第39話 フルチン抗議

 朝方目が覚めて、ふと横を見るとリーダリアと目があった。同じふとんで寝ていたようだ。


 「お・は・よ・う、アナタ。昨日は激しかったわ〜(歯ぎしり)。あんなに大きな声で泣き喚くなんて…(いびき)。」

 「う、うそだ〜、僕は無実だああああああ」


~~~~~~~~~~~~~~~~~


 …などという寸劇は一切なかった。


 朝重くてうなされて起きたら、リーダリアが僕の上に仰向けに重なってすぴーすぴーと鼻息を鳴らしてまだ寝ていたのだった。全くお色気展開なぞなし!


 こういう時はラノベの定番、起きたら幼子だったリーダリアが大人の姿の裸で隣で寝ていて、純情な僕があたふたしながらもがっつり裸を見る思春期な男の子の一面を見せるエピソードが欲しかった。


 魔物をテイムしたら人間の女の子の姿になるっていうのも定番ですね。わかります。


 う、うらやましくなんかないんだからね!


 ということで、とりあえずリーダリアを起こさないように、僕の上に重なって寝ているリーダリアを横にうっちゃる。


 「うりゃ〜!」

 声をあげてリーダリアをうっちゃると、ズザザーと激しい地面との摩擦音が聞こえたが、まだすぴーすぴーと鼻息を鳴らして寝てた。セーフ!


 「よし、大丈夫だな。」

 僕は起きなかった事を確認してから、そっと秘密基地から外に出る。まだ朝の6時前だろうか、空気がヒンヤリと澄んでいて気持ちが良い。


 そういえば昨日水浴びをしていない事に気付いたので、近くの川に体を洗いに向かった。1日水浴びをしないだけでも、すんごい汚れた気がして嫌なのだ。なにせ周りは舗装などされていない土ばかりなのだから。


 風などが吹けば土などが空気中に舞ってひどい事になるので、1日が終わると結構体が土だらけになってしまう。それでも村の人たちは一週間ぐらい洗わなくても気にならないらしい。


 まぁ川浴びはしないけど、井戸水で水洗いはしたりしているので、不潔ではないのだが…自分は水浴びをしてすっきりしないと気が済まない派なのだ。


 昨日は狩りが終わった後に浴びてさっぱりして寝るつもりだったのだが、リーダリアの件で疲れてしまって、つい一緒に寝てしまっていた。


 ちなみに夜は村の家で寝ていなくても全然OKなのだ。いつも気が向いた家で寝る大らかさなので、僕を1晩くらい見かけなくても誰も何も思わないのだ。


 というわけでいつものように服を脱いで裸になって川へと入る。お風呂のようにつかるのではなく泳ぐ。ここはそんなに川の流れは早くはないが、油断して浮かんでいるとうっかり川下へと流されてしまったりする。


 川を泳ぐだけでは綺麗になった気がしないのでオムロムの木の実を使う。これは松ぼっくりのような木の実なのだが、すごく柔らかくてスポンジのような触感なのだ。


 石けんとまではいかないのだが、このオムロムの木の実で体を洗うと、思いの外皮脂などが取れてすっきりする。


 だからラノベ定番の石けん作りでウハウハ金儲けなどのイベントは発生しない。


 という僕の日常をさりげなく紹介したところで…


 パーーーーーーン

 キーーーーン


 離れた茂みから見えない弾丸が僕に目掛けて放たれたが、“命素”防壁高度金属で跳ね返しておいた。


 もちろんフルチンでだ。水浴び中なので一糸まとわぬ仁王立姿におうだちすがたで攻撃を防いだのであった。フルチンとはいえ、まだ8歳だから可愛いものだ。


 …何が?


 「何殺すつもりで撃ってきてるんだよ、リーダリア。」

 「クフフフ、やはり隙はないか。実験じゃよ実験。その“命素”とやらのな。」

 そう言ってリーダリは隠れていた茂みから現れて、川にドボンと服のまま飛び込んだ。


 「何でリーダリアも川に入ってくるんだよ、しかも服のまま。」

 「細かい事は気にするでない! 昨日はそのまま寝てしもうたんでセイの“命素”の事を聞くのを忘れたから、すぐに聞きたいという欲求に抗えなかったのじゃよ。」


 「えっ今? ここで? 僕フルチンなんだけど…川の水の透明度が高いから、ほぼ丸見えなんですけど…。」

 僕の懸命で必死なフルチン抗議もなんのその、


 「クフフフ、1000年も生きている我が脆弱な人間の生殖器など見ても何も思わんわ。むしろ裸でいる方が自然じゃろ。気にするな。」

 

 リーダリアはまさかの裸族でした。


 といっても日本の記憶がある僕に裸族はハードルが高い。まぁ100歩譲って世界中の人が裸族ならば日本人のさが、右に倣えの風習に従って抵抗感はないのだけれども…。


 「まぁいいやこのままでも。じゃあリーダリアにはこれが見える?」

 僕は右人差し指にバスケットボールぐらいの“命素”を纏わせる。もちろん無色透明無味無臭だ。


 「見えん。全く見えん。」

 目を細めて、目が悪い人のような見方をしているリーダリアは仕草が可愛いな。


 「誰にも見えなくても実在はしているんだ。」

 そう言って僕は今度“命素”を体に纏わせる。すると川の中に入っている僕の体の周りを水が避けて、10cmぐらいの隙間ができた。これこそ“命素”が実在しているというあかし、“命素”の可視化だ。」


 「…不思議じゃ。確かにそこに存在しているのう。我にも感知できない“命素”とやらは…この世界のことわりから外れておるようじゃな。」

 「…それは…どういう意味?」


 「セイがこの世の者ではないとい事じゃ。」

 そう言ってリーダリアは黄金色に光る瞳で、僕の心を見透かすように妖艶に笑いながら告げたのであった。

 



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