第35話 圧倒的美少女かつ圧倒的強者

 順調に月明かりの下、一階位のオオカミの魔物やら二階位の猿の魔物の集団をいつも通りに、サックサクとトドメを刺して、地面に残るキューブを回収していた時だった。


 ん~~~? 僕の目の前の何もない空間に違和感が…何かおかしい。具体的にその何かはわからないのだが…気持ち悪い。例えるならまっすぐに立っているつもりなのに平衡感覚が取れない、周りの風景がぐにゃりと曲がって見えるような感じなのだ。


 僕の目がおかしくなったのか?と、目をこすって再度目の前の空間を凝視すると…


 「ん? なんだ…ここの空間…があああああああ」


 その瞬間、思わず叫んでしまった。


 何もない空間が音も無くいきなり裂け、目の前から6歳くらいの幼子おさなごがよっこいしょと言いながら姿を現したのだった。その子は僕がこの場にいても当然というように驚きもせずに、僕をジロジロと視姦してきた。


 いや〜ん! 僕はマイチングマ○子先生のように胸と股間を手で隠した。






 …スルーされた。

 …ショック!




 …………ノースルーノーライフ!



 「ふむ、ほうほう……ほーうほう。」


 幼子おさなごは顎に手を当ててふくろうのようにほうほう言っている。後半はのほーうほうは絶対に意図的だろう…面白い事思いついた的な。


 …ていうか何? 情報量が多すぎていろいろと大渋滞しているんですが! 僕の脳みそがこの状況に追いついていかなくてプチパニック状態なんですけど!


 だって空間が裂けた先から、見た目も麗しい幼子おさなごが出てきて僕の顔を見てウホウホッってゴリラのようにドラミングしているんだから


 「誰がゴリラじゃ! ウホウホなんて一言も言っておらんじゃろ! ウホッ」

 「何?…僕の考えている事を読んだだと…テレパスか?」


 「いや、さすがの我でも人の頭の中なぞ読めんぞ。何か失礼な事を考えておるなというぐらいはわかったがの、ウホッ。」


 …読めないと言いながら的確にドラミング当ててるやん。恐るべし幼子おさなご。ウホッ


 「そんな事より…で、貴様は何者じゃ?」

 「いや、それを僕に聞く? 僕からしたらキミの方が何者?って聞きたいよ!」


 「おお、そうだったな、それじゃあ我の方から自己紹介しようとするかの。何を隠そう我の名はリーダリアじゃ、圧倒的美少女かつ圧倒的強者のリーダリアじゃ。恐れおののいて、我に膝を屈して足を舐めさしてくださいと懇願すれば、舐めさせてやる事もやぶさかではないぞ。クフフフフ。」

 「いや、全然自分そんな趣味はないんで遠慮しておきます。僕の名前はセイ、8歳だよ。」


 僕は即断った。


 「な、何いいいいい。我の足を舐めたくないだと…こんなに超絶美少女なのにか? 遠慮しなくてもよいのだぞ? わかったわかった…しょうがないのう、特別に足の裏を舐めさせてやろう。特別じゃぞ!」

 「特別感全く無し! 足の部位なのは変わらないから、足の裏に限定されただけ屈辱!」


 「なんじゃあ、子供のくせに文句の多い奴じゃの~セイは。」

 「子供って、そっちこそ幼子おさなごじゃあ…いや違う! まっまさか…あのラノベではお馴染みの…幼女に見えて実際には何千年も生きているっていう、よくある設定の…リーダリアは伝説の“のじゃロリ”なのか? すごおおおおおい! 初めて見た。」


 「…どこでテンション上げておるのじゃ。セイのやる気スイッチがよくわからんのう。」

 「んで? リーダリアは何歳なの?」


 「1000年未満だと思うぞ。我は歳などという些細な事などいちいち覚えておらんから知らん!」

 「えええええ〜ラノベだと女性に歳を聞くなどデリカシーがない!とか冷たい目で睨まれて悪寒がするとかいうパターンでわいのわいの後30分くらい続けれるのに、すぐに答えちゃうんだ…しょぼん。」


 「クハハハハ! 何がしょぼんだ、8歳児のようなふりをしよおって。貴様こそ子供の面を被った…何者なのじゃ?」

 

 リーダリアはいままでのふざけた会話から一変、鋭い眼差しで僕を睨む。背筋に冷たいものが伝う。まるで僕が転生してきたのを見透かされているようで…いや、多分本当に見透かされているのだろう。そこまで具体的にはわからないにしても、彼女の目を見ていると…



 まるで神という名の得体の知れない超越者と対峙しているかのように感じるのだ。とりあえず本当の事を言っても面倒くさくなりそうなので、無駄だと思うがとぼけておこう。



「…何者だと言われましても…質問の意図が分からないんですけど。」

「そうかぁ、まだトボけるのならしょうがないのう。じゃ…ぞ!」


 ズボッ


 えっ? 目に見えない何かが僕の肩に刺さった…0.5cmも。


 危っぶね〜。リーダリアが現れてから一応警戒して、僕の体を“命素”で覆っておいたのだ。厚みは5cmぐらいにしておいたのにそれを0.5cmとはいえ貫くとは…


 「リーダリア…恐ろしい子!」

 とりあえず白目で言っておいた。


 「何が恐ろしい子じゃ、油断ならぬ奴じゃて…本当なら肩を貫通して穴が開いてもおかしくない威力だったのだぞ。もちろん死ぬような攻撃ではないのだが…それをちょっと血が出ただけでとどめただと?」


 リーダリア…は目を爛々と輝かせている。口では俺を油断ならないと言っているが…これは好敵手ライバルを見つけてワクワクすっぞ系の戦闘民族なのか? それとも単なる戦い大好きな脳筋なのか?


 「我ワクワクするのじゃ!」


 戦闘民族でした〜〜〜〜〜〜。


 「いや、何やる気出してるんですか! 僕は通りすがりのシャイボーイなんですよ! 通りすがりのシャイボーイを攻撃するのはこの国では憲法違犯なんですよ(うそ)。シャイボーイは国で保護して、優しく言葉責めをしてあげなさいっていう決まりが…アウチ!」

 「何をごちゃごちゃ言っておるのじゃ、ほれ避けてみよ!」


 ドガガガがガガガ


 リーダリアから発射?されている目に見えないつぶてのような塊の嵐の攻撃が始まり、逃げたしたのだが、さすがに全部は避けきれずに何発もくらってしまった。まぁ“命素”のおかげで直接ダメージはくらってはいないのだけれども。


 「なんじゃ逃げてばかりか? セイからも我を襲っても良いのだぞ!」

 「いえ、僕は年上スキーなのでリーダリアはアウトオブ眼中なんで…すみません。」


 「いや、すみませんとか謝られると、我が振られたみたいでものすごく嫌なのじゃが…圧倒的美少女の誘いを断るとは少しだけ傷ついたのじゃ、特別にセイには我の片鱗を見せてやろうかのう。」


 減らず口をたたきながらもリーダリアの攻撃を避けていた僕は立ち止まった。リーダリアが掲げた右手の人差し指から魔力の高まりを感じたからだ。


 今まで感じた事のないような高出力の魔力の奔流…あっという間に膨れ上がった魔力はリーダリアの指先からまばゆいばかりの光を放った。

 

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