第5話

華やかなパーティの中でミリは辛かった。エリザに連れ回されたからだ。行く先々でエリザは自分のスキルよりもミリのスキル『影』の話をして貶める。


最初のうちはミリに同情の目を向けたり、曖昧な笑いで誤魔化す子ばかりだったが段々とエリザのように馬鹿にした目をするだけでなく、一緒になってきつい事を言う子が出てきた。

エリザがスキル『共感』を意識して使っていた訳では無いだろう。だが、スキルの力が働いたように初対面の子から心無い言葉がミリを傷つけた。ミリ自身もエリザの言葉のように自分のスキル『影』が役立たずのような気持ちがして心が沈んで行き、俯いてしまう。


エリザの容姿は10歳の子供らしくまだ未成熟で胸も無く、ニキビも多かった。対してミリの体つきは既に大人のように胸もくびれも出来始めていた。そして、侯爵の末裔らしく美人であった。そのことがエリザの嫉妬や僻みを生んでミリのスキルを貶める事に繋がって居たのだ。


我慢してエリザに付き添っていたがミリはとうとう逃げ出した。


何処をどう逃げようとしたのか分からないが、気が付くとミリはスキル『影』を使って影の世界に逃げていた。


不思議な世界だったがミリには影の世界だと分かった。スキルが教えてくれたのかも知れない。

影の世界は光と影が逆転した世界だった。人の姿をした影は歩き回り、輝いて居るはずの燭台の光は影を放っていた。影が落ちるべき場所は光に満ちていた。


人の声は無く静かだった。歩き回る人の影はミリにぶつかる事なく通り過ぎていく。ミリは気兼ねなく歩く事が出来る事に気持ちが楽になった。


お腹が空いたのでテーブルにある料理を取りたいと思うとそれを取る方法が分かった。

光の影から手を出して掴めば影の世界に取り込めるのだ。そうやってミリは美味しい料理を沢山堪能した。

使った皿やナイフは手を離すと落ちる事なく、不思議なことに空中を浮遊している。しかも、ミリが影の世界から現実世界に戻さない限りそこにあることが分かった。


ミリが歩くとふよふよと付いてくる。

なんだか愛らしい小動物のようだった。


料理の乗った小皿も食べずに離して置けばそのままの状態で腐ったり、ひっくり返ることは無い。スキルがそう教えてくれた。


面白くてミリはあちこちの料理やらデザートのケーキや果物を影の世界に取り込んで歩き回る。魔法のように楽しい時間だった。


やがて、王様がパーティの終わりを宣言して退出するとミリの父親がミリを探しているのが分かった。ミリはカーテンの光の影から現実世界に戻った。


ミリは自分のスキル『影』の使い方を知ったのだった。


エリザもパーティで他の子と話すことで自分のスキル『共感』の使い方を知ったようだった。







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