第0.3話 出会い、そして友達に


「お前、俺の友達になってくれねえか?」


「と、友達‥‥!?」


「友達になってほしい」。

彼からそう言われるまで、僕は友達を作るなんて考えた事もなかった。

自分の課題に取り組める力と周りからの評価に満足していた僕は、自分の側にいる[友達]は必要無いと思っていたからだ。


「うわっ、あいつあの想為さんを誘い込んでるぞ‥‥」

「颯杜の奴、あの蒼人さんを手中に納める気かよ‥‥」

「颯杜め、蒼人君に変な事したら許さないぞ‥‥」


教室の片隅からひそひそと話し声が聞こえてくるが、闘嵐君はお構い無しに僕に話しを進めてくる。


「な、なんで僕と友達になりたいの‥‥?」

「そりゃ、お前ってこの学校で一番の天才だろ?

学校一の人気者であるお前を俺の友達の一人に加えたら、俺ももっと人気者になるかなーって思ってさ。」

「え、えぇ‥‥」


闘嵐君のこの返答、僕を利用して自分が人気になりたいという本音がだだもれだけど、いつも自分の欲望に従ってる闘嵐君らしい返答だと思う。


「うーん、僕は‥‥」

「ああそれと、俺の他にもう一人お前と友達になりたいって言う奴がいてな。」

「えっ‥‥?」

「おーい、光差コーサー!」

「う、うんっ‥‥」


颯杜君が教室の扉の方を向いて呼び掛けると、一人の女の子がひょこっと顔を出した。

可愛らしい人だな思いその女の子の顔をよく見ると、女の子の顔にも心当たりがあった。

[光差]と呼ばれる女の子は礼儀正しく教室に入り、どこか緊張した様子で僕と闘嵐君の元まで歩いて来た。


「あの、想為君、だよね?」

「は、はい、そうです。」

「えっと、はじめまして、鳴日光差なるひコーサ、です‥‥」

「鳴日さんってたしか、この学校で皆勤賞を取って座学の成績も上位をキープしてる、あの鳴日さんですよね?」

「えっ、私のこと覚えてくれてるんですか‥‥!」

「うん。僕、成績上位の学生の事は覚えるようにしてるから。」


正直な所、自分の成績を確認する時に(自分と張り合ってくれる学生はいないかな)と自分の上下に書かれている人の名前をチェックしている。

その際ほとんどの人は僕より下の順位の人ばかりだけど、いつかその人と関わる事があるかもしれないから、自分の近くに書かれている人の名前を覚えるようにしていた。


「こいつ、お前が世界の知識を覚えて有名になった頃からお前のことが気になってたらしくてな。

俺が「想為と友達になりに行く」って言ったら、こいつが「私も想為君と友達になりたいから一緒に行かせてほしい」って言ってきたんだ。」

「うん、私一人で想為君の所に行くのは心細かったから、誰かと一緒について行きたかったの。」

「へぇ、そうだったんだ。」


この頃から思ってたのだが、僕と話しをする時みんな僕に対して緊張してるのだろうか。

僕は大事な事を覚えるのが上手なだけで、いたって普通の人なんだけれども。


「んでなーこいつ、お前のことすk」

「ワアアアアア!! ダメダメ言っちゃダメ!!」

「‥‥?」


颯杜君が光差さんに関する何かを言いかけた所を、光差さんが慌ててふさいだ。

その時光差さんは顔を赤く染めていたが、当時の僕はこの時の二人の気持ちを汲み取れなかった。

そして颯杜君の口を慌てて塞ぐ光差さんを見て、にぎやかに会話をする二人が、とても仲良しそうに僕は見えた。


「とにかく! こいつはお前と仲良くなりたくてしょうがねえんだ!」

「そ、そっか‥‥」

「うー‥‥」

「というわけで蒼人、俺達と友達になってくれ。」

「お、お願いします‥‥」

「うーん‥‥」


僕は悩んだ。

友達を増やすために僕に友達になろうと誘ってくれた闘嵐君と、勇気を出して僕の元まで来てくれた鳴日さん。

この二人からのお誘いを断るのは、気が引けた。

でも、それでも僕の考えは変わらなかった。


「誘ってくれた二人には悪いけどやっぱりお断りしようかな‥‥」

「えっ‥‥」

「‥‥‥」


僕からの返事を受けて、鳴日さんはとても悲しそうな顔をした。

鳴日さんの悲しそうな顔を見て、僕は強い罪悪感を覚えた。

でも、闘嵐君は僕の返事に納得していなかった。

闘嵐君は鳴日さんの顔を見て、決意を固めたような顔をしていた。


闘嵐君は、引き下がらなかった。



「お前、なんで友達になる誘いを断ったんだ? 友達になる誘いなら受けても困る事ねえだろ。」

「えっ? そ、それは友達を作る事に興味無いから‥‥」

「興味無いだぁ? そんな理由で友達になる誘いを断るのかよ。」

「‥‥‥‥」

「‥‥俺にはわかるぜ。お前、友達作るの下手だろ?」

「‥‥!」


図星だった。

と言うより、当時の僕は本当に友達を作る事に興味がなかったから、友達を作ろうとも思っていなかった。


「俺は幼い頃から友達を作る楽しさを知って、これまで沢山の友達を作ってきた。

そんな俺だから断言出来る。

今から友達を作るために行動しないと、お前は絶対後悔する。」

「‥‥‥」


この学校の人気者で、彼をしたう学生達が闘嵐君の言う事には、説得力が感じられた。


「友達がいる事のメリットは山ほどあるが、沢山友達がいるだけでゲームやアニメが楽しくなるんだ。

何より自分の心に穴が空いて辛い気持ちになった時、そばにいる友達が心の穴を埋めてくれるんだぜ?」

「‥‥!」


闘嵐君が話した[友達がいるメリット]に、僕はたしかな魅力を感じた。


あの日、父さんに想為一族の秘密を知らされて、僕はたしかに辛い思いをした。

いつか僕があの日のように辛い思いをした時に、僕の目の前にいる二人が、そばにいてくれる友達が、僕の心に空いた穴を埋めてくれるとしたら。

そう考えて、友達は必要無いと思っていた僕の考えも、変わった。


「改めてもう一度聞かせてくれ。お前は本当に、俺達の願いを断るのか?」

「‥‥っ」

「‥‥いや、たった今気が変わった。

二人共、僕の[友達]になってほしい!」

「‥‥!!」

「よっしゃあ!! それじゃあ今から俺達三人は[友達]だぜ! これからよろしくな、蒼人、光差!」

「よ、よろしくお願いします‥‥!」

「‥‥うん!」


こうして僕と鳴日さん、闘嵐君は[友達]になった。

この三人の[友達]と言う関係は大人になってもずっと続いてゆくことになる。

やがてこの三人の関係は[幼馴染]となり、これから三人の[幼馴染]の絆がより強くなってゆくのは、まだ先のお話だ。

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