の『穴』である。『穴』の中には魔物が生息していた。『穴』がいつ出来てどのようになっているかは誰も知らなかった。


『穴』はダンジョンと呼ばれていた。


『穴』の中の希少な魔物を狩ったり、中で帰らない人となったハンターの武具防具を持ち帰る事で利益を得ることが出来た。


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