第21話 アスナル視点②

 ザナドの死からしばらくは穏やかな日が続いた。通常の業務はやる事が山積みで忙しいは忙しいのだが、充実感のある忙しさだった。このままずっと続けばいいのにと思わずにはいられない。


 そんなある日…


 ぴしゃああああんん


 目の前の全ての物が消えたように何も無くなった。天も地も何もかも真っ白だ。


 「神殺しか…」

 自分は外に出て雲ひとつ無い快晴の空に向かってつぶやいた。


 これは世間一般的には神殺しと言われている現象だ。その昔に1度体験した事がある。領主ガイゼル様によるとこの現象は下の者が上の者に打ち勝った時に起こる、この世界特有の現象だと言われているらしい。


 下の者が上の者に勝つ、いわゆるジャイアントキリングだ。この世界の弱者が強者を打ち破った日、逆に考えると強い者が弱いものに負けた日でもある。言い伝えである為に事の真偽はわからないが、この世界のどこかでそんな強者が生まれた瞬間を誇らしくもあり、羨ましくもあって空を見上げ思いにふける。


ーーーーーーーーーーーーーーーー


「何? 最近森の魔物が増えている?」


 村の報告によると今まではめったに現れなかった魔物が森の浅い場所でも目撃されるようになった。これはいくつもの村で報告された。


 次の日から森の討伐も兼ねて視察へと出かける。


 確かに魔物が増えている。いろいろな場所に出向き魔物の増減を把握していく。どうやら森の奥からどんどん、一階位、二階位の魔物が押し出されるように湧いているようだ。協力関係にあるバッコスの領土とも連絡を取り合い情報交換したが、やはり向こうも同じような状況らしい。


「まずいな…スタンピードの兆候がある。」


 スタンピード、魔物が森から大挙して押し寄せる事だ。この領土を治めるようになってから1回だけ経験したことがある。その時はなんとかスタンピート初期で食い止める事が出来た。今回も早期に対処して何事もなく収める事が出来ればいいが…。


 スタンピードの兆候の報告を受けてからは、急いで討伐隊を編成し多くの魔物を討伐していった。毎日毎日森へ入り、時には隣のバッコスさんにも協力してもらってできる限りの魔物を間引いた。


 一階位、二階位の魔物も多いがいつもより多くの三階位の魔物も現れだした。熊の魔物やイノシシの魔物などの攻撃力の高い魔物はさすがに一階位の討伐隊では10人以上が束にならないと勝てないので、自分やバッコスさんが相手をしてなんとか凌ぐ。


 そんなギリギリの状態だったのだが、とうとうスタンピードが起きてしまった。


 シャンの村でスタンピードの一報を聞き、すぐに討伐隊全員で駆けつけた。村の討伐隊達も死にもの狂いで頑張ってくれていたが…多くの怪我人、死傷者が出てしまった。村の多くの人達には早めに対処したので、まだ少ない方だと慰められはしたが…亡くなった村人達の事を思うといたたまれない気持ちだ。



 だが、村人達は自分達に感謝をしてくれて、これからの村の再建に前向きだったので救われた。領主である自分がしっかりしなければと、これからの復興に向けて奮起した。


 まず初めに森に入り、スタンピードで倒しきれなかった増えた 魔物をある程度処理すると、森はいつもの状態とまではいかないが大分落ち着きを取り戻した。これで獣もしばらくしたら今までと同様に狩れるようになるだろう。


 そして次に近隣の村々を回って魔物の被害がないか確認する。稀にスタンピードから溢れた魔物の群れが違う場所の村を襲う事があるからだ。だが、今回は特に目立った被害はないようで安心した。



 そしてセイのいる村に寄った時に悲劇が起こった。


 村長から被害報告を受けて後、いつものように村人達とちょっとした話をして回っている時に、離れて見ているセイに気づいた。


 7歳の平均的な身長で、顔は利発そうにみえる。今まで姿は見た事があるがしゃべった事はなかったので、この機会にふと話しかけてみた。


「君がセイくんかい? 噂は聞いているよ。」

「初めましてアスナル様。噂…ですか?」


「ああ、まだ7歳なのに優秀な子どもいると聞いてね。その歳でたいしたもんだ、これからもこの村を一緒に発展市させていこう!」

「は、はい。アスナル様にそう言ってもらえるなんて光栄です。」


 そう言って自分はセイと握手をするために手を差し出した。


 セイは年相応のはにかむ可愛い笑顔を見せ、自分の手を取ろうとした時にそれが起きた。


どごおおおおおおおおおおおおおおんんんんんんん

ごごごごごごごごごごごごごごおおおおおおおおお


 すごい地響きを伴って100m先に土煙が舞い上がり、辺り一面の視界が遮られたのだ。ものすごく重い物体が天から降ってきたようだ…昔領主様から聞いた隕石という天から石が降ってくる現象の事がふと頭をよぎったのだが…


 次第にその土煙が晴れてくると、岩のように丸かったシルエットが徐々に起き上がっていき人型に形を変えた。その人型は普通の人間の比ではない大きさ…推定2、3mあるか。


 まさか、魔物? この大きさの人型の魔物といったら…嫌な勘が頭によぎって周りの村人達がざわつき騒がしくなる中その人型は吠えた。


「グオオオオオオオオオオオオオオオ」


 100m離れているのに咆哮による振動で自分の体が揺さぶられる! 圧倒的強者の存在感に冷や汗が出る。完全に姿を現したそれは…


 「なっ、まさか…オーガだと! なぜこんな麓まで。」


 絶望の始まりだ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る