第36話 ノースルーノーライフ!

 「第一魔法式“せん”」


 彼女が魔法術式を口に出したとたんに指先に集まった光が、一瞬にして僕の周りを光で覆い尽くし、真っ白な世界へと変貌した。


 ババババババババーーーーーーー


 轟音が鳴り響いたと思った時にはリーダリアから放たれた魔力が、螺旋状に僕にまとわりつき締め付ける…? ような感覚があったが…さすが頼れる兄貴、万能謎素成分の“命素”パイセンさんが跳ね除けてくれた。


 「…うそじゃろう。無傷とは…。」


 視界が元に戻った時にみたリーダリアの顔は驚きに満ちていた。彼女にしたら殺さないまでも…四肢断裂ぐらいには僕を痛めつけるつもりだったのだろう。それぐらいの威力はあった。


 やめてよね! 殺さないまでも…四肢断裂って、もはや死んだも同然なんじゃないの! そんな恐ろしい技を見せつけるためだけに放つのはやめて!


 「これで分かったか? 君が圧倒的美少女(自称)と名乗るように、僕も生粋の通りすがりのシャイボーイ(自称)なんだ。これに懲りたら…痛! 熱、冷た。」


 僕がしゃべってる途中なのに土魔法の石飛礫いしつぶて、火魔法、氷魔法を投げつけてきた。面白そうに笑いながら。


 「クフフ、物理的な攻撃は撥ねのけるくせに、特性を持った魔法の影響は受けておるようだの。実に面白いクフフフフ。」

 「冷静に実験すな!」


 そんなのんきな会話中にも見えない攻撃は絶え間なく降り注いでいる。しかし、リーダリアの見えない攻撃もだんだん慣れてきた。どうやら何の属性も付与していない魔力を投げているようだ。だから見えないようなのだが…


 じっと凝視するとビミョーに空間が歪んでいるように見えてきたので、だんだんと要領がつかめてかわすことが出来るようになってきた。


 「ほいほい、ほほいのほいっと。」

 余裕で躱す様子に、リーダリアは年相応(6歳ぐらい)の可愛い顔でムキになってきた。


 「ムキー何なのじゃ! セイの纏っている物質は! 圧倒的美少女の我が、確かにそこに存在しているのに何も感じる事が出来ぬとは!」

 「圧倒的美少女は関係ないんじゃない? ほいっと。」


 「ぐぬぬぬぬ…よかろう、余興はここまでじゃ。“我の片鱗を少しだけ見せてやろう”と言った手前、全く手応えがないままでは引き下がれん。このままでは圧倒的美少女の肩書きが廃れる。」

 「圧倒的美少女は関係ないんじゃない? 次からは美少女ぐらいにしたら?」


 「ふん、これを見てもそんな減らず口を叩けるかのう。むむむむ」


 リーダリアは右手の人差し指と、左手の人差し指を縦に組み、仏教の智拳印のポーズのように印を組んだ。うおっ、先ほどの片手の時より何倍もの魔力の高まりを感じる…すごい圧だ。


 ヤヴァイ…これはヤヴァイやつや~~~~、ヘタしたらこの辺り一帯…いやこの森ごとふっとぶぞ。


 「わかった、わかったから! リーダリアの圧倒的美少女さ具合はわかったから! やめてくれ! その威力が放たれたら、この森が消えて無くなってしまうぞ!」

 「別に我は構わんぞ! こんな森程度が無くなってものう。それに例え我の魔法によって人が何百、何千人と死のうが何とも思わぬからのう。」


 イかれてるのか、コイツ! 何千年と生きて人の心が残っていないのかよ。ちくしょー! しょうがない…一度も試した事はないけど、あれを本番ぶっつけでやるしかない…圧倒的美少年(うそ)のこの俺が。


 一応中学校三年に編み出した“僕が考えた最強の魔法”だから大丈夫なはずだ。リーダリアの体に魔力が最大限に集まったのを感じる。来る!

 

 「第二魔法式“せん”」


グゴゴゴゴゴゴゴゴゴガアアアアアア


 リーダリアが術式を唱えた途端、尋常じゃない魔力の奔流が地響きを伴って、うなりを…うなりをあげ…うなり?



 「…発動せんじゃと。」

 魔法が発現しなかった事にリーダリアは驚いた顔をして呆然と立ち尽くしていた。


 「さっすが僕! ぶっつけ本番でも出来るもんだな〜。やるな!セイ、略してシャイボーイ。全然略してないやないか〜〜い! 必殺!ひとりボケに自らツッコむスタイル!」




 …スルーされた。

 …大爆笑必須なノリつっこみをスルーされた。






 …………ノースルーノーライフ!



 「つまらん事を言っておらずに、何をやったのか説明せい!」

 フリーズから再起動したリーダリアが声を荒げる。


 「僕のボケをつまらない事と退け、その上からの物言い…許せん! Heyセイ! どうか国民的美少女の私めに教えてくださいと教えを請わないのなら教えてやらん!。」

 「Heyセイ! どうか国民的美少女の私めに教えてください。」


 「素直!」

 まさかのロリのじゃ様がそんなに素直に僕の言うことを聞いてくれるとは思わなかった。1000年以上も年上のロリのじゃ様が…素直なので教えてあげる事にしました。


 「わかりました。教えてさしあげましょう。しかしここは森の奥深く、この先に僕の秘密基地がありますので詳しくはそこでゆっくりと話しましょう。さ、それではご同行願います。」



 全力ダッシュ! 振り向くなり秘密基地まで全力ダッシュ!



 ぐおおおおおおおおおおおおお、僕は一心不乱に走り出した。このまま巻ければいいなと思いながら走り続けた。顔を振り乱して不細工な顔のまま走り続けたのだが…


 「まだかかるのか?」


 無理だった。僕の全力ダッシュでも全然余裕で付いてくる。こっちは全力不細工な顔をして一生懸命走ってるのに、リーダリアは涼しい顔をして並走している。

 

 「ふんんがああああああああ~~」


 さらに踏ん張って加速してあっちに行ったり、こっちに行ったりと巻くつもりで急転回してフェイントとかをしても…平気な顔で付いてくる。


 なぜだ? こっちも負けじど全力疾走なのに…なにかこっちだけ必死な顔を見せるのがシャクだったので、負けじと平静を装う顔をしたが…ごめん無理でした。


 ぜーぜー。こいつは肺呼吸してないのか?


 という駆け引きを経て無事に秘密基地へとたどり着きました。まぁ秘密基地と言っても木の根元に出来た6畳くらいの空間をちょっとだけすみ心地よくしただけの部屋なんですけどね。

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