第3話

「それでは、二人にはここで親睦を深めてもらおうか」

グローサ王はそう言うと、ゴードン王子とライラに席に着くよう促した。

「私たちは少し中庭を散歩いたしましょう」

グローサ王妃はゴードンに微笑みかけてから、部屋から出て行った。


部屋にはメイドとゴードン王子、ライラの三人だけになった。

「よかったら、紅茶を入れてきてくれませんか?」

 ゴードン王子は優しい声でメイドに頼んだ。

「少々お待ちくださいませ」

 メイドが応接室を出る。


 二人きりになった部屋には、気まずい沈黙が流れた。

「私のことが怖いですか? ライラ様」

「いえ、そんなことはございません」

 ライラは髪で隠れたゴードンの顔をちらちらと見ては、目をそらした。

「私の顔は、醜いですからね。気になるでしょう?」

 ゴードン王子は少し寂しそうに言った。


「あ、あの、もうしわけありません。お気になさらないでください」

 ライラはそれだけ言うと、言葉に詰まった。

「弟は私と違い、社交的なのですが……」

 ゴードンがそういったとき、メイドが紅茶を運んできた。

 二人の前のテーブルに、紅茶とクッキーが置かれた。


「どうぞ、お召し上がりください」

「ありがとうございます。……いただきます」

 ライラは紅茶を飲み、クッキーを一口食べた。

「美味しい……です」

 ゴードン王子はライラの言葉を聞いて、嬉しそうに微笑んで言った。

「それはよかったです」

 ライラは噂とは違い、穏やかではかなげなゴードン王子に良い印象を持った。


「ゴードン様は……、思っていたような方では無いのですね」

「どう思われていたのですか?」

「噂、ですが。傲慢で、贅沢で、わがままだという話を聞いておりました」

 ゴードンはライラの話を聞いて、苦笑した。

「私はこの顔ですから、表に出るのは嫌いで……。舞踏会やお茶会には弟のマルクに行ってもらうことが多く、そこで誤解が生まれているのかもしれませんね」


 ライラは目の前で憂鬱そうな表情を浮かべるゴードン王子を見て、おもわず言った。

「あの、私、趣味でお人形を作っております」

「そうですか? 素敵な趣味ですね」

 唐突な言葉にゴードン王子は困ったような表情を浮かべている。

「あの、もしよろしかったら、ゴードン様に似合うような仮面をお作りいたしましょうか?」

「仮面?」


「はい。ゴードン様は素顔に抵抗がおありのようですから、仮面で隠せば少しは気持ちが変わるかと思いまして」

 ゴードン王子はライラの提案に驚いたようだったが、すこし目をつむって考えた後に口元がゆるんだ。

「仮面をつけるとは、考えたことがありませんでした。……楽しみです」

 ライラはゴードン王子に似合う仮面を考え始めた。


 ドアをノックする音が聞こえ、グローサ王たちが戻ってきた。

「友好はふかめられたかな? ゴードン」

「ええ、父上。ライラ様に素敵なものを作っていただけることになりました」

 ライラの父がたずねた。

「何を作るんだい? ライラ」

「それは……」

 ライラがこっそりゴードン王子のほうを見ると、ゴードン王子は口に手を当てていた。

「秘密ですわ、お父様」


 クロース辺境伯たちは、ぐろーさ王と簡単なあいさつを交わし、帰りの馬車に乗った。

 流れていく景色を見ながら、ライラはゴードン王子に似合う素敵な仮面を想像して、ワクワクしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る