第23話 ロウ人形の完成だ!

 アスナル様がどんな感情か分からない表情で僕と見つめ合っていた隙をついて、這いつくばっていたオーガが瞬時に飛び上がった。


 傷ついて弱っているとはいえ、さすがに上位種だ。すごい跳躍力を見せて逃げるかと思いきや…僕の顔を鬼の形相で睨む。まぁオーガなんで最初から鬼の形相なんですけどね…しつこい。


 でも、まだ心は折れていないようだ。むしろこんな人間に…脆弱な子供にやられるわけがないという、ムキ出しのプライドをヒシヒシと感じるよ。まぁ、あくまでも僕の想像ですけど。


 オーガは飛び上がり両手に結構大きめの(直径30cmぐらい)火球を連続で投げおろした。すごい勢いで唸り迫る火球。


 ゴオオオオ、ゴオオオオ、ゴオオオオ、ゴオオオオ


 熱っ! 当たってもいないのに結構熱いですやん。しかも大きい火球だから避けるのも難しい。しょうがないので僕は避けずに“命素”の膜を体にまとって防いだ。だって火魔法はあくまでも牽制で、僕が避けたところをあのごっつい丸太のような腕で一撃食らわすつもり満々の作戦だったようだから。


 僕が避けずに火魔法を受けたので、オーガはそのまま真っすぐに拳による連打を浴びせてきた。


ドガドガガガガーーーーー。


 さすが五階位の力だ。石硬度程度の“命素”に不安を覚えたので、今ではエポキシパテぐらいの少し粘度のある膜に変更して、柔軟さに厚みを増して防いだ。


 オーガにしたら、人体を殴ったような感触があるだろうに、僕の体には一切ダメージを与えられていないという謎の状況に困惑と苛立ちを隠せないようだ。青筋バッキバキやん。


「グガガガアアアアア〜〜〜〜」

 

 オーガは叫び声を上げ、振り上げた手を組み、全体重を乗せて僕目掛けて振り下ろす。ものすごい質量を伴った一撃が頭めがけて振り下ろされた!


 あまりにもすごい迫力に思わず左に避けようと動いてしまったが…


 ドゴオオオオ〜〜


 オーガは僕の避け行動を見て、上からの振り下ろしを右キックに切り替えた。体重移動中の僕にはそのキックを避ける事が出来ずにモロにくらってしまった。


 どんな反射神経してるんだよ! あの状態から切り返すだなんて…人間なら腱断裂しちゃうぞ。オーガの身体能力なめてたわ。


 「ぐっ。」


 思わず漏れた僕の声と苦悶の表情に気を良くしたのか、オーガは間髪入れずに腕の何倍も太いふととももをしならせた全体重乗せキックを左、右、左、右と交互に打ち込んでくる。それを為すすべもなくガードして耐える僕。


 「ぐわっ」


 とうとう僕は耐え切れずに膝をつく(演技)。


 「セーーーイ!」


 膝をついた僕を見てアスナル様が心配のあまりに、某パチスロの世紀末覇者の復活パターンのような声をかけられた。ガードしながらその顔を見ると、オーガの猛攻に手助けできない自分に不甲斐なさを感じているようだった。


 「だ、大丈夫ですよ、ア、アスナル…様。僕は大丈夫で…す。」


 ちょっと弱々しく言ってみる。いや、誰がみても大丈夫やない!セリフNo.1だ。


 「もういい! 逃げろセイ、後は自分が命をかけてお前を逃す! だから早く逃げろ!」


 男前や〜〜〜この後に及んで、めちゃめちゃ男前やな〜アスナル様! 自分の死が確定した上でなかなか言えへんで〜そんな自己犠牲のセリフ。本当に命の危険が差し迫った時にこそ、その人の本性が現れるけど…この人は本当に領民想いで真っ直ぐな人だ。


 僕は上を見上げる。そこには僕の膝をつけたさした事に対する余裕の表れなのか、僕とアスナル様の会話をどこか勝ち誇ったような顔をして、オーガが最後の一撃を入れようと待ち構えていた。


 その顔ムカつくわ〜! じゃあそろそろ空気を読まずに言ってやるぜ!


 「はい、じゃあこの辺でオーガをサクッところしたいと思います!すっく!」


 僕はすっくと立ち上がった。足に付いた土を両手でパンパンと払いながら「すっく」と自らの口で言いながら立ち上がった。


「えっ?」

 アスナル様が素っ頓狂な声を上げる。


 そしてオーガも人間の言葉が理解できるかどうか分からないのだけど、えっ?何言ってるの?という顔で僕を見ているように思えた。


 「まずころす前の前菜は…この棒1本で大丈夫! この棒の角でこのように足をグリグリとこすっていきましょう! まるで火が出るんじゃないかってぐらいにこすってみましょう! 地味に痛いヤツ〜」


 ぐりぐりぐりぐり


 アスナル様が驚いている。先ほどまで優位に立っていたオーガが、僕が攻撃しているというのに、ピクリとも動かないからだ。


「グ、ググオオオッッ?」


 オーガが身動きをとれない事が不思議なのか、それとも僕のぐりぐり攻撃が地味に効いているのか、少しだけうめき声を漏らす。


 種明かしをするまでもなくもちろん“命素”だ。自分以外に“命素”の膜を施した事が無かったので出来るかどうかわからなかったが…うまく出来たようだ。


 オーガに“命素”を纏わせるためにわざと攻撃を受け続けて、そっと“命素”を放出していた。以前に練習してた時みたいに、ぶわっと“命素”を広げて次第に萎んで包むようにしたかったのだけど…めちゃめちゃキックやパンチで動き回っていたからなかなか包みづらいので断念。上半身と下半身の2パーツに分けて包み込むパターンに変更した。


 キックの時は上半身をまるでわんちゃんに服を着せるように優しく。パンチの時には下半身をまるで赤ちゃんにオムツを履かせるように…だいたい満遍なく覆ったなという時に、一気にギュッと包み込んでやって“命素”の硬度を一気にニュッと上げてやれば…あっという間にロウ人形の完成だ!


 …ロウ人形では無い。比喩です。


 とにかくキレイに包み込んだわけではなく、結構荒い穴だらけのような状態なのだけど、オーガの体の自由を奪う事には成功した。


 「というわけで、アスナル様もどうぞ。こちらがオーガころす剣です。」


 そう言って、未だに納得いかない心中複雑そうな表情のアスナル様に止めを刺してもらうように落ちている剣を拾って渡しました。

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