第37話 バタンキュ〜〜うううう
「ぜー、ぜー、つ…着いたよ。狭いところだけど…あっ、ちょっと待っててくれない? 中が散らかってるから片付けたいから。すぐに片付けるから、ちょっとだけ待ってて。」
などと、いきなり彼女を部屋に誘って連れて来たのはいいが、家の前で部屋が散らかっている事に気がついて、慌ててせめてエロ本だけを片付けようと思い立った童貞男子のようなセリフをリーダリアに吐いてしまった。しかし…
「…………」
あれ? リーダリアの返事がない。てっきり「そんな初めて彼女を家に連れ込む時のような茶番はいらんのじゃ!」とか怒られるかと思ったのに。
今は時間にして夜9時くらいだろうか。丁度月灯りが逆光でリーダリアの表情が伺えないのだが…と思った時、いきなりリーダリアの体がぐらりと傾いたと思ったら倒れてしまった。
どうしたんだ! 大丈夫か! と慌てて駆け寄ると…
「バタンキュ〜〜うううう」
と小さくつぶやいていた。
……………………………………
……………………………………
あざとい…あざとい奴や〜。自らバタンキューと言いながら倒れ横たわる彼女は、これがコミック化された暁には、顔はグルグルと目が回った表現で描写されるであろうこと間違いない。
「あざといけど、一応容姿が
僕は倒れているリーダリアを抱き起こして声をかけた。
「…体面とか風潮だとか、およそ8歳児にはにつかわしくない考え方が、何者だ?と聞いた根拠の一つでもあるのだが…頭に思っている事を全て口に出して、相手に突っ込まれてしまうという所は8歳児相応の行いだと褒めてやっても良いのじゃ。」
と、倒れていながらもリーダリアは皮肉をジト目で言う事を忘れない。
「んで、どうしたの?」
「は、腹が…」
「腹? お腹か?お腹がどうしたんだ。ちょっと服を脱がせるぞ。大丈夫だ! 俺は幼子(おさなご)に劣情するような人間のクズじゃないからな。あっ、ていうか僕は8歳だから6歳ぐらいの幼子だったら年齢的にも全然変じゃないのか。というわけで脱がせるぞ! 大丈夫だから! じぇんとるまんだから!」
「【劣情=性的な欲望や好奇心をいやしんでいう言葉。】なぞ、およそ8歳児では使わない、いや大人でもあんまり使わない言葉をどうして知っているのじゃ? などとツッコミはしんぞ。話が進まないからな。では続けるぞ、やめ〜〜〜〜〜い!服を脱がすな!どこに大丈夫な要素があるのじゃ! そしてじぇんとるまんとはいかに?」
ボコッ
「い、痛いな、“命素”で防御してても体の芯に響く掌打…やるじゃないかお前。俺と一緒に世界を目指さないか?」
「急にトレーナー目線? 何の世界を目指すのか気にはなるが話が進まんから続けるぞ、違うわ〜腹が減ったのじゃ! 腹がペコペコなのじゃ!」
どうやらお腹が空いていたらしい。それであの茶番だったというわけだ。
まぁ、分かってましたけどね、分かってボケ続けてましたけどね。
だいたいお腹が…とか言って、目を回している描写を見たら、日本人ならみんな“ああ、お腹が空いているんだな”って気づくと思う。ちなみに日本人老若男女100人に聞いたら、実に83人の方がお腹が空いている様子だと答えました(ウソ)。
「干し肉ならあるけど食べる?」
僕は秘密基地に常備してある干し肉を、惜しげも無く100分の1差し出した。
「いらん、我は貴様らとは違い生き物や植物から栄養を摂取するような下等生物ではないのだ。」
「なに〜〜〜! まっ、まさかお前は…長期連載になるとお馴染みの、ヴァンパイア…吸血鬼系なのか? この田舎では圧倒的に美少年だと噂されたりしなかったりする僕の血を欲するのか?」
「…田舎ではって謙虚そうに見えて、圧倒的に美少年と自分で言い張る図々しさが混在する面倒くさい奴じゃなお前。というか下等生物の血なんぞ欲しくなんかないわ! 我が欲するのは…。」
「はっ、まさか…長期連載になるとお馴染みの人間を家畜のように扱い食す方のパターンだったのか。くそ! そっちだったのか…僕は美少年だからお前のビーチク…もとい備蓄食料扱いという事だったんだね、分かります。」
「…いい加減しつこいからもう突っ込まんぞ我は。でも最後にひとことだけ言いたいのじゃ…長期連載、長期連載ってうるさいのじゃ! 長期連載でもそんな展開はそんなにはない!」
うん、リーダリアのちゃんと突っ込んでくれるところが好きだ!
「それじゃあ何を食べて生きてるの?
「クフフフフ、キューブじゃ。」
「キューブ? キューブってあの魔物が消える時に落としていくあのキューブの事?」
「そうじゃ。そのキューブが我の食料なのじゃ。」
魔物が落とすキューブ。あのキューブは長年謎らしい。何人もの村の大人やタナンさんに聞いてもよく分からないとの返答。それならばと思い一度、アスナル様にも直接聞いてみたのだが…
「今の所謎とされている。何の為に魔物が自分の身が朽ちる時に残すものなのか分からないし、他の素材のように有効活用の方法も見つかっていない。しかし王都などではこのキューブの研究が始まっており、近い将来にその謎が解き明かされるのではないかと言われているようだ。」
つまり今現在でも用途不明の謎の物質なのだ。しかしこのキューブは倒した魔物の階位によって大きさや色合いが違うらしく、強い魔物のものはすごく美しく輝いているらしい。なので貴族なんかには宝飾品のような扱いで、高値で取引されるらしい。
やはり大きくて色の濃いキューブに比例して高価になるようだと聞いた。
まぁ、僕はそんなに階位の高い魔物なんて倒していないので、というかこの森には強くても三階位で、ほとんどが一階位、二階位ぐらいしかいない。
だから僕も一応、魔物を倒した後のキューブを持って帰ってきて、貯めてはいるものの、持っているキューブはどれも小さくて色の薄いものばかりだから価値などはないと思う。
なので、とりあえずリーダリアには僕の貯めている小さなキューブで我慢してもらうしかないな…。
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