第30話 ドルマという男

「何? キーフ村の村人達が一夜にして消えたじゃと…200人程度の村とはいえ、何の痕跡も残さずに全員消えるとはどういう事じゃ。」

「はい、その村には人っ子一人いませんでした。家財道具などもそのままでしたので夜逃げではないようですが、かといって…その、獣や魔物などと争った様な跡も見えずに…原因は不明のままです。」


 そう報告に来た役人にしばらくは周辺を捜索して村人の消息をたどる様に命令して下がらせる。


 「どう思う?」

 そばに控えるボーンに意見を求める。


 「はっ、以前のザナドのような例があるにはありますが…200名もの村人を争った跡もなしに消し去るという事は人間業ではありません。従って何らかの魔物の仕業ではないかと。」


 確かに…魔物にも階位があり強さは異なるのだが、獣の姿ではなく人型の魔物の中には人の言葉を理解し、狡猾な上位種と呼ばれる者達もいる。


 去年報告にあったアスナルの領地に現れたオーガもそうだ。しかしオーガ程度の知能なら、争った痕跡もなしに全ての村民を消す事は不可能であろう。という事は…それよりももっと上の上位種…人型か?


 もしそうだとしたら、とんでもない厄災を呼び込んだ事になる。ふー厄介な事だが、このまま放っておく事は出来ん。また同じ様な事が起きないとも限らんからな。災いは早めに取り除かなくては。


 「この件の適任は誰だと思う?」

 「はっ魔物だった場合かなりの上位種と思われますので、強さでいけばドルマが良いかもしれませんが、頭がちょっと…いえ、機転が利きませんので、階位が低くても彼を制御できる同伴者をつければよろしいかと。」


 確かにドルマは思った事をすぐに口に出してしまう残念な子じゃ。まぁそれならそれでペアで任務に就かせれば良いか。


 「うむ、わかったそれでは適任者を選出し、ドルマと組ませて村へと向かわせてくれ。」

 「はっ」


 私はボーンが出て行った後、執務室の窓から遠くに見えるエナギス山を見やる。


 「は〜〜〜、いや〜な予感がビンビンするのう…」

 大きなため息をついてしばらくはその風景に心を癒してもらい、仕事を再開するために机へと向かい直す。



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 「初めましてかな、私はドルマだ。君か? キーフ村の調査に同行するエルさんというのは。短い間だがよろしく頼むよ! あと君…前髪切り過ぎてないかい?」


 …目の前にはマッチョな禿げ口髭おじさんがいる。階位の特色が出る髪がまさかの禿げていて分からない…六階位との噂は聞いているのだが…。だから今のところ自称、六階位の口髭禿げおじさんなのだ。


 「こちらこそ高名なドルマ様にお会いできて光栄です。」


 「そう固くならなくていいから、私の事は親しみを込めてドルちゃんとでも呼んでくれ給え。あと君…前髪切り過ぎてないかい?」

 「いえ、そんな私ごときがドルちゃんなどと気安くは…」


 「いや、私が許可しているのだから大丈夫だ。私は堅苦しいのが嫌いでね。できればその敬語も止めてくれ給え。これは命令だとでも言えば言いやすいのかな? あと君…前髪切り過ぎてないかい?」

 「分かりました。ドルマ様…いえ、ドルちゃん。」


 「そうそう、その調子で頼むよ。ずっとタメ口でいいからな。任務遂行するまで同行よろしくな、エマ。あと君…前髪切り過ぎてないかい?」


 「うるせ〜〜な! さっきから何度も何度も! 初対面なのにず〜〜と前髪切り過ぎた、前髪切り過ぎたって! しつこいんだよ! これはオシャレなんだよ! 切り過ぎてないんだよ、何度も何度も言うなよコラッ! わかったかドルちゃん! ん、返事は?」

 私はあまりのしつこさについ素が出てしまい、ドスのきいた低い声で詰め寄った。


 「あっハイ、すみませんエル先輩。てっきり前髪失敗したのかなって心配…いや、なんでもないです。」


 ドルちゃんは思った事をすぐに口に出すタイプみたいだ。まぁ悪気はなく言っているようなので…いや悪気がない方がタチが悪いか。


 とにかくドルちゃんはよくしゃべるので、目的地のキーフ村に着くまでに何度も私をイラッとさせた。ちなみに私は三階位になったばかりの前髪短めの新婚ホヤホヤの19歳で~す。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ドルちゃんに同行して2日目の朝にキーフ村に到着した。到着した後は休憩などをしづ、すぐに各戸を回って家の中を調べて回ったが何も手がかりを得る事は出来なかった。しかしドルちゃんだけは小難しい顔をしている。


 「ドルちゃんどうかしたの?」

 「…ん、いや…何でもない。」


 思った事を何でもすぐ口に出してしまうドルちゃんが言い淀んでいるのが珍しい。


 とりあえず私たちの捜索隊は近くの森深くへと探索に行く。これといって強い魔物は出なかった。一階位、二階位がいいところだ。ドルちゃんを除く私たちだけで露払いを続けて奥へと進む。 


 「む、エマ達は退がれ。こいつは俺が相手する。」


 そう言って皆の前に出るドルちゃん。すると目の前の茂みから現れたのは、ブルータイガー、全長3mほどの大型の魔物だ。しかも目が桃花色もものはないろに輝いている…四階位だ。


 対峙した途端にブルータイガーは水魔法を放ち牽制する。その水球を剣で横薙ぎしてブルータイガーに迫るドルちゃん。下がると思いきや、立ち上がって迎え撃つブルータイガーは鋭い爪をドルちゃん目掛けて振り下ろ…


ガッ、ザシューーーー。


 ドルちゃんは振り下ろされた爪を肩で受け、そのまま剣でブルータイガーの首を刈り取る。いわゆる首チョンパで体チョンパ状態だ。


 ドサッ


 しばらく空中で姿勢を保っていたブルータイーガーの体が音を立てて地面に崩れ落ちた。


 ドルちゃんは鋭い爪を肩で受けたにも関わらず傷一つついていない。さすがに自称六階位だ。思った事をすぐに口に出す短絡的な性格でなかったらもっと慕われていたであろうに。


 あと、倒した後のマッチョポーズはしなくていい! それも下の者に慕われない理由の1つであろう。

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