第28話 バーシュ訓練
あれから毎日バーシュさんとの激しい特訓が始まった。
朝起きてからご飯を食べた後、ゆっくりと身支度を整えて、特訓する広場まで散歩がてら、花などを愛でてたりなんかして気持ちを落ち着ける。
始めは軽い運動をしてじっくりと体をほぐしてから、身体強化魔法の練習だ。これは体の内側から筋肉をサポートするという魔法だ。
長時間走り続けたり、瞬発的な動き、筋肉の最大値を超えたパンチやキックなどを全てサポートするのが、この身体強化魔法なのだ。
本来ならそんな人間の限界を超えた動きなどすれば、その動きに付いていけずに、腱を切ったり筋肉組織断裂などの怪我を負ったりするのだが…それを体内の魔力でサポートするというのだ。
そのサポートとは具体的にどんな仕組みで、どのように体に作用しているのか聞いてみたら…
「そんな屁理屈を聞くんじゃ無い! 心で感じ取るんだ! びびっ!」
などと僕の質問を屁理屈と断定して勢いだけで押し切るお答え…しかも擬音付き。どうやらバーシュさんは脳筋のようだった。
自分が察するに、とにかく原理はわからないけど魔力を体に巡らす事により瞬発的に、体の負担を補ってくれつつ、常人以上の力が出せますよ…出せるんじゃないかな? いや、きっと出せるよ!という不思議現象の事だと思う。
しかし、いくら魔力がサポートしてくれると言っても、やはり無茶な使い方をすれば体に害を及ぼすのだ。ドラゴン○ールの界王拳ぽいといえば分かりやすいのかな?
訓練の始めはこの身体強化魔法を使う練習をした。僕には“命素”があるので魔力を体全身に行き渡らせるという事は簡単に出来たのだが…それによって瞬発的な力を引き出すというのがよく分からずに手こずった。
という事で日が高くなる時まで練習して、本当なら昼ごはんは無いのだが、僕は毎日3食食べる派なので、村人たちに隠れてジャガイモを食べる。そしてお昼寝をしてから午後の訓練を始める。
午後の訓練はバーシュさんが基本的な剣の振り方や、素手での戦い方を教えてくれる。といっても空手とか少林寺拳法とかの武術とかではなく、けんか殺法に近いようだ。
こう来たらこう返すだとか対処法に近い。まぁ日本人だった時もそんな格闘技などを習った事はなかったので、とても新鮮で楽しかった。
「それで、バーシュさんはどうして僕の指導を頼まれたんですか?」
夕ご飯時に一緒に食卓を囲むバーシュさんに、今更ながら聞いてみた。
「ああ、1年前ぐらいに領主のカイゼル様にアスナルさんがお願いしていたみたいなんだ。筋のいい子どもがいるから基本を叩き込んでくれないかってな。」
バーシュさんは嫌そうな顔をしながら答える。
「そこで優秀な俺に依頼が回ってきたという感じだ。アスナルさんとは知らない仲でもないしな。」
「へー、バッシュさんって意外に優秀みたいなんですね。」
チッチッチッと舌打ちしながら僕を睨む。
「俺様有能、この歳で二階位、マジ有能!」
となぜかラップのような口調で僕に自分のすごさを伝えてきたが…語彙力があれなんで、あまりすごさが伝わらない。
「ハイハイ有能有能。それでアスナル様とはどんな繋がりで?」
適当にあしらいつつ聞いてみる。
「チッ、俺が領地で才能を見出された時に指導してくれたのがアスナルさんだ。その後すぐにこの辺鄙な領地を賜って領主になっちまったがな。」
へーそうなんだ。っていうかさっきも言ってたカイゼルっていう人が寄り親的な領主なのかな。どんな都市なんだろう。ここが辺鄙な田舎っていうぐらいだから都会なんだろうな。
たぶんバーシュさんに鍛えられた僕は才能を認められてバーシュさんと一緒にそのガイゼルさんの領地に行って様々な困難に立ち向かって「まっまさか…こ、こんな子供が…」とか「あれは…伝説の…」みたいな展開になるんだろうな〜そうなんだろうな〜わかります。
そんな将来前途有望な僕のビジョンを思い、ほくそ笑んでいると、
「セイの訓練はあと1ヶ月で終える。だから明日からはもっと厳しくするから覚悟しておけよ。」
「えっ? 訓練を終えたバーシュさんは1ヶ月経ったらどうするんですか。」
「もちろん帰るぜ。もともと1ヶ月ぐらいっていう約束だったからな。」
「えっ? 鍛えられた僕は…」
「知らん! っていうかこの村で過ごすんじゃねーの、一生。チッ」
「ええ〜〜バーシュさんに才能を見初められた僕もガイゼル様の元へ、嫌がる僕を連れて一緒に帰るんじゃないんですか?」
「いや、見初めてねーし! 嫌なら来ようとするなよ! それにぶっちゃけセイは普通だ。今の所普通の子供だな~ぐらいの評価だよ。だから領地に連れて帰る理由なんかは…ないな。ありえねーな。」
と思ったより低評価な事に僕は凹んだ。
先ほどの自分の自己評価が高かった妄想をしていただけに…地獄に突き落とされたような気分だ。しかしすぐに気持ちを切り替えてバーシュさんに取りすがる。
「わかりました。じゃあバーシュさんの弟子として僕も領地に帰ります。一緒に行けばいいんでしょう! 行けば!」
などとちょっとツンデレ気味にキレながら言うと。
「いらん、付いてくんな。天才の俺でもまだまだひよっこなのに、凡才のお前なんかに構っている暇は…今しかないから付いてくんなよ、マジで。」
本当〜〜〜に嫌そうな顔で断られた。
…どうやら領地に行って、領民にちやほやされる僕の構想はあっさり閉ざされたようだ。
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