Case.2-1 猫アレルギーの彼女

 ちょっとオシャレな飲み屋で開かれた合コン。

 親友の柳瀬からどうしても一名足らないから出てくれと懇願された僕は、今度豪華ランチをご馳走になることを条件に渋々参加している。


 陽キャラ数人が話題を盛り上げている。この合コンもそこそこ良い感じに進んでいるようだ。だが、いつものように僕はテーブルの端の席でちびちびとジントニックを飲んでいた。

 何度かの席換えが強制的に行われ、女の子が代わる代わる僕の前に座る。だが、やっと会話を振れたと思っても長続きせず、結局社交辞令的な内容に終始してしまう。

 その結果、女の子達はいつの間にか席を移動してしまい各所で繰り広げられる会話に首を突っ込んでは大笑いをしている。


『ま、しょうがないや。こういうの慣れてるから』


 心の中で毒づいた時、「ここいいかな?えっと、初めましてだね。何飲んでるの?」と明るい声が降り注いできた。

 どうやら、化粧室から戻ってきたら自分の席に誰かが座っていて、仕方なく僕の前に来たようだ。


「どうも。これ!?ちょっと濃いめのジントニックにライムを二個分タップリ入れて貰ったスペシャル版」


「あ〜〜。美味しそう〜〜。私もそれにしよっ。すみません!!これと同じものください」


 彼女は、僕の前に座りながら店員にオーダーをする。

 どれくらい飲んでるんだろう?顔は赤く良い気分という感じ…。いや、もしかすると相当酔ってるのかもしれない。


「私、イーゼルという会社の総務で働いている平山未歩ひらやまみほっていいます。よろしくお願いします〜〜!」


 イーゼルといえば、僕の会社の超お得意先じゃないか。どうやら柳瀬は、取引先の女子と合コンを企画したらしい。

 それにしても、参加している全員がとても可愛いのはどういうことだろう。まあ、こちらも悔しいが柳瀬を筆頭にまずまずのイケメンが揃ってるから、柳瀬のチョイスに決まってるんだろうが…。

 あーあ。普通以下なのは、僕ぐらいかもしれないな…。


「うん。僕は、オリエンニーズの企画室にいる……」

「知ってるよ。私、貴方のこと」

「へっ?」

「だって、有名だもん。私達の中ではね」

「え、だって、そんな僕なんかが有名っておかしいでしょ」

「それがね、ふふふ。合コンに来ても端で一人で飲んでるちょっと孤高な男の子がいるってこの前話題になったんだ」

「えっ、そんなことって」

「だから、今日、すぐ貴方のことわかっちゃった。噂通りなんだもん。ははは」


 全く笑えない…。

 だって、合コンなんて、僕は正直苦手なんだよ。女の子と何を話していいかもわからないし、それに、僕の話なんて面白がって聞いてくれる女の子っていないと思うし…。


「ねぇ、ちょっと話そうよ。じゃあ、まず、じゃんけんね。勝った方が一つ質問が出来るってのどう?」

「う、うん。いいけど…」

「じゃあ、いくよ。最初はぐー!じゃんけんぽん!やった〜私の勝ちだ!」


 僕はいつも最初パーを出して負けるから今日はあえてチョキにしたのにこんな時に限って相手はグーを出す。

 ほんといつも僕はこうだよな…。

 

「では、質問です。貴方は、これまで素敵な恋愛をしたことがありますか?で、今、彼女はいますか?」

「あの…、平山さん、なんか質問が二つになってるんだけど…」

「いいじゃない〜。だって、知りたいんだもん。サービスしてよ〜」

「まぁいいけどさ。素敵な恋愛はしたことありません。片思いはあるけど告白できずに終わったという感じ。で、今も昔も彼女はいません」


 絶対に酔ってるな…。

 彼女は、下を向いたまま顔が真っ赤になっている。

「良かった…」と彼女がぼそっと呟いた。

「ん?良かったってなにが?」と聞いてみる。


 すると、「あ〜〜!!!違う違う、独り言〜〜スルーして!!」と両手をバタバタさせる平山さんを見ていると自然にクスッと笑いが出た。


「じゃあ、もう一回いくよ。最初はグー、ジャンケンポン!あ〜〜、また勝った!」

 ほんと、僕はジャンケンとかおみくじとか全てにおいて苦手なんだよな。


「第二問目です。貴方は犬派ですか?猫派ですか?」


 この問題には即答出来る。「はい。猫派です」

 彼女は、何故か以外?というような表情を見せ再度聞いてくる。


「もしかして、猫ちゃんを飼ってるとか?」

「うん。僕はペット可のアパートに住んでるんだ。そのアパ−トにたまたま捨て猫達を保護して避妊などしている団体の理事さんがいて、その人から公園に捨てられていた猫を預かってるんだ。まだ、二歳なんだけどほんと可愛いよ。寒い時は僕の布団に入って寝るんだ」

「そ、そうなんだね〜〜。写真ある?」

「うん、あるある。待ち受けにもしてるし、沢山あるよ。はい、これ、可愛いでしょ?こいつ絶対、すごい男前になると思うんだ」

「名前は何というの?」

「ニーと呼んでるんだけど、まだ、全く自分の名前に反応しないんだよね〜」

「ふふふ。可愛いね〜」

「そうでしょ!?もし良ければ今度僕の部屋においでよ。ニーも違う人が来たら喜ぶと思うし…。あっ、変な意味ではなくてね…。その…」

「う、ん。そ、そうだね。近いうちにね…」


 それからの僕たちは何か最初よりもぎくしゃくしてしまい、結果なんの約束も取り交わさず、合コンはお開きになった。




Case.2-2に続く…。

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