冬のはじまり

CHOPI

冬のはじまり

 ついこの間まで、『今日はあたたかいねー』なんて会話をしていたのに、びっくりするくらい急激に冷え込んだ。だけどそれも当たり前だ、カレンダーはもう、一年の最終月に入ったところだ。少し早いか……?とは思いつつ、寒さに耐えかねて冬支度を始めることにした。


 押入れをガサゴソと探っていく。一年前、『また来年』と奥にしまい込んでいた天板と足、布団にカーペット――……こたつのセット一式と、それから湯たんぽ。急激に冷え込んだ、とはいえ、これからしばらくはまだ、昼間の気温は少し上がるだろうから、暖房器具を昼間に使うのは暑いかな……?とは思うけど。それでも平日の夜、仕事終わりに外気にさらされながら帰ってきた冷たい身体は絶対、こたつに入ったら抜け出せなくなるんだろう。それと合わせて、湯たんぽにほっこりと温められた、ふかふかのお布団に入る幸せも堪能したい(……寝る前に少しだけヒヤッとする布団にもぐって、自分の体温で温めるのも嫌いではないんだけれど)。


 せっせとこたつを準備して、湯たんぽをキッチンの横に置いておいて。この際服も、今着ている秋物から、温かい冬物へと変えてしまおう、と秋口にお世話になった少し薄手の長袖類からセーターや厚手のパーカーに入れ替える。冬用の布団、毛布も出して、気が付いたら意外と作業量が多くなっていた。出した冬物と入れ替えるように秋物をまとめてしまって、『また来年お世話になります』と心の中で一礼をしながら、押し入れの中にしまい込む。そういった準備が一通り終わって、ようやく一息。

「よし」

 こたつのスイッチを入れた時、ハッとした。

「あ、あれ、まだ買ってなかった!!」

 

 出したばかりの冬物のアウターを羽織る。この時期、下がどんな服だとしても(行儀悪く例えパジャマだとしても)、アウターを羽織っちゃえばわからないのがありがたかったりするよな……なんて思う。玄関から外に出ると、顔に触れる風の冷たさがいよいよ冬の到来を告げる痛さに変っていて、呼吸をすると鼻の奥が風の冷たさでツンとする。『もしかして……』なんて淡い期待を持って「はぁーっ」と息を吐くと、それがもう真っ白になったのを見て、『寒いわけだよ』と思う。


 近所のスーパーに駆け込んで、赤いネットに入ったオレンジ色の山を掴んでレジに通す。こたつを出したのに、これが無いのはやっぱりさみしいので。家について冷たいのを我慢して手洗い・うがい。ここまで耐えれば、もう、寒さに凍えるのはおしまい!

「あったか~い」

 家を出る前につけておいたこたつがしっかり温まっていて、冷えた体をあっためてくれる。買ってきたばかりのオレンジ色の山をテーブルに出して、その上から一つ手に取って皮をむく。甘酸っぱい香りが鼻腔をくすぐって、今年初のみかんを一口。

「あまくて、すっぱ……」

 みかんのはじまりの季節。まだシーズン初めのそれは、完成された甘いだけの味では無く、まだ少し酸味も強めに感じられるもので。……あーあ。失敗したなぁ。魔法瓶にお湯を入れておくんだった。少し濃いめに入れた緑茶が欲しくなってしまう。

「……でも、今は、むりよ……」

 だって、こたつだもの。入ったら出られないのは、経験者ほど共感してくれるでしょう。


「とりあえず、今はいいや……」

 こたつから出るのはしばらく諦めた。何をするでもなく、ただこたつの中で温まっていると、やってきたのは心地よい眠気。少しずつ意識が引っ張られていって、現実と夢のはざま。フワフワと揺蕩たゆたう意識の中、今より少しだけ若いお母さんの『そこで寝たら風邪ひくよ!』の声が聞こえた気がして。

 「だいじょーぶ、わかってるよー……」

 


 もうすぐ年末。少し実家に帰りたい気持ちが強くなった、冬のはじまりのとある日。

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