第43話 はい、無関係です。

 「それで? ただ僕の“命素”を確認するためだけに、この世界に介入しに来たんですか貴方は。」

 《お前は不確定要素が多すぎる。》


 アスナル様は…アスナル様を乗っ取った何者かは長考を止め、真っ直ぐ僕の目を見ながら言った。表情は…怪訝そうだ。


 「人はみんな不完全な生き物なんですよ。」

 《…何を上から目線で、知ったかぶりかましているんだ。》


 「こんな人畜無害な可愛らしい8歳児なんて、どこの世界を探しても見つかりませんよ! 可愛いの塊です!というか可愛いしかない!」


 そんな僕の軽口にツッコミもせずに急にキッと睨まれた。


 《貴様を消した後、異常を知らせる警告音が鳴った。その異常とは星の急激な衰退…すなわち死だ。》

 「えっ、いきなり何の話? それが僕と何の関係が…」


 《星というのは簡単に誕生するものではない、それこそ何百万、何千万という確率をかいくぐって産まれ、順調に育つのはそれこそ天文学的な確率なのだ。》

 「えっ? なおさら僕と何の関係が…」


 《6つだ。》

 「はっ?」


 《貴様が消えた後に、何の前触れもなく死んだ星の数が6つなのだ。》

 「…へ〜〜。」


 《6つの星が死んだ後に、ありえないほどの成長…それこそ神が直接手にかけたのではないかと思われるぐらいに急激に成長した星があった。》

 「…ほ〜〜。」


 《その星というのがここだ。》

 「……。」


 《あの部屋でお前を消してすぐに、6つの星が死んだ代わりにこの星が急成長を遂げた。》

 「……。」


 《偶然だと言い切れるか?》

 「……。」


 《貴様と無関係だと言い切れるか?》

 「僕は無関係です。」


 僕は言い切った。


 《貴様のとは無関係かもしれないが、貴様の魂…貴様のが無関係だと言い切れるのか?》

 「はい、無関係です。」


 僕は言い切った。力強く言い切った。


 しかし、彼にとっては僕の答えは「はい、いいえ」のどちらでも…何を答えても関係ないようだ。答えありきで聞いているようだから…僕の返事を無視して進める。



 《私の意見は否だ。まだ確証はないが…私の直感は貴様が危険だと警報を鳴らしている。》

 「こんなに可愛い子なのに(自画自賛)危険なんか何もないですよ。そんなに急がなくても、ちょんとした確証を得てから判断を下しても遅くはないのでは? ね、ね。」


 《私の同僚ならば一考の余地はあるのだが…。》

 「一考どころか、三考、五考ぐらいはありますよ。どんだけ〜〜!」


 《あいにく、私は不安要素は早めに摘み取る派なのでね。》

 「ああ、好きなものを先に食べる派ですね。そして後で後悔する派でもありますよね。先に食べるんじゃなかった〜後でゆっくり食べればよかったってね、ね?」


 《残念だが、貴様はここで始末する。今度は魂すらも残さぬように始末する。》

 「残念だがってあなた次第でわ…あなた次第でいくらでも回避できる残念ではないですか! 再考を求めます! どんだけ〜〜!」


 《貴様との楽しい楽しい会話もここまでだ。私もいろいろ手を尽くして歩み寄ったけれど平行線のままだったようだ。》

 「全く歩み寄った形跡はみられませんでしたけど…平行線というか平行ではなく、絶対に交わらないように急上昇していきましたよね、ね?」


 僕の軽口にも、表情ひとつ変えずにアスナル様の魔力? いや、魔力ではない何かが高まっている。この状況は…命に危険が迫っていると僕の直感が告げている。


 彼の本気を感じる。本気で僕を消滅させようとする強い意志が。


 だけれど…彼の話を聞いても僕が本当に悪いとは思わない。だって本当に僕には分からない、知らないのだから。星がなぜ死んだのか、この星がなぜ急成長をしたのか…など、僕の預かりしらない事だ。

 

 僕はただ生きたいだけなのだ。


 前世では死んだ記憶がないのにも関わらず、ずっと暗闇に囚われて一人ぼっちだった僕が、“命素”を会得した事で環境を変える事ができた、とても得難い物だ。


 彼に消されて、この星へと転生できた事も幸運だった。親のいない僕を8歳まで育ててくれた、優しい村人たちにも感謝だ。


 今、彼の本気で消すという強い思いと正面からぶつかって…勝てるかどうかわからないが、僕には選択肢は1つしかない。


 それは死して待つ事ではなく、全力であらがう事だけだ。


 「僕はあなたを否定します。阻止するために…全力でぶつかります。」

 《…この高まる力を目にしても抗うつもりか? 神の力に抗うのか!》


 「あなたは前に自分は神では無いと言ったじゃないですか。それがなぜ神の力なのですか?」

 《…私は神ではないが、貴様たち矮小な者たちにしたら神の力となんら遜色のないものだ。減らず口はそこまでだ。》


 力を高める間もスキがなかったが、高まり終えた後に僕と面を向かって構えた。正拳突きの構えのようだ。


 《今度はどこかで目覚める事は無い。永遠に魂の眠りにつくのだ。それでは…なっ》


 そう言って突き出された右手は…





 ものすごくスローだ。ゆっくり僕に向けて突き出される。


 これは…スローに見えるだけでそれを避ける事は出来ない。走馬灯の世界? 死ぬ前に色々と思い出す的な世界? 圧倒的な力が押し寄せるのを死の瞬間までじっくりと見せつけるやつ?


 めちゃめちゃ嫌な死に方じゃん。


 とはいうものの、何か冷静だ。こんな状況なのに心が落ち着いている。死を受け入れているから? いや、僕は全然受け入れていないんですけど…落ち着いている…って、えええええええええええ〜


 ええええええええええええええええええええええ?


 どういう事?


 理解できないことが今起きようとしている。見たありのままを言うぜ?


 僕のお腹から手が生えてる? 僕の右手、左手はあるのに…ちょうど僕のお腹から、にょきにょきと右腕らしきものが…伸び出してきた〜〜〜〜〜〜〜!






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