第24話 オーガの最後
僕は落ちてる剣をアスナル様に手渡し、オーガを覆っている“命素”の膜の穴を指差して、ここに突き立てろと目で訴えかけた。
しかしアスナル様はそんな僕を
「キミは一体…何者だ? 本当にセイなのか?」
あーーーそっちか、確かに7歳の所業じゃないわな。日本で例えたら自分が敵わなかった新日本プロレス所属の棚橋弘至に、小学1年生ぐらいの男の子がボッコボコ、ポコにしてるんだからそりゃあ信じる信じない以前の問題だよな〜。
う〜んどうしようかな…あっ! 閃いた! これならいける!
僕はいきなり背筋をピーンと伸ばし無表情にして、半目のまま遠くをボーッとを見つめ、虚ろな状態を装う。そして纏っている“命素”をほんのり光らせる。
ふああああああああん
だいぶ前に“命素”をほんのり光らせるという、いつか何かの役に立つかもしれないと練習していたのだが、結局ホタルのように淡く発光するダケという何の役にも立たない特技を編み出していたのだった。それがこんな所で役に立つとは。
《アスナルよ。私は神だ。》
ちょっとオブラートで震わして腹話術で話す。これも前世で見た時にかっこいいと思い練習していたのを行き当たりばったりで試してみた。口を動かさずにしゃべる。かなり神秘的に見えるだろう。光ってるし。
あっごめん、震わすのはビブラートだった。まじ間違いだよ。オブラートは包み込むやつだったわ。
「神…本当に? なぜセイの姿で?」
《彼は私をこの世界に具現化する為に生まれたのだ。》
「具現化…まっまさか…セイント…」
あれ? 適当にセイに神様が乗り移った
待たされている間にオーガはもちろんただ黙ってこの状況に甘んじているわけではなく、なんとか脱しようとしているのだが…“命素”でガッチガチに固めてあるから、小動物のようにプルプルするぐらいが関の山だ…そしてもちろん顔は鬼の形相だ。
《アスナルよ。刺しなさい。刺して次のステージへと進むのです。》
あんまり長考されても困るので、腹話術でさっさと刺せと促す。
アスナル様はハッとした顔を見せ、僕の手からうやうやしく剣を受け取ったのだが…顔は曇っている。
「恥ずかしながら私の力では、オーガに対して剣を突き立てる事が出来ません。このままセイ、いやあなた様が止めを刺された方が良いのでは。」
あー確かにアスナル様の三階位の力でも、オーガの皮膚の硬さや回復力によって全く通用しなかったもんな。そりゃあこんなボーナス状態になっても真面目なアスナル様は遠慮しちゃうか。
僕は“命素”の膜の穴に、燃焼性イメージの“命素”を貼り付けて生活魔法の火で燃やす。先ほどと同じ様に火は燃え続ける。オーガの回復力では間に合わずに徐々に肉体を焼いていく。
《これは“聖なる火”です。このままオーガの回復力をそぎ取り、剣を突き立てるこふぉあが……ごほん。事ができるでしょう。さあ、刺しなさい。刺して次のステージへと進むのです。》
いかんいかん、ノドが…思わず咳き込んでしまった。腹話術を甘く見てたわ…ツラくなってきた、なんで僕はこんな設定にしてしまったのだ…口を閉じてしゃべるのがこんなに大変だなんて。
だから長ゼリフが言いづらくて、途中からもう口を動かしてしゃべってやったぜ。刺しなさい!って勢いで腹話術設定を止めてやったぜ〜。
アスナル様は僕の腹話術設定など気にせずに、意を決した様に剣を両手でしっかりと握りなおして“聖なる火”で焼け爛れている部分に剣を押し当てる。
「うおおおおおおおおおおおおおおお」
自分を奮い立たせるために叫んだのか、それともオーガに歯が立たなかった不甲斐なさを払拭するために叫んだのか分からないが、押し当てた剣を深々と突き刺した。
突き刺した剣は背中から胸へと貫通してオーガは口から大量の血?を吹き出した。
「グガッ…ガフッ」
血を吹き出したオーガはしばらくは意識があったようだが、すぐに目に生気がなくなり反抗する様子がないか安全を確認してから“命素”の膜を解除した。
するとオーガはドサッと音を立てて地面に突っ伏したと思ったら…そのままスーッと地面に溶けていき、その場に少し大きめのキューブを残して消えた。
その瞬間刺したアスナル様はドクンと体がぶれて一瞬気を失ったのか、ガクンと体が落ちて立膝をついて空を見上げた。
えっどした? 大丈夫か? と心配になりアスナル様に近寄ろうとしたら
パァアアアアアアア と音がするようにアスナル様の体全体が淡くひかり、しばらくして消えた。時間にすると5秒くらいだっただろうか、あっというまに消えた。
するとアスナル様は目を覚まし、顔を上げてすっくと立ち上がった。
風になびく髪は…今までの様な金髪ぽいクリームイエローでは無く、綺麗なスカイブルーをしていた。
五階位の誕生だ。
アスナル様はゆっくりと僕を正面から見つめる。どうしよう…今僕は神様降臨状態だった。そういう
おめでとう、よく頑張ったな!でもまだまだ上がいるから調子に乗るなよ!と、上から目線で五階位昇級を祝福してあげた方が良いかな。アスナル様への対応をどうしようか困っていると…
「ありがとうございました。自分の実力不足のせいで、あなた様にお手数をおかけしましたが、おかげさまで五階位まで上がる事ができました。」
そういって僕に頭を下げてお礼を言ってきた。
もうそろそろ僕も神の演技を引かなくては。今がチャンス!
《近い将来、この大地に厄災が近づいています。その時に備えなさい。それではまた…
そう適当に曖昧な言葉を残して、発光していた淡い光を止めて、僕はそのまま糸が切れた人形のように正面から地面にバッタと倒れた。リアリティのためだけに敢えて痛みを伴う五体投地を決め、バタッと音を立てて倒れたのであった。
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